第05話4/4 豪炎抜刀・ガレス戦決着
子供達が持ってきたブレスレット。
それはカナリアの記憶から、そのまま出てきたかのようにそっくりだった。
「子供達と一緒に作ったんです!カナリア様に必要なものだからって……」
あの日、エルダはカナリアの思い出のブレスレットを作るようにエクスから頼まれ、渡された絵を元に子供達と共に編み上げたのだ。
カナリアの目にエルダとかつての想い人が重なる。
「あんなやつにまけないで!」
「みんなをまもって!」
「カナリアさまが絶対に勝つって、信じてるから!」
子供達がカナリアを激励する。
「何をしている……?」
ガレスは早く子供達が立ち去ることを願いながら、カナリアがブレスレットを受け取る様子を静かに見つめていた。
そんなものがなんの役に立つ。
否定しようとしたガレスの脳裏に、幼い頃の皇帝の姿がフラッシュバックする。
摘んだ花で冠を作り、プレゼントしてくれた無邪気な笑顔が。
己とカナリアを重ね合わせたガレスの心に微かな疑念が生じる。
自分達は本当に正しいのかと……。
だがその時、アスラの大砲が突如起動し、カナリアと子供たちに照準を合わせ始めた。
「なっ……やめろ!」
ガレスはアスラの腕を強く振り上げ照準を逸らすと、大砲を切り離した。
自分自身も、帝を冠する1人の少女のために戦っている。
子供のために戦っている者が、子供を撃つなど出来るはずもなかった。
カナリアはブレスレットを受け取ると、左手に通した。
自分に足りなかったもの、欠けていたものが戻ってきた感覚に拳を握りしめる。
「ありがとう……みんな」
「さぁ、みんな!危ないから城の中に戻ろう!」
降りてきたエクスが子供達を諭す。
「でも、カナリア様が!」
「もう大丈夫。……だよね?」
「……あぁ!」
エクスはカナリアを信頼の眼差しで見つめ、カナリアもそれに応えた。
ゆっくりと立ち上がるカナリアの姿を見て、子供達も安心したのかエクスに従い城の中へ戻っていった。
カナリアは重い身体を奮い立たせながら、子供達の事を想っていた。
あんな小さな子達が、自分を守るために己より何百倍も大きな相手に立ち向かった。
無謀……ではない。
あの子達は勇気を出したんだ。
自分があれくらいの頃、そんな勇気があっただろうか。
カナリアは彼らの勇気に応えたいと思った。
再び立ち上がったカナリアに城内から歓声が響く。
「カナリア様ー!がんばれー!」
「まけるなー!」
同時に子供達の声援が聞こえてくる。
いや、子供だけではない。
この国の人々が皆、カナリアを応援している。
声援を受けたカナリアの身体から不思議と痛みがやわらぎ、力が湧いてくる。
(伝わっているよ。君達の勇気が……)
エクスは知っていた。
願い石の構成物質であるコズミウムには、意思を伝播させる力がある。
今、人々の応援が願い石を通してカナリアの身体に流れ込み、彼の力となっている。
彼らの応援は……「がんばれ」は決して無責任な言葉ではない。
エクスはそれを知っていた。
「がんばれ!カナリアー!」
そして、自身も誰よりもカナリアのために願い、信じ続けていた。
自分も、この力に何度も救われたのだから――。
「みんな……」
「随分と慕われているな」
「……アンタ、本当は悪い人じゃないだろ」
「なにを……」
「あの子達ごと、俺を倒すことだって出来たはずだ。でもアンタはしなかった」
「……」
言い返すことなく、沈黙するガレス。
カナリアはだんだんとガレスという人間がわかってきた。
この人はただ皇帝の願いを叶えようと必死なだけなのだ。
忠誠と覚悟――。
それがこの人の強さの源なのだと。
その覚悟を上回らなければ、この人には勝てない。
「将軍……。たった1人でも皇帝のために戦うあんたの覚悟は認めるよ。だから、あんたの覚悟に俺も応える!アンタの想いを超えてみせる!たとえ、命を奪うことになっても!」
「ぬぅっ……」
