第07話2/3 王宮にて
突然声を荒げたアードルフに一同の空気がピリッと張り詰める。
「帰れ!」
彼は背中を向けたままシルヴィを拒絶する。
「あなた、どうか話を……」
なんとか話を聞いてもらおうと肩に置かれたシルヴィの手を払い除け、彼は振り向き叫んだ。
「何度言ったらわかる!4人目は作らないと言ってるだろ!」
「「……え?」」
アードルフの言葉に、シルヴィ以外の全員がキョトンとなる。
「これ以上、子供が増えたら養えなくなるし……俺の身が持たねぇ!」
「ち……違います!今日来たのはそういう事じゃなくて……!」
アードルフの勘違いをシルヴィが顔を真っ赤にして否定し、エクスを除いた全員が夫婦の事情を理解し気まずくなった。
「何がちが……誰だそいつらは!?」
アードルフはようやく客人の存在に気づいた。
「だ……だから、今日はこちらの方々があなたに用があるから付き添いで来たんです!」
「……そうならそうと早く言え!」
「言おうとしました!」
「2人とも喧嘩しないの!」
周りに聞かれて恥ずかしくなったのか、2人が顔を真っ赤にしてはやくも夫婦喧嘩になりそうなところをイルが収めた。
3人並ぶとアードルフの小ささが目立つ。
娘の方がはるかに身長が高い。
アードルフが落ち着くと、エクスは王国と帝国の現状、冥鬼兵改造計画のあらましを彼に話した。
「それで、俺になんの用だ」
「この巨人に着せる甲冑を作っていただけませんか?」
「こいつは……」
エクスは設計図を取り出し、アードルフに渡した。
紐で括られた紙の束には改造冥鬼兵の概要、全体図、各部の形状が記されている。
「なにこれ、なにこれ!」
「随分とでけぇな」
アードルフがページを捲るたび、イルが目を輝かせる。
「はい。でも、シルヴィさんが貴方なら作れると」
その言葉にアードルフがシルヴィの方を見ると、シルヴィは真剣な眼差しで頷いた。
「……これがあれば、その冥鬼兵に勝てるんだな?」
「かならず」
「……イル、荷物をまとめろ。国王に挨拶してから行くぞ」
「う、うん!」
アードルフは息を大きく吐くと、鍛冶道具をリュックに詰め始めた。
「ありがとうございます!」
「……家族のためだ」
その言葉を言いつつ、アードルフが自分をちらっと見たことにシルヴィは笑顔になった。
――
「こちらがエレオノーラ女王陛下からの親書です」
一同はマグリア王宮へ赴き、エクスは女王の親書を側近に手渡した。
もしもの時のために女王が持たせてくれたものだ。
アードルフの顔もあり、謁見まですみやかに進んだ。
扉が開き、王の間へ通される。
「すっご……」
内装を見たマグニが思わず言葉を漏らす。
絵画や彫刻が並べられ、圧倒的な文化を感じさせる荘厳な雰囲気が漂っている。
「ほっほっほ、会うのは久方ぶりじゃなアードルフ」
「国王陛下、ご壮健でなによりです」
部屋の奥の玉座には、細身で立派なヒゲを蓄えたマグリア国王がにこやかな表情で客人を待っていた。
その膝には大きな犬が寄りかかり、頭を撫でられている。
「巨人が出たとは耳にしていたが、人が作りしものとはのぉ〜」
ヒゲをつまみながら親書を読み進めるマグリア国王。
そこにはイーザヴォール王国の現状、自分達と祖を同じとする帝国の成り立ち、これから自分達が作ろうとしている巨人兵器の概要、イーザウォールとマグリアの同盟に関するあれこれが書き綴られていた。
「国王陛下、私はイーザウォールへ戻ります。ご依頼されていた甲冑は、向こうで仕上げ必ずお届けします」
「……わかった。アードルフ、そなたが居なくなるのは残念ではある。が、国へ戻った方がより素晴らしいものを作れよう」
「ありがとうございます、陛下」
「それと甲冑の件じゃが、良いことを思いついた。同じ甲冑なら、そなたらの作る巨人をひとつワシにもらえんか?」
国王は邪念の無いほがらかな笑顔でそう言った。
我が国にではなく自分にと言う辺り、兵器が欲しいというわけでは無さそうだ。
趣味用にということだろう。
エクスはアードルフと目を合わせ頷いた。
「必ずお届けします」
「ほっほ、頼んだぞアードルフ」
アードルフは深く頭を下げ、国王は期待に胸を膨らませた。
「他に話がなければここまでじゃな。そなたら、長旅で疲れたろう。ここの温泉に入っていくがよい」
――
謁見を終え、一同が案内された先はプールかと思うほど大きな露天風呂だった。
熱い湯と水の両方が注がれており、源泉をここまで引き込んで冷ましているのが見てとれる。
他に人もおらず貸し切りの状態だ。
「はぁ~……」
身体を流し湯船に浸かったエクスが声を漏らす。
湯の熱さと外から吹く涼しい風の寒暖差が心地よい。
「むむ……」
その隣でスルーズが先程からずっとシルヴィとイルの親子を見ている。
「シルヴィさんもイルちゃんもおっきいなぁ……。私たち普通組も負けずに頑張ろうね!」
「う、うん……?」
スルーズが懇願するような顔でエクスの手をぎゅっと握り、エクスはとりあえず頷いておいた。
「賑やかだなぁ……」
一方、男湯ではマグニが1人、空を眺めながら浮かんでいた。
「あら、あなた入らなかったの?」
一同が温泉から上がると、アードルフが相変わらずの格好で待っていた。
「いいんだよ俺は」
「子供たちに怖がられますよ?」
――
その後、王宮を出て街外れまで歩いたところで一同は立ち止まった。
「それで、どうやって帰るんだ?まさか徒歩じゃないだろう?」
「驚かないでね」
「バルドル、おねがい」
エクスが天に向かって手を振る。
何をやっているんだとアードルフとイルが首を傾げていると、周囲に虹色の光が降り注いだ。
「うおわああ!」
「なにこれ、なにこれー!」
ビフレストの光に包まれ、一同はマグリアを後にした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
感想・高評価をいただけるととても励みになります。
完結できるように頑張ります。




