第07話1/3 温泉の国
2日後――。
ビフレストが開き、風光明媚で豊かな水と温泉の国マグリアが見渡せる丘の上にエクスたちは降り立った。
「すっげー!」
「うわぁ!すごく綺麗!」
眼の前に広がる水の都に、マグニとスルーズが瞳を煌めかせる。
街中にいくつも運河が流れ、沢山の船が往来している。
至るところに橋が架かっており、巨大な王宮も見え、都市の規模はイーザヴォールより大きく感じる。
「本当にあっという間に着いたわね……」
「さぁ、行こう!」
本来は片道数日かかるところを約1時間で移動出来てしてしまったことにシルヴィは戸惑い、反対にエクスはいち早く街へと歩き出した。
目的はシルヴィの夫アードルフに、冥鬼兵の甲冑を新調してもらうため王国に戻ってもらえるよう説得することだ。
「この国は水が豊富なだけでなく近くの火山から鍛冶に使われる金属が多く手に入るんです。水路を使った貿易も盛んですし、温泉もあるんですよ」
街の入り口である大きな橋へ向かいながら、シルヴィがマグリアの概要を説明する。
見れば街のところどころで蒸気が立ち上っている。
「アルティナも連れて来たかったなー」
「姫様なんだからしょうがないよ」
社会勉強の名目でマグニとスルーズは来られたが、アルティナは立場もあって許可は下りなかった。
出発前に自分も行きたかったのにと、悔しそうにしていたアルティナの姿が浮かぶ。
「うわぁ、賑やかだねぇ」
街に入ると中は活気に溢れ、いくつもの商店や屋台が立ち並んでいる。
往来には人が溢れ、手を繋がないとはぐれてしまいそうなほどだ。
「おっ、うまそう」
マグニが香ばしい匂いに誘われ、屋台に足を向ける。
売られているのは肉の串焼きだ。
たっぷり塗られたタレが食欲をそそる。
「おっちゃん、これ1つくれ」
「毎度あり。お、あんたらイーザウォールから来たのかい」
「うん」
「遠いところからご苦労さまだね。はい、嬢ちゃんたちの分」
エクスとスルーズにも串焼きが差し出される。
「私たちは頼んでないよ?」
「かわいいからサービスだよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
2人は串焼きを受け取り、一口食べる。
「おいしい……!」
「ハハハ!機会があったらまた来ておくれよ!」
エクスが熱く香ばしい肉を噛み締めながら周りを見渡すと、道行く人はみんな楽しそうに笑っている。
「良い国だね」
「巨人が来る前は俺達の国もこうだった」
確かに、あと数週間の猶予があるとはいえイーザヴォールの人々は緊張を強いられている。
はやく戦いを終わらせて、この国の人々のような笑顔を取り戻さなければ……。
その想いはエクスだけでなく、マグニも同じだ。
「なぁ、エクスさん!この前も言ったけど、あの巨人が出来たら俺に乗らせてくれないか?」
「気持ちは嬉しいけど、あれは子供のオモチャじゃない。戦争の道具なんだよ?乗って戦えば人を殺めてしまうかもしれないし、逆に自分が死ぬかもしれない」
「わかってるよ。でも、俺だってみんなを守りたい。カナリア様に頼りっぱなしていたくないんだ。母ちゃんは反対するかもしれないけど、話せばきっと分かってくれる!」
「ん~……」
マグニの言葉に嘘がないのは、その目と表情が物語っていた。
みんなを守りたい。
その気持ちは分かる。
エクス自身、カナリア1人に頼るしかないのが現状だ。
でも、子供を戦争に行かせるなんて彼の母親が許すだろうか?
「考えておくよ」
「よし!」
まだそうと決まった訳ではないのにマグニはガッツポーズする。
保留のつもりで言ったエクスは少々申し訳無さを感じた。
「夫の家はこの先です」
シルヴィの案内で人がごった返す中心街を抜け、工房地帯へ入るとあちこちから鉄を打つ音が聞こえてくる。
「鉄鋼が盛んな国だから、ご主人……アードルフさんはここで暮らしてるんですか?」
「いえ、それはまた別の事情があって……」
「……?」
エクスの質問にシルヴィは言葉を濁した。
話したくない事情があるのだろうと、エクスはそれ以上の詮索をやめた。
路地を曲がったところで、資材を運ぶ少女に向かってシルヴィが名前を呼んだ。
「イル!」
「ママ!?……お父さん!ママが来たよ!」
どうやら3人目の子供らしい。
背丈や見た目から考えると長女だろう。
結んだピンクの髪に鉢巻、眼鏡をかけ、上半身だけ脱いだツナギのポケットにはたくさんの工具が収められている。
イルと呼ばれた少女は資材を置くと、母親の胸に飛び込んだ。
「会いたかったあ!トーレとドゥーエは元気?」
「元気よ。そっちは?」
「私もパパも元気だよ。パパね、この前、王様に剣を献上したら出来栄えを誉められたんだよ!」
「そう、凄いわね」
シルヴィが話しながら娘の頭を撫でる。
「その人達は?」
「国の人達よ。お父さんに用があって来たの」
「へぇー、アタシはイル。よろしくね」
イルは挨拶を済ますと、皆を工房の中に案内した。
「お父さんってばー、ママが来たよー」
イルの目線の先、燃え盛る窯の前ですすぼけた小柄な男がカン、カンと鉄を打ち続けている。
声をかけられても背中を向けたまま、無反応だ。
「あなた……」
シルヴィが彼に近づくと鉄を打つ手が止まり――。
「何しに来た!?」
怒声が飛んだ――。
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