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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第01話「復活の日」
3/62

第01話2/3 天霊の石像

「買い出し、私も付き合うよ」

「まだ寝てていいんだよ?」

「食べたらだいぶ楽になった。外へ出てここの事を知りたい。それに店を手伝う約束もしたからね」

「じゃあ、一緒に行こう。あ、でもその格好じゃ目立つから私のを着て」

「……? わかった」

 

 エルダがワードローブから服を取り出し、エクスへ差し出す。

 エクスにはなぜスーツだと目立つのかわからなかったが、エルダの言う通りにした。

 白のブラウス、刺繍の入ったロングスカート、如何にも民族衣装といった趣だ。

 服を着て階段を降りると、この家の料理屋になっている部分が見えてくる。

 朝方にも関わらず既に何人も客がいるようだ。

 シニューニャが注文を取り、ソフィが調理をしている。

 

「じゃあ行ってくるね、お母さん」

「お昼には帰ってきてね」

「うん」

 

 家の裏口から外に出ると、すぐに木と石造りの街並みが広がった。

 大通りでは沢山の麻袋を抱えた人や、木材を担いだ人達がドタドタと走り回っている。

 

「ずいぶん慌ただしいね。さっきあの子がお祭りだと言ってたけど……」

「そう、今日は年に一度の収穫祭なの。今夜は各家庭が腕によりをかけた料理を広場に持ち寄って、沢山食べて、沢山お酒を飲むの。この買い出しもそのためだよ」

 

 見渡すと確かに女性達が食料品を大量に買い漁っている。


「エクスさんも守り神様に感謝しなきゃいけないよ。エクスさんが倒れてた場所って収穫祭の時期じゃないと人が通らないんだから」

「その……守り神っていうのは?」

「守り神様はね。さっき言ったこの先の広場にある……。あ、見えてきた。あれだよ」

「あれは……」

 

 エクスは目を見開いた。

 見えてきたのは剣を地面に突き刺し、うなだれるように膝をついている巨人の像。

 その背中からは翼、足には大きな爪が生えている。

 鳥人……とでも言えばいいのか。

 しなやかで鋭角な甲冑に身を包んだその姿は、生物的な巨大ロボットのようにも見える。

 灰褐色の表面はかさぶたのように錆びが重なり、凸凹している。

 立ち上がれば12m程はあるだろう。

 下から見上げると、まるでこちらを見ているように目線が合った。

 

「大昔……この国がまだ小さな村だった頃に、天から舞い降りて人々を厄災から救ったって言い伝えられてる神様の像。エインヘリアルって言うらしいよ」

 

 エルダが祈るように像の前で手を合わせ、目を伏せる。

 像の周りを取り囲む石碑には、エインヘリアルが神々しい光を放ち魔物を討ち払う絵が刻まれていた。

 そこには魔物だけではなく巨大な人間……巨人から人々が逃げ惑うさまや、形の違う別のエインヘリアルが何体も描いてあった。

 そして、石碑に刻まれた文章はこう綴ってある。

 

 邪悪 現れしとき

 大いなる戦士 天より来たる

 其の名 エインヘリアル

 闇を切り裂き 光をもたらす

 戦士 眠りにつくとも

 人 涙することなかれ

 苦難 飲まれ

 聖なる巫女 願うとき

 戦士 再び蘇る

  

「エインヘリアル……」

 

 エクスはその姿に何かを感じ、囲っている柵を飛び越えて像に近づく。

 

「ちょ、ちょっと! 中に入ったらダメだってば!」

「ごめん。少し調べさせて」

 

 人目を避けつつ、そっと像に触れる。

 ザラザラとした表面、風化した木のようでもあり、錆びた金属のようでもある。

 

「……っ!」

 

 瞬間、エクスの脳裏に流れ込むいくつもの戦いの記録と、小さな女の子の姿。

 

「今のは……」

「はやく戻ってきて!怒られちゃうよ!」

 

 これはただの石像ではないのか……?

