第10話1/3 アドラー暗殺
「プハーッ!良い酒だぜ!」
赤く熟したハツラツのへたをもぎ、内部に溜まった酒を呑み干したゴズマが上機嫌に息を吐く。
荷車に山積みになった赤ハツラツが次々と消えていく。
あの後、女王の指示のもと人々は喜び勇んでゴズマに酒を差し出した。
彼らにとって、ゴズマはカナリアと同じくこの国を守ってくれる強き存在なのだ。
「ゴズマ様、こちらもご賞味ください」
女王とともに新たにやってきた荷車には開きになった大きな魚の日干し、薄く伸ばされ油でカリカリに揚げたチーズと皮が入っている。
「なんだあ、人間も案外気が利くじゃねえか」
追加された酒のつまみを頬張り、また酒を呑む。
人間など取るに足りない種族だと思っていたが、こうして敬われるのは嫌いではない。
「酒もつまみも美味い!良いトコだなぁここは」
「ゴズマ様、帝国がまた攻めてきた時はなにとぞ我々をお守りください」
「ダッハッハッハ!まかせとけい!」
すっかり上機嫌になったゴズマは女王の申し出を快諾した。
その様子をエクスはカナリアの肩に乗りながら眺めていた。
「君とは随分違うね」
「ゴズマは俺と違って人間の頃の記憶がないからな。だから人間に特別な思い入れは無いんだ」
「自分が始めからエインヘリアルだと思ってるってこと?」
「あぁ。前に言ったけど、俺が珍しいだけで大体のエインヘリアルはあんな感じだったよ」
ゴズマとは対照的に、カナリアは熟れてない黄色いハツラツを齧る。
エインヘリアル軍団にいた頃はゴズマのような荒々しい仲間たちに囲まれていた。
神の名のもとに敵を容赦なく討ち倒す戦士たち。
それが普通のエインヘリアルだ。
人間の記憶と価値観が残っていた自分は、彼らの流儀に馴染むのに随分苦労した。
気が合って仲良くなったエインヘリアルもいたけれど……すぐにいなくなった。
「おい」
肩を叩かれ、過去の思い出に耽っていたカナリアが振り向くと、ゴズマが隣に立っていた。
「お前も呑めよ」
「俺はいい」
差し出された赤ハツラツを拒否するカナリア。
呑めない訳じゃない。
味が苦手なんだ。
苦いから。
「何だまだ呑めねぇのか。やっぱりヒヨッコだなぁ」
「そこまで言うなら飲んでやるよ!俺だって……」
挑発されてムッとしたカナリアは赤ハツラツを手に取ると、中の酒を一口呑んだ。
直後――。
バタン、と顔を真っ赤にしてカナリアは倒れてしまった。
「やっぱりヒヨッコじゃねえか」
ゴズマはそのまま、カナリアが飲み残した分も頂戴し呑み干した。
――
同時刻――帝国の工廠。
カツカツと音を響かせ、通路を歩くアドラー。
それを闇から見据える者がいた。
「アドラァー!」
「!?」
突然、暗闇から飛び出たガレスが背中からアドラーに剣で斬りつけ、その身を斬り裂いた。
「しょう……ぐん?なにを……」
深手を負ったアドラーの背中から血が吹き出す。
「獅子身中の虫が!これ以上……貴様にこの国、陛下の心を好き勝手にはさせん!」
アドラーに対し侮蔑の言葉を吐き出すガレス。
彼は王国を抜け出した後、密かに帝国に戻りアドラー暗殺の機会を諜っていたのだ。
ガレスはさらにアドラーの腹を刺し貫き、確実なるとどめを刺した。
「がはっっ」
吐き出した血が仮面の隙間から流れ落ちる。
アドラーは傷口を抑えながら倒れ、やがて息絶えた。
「これで……」
この国は救われた。
そうガレスが安堵した時だった――。
「あーあ、気付いちゃったのか」
「!?」
死んだはずのアドラーが喋った。
まるで何事もなかったかのように起き上がると、彼の傷口は瞬く間に再生していった。
「ま、自爆させようとしたんだから当然か」
「なっ……!?」
これも魔術か?
いや、何かもっとおぞましい……寒気のする感覚がガレスを襲う。
その時、彼は床を見て気付いた。
暗い通路ゆえ気づかなかったが、アドラーから流れ落ちた血は赤ではなく、漆黒に染まっていた。
魔術師とはいえ、ただの人間のはず……。
「き、貴様はいったい……!?」
「雑務をやらせるのにちょうどよかったから見逃してたけど、こうなったら仕方ない」
アドラーが仮面を取ると、真紅の眼光がガレスに向けられる。
「ぬおっ!?」
その眼光にガレスの意識は苛まれ、次第に自我を失っていった。
(すまぬエクス殿。貴殿の言う通りになってしまった……。申し訳ございません、陛下……)
「アッハッハッハ……ハッハッハッハッ!」
意識を失い、倒れたガレスの前でアドラーは高笑いをあげる。
その背後には、2体の巨大な兵器が暗闇で赤い眼を灯らせていた……。
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