第10話2/3 ゴズマvsランヴェルス
「俺と……?」
「そう。正確にはランヴェルスとだけど」
ゴズマが目覚めてから数日後、マグニはエクスに呼び出された。
ここは王国近くの岩山に仮設されたワルキューレの格納庫。
ゴズマの修復作業が進められている間、マグニたちはカナリアと一緒にこれを建設していたのだ。
レンガと木で組まれた庫内には水路が引かれ、ワルキューレの足元を浸している。
岩山を削って作られた台座に座る4機のワルキューレは各部の装甲が展開し、むき出しになった筋肉樹に採光窓から陽の光が当たっている。
ワルキューレの駆動機関である筋肉樹を用いた神経刺激式伸縮有機体は、いわば生きた植物。
維持するためには水と光と手入れが欠かせない。
ここはそのための設備だ。
それで何故マグニが呼び出されたかと言うと、エクスがワルキューレの映像をゴズマに見せたところ、なんでもランヴェルスと戦ってみたいと言うのだ。
◆◆◆
「お、来たか」
ランヴェルスに乗り込んだマグニがエクスについていくと、先の戦場跡でゴズマとカナリアが待っていた。
「ゴズマ。彼がランヴェルスの操者、マグニだ」
「よ、よろしく……」
エクスに紹介され、マグニはコクピットを開き己の姿をゴズマに晒す。
「あぁ?こんな小僧っ子が乗ってんのか?」
まるで小さすぎて見えないかのように自分を凝視してくるゴズマに、マグニはムッとする。
もう15歳だ。
子供じゃない。
そう言い返したかったがゴズマの迫力に気圧されてしまった彼は口を噤み、目だけでそれを訴えた。
「そう。だから鍛えてあげてほしい」
「ふん……。ま、こいつの実力次第だな」
話を切り上げ、ランヴェルスとゴズマが相対する。
「おっさん、壊しちゃ駄目だぞ!わかってるよな!?」
「どつくくらいならいいんだろ?わかってるって」
少し離れたところからカナリアが心配そうに忠告する。
どちらが勝つかは明白。
エクスもマグニがどこまでゴズマに食らいつけるかに関心を寄せていた。
「よ、よおし……」
ランヴェルスが構える。
ゴズマはカナリアよりもさらに強いと事前にエクスから聞かされていたマグニの顔には、既に緊張で汗が滲んでいた。
ガチガチに固まっているランヴェルスへ、ゴズマは無造作に歩を進める。
拳が届く距離まで迫り、緊張と恐れからマグニが仕掛けようとした直前、ゴズマが両掌を広げた。
「ほら、まずは力比べだ」
「えっ……。あっ、あぁ……」
思わぬ言葉に、マグニは拍子抜けしたように構えを解く。
どうやらまだ始まってもいなかったようだ。
早とちりしたと思いつつ、ゴズマと掌を合わせる。
「合図をくれ」
「私がやる」
エクスが掌にゴングと木槌を創り出し、高らかに打ち鳴らした。
「むん!」
「おぉ!」
鐘の音とともに双方が力を込めるとそれだけで衝撃波が起き、踏みしめた大地から砂塵が舞う。
「ほう……。人間が造ったにしてはパワーあるじゃねえか」
拮抗する力と力。
眠っている間に人間はこんなものを造れるようになったのか。
感心と、カナリアを上回るランヴェルスのパワーにゴズマの期待が膨らむ。
「なかなか楽しめそう……だっ!」
「あだだだだだだ!」
だが、まだ自分には及ばない。
ゴズマが手首を返しランヴェルスの両腕を極めるとその動きがコクピットのマグニにもフィードバックされ、操縦桿が同じように彼の腕を捻り上げる。
マグニが痛みに悶絶すると、ゴズマは手を離した。
「おら、打ってこい」
ゴズマが自身の胸を拳で叩き、今度は仁王立ちで待ち構える。
「つっ~……おりゃあ!」
腕を振り痛みを和らげたマグニは、ランヴェルスの拳をゴズマの胸部へ叩き込んだ。
「……なんだ、そりゃ?」
ドガン!と打たれたゴズマの身体は少々揺れたものの、その足は微動だにしていない。
ゴズマは力比べでランヴェルスのパワーがどれほどのものか把握していた。
だが、今の打撃はその力に見合わないものだ。
「えっ……」
ゴズマに凄まれランヴェルスが後ずさる。
マグニも別に手加減したつもりはなかった。
今のパンチは冥鬼兵相手なら軽く粉砕する威力があったはずだ。
それが、全く効いていない?
