第02話5/5 巨人の正体
衝撃と爆煙が2人を包む。
「大丈夫か!?」
「げほっ、げほっ……大丈夫!」
煙から飛び出たカナリアとエクスは互いの無事を確認する。
「今のはどこから……」
「あそこだ!」
王国の前を横切るように流れる大河。
その上流に巨人の姿を発見する。
数は5体。
内3体は大砲を構え、こちらを狙っている。
「現れやがったな!」
カナリアは巨人を見るなり突撃していく。
「カナリアっ!」
エクスも後を追うが、損傷した装備では速度が出ずあっという間に引き離される。
巨人が大砲を放ち、カナリアはそれをひらりとかわし距離を詰めていく。
「どいつもこいつも、頭に変な飾り付けやがって!」
昔の巨人はあんなもの付けていなかった。
今の巨人の流行なのか?
と、見れば中央の巨人だけ他とは違い、偉そうな装飾が付いた甲冑を纏っている。
あれが巨人達のリーダーだろう。
カナリアは速度を上げ、低空から川に沿って突っ込んでいく。
しかし突然、左右の森から飛び出した何かがカナリアの両足に絡みついた。
「なにっ」
それは青紫色のエネルギーで出来た鎖だった。
鎖に引きずられように2体の巨人が姿を現し、カナリアを止めようと踏ん張る。
カナリアの速度が落ちたところでさらに2体の巨人が現れ、両腕に鎖を巻きつけた。
「くっ……離せっ!」
4体の巨人に拘束されたカナリアは水面に引きずり降ろされ、拘束を解こうともがく。
(なら……)
動きを悟られないよう、飾り羽根の先端をゆっくりと巨人の頭部へと向けていく。
これで奴らの隙を突き、拘束を外せばいい。
だがその作戦を実行するより早く、動きを止めたカナリアへ砲撃が放たれた。
「くっ……」
迫る2つの砲弾。
「カナリア!飛ぶんだ!」
「はっ……!」
エクスの呼びかけにカナリアは大きく翼を広げ、空へ舞い上げる。
同時に四肢を拘束していた4体の巨人も、鎖にぶら下がる形で宙へと浮いた。
「よしっ!」
予測が的中し、エクスはガッツポーズする。
巨人が骨と甲冑だけで構成されているなら相当軽いはずだ。
地面に踏ん張ることは出来ても、上方向への抵抗力はない。
カナリアの両脚を拘束していた2体の巨人は振り子のようにぶつかり合う。
そこに砲弾が炸裂し2体は粉々に砕け散った。
脚が自由になったカナリアへ、遅れて装填を終えた巨人が砲撃を加える。
「おおりゃああ!」
カナリアは渾身の力をもって右手の鎖を振り回し、鎖の先にいる巨人を迫る砲弾へぶつけて爆発させる。
続けざまに左腕も振り回すと遠心力に耐えられなくなった鎖が千切れ、投げ飛ばされた巨人は爆煙を突き抜けてそのままリーダーに直撃。
双方は派手に粉砕された。
巨人達が驚いている隙を突き、爆煙に穴を開けカナリアが水面ギリギリで急接近する。
それを抑えようと大砲持ちの左右に控えていた巨人2体が立ちふさがり、大きな盾を構えた。
しかし、カナリアは速度を落とすことなく2体の眼前まで迫り、強く水面を蹴った。
大きな爪が、そう深くはない川の底を強く踏みしめ、カナリアは2体の巨人の頭上を宙返りして飛び越えた。
水飛沫が高く弧を描いて舞い散る。
巨人が振り返ると、その眼前にはカナリアの飾り羽根の先端が、まるで始めからそこにあったかのように撃ち出されていた。
手にした盾を構え直す間もなく、2体の顔面に先端が突き刺さった。
カナリアは回転したまま、そのままの勢いで大砲を構えた巨人を袈裟斬りに両断する。
瞬時に3体の巨人を屠り、最後に残った1体へカナリアは切っ先を突きつける。
その時だった──。
「ひ、ひぃぃいいい!ま、待ってくれ!命だけは、命だけは助けてくれ!」
巨人が悲鳴と共に持っていた大砲を落とし、両手を上げる。
そして、その頭部が花のように開いた……。
「……なっ!?」
中に居たのは――人間だ。
巨人の頭部の中は座席、レバー、様々な計器が並んでいる。
軍人らしき身なりの男はカナリアへ向け、必死に命乞いを繰り返す。
「人間……!?」
巨人を操っていたのは人間だった。
その事実にカナリアはひどく戸惑う。
なんでだ。
どうして巨人から人間が出てくる。
ありえないことだ。
だけど、思い返せば小さな違和感はいくつもあった。
光る頭飾りと甲冑に浮かぶ得体の知れない文字、見たことのない爆発する武器、斬りつけた時の妙な手応えの軽さ、斬っても流れない血……。
カナリアの背後でガコンと音が鳴り、振り向くと先ほど袈裟斬りに両断した巨人の頭部からも兵士が脱出し、森へ消えていった。
(なら、自分が今まで戦っていたのは……)
「ぅ……うがあああああ!」
呆然とするカナリアが叫び声に振り返ると、先程の巨人が頭部を開いたまま斧で襲いかかってきた。
「おわっ!?」
「があああああ!」
カナリアは振り下ろされる巨人の腕を掴み、抑え込む。
揉み合いの中、乗っている兵士の顔がまじまじと見える。
その表情から伺えるのは怒りや憎しみではなく、恐怖。
相手を殺さなければ自分が殺される――。
8体の巨人をあっという間に撃破したカナリアへの恐怖が兵士を突き動かしていた。
「やめろ!やめてくれ!」
「どうしたんだカナリア!?」
先程までとは打って変わって、防戦一方になっているカナリアにエクスは困惑する。
カナリアの動揺はエクスが思う以上に深刻だった。
自分は人間を守るために巨人と戦っていたはず。
だけど、本当は人間と戦っていた……?
なら、今まで倒した巨人には全部人間が……?
(あっ……)
カナリアの視界にこの戦闘で自らが"討ち倒してきた"巨人達の残骸が写る。
砲撃を受け、焼け焦げた残骸。
ぶつけられ、砕けた残骸。
飾り羽根の先で刺し貫いた残骸。
カナリアは息を詰まらせた。
自分は……この手で人間を……?
目眩にも見た感覚が襲い、足を滑らせ倒れる。
「わあああああああああ!」
倒れたカナリアへ巨人が斧を振り上げる。
「くっ……」
咄嗟に腕で頭を庇う。
「動くな!」
だが、その一言で巨人はピタリと動きを止めた。
カナリアが腕をどけると、エクスが操縦席に剣を突き付けていた。
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完結できるように頑張ります。
3話は少し鬱要素が入ります。
ご了承ください。