第07話3/3 戦乙女・降臨
数週間後、予期されていた通り帝国の総攻撃が始まった。
森に設置したセンサーが異変を検知し、王国中に警報が鳴り響く。
カナリアが空へ飛び出すと、森から無数の砲撃が王国へ向け発射される。
カナリアが盾でそのひとつを防ぐ。
だが、それは降りしきる雨から雨粒を1つ弾いたに過ぎない。
「シールドは!?」
王国への被害を心配し振り向くカナリアの眼に、王国全体がバリアフィールドに覆われ砲撃を防ぐさまが映る。
エクスが防衛策の1つとして、王国周辺にいくつか設置したものだ。
爆煙が晴れると無傷のシールドが姿を現す。
「よし!」
砲撃が一旦止まり、森からぞろぞろと冥鬼兵が溢れ出してくる。
見えるだけで10体はいる。
砲撃の量からして、森にはもっと多く潜んでいるに違いない。
「エクス!降りてこられるか!?」
『ビフレストのチャージがまだだ!あと3分待ってくれ!』
天界ではエクスがアードルフ、イル、バルドルとともに慌ただしく動いていた。
ビフレストの再使用まであと3分、それまでカナリアには1人で王国を守ってもらうしかない。
「了解!」
カナリアは冥鬼兵へ突撃する。
仕掛けておいた落とし穴やバリケードを突破してきた敵から1体ずつ仕留めていく。
だが、次々現る冥鬼兵はカナリア1人では抑えきれず、防衛線が突破されていく。
王国を覆うバリアも無敵ではない。
激しい砲撃にさらされ続け、その表面に次第にヒビが入っていく。
さらに発生機を破壊されたり、複数の冥鬼兵に取りつかれ圧力を掛けられれば無力化されてしまうだろう。
カナリアはバリアへ近づく冥鬼兵を優先して排除する。
「まだかエクス!?」
『あと1分!』
カナリアは1体、また1体と斬り伏せる。
魔術を使えなくなった今の彼には、集団を一気に制圧するような攻撃は出来ない。
消耗したカナリアを狙って四方から大きな盾を構えた冥鬼兵が近づき、同時にカナリアへ盾を押し付けた。
「ぐあぁ!」
盾の表面に流れる魔術による高圧電流でカナリアの動きが封じられる。
『君ひとりがいくら強くても、国は守れないよ!』
拘束する冥鬼兵から煽るような声が響く。
「なんだと……っ!」
『楽しいゲームだったけど、これで終わりだね!』
「その声……おまえ、アドラーか!?」
この戦争を起こし、自分が人殺しをするはめになった元凶の声。
電流で痺れながらも、カナリアは怒りで拳を強く握りしめた。
――
「あと20秒、みんな!用意はいい?」
「OKだぜ!」
「私も!」
「こ……こうなったらやってやるわよ!」
搭乗席の中で、エクスの問いかけに気合十分に応答する少年と少女……と、もう1人。
「あと10秒!」
ビフレストが開く。
「全機、出撃!」
虹色の光の中へエクスたちは飛び込んだ。
逆転の切り札を伴って──。
――
「俺が1人だと言ったな。……そうでもないぜ」
『……なに?』
直後、戦場のど真ん中に天から虹の光が柱のように降り注ぎ、衝撃波がカナリアを拘束する冥鬼兵を吹き飛ばした。
「来たか!」
その場の全ての者が光の柱へ注目していると、中から扇状に放たれたビームが複数の冥鬼兵の脚部を融解させる。
帝国兵が混乱する中、光の柱が消え、4体の巨人が姿を現した。
古の戦乙女を彷彿とさせる美しい曲線の甲冑と、それぞれ形状の違う翼を有している。
「おまたせ!」
「ワルキューレ隊、ただいま到着だぜ!」
「無茶しないでよマグニ?」
「うわぁ……いっぱいいるぅ」
頭部にある搭乗席からエクス、マグニ、スルーズ、デシレアの声が響く。
彼らが操る巨人こそ、エクスが創り上げた人型機動戦騎「ワルキューレ」だ。
「ナビ、航空支援よろしく」
『了解、分離します!』
エクスの搭乗するワルキューレの背部からドローンが分離し、上空から戦況を分析し始める。
『残存敵機24!』
上空のナビが観測したデータと各ワルキューレが捉えた敵機の数、位置が共有され、半透明のシールドで覆われた搭乗席に表示される。
「よし……全機、攻撃開始!」
「おっしゃあ!」
エクスの号令で各ワルキューレが一斉に動き出した。
「はああああっ!」
「こいつら飛んで……うわぁっ!?」
エクスの駆るワルキューレ・トライアンフが上空から冥鬼兵へ斬り込む。
勝利の名を冠した鮮やかなパステルカラーの機体がビームセイバーで次々に敵の手足を斬り刻み、撃破していく。
「いくわよマグニ!」
滞空し弓を構えるスルーズのワルキューレ・エスペランサ。
希望の名を冠したこの機体は白と赤の甲冑に、腰から生えた1対の翼をもつ。
「おう、姉ちゃん!」
雄々しい姿をしたマグニの乗機はワルキューレ・ランヴェルス。
逆転の名を冠し、紺と白に塗られた機体が大地を駆ける。