「殴るってのはな……こうやるんだ!」
言葉と主にゴズマの拳がランヴェルスの胸に強く打ち付けられる。
その威力にランヴェルスは宙を舞い、背中から地面に叩きつけられた。
「がっ……はっ!」
マグニが痛みに身を捩る。
当然、彼自身が殴られたわけではない。
だが、コズミウムによる慣性軽減が効いていてもなお全身に受けた衝撃は、これまで経験がないものだった。
頭を起こすと、ランヴェルスの胸部装甲が拳の形に凹んでいる。
これが歴戦のエインヘリアルの力。
たった一撃で、ゴズマとの格の違いを刻みつけられた。
「おっさん――」
やりすぎだ!とカナリアは言おうとしたがエクスの手に遮られた。
あの程度の損傷なら問題ない。
マグニもこのくらいではへこたれないはずだ。
エクスは自身が開発した機体と選んだ操者を信じていた。
その期待に応えるように、マグニはランヴェルスとともに立ち上がる。
「へへっ……」
折れるどころか、彼の心は血が沸き立つ様な高揚感に包まれていた。
自分が相対しているのは神話の時代の存在、伝説そのものだ。
そんなのと戦えるなんて光栄じゃないか。
しかも、相手は自分がどこまでやれるか試すように待ち構えている。
だったら、思いきりぶつけてやろう。
今の自分の全力を、全身全霊で――!
「……ふんっ!」
「そうだぁ、気合入れろよ小僧」
マグニが気合を入れると、ランヴェルスのへこんだ胸部装甲が胸筋に押され、ボコンと元に戻った。
「なら、もう遠慮しないぜ!」
駆け出したランヴェルスは真っ直ぐ最短距離でゴズマまで詰め寄り――。
「おりゃああ!でいぃっ!」
全力の拳を叩き込んだ。
「ぬぅっ!?」
先ほどとは違う重い拳がゴズマの胸筋を撃ち抜く。
衝撃でよろけた彼は下を向いたまま、にやりと微笑んだ。
そうだ。
この力だ。
この痛みだ。
マグニの本気の拳はゴズマの肉体に刻まれた闘いの記憶を呼び起こした。
喜びが湧きあがる。
こいつは遊び相手にちょうどいい……。
「おおおおあっ!」
「でりゃああっ!」
激しく打ち合い始める2体。
ランヴェルスが一発殴ってはゴズマが殴り返し、それを何度も繰り返す。
やがて闘いはエスカレートし、殴りだけでなく蹴り、投げ、飛び技まで飛び交うようになる。
マグニは何度土を舐めても起き上がり、がむしゃらにゴズマに立ち向かっていく。
まるでプロレスを見てるようだと、エクスは思った。
「おい坊主!こいつ、お前よりハネっ返りだぞ!」
「悪かったな!」
ゴズマもまた、何度も立ち向かってくるマグニに楽しさを感じていた。
ランヴェルスの関節を極めながら楽しそうに話しかけてきたゴズマに、カナリアは拗ねたような口調で言い返した。
「はぁ……はぁ……」
再び技を解かれ、肩で息をするマグニ。
何度も殴られ、叩きつけられた事でランヴェルスの甲冑は至る所がへこみ、損傷している。
同じように、操者であるマグニも体力の限界が近づいていた。
なんとかゴズマから一本取れないか。
そう考えていたマグニにナビから通信が入る。
『マグニさん!ランヴェルスのハイパーブーストを使ってください!』
「ハイパー……なに?」
『訓練で高く飛び上がったあれです!あれでゴズマさんにぶちかますんです!』
……あれか!
あの高さまで飛び上がった瞬発力を横方向へ向ければ、確かに……。
マグニは深く腰を落とし、構え、ランヴェルスの出力を上げていく。
機体の両腕、背中、足元にエネルギーが集中し、周囲の空気が陽炎で揺らぐ。
「ほう……?」
まだ何かありやがるのか。
ゴズマはこれまでにない攻撃の予感に思わず目を見開き、にやける。
避けるのは勿体ない。
ゴズマは強く大地を踏みしめ、腕を広げた。
さぁ来い!
受けてやる!
と、身体全体で訴える。
マグニもそれを理解し、ランヴェルスの出力が最大になった瞬間、弾丸のように飛び出した。
「うわっ!」
後方へ発した圧力がカナリアたちにも吹き付ける。
一瞬のうちにゴズマとの距離を詰めたランヴェルスが両拳を突き出し、衝突する。
「むおおおっ!?」
両拳を受け止めたゴズマの身体が凄まじい勢いで押し込まれていく。
その勢いはカナリアより強く、ゴズマが闘気で自身の重量を上げても止まる気配がない。
やがて2体は背後の森に突入し、木々を次々と薙ぎ倒しながらもランヴェルスはまだ止まらない。
「こいつ……っ!」
ゴズマの全身が戦慄いた。
遊びのつもりだったがこの力はどうだ。
不完全な身体とはいえ自分が押し込まれている。
エインヘリアルである自分が、人間の造った人形に。
その事実がゴズマのプライドに火を点けた。
「はあああぁ……」
「え……?」
遮二無二押し込み続けるマグニの視界に、ゴズマから発された赤い闘気が映る。
ゴズマの両腕に集まった巨大な闘気が次第に形を成していく。
それはまるで……鎧。
「覇ァッッッ!」
マグニがそう思った次の瞬間、巨大な拳で全身を殴りつけられたような衝撃とともに、闘気の波が彼を襲った。
森の中から弾き飛ばされたランヴェルスは宙を舞い、スタート地点の地面に激しく叩きつけられる。
その装甲はこれまでの比ではない程いたるところがひしゃげ、コクピットにも警告の文字が多数表示される。
何が起きたのか理解できないまま満身創痍の身体を起こしたマグニは、森から出てきたゴズマの姿に驚愕した。
「な……なんだ、あれ……?」
闘気滾るゴズマの両腕の内、左腕が赤い鎧を纏った巨大な腕に変化していた。
その巨腕は鎧を纏っていない右腕と比較すると2倍近く大きい。
あの腕の力で吹き飛ばされたのだ。
その威容にマグニはゴズマの、エインヘリアルの底知れぬ強さを垣間見た。
「こいつ……俺に激昂を使わせやがった」
一方でゴズマもランヴェルスとマグニの予想外の膂力に戦慄を覚えていた。
押し込まれる一瞬、一瞬だが敗北の2文字が頭をよぎった。
力だけなら、こいつはエインヘリアルにも匹敵する。
そして、乗っている小僧がさらに成長すれば……。
「おっさん!激昂まで使うなんてやりすぎだ!」
「……合格ってことだ」
叱咤に来たカナリアを押しのけ、闘気の鎧を解除したゴズマはランヴェルスへ歩み寄る。
「小僧!これから毎日俺に付き合え。遊ぶついでに鍛えてやる」
「えぇ~……」
これを毎日?
