第06話4/4 神槍グングニルにて
「何が起こってる!?」
「きれー」
虹の光に包まれ、ぐるぐると回転するカナリアの身体の中で、エクスは離されないようシニューニャを強く抱く。
王国がぐんぐんと点のように小さくなっていく。
「これは……」
カナリアは光の正体に気付いていた。
これは神々とエインヘリアルが地上と天界を行き来するための――虹の橋。
周りの光が一層大きくなった瞬間、カナリアは寂れたドーム状の宮殿に放り出された。
ゴロゴロと転がるカナリアの身体に合わせて、中のエクスたちも回る。
「……っ、ここは?」
「ハァーッハッハ!成功だ!!」
エクスが状況を確認しようとすると、野太い歓声が外から聞こえてきた。
ボサボサの髪とヒゲを蓄え、着崩れた服を着た恰幅のいい男が大きなレバーの前で笑顔で両手を振り上げ、喜んでいる。
「おっちゃん……治ったのか!?」
「おうよ!ご覧の通りだぜ!」
カナリアが身を起こし、男と親しげに話しだす。
どうやら知り合いのようだ。
「ははっ、やったな!」
「カナリア、ここは?その人は?」
「うぉっ!?なんだお前らは!?」
カナリアの胸から飛び出てきたエクスとシニューニャに男が驚く。
「ここは天界。このおっちゃんはバルドル、光の神だ」
「神……?」
見た目は普通の人間にしか見えない。
いや、これは自分の言えることではないなとエクスは自嘲した。
「2人は、俺が守ってる国の人達だ」
「なるほど……あっ、おい!あぶねえぞ!」
カナリアから出たシニューニャが宮殿の外へ走っていく。
宮殿を出ると、外には視界いっぱいの雲海と青い空が広がっていた。
「くもが下にある……」
「すごい……」
無数の島が空中に浮いている。
テクノロジーの産物なのか。
または魔術的なものかわからないが、驚嘆の一言だ。
ただ、よく見るとどの島も廃墟になってしまっているようで、この宮殿も外壁がところどころ剥がれ落ち、焼け焦げたようなススが目立つ。
「どうだ、天界は?今はボロボロになっちまってるが、すげーとこだろ?」
「うん、本当に……」
こうなる前はとても神秘的で華やかなところだったのだろう。
建物に微かに残る、黄金の装飾がそれを思い起こさせる。
「カナリア、さっきの光は?」
「あれはビフレスト、虹の橋だ。一瞬で地上のどこにでも行けるんだぜ」
「そうなんだ。どこでも……どこでも!?」
「うおっ!?」
突然、大声を上げたエクスにカナリアが驚く。
「じゃあ、あれを使えばこの工程が半分……いや、もっと」
エクスは今度はぶつぶつと独り言を始めた。
「どうしたんだよ?」
「実は、マグリアに行こうと思っていたんだ」
「マグリア」
「マグリアは王国から西に行ったところにある国。シルヴィさんの夫が有名な鉄鋼技士で、今はマグリアに住んでるんだ。私は冥鬼兵の新しい甲冑をその人に仕立ててもらおうと思ってる。でも、マグリアに行くのは片道数日かかるから、残り日数的にどうしようかと思っていたんだよ。でも、あのビフレストがあればマグリアにも一瞬で行ける。そうだよね!?」
「どうなんだ?おっちゃん」
「ああ、行けるぜ。ただし、まだ片道分のチャージに1時間ほどかかるがな」
「いや、十分だよ」
ビフレストを使えばマグリアまで片道1時間。
事が上手く運べば、日帰りも可能だろう。
帝国の襲来まであと3週間ほど、そのうち何日もマグリアへの渡航に費やすのは不安要素が大きかったが、ビフレストのおかげでタイムスケジュールをかなり圧縮できる。
エクスの脳内で様々な工程が繰り上がり、組み合わさっていく。
「となるとマグリアでの最長滞在日数は……必要な荷物は……」
また独り言を始めたエクスの傍らで、シニューニャはずっとひとつの方向を見つめていた。
「呼んでる……」
「ん?どうしたのシニューニャちゃん?」
シニューニャが見つめる先には、天高くそびえる塔があった。
雲の上にあるここ天界よりも、さらに高高度まで伸びている。
「カナリア、あの塔はなに?」
「あぁ、あれは塔じゃない。オーディン様のグングニルだ」
「グン……グニル?」
「槍だよ。大昔に星から落ちてきた魔物を退治するために突き刺して、そのままになってるんだってさ」
「あれが……槍?」
エクスは雲の切れ間からグングニルの根本を確認する。
これほどの槍を突き立てられた魔物も、相当な大きさに違いない。
途方もなくスケールの大きい話だ。
「そのオーディン様って凄いんだね」
「天界の王、主神だからな」
そのオーディンの槍がシニューニャを呼んでいる?