 流れ込んできた情報に困惑しつつ、エクスは一飛して柵の外に出た。

 

「もう!守り神様に触るなんてバチが当たっちゃうよ!?」

「ごめん、どうしても触ってみたくて」

「守り神様の像は神聖なものだから、巫女さんとか女王様みたいな限られた人以外はあの中に入っちゃいけないの。わかった?」

「以後気をつけます……」

 

 エルダに怒られ、その場を立ち去るエクスはあることが気になり振り返る。

 綴られた文章の最後の部分、蘇るの文言に剣で切りつけたような傷跡があったのだ。


 

 その後、エクス達は色んな店に立ち寄って食料品や飾りを買い回った。

 夕暮れになり、出来上がった料理を持って祭りの会場へと向かう。

 広場は既に多くの人で賑わっていた。

 エインヘリアル像の周りにたくさんのテーブルとイスが並べられ、それぞれのテーブルには持ち寄られた料理が大量に並べられている。

 

「エルダ、こっちよー」

「あっ、お母さん!」

 

 先に来ていたソフィとシニューニャが手を振ってエルダ達を呼んでいる。

 

「その服、似合ってるわよ」

「ありがとうございます……」

「あっ、女王様だ」

 

 エルダの視線の先、たくさんの護衛を連れ添った馬車が広場の前に停まる。

 中から現れたのは白く綺羅びやかな服装と、王冠を着けた気品漂うブロンド髪の女性。

 次いで銀色の髪に褐色の肌をした、踊り子のような服装の女性も降りてくる。

 

「あの人が王女様?」

「そう。隣の人は守り神様に祈りを捧げる巫女さん」

 

 エクスがエルダから色々と教えてもらっている内に、像の前に作られた舞台の上で女王がスピーチを始めた。

 

「イーザヴォール王国女王、エレオノーラ=イーザヴォールです。親愛なる国民の皆さん、今年もこうして収穫祭を執り行えることを嬉しく思います。これからも守り神エインヘリアルの慈悲と恵みに感謝し、今宵は大いに食べ、呑み、唄いましょう。乾杯!」

 

 臣下から器を手渡された女王が乾杯の音頭を取ると皆が一斉に酒を呑み、料理を取るために歩き回り始めた。

 音楽隊が賑やかな音楽を奏で、壇上では巫女が踊り始める。


「さ、私達も食べよ?」

 

 エクスはエルダに誘われ、シニューニャを加えた3人で食べ歩きを始める。

 それぞれのテーブルに並べられた料理を勧められるままに食べていく。

 

「これ美味しい~♪」

「本当だ」

 

 料理はどれも美味しく、種類も豊富で、この国の豊かさそのものを示しているようだ。

 シニューニャは舌鼓を打つ2人の後ろをとことこと静かに付いてくる。

 

「シニューニャちゃん、美味しい?」

「……うん」

 

 どうやらあまり喋らない子のようだとエクスは思った。

 

「うぉーい、酒をもっとくれ!」

「こっちも酒だ!」

 

 男達が酒のおかわりを求めて一箇所に集まっている。

 そこには赤く熟れた果実が荷馬車に山積みされていた。

 その汁を絞り出し、水で薄め飲んでいるようだ。

 

「エルダ。あの果物ってハツラツの実……だよね?お酒にもなるの?」

「あれは赤ハツラツ。ハツラツって黄色い時はそのまま食べられるんだけど、あんな風に熟れるにつれ果肉が溶けて中にお酒が貯まるの。でもとっても強いお酒で、そのまま飲むと悪酔いするから水で薄めるんだって」

「へぇ……不思議な果物だね」

「おぉ、元気になったのかい嬢ちゃん」

 

 感心しているエクスに初老の男が話しかけてきた。

 手に持った皿にはソフィの作った料理が入っている。

 

