第04話4/5 創造の力
エクスが森から帰ると、すぐにカナリアが飛んできた。
「エクス!どこ行ってたんだよ?姿が見えないから心配したぞ」
カナリアに伝えず森へ行ったことを思い出し、エクスは森での事を話した。
「魔術かぁ、昔は俺も使えたんだけどなー」
「え、そうなのかい!?」
「仲の良いエインヘリアルがいてさ。誰でも簡単に魔術が使えるようになる指輪をくれたんだよ」
「その指輪……もう無いのかい?」
「目覚めたら無くなってた。最期の戦いの時、力を出しすぎて壊れたんだろうな」
「それがあれば、私もシルヴィさんみたいに魔術が使えるのかな……」
エクスが流れる雲を眺めながらそんなことを考えている時──。
ピコン。
「ん?」
スキルアンロック:物質創造Lv1。
スキルアンロック:物質変換Lv1。
エクスのARビジョンに能力解放の文字が表示された。
「やったぁ!」
待ち望んでいた能力の解放に思わずエクスが飛び起きる。
「ど、どうした!?」
「見てて!」
エクスはさっそく物質創造を試す。
彼女がイメージすると掌から青い結晶が生え、やがて弾けた。
「なにそれ?……てか、今なにしたの?」
カナリアはエクスの掌の上に現れた、小さな白い粒を凝視する。
「耳を出して!」
「え?」
「はやく!」
「……ここ」
言われるがままカナリアが自身の耳を指し示すと、エクスは彼の耳の内側に先ほど造り出した物をくっつけた。
接着ジェルと微細な針が刺さり、カナリアの肌に固定される。
「これでよし!」
「え、何したの?」
「そこにいて!」
そう言うとエクスはカナリアからどんどん離れていった。
何をされているのか分からず戸惑うカナリアの耳元に声が聞こえてくる。
『あー、聞こえる?』
「え?エクス?」
左から聞こえた声に振り向くが誰もいない。
そもそもエクスはあそこにいる。
『よし、繋がってるね』
「なんで、耳元でお前の声が聞こえるんだよ?」
『さっき君に通信機を取り付けたんだ。これで距離に関係なくいつでも連絡を取れるよ』
「さっきのあれが……?」
『君の思念を読み取るから連絡したい時はそう念じてくれ。音量は君が不快にならないように自動で調整されるはずだ』
「お、おう……。すごいなお前、こんなの持ってるなんて」
『持ってたんじゃない。今さっき作ったんだ』
「作った?」
カナリアは先ほどの光景を思い返す。
何も無いエクスの掌に青い結晶が生え、弾けると後にはこの通信機が残った。
『思い描いた物体を生み出す。私の能力の1つだ。もっとも、今はほんの小さな物しか作れないけどね』
「物を生み出す……?なんだ、魔術使えるじゃん」
『これは魔術じゃないよ』
「魔術みたいなもんだって」
『……カナリア』
「ん?」
愛想笑いをしていたエクスが突然改まった口調になる。
『君が帝国にいた時の記憶を改めて精査したが、やはりおかしい。明らかに不自然なタイミングで君は暴れ始めた』
「……あぁ、俺にもどうしてだか」
『これはあくまで可能性の話だが、君は精神に外部からの干渉を受けたんじゃないだろうか?』
「なん……だって?」
『君があの場で暴れるよう、何者かが君の心を操った』
「いったい誰が!?……どうやって!?」
『魔術なら可能かもしれない』
「魔術!?」
『遠隔で他者の精神に干渉するなんて技術がこの世界に存在するのかと思ってたけど、シルヴィさんの魔術を見たらありえない話じゃないと思った』
「いや……確かにそういう類の魔術はあった」
現にカナリアをエインヘリアルにした女神フレイヤは魂を操る魔術を扱えた。
『そういった魔術を扱える者が帝国にいるとすれば、全ての辻褄が合う』
「……仮にそれが本当だとして、どうして俺にあんなことを?」
『君と皇帝との交渉を決裂させ、この戦争を続けるため……だろうね』
エクスの仮説を聞いて、カナリアは考えを巡らせた。
いったい誰が……皇帝か?
