第05話3/4 老将の意地
「お母さんとマグニ、大丈夫かな……」
エクスが城を出た頃、洞窟ではスルーズが母と弟の身を案じていた。
マグニの心配をする彼女に、アルティナはむすっと不機嫌な顔になる。
「それよりあっち!」
アルティナが指さした先で、カナリアとガレス操るバーリム・アスラの戦闘はまだ続いていた。
「貴様さえいなければ、とうにこの国を落とせていたものを!」
「俺がいる限り、この国は渡さない!」
依然として斬り結ぶ2体。
カナリアが飛び上がり、ガレスは逃すまいと砲撃を放つ。
迫る光弾の雨に対し、カナリアは弓を放った時と同じく尾羽根を分離し、今度は盾として構える。
盾から青白い光が翼のように広がり、カナリアに届く前に光弾をかき消していく。
「ぬうっ!?」
有効打を潰されたガレスが顔を歪め、光弾を防ぎ続けるカナリアの耳にエクスの声が響く。
『カナリア!城に入り込んだ敵兵はみんな捕らえた。もう心配いらない!』
「そうか!……よぉおおおしっ!」
後はあいつを倒すだけだ。
カナリアは盾を構えたまま、アスラ目掛けて突っ込んでいく。
「なんのマネだ!?」
一直線に向かってくるカナリアに対し、砲撃が収束していく。
だが、カナリアは怯むことなく進み続け、片方の砲門に盾を押し付ける。
出どころを失ったエネルギーが膨れ上がり、大砲は大きな爆発を起こした。
「むおぁっ!?ごほっ、ごほっ!」
操縦席に入り込んだ黒煙にガレスがむせる。
このような手で来るとは……流石はエインヘリアルか。
初めて大きなダメージを受け、ガレスの心に焦りが生まれた。
「そこをどけぇ!」
その頃、城門のすぐ内側ではカナリアの矢によって倒された冥鬼兵から脱出した敵兵達が、兵士や街の人々と睨み合っていた。
だが、直後にエクスが飛来し、敵兵達は光の縄によってまとめて縛られた。
瞬く間に敵兵を無力化し、城門の上に降り立ったエクスへ民衆から歓喜の声が湧く。
それと同時にカナリアも地上へ降り、ガレスへ剣を向けた。
「あんたの仲間は全員捕らえた!目論見が外れたな!」
「なあっ!?ぬっ……く!」
ガレスが激しく狼狽する。
失敗したというのか。
この国にはエインヘリアル以外、ろくに防備もないはず……。
まさか、あの奇妙な衣装の少女の仕業か?
要因はわからないが、ハッキリしていることがある。
見誤った――。
自分の浅はかな作戦のせいで、部下に無用な犠牲を出してしまった。
自責の念に駆られるガレス。
彼に残された道は1つしかなかった。
「おのれ!こうなれば、貴様だけでも討ち取る!」
部下達の犠牲を無駄にしないため、皇帝陛下のため、エインヘリアルを倒す。
アスラがカナリアへ突撃し、2体は再び斬り結び始めた。
「はっ!」
突き出されるカナリアの剣。
だが、やはり障壁に阻まれる。
「効かぬといったはずだ!」
「どうかな?はああああぁ!」
カナリアの身体から蒼い炎が噴き出し、剣に集まっていく。
「だあぁっ!」
「なにっ!?」
燃え盛る剣に力を込めると、剣先は障壁を砕き、アスラの左肩へと突き刺さった。
直後に刀身のエネルギーが爆発を引き起こし、肩甲冑が四散する。
「ぬあああぁっ!」
「よっしゃあ!」
確かな手応えにカナリアは拳を握りしめた。
「何を、した……?」
「さっき気付いた。俺の炎なら、その壁を壊せるってな!」
アスラの拘束から逃れるため炎を出した時、魔術の鎖を焼き尽くす事が出来た。
あのエネルギーはこの身体から噴き出す蒼炎で破壊可能ということだ。
「おおおおお!」
カナリアは蒼炎を再び剣に集める。
「蒼炎斬波ァ!」
「ぬおお!」
振るった剣から放たれた三日月状の斬撃エネルギーは魔術障壁を突破し、アスラの上半身が爆煙に包まれた。
反撃の狼煙に城内の人々からも歓声が上がる。
アスラの構えていた戦斧が折れ、斧頭が地面に突き刺さる。
煙から出てきたアスラは左腕を損傷し、甲冑がひどくひしゃげていた。
「お、のれぇ……!」
「もう諦めろ!」
「ぬかせぇ!」
だが、ガレスの戦意は衰えていなかった。
戦斧の柄をカナリアに向かって投げつけると、代わりの手斧を取り出し挑みかかる。
しかし、障壁を砕く蒼炎によって斬り結ぶ度にアスラの甲冑が徐々に斬り裂かれ、砕け散り、追い込まれていく。
「これで……終わりだ!」
突き出した剣がアスラの胴を貫く。
勝った!
