第04話5/5 少年マグニ
「願い石ですか?事情が事情ですし、構いませんよ」
翌日、正式に女王の許可を取り付けたエクスは、願い石の大結晶からこぶし大の物をいくつか採取した。
鹵獲した冥鬼兵とその他の残骸はカナリアの洞窟へ運び込まれ、ついに具体的な冥鬼兵の稼働計画が始まる事となった。
――
数日後――。
「この部分からバイパスすれば……いや、どうせなら直結した方が……」
横たわる冥鬼兵の前に置かれた机で、独り言を呟きながら作業するエクス。
そこに洞窟の入口から声が響く。
「うっわー!すっげぇ!」
「勝手に入っちゃダメだよマグニ」
「カナリア様に怒られても知らないわよ」
エクスが振り返ると、ツンツン髪の少年が目をキラキラさせて冥鬼兵を見上げていた。
その後ろには、2人の少女がいる。
この付近は無関係の人が立ち入れないように封鎖しているはずだが、忍び込んだのか?
身なりは……かなり良いほうだ。
ただの街の子供というわけではないようだ。
現に後ろにいる金髪の少女は、頭にティアラを着けている。
もしかして女王の親族、つまり王族なのだろうか。
「君達は?」
「あ!ワルキューレのお姉さん!」
エクスが声を掛けると、少年は駆け寄ってきた。
ワルキューレ?
エクスは以前、カナリアにも同じことを言われたのを思い出した。
「お姉さん!この巨人動くのか!?」
エクスが問い返す前に質問が来た。
「動けるようにあれこれ考えてるとこ」
「うおー!すっげぇ!俺も乗ってみたい!」
興奮した少年がドタドタとその場で足踏みする。
エクスは改めて先ほどの疑問を尋ねた。
「ねぇ君、さっき言ってたワルキューレっていうのは?」
「え?伝承に出てくる、エインヘリアルと一緒に戦う翼の生えた女の人だよ。……お姉さん違うの?」
「違う……とは言い切れないかな」
天界の者ではない点を除けば、少なくとも言われた条件は満たしている。
歯切れの悪い答えを返すエクスに少年は首を傾げた。
「それで君達は?」
「俺はマグニ。こっちが俺の姉ちゃん」
「スルーズです」
マグニに親指で指さされた黒髪の少女が名乗る。
「で、そっちが姫様」
「姫様?」
「アルティナ=イーザヴォールよ」
金髪の髪を靡かせ、少女が挨拶をする。
「ということは、女王様の……御息女?」
「えぇ。……あなたの名前を聞いていなかったわ」
「私はエクス。それで、姫様たちはどうしてここへ……?」
「マグニが見たいって聞かなかったのよ」
「だって見たいじゃん!こんなすごいの!」
マグニは両手を振ってその”すごさ”を表現した。
「これは敵の兵器なのよ!?」
「すごいもんはすごいじゃん!ねぇ、お姉さん!?」
「……そうだね。すごいよ」
エクスは冥鬼兵を操る仕組みに思いを馳せた。
自分が出会ったことのない技術体系。
骨と甲冑だけという大胆な構造と発想。
出来ることなら発案した人物に会ってみたい。
「ねぇ、お姉さん。今のうちに俺に目を掛けてた方がいいぜ」
「ん?」
エクスが思いを馳せている間に、マグニが近づいていた。
目を掛ける?
何故?
エクスが話を飲み込めないままマグニは宣言した。
「俺、いつかこの国の王様になるから!」
「……王様」
さらに突拍子もない発言にエクスはキョトンとした。
「まーた言ってる」
「だからそれは無理だってば」
スルーズとアルティナが呆れた顔でぼやく。
「なるってば!」
「無理!王様になるってことは王族にならないといけないのよ!まぁ……仮に私と結婚したら王族になれるけどアンタと結婚なんて絶対に無いわ!無理!」
「俺だってそんなやり方で王様になりたくないよ!」
「じゃあどうすんのよ。国でも乗っ取ろうっていうの?」
「こう……みんなを助けてだよ!」
「はぁ?ほんとガキなんだから……」
「なんだぁ!?」
マグニとアルティナの口喧嘩は止まる気配がない。
「はぁー……」
スルーズがため息をつく。
いつもの事という感じだ。
だが、騒がしい口喧嘩は次の一言で幕を閉じた。
「拾われっ子のくせに!」
「う……」
拾われっ子――。
その言葉を聞いたマグニは黙り、目には涙が浮かぶ。
「アルティナ、それ言わない約束でしょ?」
「あ……ごめん」
つい口が滑ったアルティナをスルーズが叱る。
うつむくマグニの顔を見て、エクスは彼らの複雑な関係を察した。
「はいはい、私が悪かったから機嫌直しなさいよ」
「……姫様のバーカ」
アルティナがマグニの頭を撫でるが、返ってきたのは反撃だった。
「なんですってぇ!?」
「はぁー……」
再び口喧嘩が始まり、スルーズもまた溜め息をついた。
「仲が良いねぇ」
「「よくない!」」
口喧嘩していた2人はエクスの呟きを息ぴったりに否定した。
「姫様?こちらにおられるのですか?」
「あ、お母さん」
スルーズが外からの声に振り向く。
洞窟に入ってきたのは、凛とした雰囲気をまとった黒髪の女性。
エクスが巨人の調査に行った時、女王の傍らにいた人だ。
「スルーズ。やっぱり3人一緒だったわね」
スルーズを見つけると、女性の表情がふわっと柔らかくなった。
「全くもう姫様を連れ出して」
「姫様が勝手に着いてきたんだよ」
「アンタが巨人を見たいって聞かないからでしょ」
「エクスさん。子供達がご迷惑を……」
まだ張り合っているマグニとアルティナを背中に女性が頭を下げる。
「いえいえ、気晴らしになりましたから……えっと」
「女王親衛隊長、カーラ=リヴスラシルと申します」
名乗ると同時に、カーラの表情が洞窟に入ってきた時のキッとしたものに戻った。
「なぁエクスさん!あの巨人が動いたら俺も乗せてくれよ!」
「マグニ!わがままを言って困らせるんじゃありません!」
「なぁ頼むよ!俺もお姉さんやカナリア様と一緒に戦いたいんだよ!」
「戯言を言うのもいい加減にしなさい!」
「俺は本気だって!」
なかなか食い下がらないマグニ。
エクスも子供の戯言と思いつつ、彼が何故ここまで冥鬼兵で戦うことにこだわるのか。
その理由が気になり始めていた。
だが、それを聞く前に……。
「敵襲ー!」
打ち鳴らされる鐘の音と、必死の叫びが耳に届いた。
「敵!?」
一同が洞窟を出ると、頭上をカナリアが飛んでいく。
敵を見つけたのだ。
「アルティナ様、2人と一緒に洞窟の中へ避難してください。あそこなら安全です!」
そう言いつつ、エクスも変身しカナリアの後を追う。
「母さん!」
「2人とも、アルティナ様をお願いね」
子供2人の肩を抱いた後、カーラは女王を護衛するため城へ走っていった。
「あいつか!」
カナリアが上空から襲撃者を捉える。
王国の正面にこれまでより巨大な冥鬼兵が1体、仁王立ちで待ち構えていた。
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