「呼んでる……」
「何も聞こえないぞ?」
「カナリア、私達をあそこまで連れてって」
「あ、あぁ……」
2人を乗せたカナリアはグングニルへ向け羽ばたいた。
――
「あそこ……」
グングニルの周りを旋回するように飛んでいると、シニューニャがある場所を指さした。
その場所に近づくと、グングニルの表面がブロックを動かすように移動し、内部へ通じる通路が開いた。
招かれるように壁も床も全てが黄金に染まった通路を歩いていくと、広い空間に出る。
その中央にある台座に、小さな玉のようなものが浮いている。
「なんだこれ……」
「中に何かいる」
カナリアから出たエクスとシニューニャは、その玉の中を覗き込んだ。
シャボン玉を思わせる玉の中には、4足歩行の生物が眠った状態で収められていた。
背中に翼の生えたその姿は犬や猫ではなく、爬虫類。
ドラゴンの子供という表現が最も適切だろう。
「……ん」
シニューニャが触れると玉は弾け、ドラゴンはその腕に抱きかかえられる。
ドラゴンはクルル……と鳴き声をあげ、シニューニャの顔を見るとまた眠りについた。
「かわいい……」
シニューニャはとても優しげな瞳で、己の腕の中にある小さな命を見つめた。
――
「なんだ、そりゃ?」
持ち帰ったドラゴンを見て、バルドルが訝しむ。
どうやら天界の人間も知らないようだ。
「名前はあの槍と同じ、グングニルにしたよ」
目覚めたグングニルがシニューニャと戯れている。
生態が全くわからないだけに、人に危害を加えないかエクスは心配したが、今のところそんな様子は見られない。
本当に赤子と言った感じだ。
「ぐんぐー、お手」
どうやら、もう愛称を付けたようだ。
「親父の槍からねぇ……」
「なんなんだろうな?」
カナリアとともにその様子を眺めながら、バルドルはあることを思い出していた。
父オーディンがグングニルを突き立てた魔物は、確か黒いドラゴンではなかったかと。
それと対を成すような白いドラゴンの子供。
何かあるかもしれないと思いつつ、バルドルの意識はエネルギーチャージが完了したビフレストへと移った。
「よしっ、エネルギーが溜まった!地上に降りられるぜ」
「戻るかエクス、シニューニャ」
「うん」
「ビフレストを通りたい時は言ってくれ、いつでも橋を架けてやる。……酔い潰れてなきゃな」
「ありがとう。バルドルさん」
「お前さんたちも大変だろうが、頑張れよ。……あ、そうだ!今度来る時は地上の酒を持ってきてくれ!」
「わかった。じゃあな」
「ばいばーい」
カナリアが2人と1匹をインナースペースに収めると、バルドルがレバーを引きビフレストを起動させる。
現れた光のゲートにカナリアは吸い込まれ、気がつくと王国の洞窟前に降り立っていた。
その後、グングニルはシニューニャが面倒を見ることになり、エクスはビフレストを利用したマグリアへの渡航計画を煮詰めていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
感想・高評価をいただけるととても励みになります。
完結できるように頑張ります。