マグニは拒否したくなった。
だが同時に、強くなれると思った。
カナリアもエクスのワルキューレも強い。
でも自分の求める強さは、ゴズマのような強さだ。
マグニの瞳には、太陽を背に仁王立ちするゴズマの姿がとても神々しく見えた。
「……わかったよ」
肩の力が抜けたように、マグニは静かに了承した。
「ところでさっきのはなんだよ?」
マグニが先程のゴズマの赤い鎧について尋ねる。
「知りたいか?」
「私も気になってた。激昂ってなんなの?」
「激昂は歴戦のエインヘリアルだけがなれる特別な姿だ。極限まで高めた闘気を鎧として身に纏う。激昂すると身体に力が満ち溢れて、普段の何倍もの力を出せるようになる……らしい」
「口で語るより見るのが速え。俺も確かめたいことがある。少し離れてろ」
ゴズマは皆から距離を取ると、凛として構えた。
「見せてやる。歴戦のエインヘリアルのみが到達できる、高みの力をな!」
ゴズマが気合を入れ始めると、その身体から巨大な闘気が噴き出し、周囲にあった石や瓦礫が浮き始める。
「すごいエネルギーだ……!」
データ収集をしていたエクスの視界に表示されたゲージが激しく乱れ、形を成した闘気が次々にゴズマに装着されていく。
先程の左腕だけでなく、角は一層巨大になり、胸部、右脚にも装着されていく。
赤黒い稲妻が迸るその姿はゴズマの強い部分がより強く、強靭にしたような印象を受ける。
見ている誰もが慄き圧倒されていたが、ゴズマはそこで激昂を解いてしまった。
身体に纏っていた赤い鎧が消失する。
「どうしたんだおっさん?」
「……ダメだ。この手足だとな」
ゴズマの義手と義足から蒸気が吹き出し、しなびている。
彼の義肢に使われている筋肉樹が激昂のエネルギーに耐えられず、水分が蒸発してしまったのだ。
吹き出す蒸気の量がそのまま激昂のエネルギーの膨大さを物語っていた。
「どうも上手くくっつかねえ」
ランヴェルスを弾き飛ばした際も、本当は両腕に鎧を纏うつもりだった。
だが慣れない義肢のせいか闘気が上手く実体化しないのだ。
「すっげぇ~。エインヘリアルってあんな事もできるのか!じゃあカナリアも!?」
「いや、俺はまだ……」
マグニに尋ねられ、カナリアは気まずい態度で答えた。
「半人前だからな」
「俺もそれなりに戦ってるんだけどなぁ……」
エインヘリアルでは新入りの方だったとはいえ、仲間とともに数々の任務をこなし、ラグナロクでは1人で大勢の巨人と戦った。
目覚めたあともこの国を守るために冥鬼兵と戦ってきた。
だが、それでも激昂には至れない。
「お前が激昂できないのは甘ちゃんだからだ。身体を鍛えるだけじゃねえ。敵を徹底的に打ちのめし、叩き潰す!そういう強い殺意が激昂には必要なのよ」
「殺意……。俺には難しいな」
純粋な殺意――。
少なくとも帝国と……人間と戦っているうちはそんなもの持てないだろう。
隣で話を聞いていたエクスも、カナリアにそれは難しいと思った。
強い力を得て尊大になる者もいれば、逆に余裕から相手の身を慮ってしまう者もいる。
カナリアは後者だ。
そして、自分自身も……。
「さぁ、戻ってランヴェルスを修理しよう。ゴズマも水を補給して」
「腹減ったぁ~」
よろよろと立ち上がるランヴェルスにカナリアが肩を貸し、一同は街へと戻った。
それから毎日、マグニはゴズマを相手に鍛錬を繰り返した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回から書き方をWeb小説の書き方に合わせてみました。
読みやすくなっていれば幸いです。
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