第03話1/4 動揺
「ひっ……ひっ……」
荒い呼吸。
恐怖に引き攣った瞳が、突き付けられた剣先を凝視する。
「今すぐ操縦を止め、両手を上げろ。従えば命は取らない」
エクスに投降を促された兵士は抵抗しても無駄だと悟ったのか、それとも己の命が保証された安堵か、ゆっくりと両手を上げた。
「手を前に出して」
「こ、こうか……?」
兵士が恐る恐る指示に従うと、エクスは剣を拳銃のような形へ素早く変形させ、トリガーを引く。
すると銃口から光る縄のようなものが発射され、兵士の両腕を一瞬にして拘束した。
「出てくるんだ」
エクスが操縦席から兵士を出そうとしたその時――。
ブゥゥン……と音が鳴り、巨人の頭飾りや甲冑の文字が消失する。
すると巨人は糸が切れたように脱力し、ぐらりと倒れ始めた。
「うわっ!?」
エクスは咄嗟に兵士の身体を抱え、空中へ脱出する。
「うおっ!?」
ズシャっと、巨人はそのままカナリアへと倒れ込んだ。
カナリアの眼前に兵士が乗っていた操縦席が晒される。
「ひっ、ヒィィィ!」
「あっ、こら!暴れるな!」
エクスに抱えられた兵士が宙に浮いている事に驚き、手足を振り回す。
「カナリア!私はこの人を城まで運ぶ!君はその巨人を持って帰ってきてくれ!」
「……」
カナリアはエクスの呼び掛けに答えず、巨人の操縦席を見つめている。
「カナリア。……カナリア!」
「あ、あぁ……」
エクスが強く呼び掛けると、ようやくカナリアは声に気づいた。
「今は、敵が誰なのか聞き出すことに集中しよう」
「……あぁ」
機能停止した巨人を抱え、沈鬱な様子でカナリアはエクスの後を追う。
エクスは彼の動揺を見抜いていた。
巨人に人が乗っていた。
敵は巨人ではなく、人間だった。
衝撃の事実ではあるが、だとしても彼の落ち込み方は普通じゃない。
(カナリア……君はもしかして……)
頭にある疑問が浮かぶ。
だが、それは今この場で問うべきではない。
疑問を抑え込み、巨人と捕虜を城へと移送する。
ともかく、これで完全な形の巨人が手に入った。
この巨人を解析すれば、こちらの戦力として使う事ができるかもしれない。
――
「お前はどこの者だ!なぜ巨人でこの国を襲う!?」
城に着くとすぐに捕虜への尋問が始まった。
兵士達が集まり次々と捕虜を問い詰めるが、彼は口を割らない。
着ている軍服を調べても所属を示すようなものは見当たらない。
だが、上着を脱がせていくとペンダントを着用していた。
「この紋章は?誰か知ってるか?」
「いや……見たことねえな」
「俺も知らない」
兵士達には心当たりが無いようだ。
「お、おい!それ見せてくれ!」
だが、1人の兵士が声を荒らげた。
人をかき分け出てきたその兵士はペンダントを手に取り、捕虜に尋ねた。
「お前、ナグルファーの者か?」
「……!」
ナグルファー。
その言葉に捕虜がわずかに反応を見せた。
「そのナグルファーというのは……」
「ここからずっと北にある。深い森に囲まれた国だ。俺の……故郷でもある」
そう言うと兵士は捕虜と同じ形のペンダントを見せた。
捕虜もそれを見て驚いている。
しかし、兵士の出したそれは酷く古びていて、造形も捕虜のと比べるとゆるい。
「もう何十年も前の話だ。川で溺れた俺は、ナグルファーから流されてこの国に拾われた。子供だったからな。戻る術もなくこの国で育った。だから今、あの国がどうなってるかは俺も知らねえ。知らねえが……そうか、巨人様を動かしたのか」
「巨人様?」
「ナグルファーにはいくつも巨人の像があって、守り神様と同じように祀られていたのを覚えてる」
となると、やはり彼らの駆る巨人は人によって造られたもの。
先程の巨人は操縦者が投降の意志を示すと、脱力し倒れた。
あの兵士が動力を切ったようには見えなかった。
遠隔操作で動力を切れるということか……?
「……北だな」
情報を整理しているエクスの頭上から、呟くような声が聞こえた。
彼女が振り返ると突風が身体を叩き、カナリアは空へと舞い上がっていた。
「カナリア!?」
カナリアが凄まじい速度で北の空へ飛んでいく。
まずい。
さっき彼は巨人に人が乗っているのを見て明らかに動揺していた。
もし、自分の感じた疑問が的中していたとしたら……。
平常心を失った状態で敵地へ行かせるのは非常に危険だ。
エクスはすぐに追いかけようとしたが……。
「くっ……」
装備のエネルギーが尽きてしまい、どうすることも出来なかった。
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完結できるように頑張ります。
鬱展開は3話内で終わります。
ご容赦ください。