この機体のみ、他の3機と違い男性巨人の骨を使った格闘パワー型となっている。
翼は両前腕と踵に姿勢制御用の物があるのみで飛行能力を持たないが、その分パワーと瞬発力に優れ、その拳の一撃は冥鬼兵をたやすく粉砕する。
「ええい!あっちにいきなさい!」
最後の1機、守護者の名を冠するワルキューレ・ガルディエーヌに乗っているのは巫女のデシレア。
緑とクリーム色に塗られたこの機体は防衛に特化していて、王国に張られているシールドの小型版である4つの自律飛行障壁を操る。
だが、彼女は本来の運用とは違い、障壁を直接敵機にぶつける質量弾として使っている。
「オラァ!」
インファイトを展開するマグニのランヴェルス。
腕の翼が生み出す推進力によって加速・加圧された鉄拳が冥鬼兵のボディを容易く貫く。
装甲内にパンパンに詰まった筋肉樹から繰り出される重たい蹴りが、内部ががらんどうで軽量の冥鬼兵をまとめて吹き飛ばす。
更にかかとの翼が生み出すダッシュ力で弾丸のように戦場を飛び交い、次々に敵を倒していく。
冥騎兵にとっては巨大な砲弾が突っ込んでくるのと同じだ。
体当たりするだけで紙のように砕けていく。
『残り敵機16!』
「ハッ!」
スルーズのエスペランサが弓の弦を引くと、引き絞るその手に5本の光の矢が現れる。
放たれた矢は冥鬼兵の胴体に突き刺さり爆裂、冥鬼兵内部の骨を粉砕し動きを停止させる。
「ちょちょちょ、待って待って!」
バリア付近の敵機を排除していたガルディエーヌに冥鬼兵が迫る。
デシレアは障壁の操作は得意だが操縦自体はあまり上手くないようで、迫る敵に対して後ずさるくらいしかしていない。
「デシレア!」
「いやー!やっぱ怖い!来ないで来ないでぇー!……あれ?」
それを見ていたカナリアは咄嗟に助けに入ろうとしたが、がむしゃらに振り回すガルディエーヌの袖口からビームセイバーが生え、冥鬼兵はバラバラに斬り裂かれた。
しっかりと自衛用の武装が付いていた事に安心しつつ、カナリアは冥鬼兵を圧倒するワルキューレに頼もしさを感じた。
自分の出る幕はもう無さそうだ。
『残り10機!』
4機のワルキューレの介入により冥鬼兵は瞬く間にその数を減らしていった。
「よし、みんなそこまで!」
エクスのトライアンフが空中で両手を広げる。
「ナグルファーの兵士たちよ。ご覧の通り、我々は君たちに対抗できる力を手に入れた。これ以上の争いは望まない。この国から手を引け」
カナリアと他のワルキューレも攻撃を止め、冥鬼兵に立ちふさがる。
『何をしている、撃て!』
「しかし……」
部隊長の冥鬼兵に帝国宰相アドラーから攻撃の指示が入る。
しかし、彼我の性能差は明らかだ。
このまま戦っても勝ち目は薄く、撤退するのが妥当だ。
『もういい』
指示に従わない部隊長に業を煮やしたアドラーは、ガレスの時にもそうしたように冥鬼兵の砲塔を遠隔操作し、トライアンフめがけ砲撃を放った。
同時に他の冥鬼兵も操作し強制的に突撃させていく。
搭乗者たちは勝手に動き出した乗機を止めようとするも、操作が効かない。
「仕方ない。全機撃破する」
シールドで砲撃を防いだトライアンフから命令が飛び、ワルキューレとカナリアが応戦する。
「うわあああ!」
撃破された冥鬼兵から脱出しようとする帝国兵の目に、こちらへ突撃してくる冥鬼兵が迫る。
このままでは残骸ごと踏み潰されてしまう。
「おらぁっ!」
だが、悲鳴を上げる兵士の頭上をマグニのランヴェルスが飛び越え、迫る冥鬼兵をタックルで押し倒した。
九死に一生を得て呆然とする兵士。
マグニは搭乗席で彼の無事を確認し、次の敵へ向かっていった。
「認めない……認めないぞ。そんなものが、ボクの冥鬼兵を超えるなんて!」
戦場よりはるか遠くの帝国ではアドラーが怒りの形相で冥鬼兵を操っていた。
アドラーは操る冥鬼兵が撃破される度に1体、また1体と操作を乗り換えワルキューレに挑んでいく。
だが、感情任せの突撃では戦いの流れを変えることは出来ず、冥鬼兵は次々と撃破され……ついに最後の1体も撃破された。
「……」
通信鏡全ての映像が途切れ、暗くなった部屋でアドラーはバン!と拳をコンソールに叩きつけた。
『残存敵機ゼロ』
戦闘が終わり、冥鬼兵から脱出してきた兵士たちが両手を上げて降伏の意を示す。
「はぁ~……よかったぁ」
「やったぜ。母ちゃん……」
「づかれたぁ~」
全員無事に初陣を終えられた事にスルーズは胸をなでおろし、マグニは自分たちの力で故郷を守れた充実感を噛み締め、デシレアは心労でぐったりと項垂れた。
夕陽が勝利者たちを煌々と照らす。
搭乗席から出たエクスは、満足げな表情でカナリアへ笑顔を贈った。
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