いや、あの娘は自分が暴れ出したことに心底驚いていた。
演技には思えない。
なら誰が……。
カナリアの脳裏に仮面を着けた男の姿が浮かぶ。
(まさか……)
『あくまで状況からの推察だ。君の心が少しは楽になるかと思ってね』
「……ありがとう。悪いな、気を使わせて」
『じゃあ私はやることがあるから、見張りよろしくね』
「おう、任せろ」
エクスはそのまま必要な資材の調達に街へ向かった。
夕刻――。
エクスが家に帰ると、玄関先で同じく教会から帰ってきたエルダと鉢合わせした。
「あ、おかえりエルダ」
「おかえりエクスさん。お願いされたやつ、材料は集まったから明日からみんなと作るよ」
「ありがとう。ごめんねいきなりお願いして……ん?エルダ、それは?」
エクスが気になったのはエルダが身に着けているネックレス。
そこに付いている宝石だ。
「これ?願い石だよ。教会に行くときは付けてるの」
「願い石?」
「持っているとカナリア様のご加護が得られて、願いが叶うっていう神聖な石。この国の人はみんな持ってるよ」
エルダが願い石と呼ぶ明るい水色をした宝石。
エクスにはその輝きに見覚えがあった。
「ほら、山に翼が生えてるでしょ?あれ、全部願い石。カナリア様がこの国を守ったときに出来たものなんだって」
エルダは王城を挟んで左右に翼のように広がる大結晶を指差した。
「ちょっと見せてもらっていい?」
エクスはネックレスの願い石を手に取り解析する。
硬度、比重、屈折率、そして構成元素。
その全てが合致する。
(もしかしたらこれは……)
この物質こそ自分が探している物かもしれない。
確信を得るためエクスは石にエネルギーを流し込む。
「え、なにこれ……光ってる?」
エクスに摘まれた願い石から淡い光が発せられる。
「間違いない……これはコズミウムだ!」
「コズ……何?」
「エルダ、ありがとう!ちょっと出かけてくる!」
「ちょ、ちょっと!帰ってきたばかりなのにどこ行くのー!?」
求めていた物の発見に居ても立ってもいられなくなったエクスは、山の大結晶目指して飛び上がった。
切り立った岩肌に巨大な結晶が並ぶように生えている。
翼のように広がった結晶は、カナリアの石像があった場所を起点に広がったような形になってる。
結晶の一部は滝に曝され、その水が王国に流れ込み、飲み水や生活用水となっている。
「すごい……。本当に全部コズミウムだ」
コズミウム。
それは次元や空間そのものを創造する原初の物質。
小石ほどの大きさで巨大な兵器を駆動させ、歩行、飛行、果ては重力・慣性制御までさせられるほどのパワーを秘めている。
コズミウムは無から有を生み出す変換機構であり、その身体にコズミウムを組み込んだ存在は世界そのものからエネルギーを得ることができる。
エクスが荒野を何日も歩いても餓死しなかったのも、冥鬼兵に殴り飛ばされても生存できたのも、その装備のあれこれまで全てこのコズミウムの恩恵によるものだ。
さらに、こうして結晶化したものは高度な演算処理システムとしての機能を付与できる。
「これなら……なんとかなる!」
フレームの骨、駆動機関の筋肉樹、動力と演算装置のコズミウム。
これで全てが揃った。
「なにやってるんだ?」
エクスが欠片を1つ切り分けるとカナリアが声をかけてきた。
「カナリア!君はまたこの国を救ったよ!」
「え?」
「それじゃあ私は急いでやることがあるから!」
「お、おい。何のことか説明しろ!」
カナリアを置き去りにして、エクスは家に戻っていった。
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