第08話1/6 ワルキューレ開発日誌①
さて、エクスたちがマグリアから帰ってきてから、帝国が攻めてくるまでの間に何があったのか明かそう。
時は数週間前に遡る――。
マグリアから戻った翌朝、エクスは洞窟に寝かされた巨人の骨の前で作業を進めていた。
「こいつがそうか。で、俺は何をすればいい?」
入口から声がしてエクスが振り返ると、ツンツンした髪型の鮮やかなピンク髪の少年がいた。
「……坊や、ここは入ってきちゃダメなところだよ?」
好奇心で子供が迷い込んでしまったのだろうか?とエクスが屈んで話しかけると、少年はいきなり不機嫌な表情になった。
「俺だ!アードルフだ!」
「え?アードルフ……さん?……え?」
自らをアードルフだと名乗った少年にエクスは困惑した。
アードルフはボサボサの髪にモサモサしたヒゲを蓄えた毛むくじゃらの風貌だ。
だが、目の前の少年は高く見積もっても12歳ほどの見た目だ。
それにアードルフと違って声も高い。
「ヒゲ剃って、髪も切ったんだ!」
「ん、ん~……?」
スキャンで骨格を照合すると確かにアードルフと一致するが、あまりにも雰囲気が違う。
「あ、お父さんいた」
半信半疑のエクスだったが、そこにイルとシルヴィが現れた。
「遅いぞ」
「シルヴィさん。この人、本当にアードルフさんですか?」
「ビックリしたわよね。実は……」
シルヴィはアードルフがこうなった理由を話し始めた……。
――
「おじさん……誰?」
「怖いよママー!」
「どうした?ドゥーエ、トーレ。パパだぞ?」
帰宅し出迎えた子供を抱きとめるように両手を広げるアードルフだったが、子供たちは記憶にある父の姿とまるで違う彼を父と認識できなかった。
「ほら言ったじゃない」
「うぅ……」
妻の足にしがみついて怖がっている我が子達の姿を見て、アードルフは流石に折れた。
シルヴィは家の外にある椅子へ夫を座らせ、ハサミとカミソリで顔を整えていく。
「鍛冶職人として力を付けるためにマグリアへ行ってもう6年……早いものね」
「ドゥーエとトーレには悪いことをした」
「一番かわいい時期を見逃したわね」
すすぼけた毛の塊が地面に山を作る。
ヒゲを剃り、髪を洗うと頭髪は鮮やかさを取り戻し、夫は以前の少年のような姿に戻っていた。
「まぁ、かわいい!」
「かわいいっていうな」
「その反応も久しぶり♪」
子供扱いされるのを嫌がる夫。
懐かしいやり取りにシルヴィは喜ぶが、以前と同じにするにはまだひとつ足りないものがあった。
「これも外してください♪」
シルヴィは夫の首にあるチョーカーへ手をかける。
「これは……別にいいだろ!?」
「ダーメーでーすー」
「あぁ、もう。まったくお前というやつは……」
「うふふ、綺麗な声に戻りましたね」
チョーカーが外されると低く野太かったアードルフの声が澄んだ高いものへと変わった。
「こんなもの付けないほうがかわいいですのに」
「仕方ないだろ。そうしないと舐められるんだから」
シルヴィの疑問にアードルフはむくれ顔で答える。
ドワーフ族は成人しても背丈や顔つきが人間の少年・少女ほどしかない。
そのためドワーフ族の男が髪を伸ばし、ヒゲを蓄え、チョーカーで声を低くすることで他種族から舐められないようにするのはごく普通のことだった。
だが、妻がそれを嫌がったため、この見た目のままマグリアに移住した時は他種族どころか同族にも笑われたものだ。
「あ、終わった?うん、お父さんやっぱりそっちのほうがいいよ」
「むぅ……」
長女にも同じことを言われしかめっ面を浮かべるアードルフだったが、その後無事に下の子供たちに受け入れてもらえた。
――
「というわけなんです」
「なるほど……」
「ねぇねぇ!はやくやろうよ!」
長話をしている3人にイルが催促する。
直に巨人の骨を見て、はやる気持ちを押さえきれないようだ。
「ではシルヴィさん。お願いします」
巨人の肋骨内にコズミウムの入った容器を固定したエクスは、シルヴィに合図を送る。
「グロウス……」
シルヴィが筋肉樹の苗に魔術をかけると、幹が伸び、骨にまとわりついていく。
腕は腕に、脚は脚に、人間の筋肉を復元するかのように活着し、形を成していく。
頭部に仮の搭乗席として椅子が固定される。
最後に心臓と筋肉樹が癒着し、全身のエネルギーの循環路が形成される。
「うわぁ、お母さんすごーい!」
イルが飛び跳ねる。
「それじゃあ早速」
エクスは搭乗席に座ると心臓部のコズミウムと同調を始める。
「同調完了。3人とも下がって」
レバー代わりに左右の枝を掴み、前に押すと素体がゆっくりと身を起こし始める。
「おぉ~!」
立ち上がった素体にイルが拍手を送る。
だがエクスにその拍手を受け取る余裕はなかった。
単に直立しているだけでも、倒れないように常に姿勢制御が必要だ。
エクスはそのデータを取るため、頭の中で膨大な量の計算をしていた。
「よし……」
落ち着いたところで、まずは手を動かしてみる。
拳を閉じ、開き、指を順番に曲げていく。
上半身の稼働をチェックし、今度は下半身。
だが、歩き始めたところで突然、素体がガクガクと震え始めた。
「なんだ!?」
膝をつき、倒れ込む。
「うわっ……と!」
「うわああ~!」
逃げ惑うアードルフ、シルヴィ、イル。
エクスは咄嗟に搭乗席から飛び降り、事なきを得た。
「いったい何が……?」
見れば駆動機関たる筋肉樹がハリを失い、まるで老人のようにしわしわになっている。
「あっ……水が足りないんだわ!」
シルヴィが原因に気付く。
急速に成長させた分、その巨体に見合うだけの水が足りないのだ。
「はやく水を!」
と言われても、この巨体へ与える水となるとかなりの量だ。
『カナリア!水を持ってきてくれないか!?なるべくいっぱい!』
エクスは通信でカナリアに頼み込む。
「水つっても……」
洞窟近くの滝の水を運ぼうにも、入れる容器がない。
自分が手で汲んでいけばいいだろうか?
でも、エクスはなるべく多くと言っていた。
なにか良いものはないか……と、辺りを見渡すカナリアにあるものが目に留まった。
「持ってきたぞ」
洞窟に着いたカナリア。
その手には水のたっぷり入った木舟が抱えられている。
「舟とは考えたね」
「下の川で借りたんだ」
カナリアが素体の掌を水に浸すと、筋肉樹が脈動し水をぐんぐん吸い取り始めた。
水が無くなると、筋肉樹に幾分かハリが戻ってきた。
その後、何杯か水を与えると筋肉樹は見違えるほど張りを取り戻し、動作も軽快になった。
「ここからは俺たちの仕事だな」
「うん」
アードルフとイルが顔を見合わせる。
今の素体は、いわば筋肉がむき出しで首の無い人間だ。
これに頭部を取り付け、甲冑を纏わせることでようやく完成する。
各部の詳細なサイズを測り、必要な部材と量を算出していく。
街で必要なものを揃え、準備を済ませたエクス、アードルフ、イルの3人は素体の存在を帝国に隠すため、夜陰に乗じてビフレストで天界に上がった。
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