「えっと……」

「倒れてたエクスさんを拾ってくれた行商のおじさんだよ」

「あっ……ありがとうございました。助かりました」

 

 エクスは深々と頭を下げ、礼を述べた。

 

「ソフィさんのとこにいるなら治りも早いだろう。あの人の料理は絶品だからよ」

 

 男の目線の先ではソフィが常連客に囲まれ盛り上がっている。

 街の人達からかなり評判がいいようだ。

 

「ここは良いところだから、ゆっくりしていくといい。……ソフィさ~ん♪」

 

 男はそう言うとソフィの料理を食べに戻っていき、エクスはその背中に向けもう一度、頭を下げた。

  

 そうこうしている内に陽が落ち、辺りが暗くなる……。

 と、思われたが街には多くの明かりが灯っている。

 辺りで火も焚いておらず、電気も無さそうなのにどうして灯りがあるのか?

 エクスは疑問に思ったが答えはすぐに分かった。

 テーブルに置かれた長方形の物体。

 それが蝋燭や松明よりも明るく周囲を照らしていたのだ。

 

「エルダ、この灯りは何?」

「光り石だよ。昼間、陽に当てておくと夜でもこうして光ってくれるの」

 

 つまり……蓄光性の石?

 エクスが石に手をかざすと人肌のようなぬくもりが感じられた。

 原理を解析してみたいが、今の自分にその力はない。

 

「ここは……不思議なものばかりだね」

「エクスさんは……これからどうするの?うちの店を手伝ってくれるとは言ったけど……その後は?」

「わからない……。 仲間の元に帰りたいけど、その手段を無くしてしまったから……」

「手段って船とか?」

「まぁ……乗り物と言えば乗り物かな」

 

 エクスがこの地……いや、この世界に投げ出される前、彼女には別の姿があった。

 だが、ある出来事によってその姿と力は失われてしまった。

 あの姿を、力を取り戻さなければ仲間達の所には帰るのは不可能だ。

 

「元気……出して……」

 

 エクスの表情が暗くなったのを察してか、シニューニャが励ましてくれた。

 

「ありがとう。君は優しいね」

 

 シニューニャの頭を撫でるエクスの耳に、気になる話が聞こえてくる。

 

「おい聞いたか。モランの奴が森の中で巨人を見たって話」

「お前、あれを本気にしてんのか?巨人なんて大昔の話だろ。大方、熊でも見間違えたんだろ」

「そっかぁ」

「たまにいるんだよ。異常にデカいのがさ」

 

(巨人か……)

 

 あの石碑の絵、そして像の記憶。

 この世界にかつてエインヘリアルと同じサイズの巨人がいたというのは本当の様だ。

 もっとも本当に今も巨人がいるなら、目撃証言が噂程度にはならないだろう。

 エクス自身も単なる動物の見間違いとしてその話を受け流した。


 

「ふあぁ……眠くなってきた」

 

 エルダがあくびをする。

 祭りが始まってから3~4時間ほど経っただろうか。

 酔い潰れて寝てしまう人も出てきた。

 女王様の一行も広場から引き上げようとしている。

 エクスもそんな光景をボーッと眺めている。

 その時だった───。

 

 ドゴォォォオォォォォン!!

 

 轟音とともに大地が揺れ、空気が振動する。

 何かが爆発した音だ。

 

「な、何が起きたの!?」

 

 突然の出来事に人々が慌てふためく。

 

「城門の方だ!」

 

 男が指差した先に黒煙が上がっていた。

 人々がざわつく中、響く2度目の轟音。

 

「きゃあっ!」

 

 驚いたエルダがシニューニャを庇うように縮こまる。

 エクスはこれが事故の類ではない事を直感で感じ取った。

 3度目の爆発と共に城門が崩れ、黒煙が立ち込める。

 

 その煙の中から───鎧を纏った4つ目の巨人が姿を現した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。

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