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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第09話「ゴズマ」
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第09話3/4 朽ちた猛牛

「んー……」

 雫の滴る洞窟から出たカナリアが陽を見上げる。

 戦勝祝いの翌日から2日間、ずっと雨が降っていたのだ。

 足裏に触れる草はまだ湿っている。

 

「おはようカナリア。やっと雨が上がったね」

「おう。まさか丸々2日間洞窟で過ごすとは思わなかったぜ」

 エクスがエルダに聞くところによると、長雨自体はこの季節には珍しくないらしい。

 ただ、この2日間に渡る豪雨は過去に経験がないそうだ。

 王国の前を流れる河も水量が増え、水が濁っている。

 街では人々が足元を泥まみれにしながら日常を取り戻している。

 

「おおーい、カナリア様!大変だー!」

 そこに男が1人、大声を上げて駆け寄ってきた。

 聞けば男は山師で、豪雨で起きた山崩れの場所に行ったらスゴいものを見つけたのだという。

「とにかく来てくれ!あれはきっと……カナリア様のお仲間に違いねえ!」

「なんだって!?」

 


 牛――。

 第一印象がそれだった。

 崩れた山肌から露出していたのは、片方が欠けた2本の大きな角を持つ巨人。

 冥鬼兵やワルキューレとは明らかに違う生物的な意匠。

 朽ちた全身の至るところに傷痕や損傷が見られ、特に右腕と右足の膝から下が欠損している。


「おっさん……!?ゴズマのおっさんじゃないか!」

「エインヘリアル?」

「あぁ。俺たちの中でも特に力の強い歴戦の勇士だった」

 たとえ亡骸だとしても、かつての仲間と出会えたことにカナリアは郷愁に駆られる。


「でも、どうしてこんなところに……」

 ゴズマはラグナロクの際、エインヘリアルの本隊とともに巨人と戦っていたはずだ。

 その戦場はここから遥か北。

 どうしてゴズマがこんな場所に埋まっていたのか。

 答えの出ない、当人に聞くしか無い疑問にカナリアが囚われていると、エクスが一言呟いた。

 

「生き返らせてみる?」

「え……あっ!」

 その言葉の意味が一瞬理解できなかったカナリアだが、すぐに意図に気付いた。

 朽ちて王国に眠っていたカナリアも、エクスが触れたことで蘇ったのだ。

 なら同じようになっているゴズマも蘇らせることが出来るかも知れない。

「そうだよ!俺の時みたいにエクスの力でおっさんを蘇らせてくれ!」

 興奮し、握りしめた両拳を揺らしながらカナリアはエクスに懇願する。

 ゴズマが蘇れば頼もしい味方になってくれるはずだ。

 それだけじゃない。

 過去の、ラグナロク前の時代を知る数少ない仲間なのだ。

 

「やってはみるけど保証はできない。それに今の状態だと、もし生き返っても傷のせいですぐに死んでしまうかもしれない。まずは彼の身体を治さないと」

「なら、はやく掘り出して手当しよう!」

 カナリアは急いでゴズマを覆う土を掘り始めた。

「必ず治してやるからな……おっさん!」

 カナリアは掘り出したゴズマの身体を抱えると、ビフレストを開いた。



「どうしたカナリア。そ、そいつは……ゴズマか!?」

 迎えたビフレストの門番、バルドルもゴズマの亡骸を見て驚く。

「山の中に埋まってたんだ。俺と同じように生き返るかどうか、試してみる」

「だが、その傷じゃあ……」

「もし駄目でも、綺麗に弔ってやりたい」

「そうか……」

 

 工房に運び込んだゴズマをまずは流水に曝し、土や泥を洗い流す。

 ワルキューレ開発時に泉から引き込んだ水路が役に立った。

 ブラシを併用し、小岩、虫、植物の根、埋没している間に入り込んだ様々なものを掻き出していく。

 生命活動は止まっているが、肉体が腐食しているわけじゃない。

 身体中の傷を補修して義手と義足を付ければ……。



「これでよし……っと」

 数週間後、ゴズマの身体の復元が完了した。

 大きな傷跡には金属板で補強がされ、欠損した四肢にはワルキューレと同じ筋肉機構を内蔵した義肢が取り付けられた。

 いよいよ目覚めの時だ。


 「いくよ……はぁぁぁぁぁぁ!」

 ゴズマの上に乗ったエクスが力を込め、胸部にコズミウムエネルギーをありったけ送り込む。

 コズミウムが身体の末端まで行き渡るにつれ、ゴズマの身体を薄く覆っていた被膜が剥がれ落ちていく。

 カナリアが復活した時にも見られた現象だ。

 おそらく休眠状態のエインヘリアルの肉体はこれによって保護されているんだろう。

 ゴズマの身体全体が青白く光り始め、くわっと目が大きく見開かれた。

 直後――。


「うおぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょっ……うわぁ!?」

 ゴズマがいきなり起き上がり、暴れ始めた。

 宙に投げ出されたエクスをカナリアがキャッチする。

「おおらぁ!かかってこい!次はどいつだあっ!?」

「うひゃあああっ!」

「逃げろー!」

 アードルフとイルが悲鳴を上げ、逃げ惑う。


「お、おい!おっさん!?」

 見境なく豪腕を振り回し、工房を破壊していくゴズマにカナリアも迂闊に近づけない。

 あの拳を真正面から受けたらどれだけ痛いかを知っているからだ。

「どこに隠れた!出てこい巨人ども!」

 ゴズマが一際大振りに腕をふるった時だった。

 ドヒュッ!バゴン!

 突き出されたゴズマの手首から鎖付きの拳が勢いよく飛び出し、工房の壁にぶち当たる。


「ん……?お?なんだこりゃあ!?」

「おっさん落ち着け!俺だ!カナリアだ!戦いはもう終わったんだよ!」

 ゴズマが飛んでいった己の手首に困惑している隙に、カナリアが彼を制止する。


「……坊主か。お前、人間どもの村に行ったんじゃ……ん、どこだここは?……天界か?」

「そうだ。ラグナロクは終わった。おっさんはずっと眠ってたんだよ」

「終わっ……た?」

 いつ……?

 自分はついさっきまで戦っていたはずだ。

 それにこの手足は……。

 鎖が巻き取られ、拳が再び手首に収まる。


「おっさんは手足を失って酷い状態だった。彼らが義手と義足を作ってくれたんだ」

 人間に、ドワーフ?

 ゴズマの視界に物陰から様子を窺っているアードルフ親子と、2人を守ろうとするエクスが映る。

 神々の領域たる天界には似つかわしくない者たちだ。

 その神も見当たらず、かつては黄金の光に満ちていた絢爛豪華な空間は見る影もなく寂れている。


「おい、なんでこんな奴らがここにいるんだ。神々はどうした!?天界のこの有り様もなんだ!?」

「全部、話すよ……」

 状況が飲み込めないゴズマに、カナリアはこれまでの顛末を話した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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