第08話2/6 ワルキューレ開発日誌②
「よし、始めるぞ」
次の日からアードルフとイルの甲冑作りが始まった。
「これだけ設備が揃ってれば楽勝だね」
イルがやる気満々だ。
バルドルによると、この区画はかつてエインヘリアルを生み出していた場所で、カナリアもここで生まれたらしい。
大きな窯があり、必要な設備が一式揃っている。
巨人サイズの武具を作るのにもってこいの場所だ。
「よっ、ほっ」
その傍らでエクスは動作データを集めるため素体に乗り、荷物を運ぶ、投げる、受け取るなど様々な動きをさせていく。
今まではカナリアに頼りきりだった作業が自分たちでこなせる。
この素体を量産すれば、彼の負担も減らしてあげられるだろう。
その様子をバルドルは酒をあおりながら眺めていた。
数時間後、エクスは素体を己の手足のように動かせるまでに至った。
逆立ち、バク宙、踊りだってもう出来る。
だが、これはコズミウムの扱いに長けている自分だから出来ることであって、普通の人間に操縦させるにはプログラムを組み、レバー操作でそれらができるようにしなければならない。
「あっ……」
素体の各部から水蒸気が噴き出し、筋肉樹がしおれていく。
水が足りなくなってきたのだ。
エクスは昨夜バルドルに教えてもらった場所に赴いた。
尽きぬ泉――。
何本もの滝がどこからともなく流れ込む円形のプールのような場所だ。
ここから溢れた水が、天界の様々な流路を通って地上に流れ落ちている。
素体を泉に浸すと水を吸い始め、筋肉樹が元のサイズに戻っていく。
「水か……」
課題が1つ出来た。
豊富な水が無ければ筋肉樹は力を失う。
機体のどこかに水を貯め込んでおくタンクが必要だ。
エクスはアードルフに相談するため工房へ向かった。
「よし、そこでくっつけろ」
「アードルフさん、少し相談が……」
「あぁ、今ちょっと手が離せないから待っててくれ」
工房に行くとアードルフとイルが針金を組み合わせ、枠のようなものを作っていた。
形状的に靴になる部分のようだが、これで何をするのかエクスには皆目検討がつかない。
だが、次の光景を見てエクスは目を見開くことになる。
アードルフが熱した金属を枠に沿って流し始めた。
すると金属は重力を無視して、枠と枠の間に膜を貼るように広がっていく。
温度が下がると、鈍い銀色を放つ甲冑が出来上がった。
「よし、できた」
「どういう技術!?」
エクスが敬語も忘れ、声を上げる。
「ん?月鋼を見るのは初めてか?」
「ツキハガネ……?」
エクスには聞いたことのない金属だった。
「ルーナメタルとも言う。俺たちドワーフだけが扱える特殊な合金だ」
「溶けた月鋼は月鋼同士で引き合う性質があってね。大きいものを作る時はこうやって、月鋼の針金で外枠を作ってそこに流し込むの」
アードルフの説明にイルが補足を加える。
「てっきり魔術かと」
「今のは月鋼の性質。……魔術を使うのはここからだ」
「え?」
アードルフとイルは、手袋を箱に収められた金属製のものに付け変える。
「これが私たちの秘密道具」
イルが見せた手袋には甲の部分に見たことのない文字と紋様が刻まれている。
「この手袋をはめると、金属が粘土みたいに柔らかくなる」
手袋を変えたアードルフが月鋼の針金に少し力を込めると、いとも容易く折れ曲がり、千切れた。
アードルフはそのまま粘土のように金属をこね始めた。
手袋の各指は形状の違うヘラが付いており、アードルフはそれらを使い分けて目的の形に成形していく。
出来たのはコの字の形をした取っ手だ。
それが先ほどの靴の甲に取り付けられる。
溶接など必要ない。
手袋に触れられた付近の金属が軟化し、くっつけるだけで一体化するからだ。
金属の軟化――。
これがドワーフ族のみが扱える魔術の1つであり、彼らはルーン文字の刻まれた金属の手袋を代々受け継いでいる。
「それで、相談って?」
ドワーフの技術に見とれていたエクスは、その言葉でここにきた目的を思い出した。
素体の改良要望をアードルフに話す。
「なるほど、水のタンクをな」
素体の肋骨内部、人間で言う肺の部分に水タンクを設置するというものだ。
「でも、ここだけだと心もとない。もう1箇所……いや2箇所」
「つっても、後は背中くらいしか……」
「いや、背中には……」
背中には飛行用の装備を取り付ける予定がある。
あまり大きなものは付けられない。
「場所ならあるじゃん」
エクスとアードルフが頭を悩ませていると、イルが閃いた。
「ここだよここ」
2人が顔を上げると、イルは自身の豊満な胸を指差した。
「……おぉ」
エクスは少し間をおいてイルの言いたいことを察し、ポンと手を打った。
胸部にさらに2つ水タンクを増設することが決まり、開発は進んだ。
日毎に出来上がる甲冑を装着しては試行錯誤を繰り返していく。
エクスは物質創造で搭乗席周りに必要な電子機器や、ドワーフでも生成できない素材を生み出し、組み込んでいく。
そして、10日後――ついに試作機1号が完成した。
「うわー、すごくきれい!」
「大したもんだぜ」
綺羅びやかな甲冑が陽の光を浴び、神々しい輝きを放つ。
エクスたちが見上げているのはおどろおどろしい冥鬼兵と対極にある、美しい天使のような巨人だ。
曲線主体の甲冑には、植物の葉や花弁を羽根に見立てた意匠があちこちに配されている。
「ありがとうアードルフさん、イル。期待以上です」
エクスは早速乗り込み起動テストを始める。
改良の結果、搭乗席は直立式となった。
腰部で身体が固定され、四肢に伸びた筋肉樹をレバーとパドルのように操作する。
「起動」
透明カバーで覆われた搭乗席に映像が投影され、周囲の状況が映し出される。
準備が完了し、ゆっくりと歩き出す。
今度はコズミウムと同調せず、完全に機体の姿勢制御に任せている。
四肢のレバーとパドルを動かす。
大きくレバーを後ろに引けばワルキューレの腕も引く、そこからパンチを繰り出すようにレバーを前に押せばワルキューレもパンチをする。
といった具合に、操縦に慣れない者にも直感的に動かせるようレバーと脚のペダルはある程度可動し、身体の動きにも柔軟に追従するように設計した。
「歩行テスト終了。続いて飛行テストに移行」
脚のペダルを徐々に踏み込み、スラスターの出力を上げていく。
腰を落としジャンプすると、機体は天空へ舞い上がった。
「すげぇ!飛びやがったぜ!」
バルドルとイルが大いに喜び、アードルフは腕を組んだまま満足げな顔を浮かべた。
コズミウムドライブの重力・慣性軽減効果により、自由自在に空を飛ぶことが出来る。
速度や位置、機体と周囲の状況を示すインターフェイスにも問題はない。
よし、基本性能はこれで十分だ。
あとは武装の開発と量産、そしてパイロット……操手の選出だ。
テストを終えたエクスが満足げな顔で試作機を見上げる。
「それで、こいつの名前は?」
「実は前から考えてたものがある」
エクスはカナリアとマグニから呼ばれた名前を思い出した。
『きみはワルキューレか?』
『エインヘリアルと一緒に戦う翼の生えた女の人だよ』
そうだ。
これはエインヘリアルと共に戦う天使。
「ワルキューレだ!」
エクスは自信に満ちた眼差しで、新たな希望の名を称えた。
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完結できるように頑張ります。
次回からワルキューレのパイロット探しと訓練が始まります。