カナリアが勝利を確信したその時――。
ガン!
「がっ……!?」
手首を喪失したアスラの左腕がカナリアの顔を殴りつけた。
衝撃で剣を手放してしまい、カナリアは土にまみれる。
「……頭を狙えば、貴様が勝っていたぞ!」
「がはっ!」
剣が刺さったまま、アスラは立ち上がろうとするカナリアをボールのように蹴り飛ばし、その身体を城壁に叩き付けた。
カナリアの剣は確かにアスラの身体を貫いた。
だが、その刃は冥鬼兵の身体を支える背骨をわずかに逸れ、甲冑と肋骨を貫通しただけに留まった。
ガレスの言う通り、頭部を貫けば決着はついていただろう。
しかし、カナリアはそれを選ばなかった。
選ぶわけにはいかなかった。
「貴様……、よもや私に情をかけたのではあるまいな?」
「うっ、ぐ……」
「貴様が情をかけようが、私は容赦せん!」
「がはっ!」
城壁にもたれかかるカナリアをアスラが踏みつけ、衝撃で城壁の一部がガラガラと音を立てて崩れていく。
「カナリア!」
エクスはガレスの気を逸らそうと銃を乱射するが、魔術障壁に防がれてしまう。
「ぐあっ……」
踏みつける力が強くなる。
「私は陛下のためならこの命を捧げる覚悟はとうに出来ている!陛下の願いを叶える事こそ我が本懐!敵を殺す覚悟も無い貴様に、負ける道理がないわぁ!」
「ぐっ、がっ……!」
「カナリア!」
痛めつけられるカナリアの身を案じ、エクスが叫ぶ。
「こうなったら……私が」
エクスは頭部に乗っているガレスに直接手を下す事を考えていた。
カナリアが出来ないなら、自ら汚れ役を買って出よう。
剣を握りエクスがそれを実行しようとした時、城壁の下の方から声が響いた。
「やめろー!」
「カナリア様をいじめるなー!」
小さな男の子が2人、冥鬼兵に向かって小石を投げつけていた。
「むぅ!?」
当然、効くはずもなく石は甲冑に弾かれる。
しかし、2人は諦めることなく足元の石を拾っては何度も投げつけていく。
この場に相応しくない乱入者にアスラが動きを止め、ギロリ――と子供を睨む。
まずい。
このままではこの子供たちが巻き込まれる。
カナリアは咄嗟に警告しようとした。
だが――。
「危ない!下がって――」
「危ないぞ!下がっていなさい!」
「……え?」
警告は双方から同時に発された。
言おうとした言葉と同じ言葉を言い放ったガレスに、カナリアは戸惑いを隠せない。
「うるさい!どっかいけー!」
「ぬうっ……!」
警告されても子供達は石を投げるのを止めない。
ガレスは歯噛みすると、大きく後退しカナリアから距離を取った。
「こ……子供を盾にするとは卑怯なっ!」
カナリアへ向かい侮蔑の言葉を吐くガレス。
だが、カナリアの中では彼への印象が大きく変わりつつあった。
一騎打ちを装い、騙し討ちする卑劣漢……先程までのガレスへの印象がそれだった。
だが、圧倒的優勢であったにも関わらず、子供を巻き込むまいと攻撃を中断した彼の姿にカナリアは微かな光を感じた。
「みんな!今のうちだよ!」
石を投げていた子供が城門の方に向かって叫ぶ。
すると頭の上に何かを掲げた大勢の子供と、それを追いかけるようにエルダが現れた。
「カナリア様!これ、受け取って!」
「これって……」
子供達が持ってきたのは、紐で編まれたブレスレットだった。
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