ガレスにはカナリアの身体が黄金の輝きを放っているように見えた。
実際にそうなっているわけではない。
彼の気高さがガレスにそう錯覚させたのだ。
「はっ!」
「うおっ!?」
カナリアがアスラに突き刺さったままの剣に手を向けると、剣は引き寄せられるように手元に戻った。
そして盾を取り出し、剣と合体させる。
剣に覆いかぶさるように半透明の巨大な刀身が形成され、カナリア最大の必殺技を放つ準備が整った。
「これを防がれたら……あんたの勝ちだ」
胸の前で天に向け剣を構え、カナリアは目を閉じる。
守りたいものがある。
守りたい笑顔がある。
天の神々も、仲間のエインヘリアルも居なくなった世界。
なら自分が、自分がこの世界を守ってやる。
守らなきゃいけないんだ。
カナリアは覚悟とともに目を強く見開く。
「豪炎……抜刀!」
叫びと共に、刀身から蒼と紅の炎が螺旋を描くように噴き出す。
翼を広げたカナリアはエネルギーの全てを解放し、アスラへ突撃する。
「蒼炎・紅蓮斬!」
すれ違いざまに放たれた巨大な炎の剣は、アスラの手斧、魔術障壁、甲冑全てを両断し、真一文字にその刀身を滑らせた。
「ぬおおおおおおっ!」
ガレスが叫び、アスラが大爆発を起こす。
勢いのまま空へ舞い上がったカナリアの背を衝撃波が叩き、舞い散る羽根とともに、今日1番の人々の歓声が響き渡った。
アスラの上半身の残骸が地面に落下する。
あれだけの攻撃を受け、大爆発を起こしたにも関わらず原型を保っている。
「ぐっ……はぁっ」
カナリアが地上へ降り立つとアスラの頭部が開き、黒煙の中にガレスの姿が見えた。
血を流しているようだが、まだ生きている。
機体の頑丈が彼の命を救ったようだ。
カナリアは彼が生きていたことに安堵した。
「み、見事だ……。これが伝説の、エインヘリアルの力……。申し訳ありません陛下……。このガレス、お役に立てませんでした」
満身創痍のガレスが皇帝への謝罪の言葉を口にすると、通信鏡にアドラーの姿が映し出された。
『いいえ、役に立つのはこれからですよ』
「っ……アドラー!?」
『将軍にはエインヘリアルを道連れに、名誉の戦死を遂げていただきます』
「なんだと!?」
『頭の固い老人にはこの際退場していただきたい』
「アドラー!貴様!」
ガレスが通信鏡を殴りつけると通信が切れ、アスラが赤く輝き始めた。
『カナリア!今すぐそこから離れて!』
「なんだって!?」
『冥鬼兵から高エネルギー反応!どんどん大きくなってる。自爆する気だ!』
カナリアとエクスが話している間にも輝きはさらに強くなる。
将軍は死ぬ気なのか!?
……だとしても!
「うおおおおお!」
「カナリア!?」
突如、カナリアがアスラへ向かって走り出した。
その頃、アドラーから見捨てられたガレスは己の運命を受け入れようとしていた。
エインヘリアルに勝てなかった以上、自分に存在意義はない。
皇帝の幸せを願い、静かに目を瞑ろうとした時、ガレスの眼前に巨大な手が現れた。
「おおおっ!」
カナリアがアスラの頭部から搭乗席ごと将軍を掴み、引き抜く。
次の瞬間、一際アスラが強く輝き──。
ドゴオオオオォォン!
「カナリアーッ!」
閃光とともに衝撃と爆風が広がった。
『カナリア!カナリア!無事か!返事をしてくれ!』
エクスが必死に呼びかける。
皆がカナリアの安否を心配する中、爆炎の中から青白い光の翼が広がる。
カナリアは間一髪シールドを取り出し、バリアを張っていた。
『……大丈夫だ。ちょっと腕が痺れたけどな』
カナリアが軽口混じりで応え、エクスは胸を撫で下ろした。
カナリアの手に握られた将軍も無事だ。
『これが、きみの答えなんだね』
「……あぁ」
たとえ敵であっても、救えるなら救いたい。
カナリアが出した答えに、エクスの顔から笑みがこぼれた。
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