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第7話 一時の休み

「…あった。」


ガサゴソとキッチンの下に収納されていた缶詰めを何個か取り出す。


そして、そのまま持っていた小バッグに詰め込んだ。


この家にまだ食い物が残っていてよかった。

なかったら少し離れた場所まで行かないとダメだっただろうしな。


そうなると神奈と行動を共にしないといけなくなるから時間がかかる。


全く持って大変だ。


だから今回ここに食い物があって正直助かった。


「…にしても…なんなんだろうなぁ…。なんだか、こんな似たようなことが前にもあったような、なかったような…。」


頭をボリボリと掻きながらその場で立ち上がる。


最近、神奈と出会ってからよくこういうことが起こる。


前にも同じようなことがあったような気がして、どこか懐かしく感じることがよくあるのだ。


そして、酷い時には夢を見た。


さっき神奈が寝てる間に俺も小屋の中で仮眠をとっていた。


その時も夢を見た。


仮眠をとっていた時見たもので言えば、夢の中で男がある少女2人と山の中の小屋で過ごしていた。


過ごしていたと言うよりは、多分あれは山の中で遭難して仕方なく近くの小屋に入ったのだろう。


その証拠に少女2人は泣きながら、お母さん、お父さんって言ってたし。


そしてその中で唯一泣かずにその少女2人を慰めていた男。


そいつは少し少女2人を落ち着かせたかと思えば、立ち上がって食料を調達してくると言って小屋を出ていこうとした。


勿論、それを少女達は止めたが「大丈夫だ、すぐ戻る。」と言って男は出ていったのだ。


そして、男が出ていったあと戻ってくるまでビクビクとしながら身を寄せあって待っていた少女達ふたりの元にあるものが押し寄せた。


野生の熊である。


熊はドアを破ってきたのである。


もちろん予想外の出来事だった。


普通に考えてドアを破ってくるなんて考えもしないだろう。


野生の熊がだ。


その予想外に2人は反応できなかった。


熊はゆっくりと少女2人に近づいていく。


少女2人はそれに合わせて後ろに下がっていくが、しばらくして壁に背中が着いた。


少女2人はもう声すら出ていなかった。


絶望しきっていた。


そうして熊はそんな少女2人をしばらく見たあとぐわっと立ち上がって、襲いかかろうとした。


だが、その時。


小屋の壁がすごい轟音と共に破壊されたかと思えば、先程出ていったはずの男が熊のことを蹴り飛ばしていた。


おそらくあの男の能力は身体強化系の能力だったのだろう。


その身体強化を乗せた全力の蹴りに野生の熊ごときが耐えられる訳もなく、その後すぐに絶命した。


よくも間に合ったものだ。


そのあとは、少女2人が男に泣きついてまた男は慰めることになった。


と、丁度その時小屋の外の方から女と男の声がした。


聞けば、その少女2人と男?の名前らしきものだったらしい。


3人の子供の顔を見ればわかる。


そこで夢は終わりを迎えた。


こんな感じで最近わけの分からない夢を見る。


その度に気分が悪くなった。


本当になんなんだろうな…これは…。


そんなことを考えながら小屋に戻ろうと後ろを振り返った瞬間に外からバキャアン!という何かが破壊される音が聞こえた。


「…!。なんの音だ?……まさか…っ!」


なにかに気づいた俺は、ダッと直ぐにその場を走り出すのだった。



「お、なんだこんなとこに女いるじゃねぇか。しかも…中々上玉。」


「ラッキー。ひとりじゃ物足りなかったんだよなぁ、丁度。2人いりゃ、待たなくていいし。」


…なんなんだ、こいつら。


さっき色々考え事をしていて、気づいた時にはこいつらが小屋のドアを開いていて…。


考えていても仕方ないか…。


「…なんなのかな、あなた達。何が目的?」


「おぉ、おぉ。いい目してんじゃん。中々肝の座ったやつ。でもその目も直ぐに恐怖で染まるんだろうなぁ。」


言いながら右側の男が担いでいたものを投げてくる。


ドサッと言う音をだして、私の前に投げられたものは、全身痣だらけの少女であった。


「なっ…。」


「そういや、目的とか聞いたか?別に大したことじゃぁねぇよ。ただ、俺らを慰めて欲しくて、な。」


ニタァッという音が似合いそうな笑いを向けてくる男。


その顔にゾワッと寒気がする。


このままじゃまずい…。


そう思った私は持っていた鉄スコップを振り上げる。


「…っ!うぁぁああ!!」


そして、それを思い切り男の頭に叩き込もうとした瞬間に、スコップは粉々に砕け散った。


「ぇぁ…」


「ぶっはははは!おい、こいつまじかよ。まじでスコップなんかで俺らのこと殺せると思ったのか?」


「ちょっと馬鹿すぎると思うなぁ、俺も!」


左側にいた男がそのまま、私のことを殴り飛ばす。


「黙ってればいいんだよ、お前は。どうせ、何もせずに朽ちてく体なんだ。その体を俺らが朽ちる前に美味しくいただいてやるってんだから感謝してもらわんとな。」


「お前も容赦ねぇなぁ。もうちょっと優しくしてやればいいのに。」


カチャカチャという音が、静かになった空間に響く。


あぁ…やっぱダメだ。


私じゃ無理だ。


能力もろくに戦えないもの。


ただ心を読むだけ。


もう2つの能力もまるで発動できないし、そもそもなんの能力かも分からない。


だからせめて、武器を持てばと思ったけどこのザマだ。


その武器を壊されて、何も出来なくなった。

結局のところ…この世界は能力が全てなんだ。


能力の外れを引いた私に無事に生きれる場所なんてないんだ。


なんて、理不尽な世界なんだろう。


神様はなんで私をこんな世界に生まれさせたんだろう。


あぁ…全てが嫌になる。


何もかも、全てが。


もうこのまま死んでしまおうか…。


でも、それだと…いや…私じゃ探せないか。


こんな私じゃ生きていくのも難しい世界なんだから。


…ごめんね、お姉ちゃん…私じゃ無理だったよ…。


「さて…それじゃお前どっちにする?」


「んー…さっき殴ったそこの女にしようかな。俺好みだし。」


「あそ。じゃ、俺はこっちの女にするわ。」


足音が近づいてくる。


これが私の最後か。


嫌だなぁ…。


まだ、やっぱ死にたくないなぁ…。


まだ生きていたかった…なぁ…。


どんどんと足音が近づいてくる。


その度に私の死への恐怖がどんどんと増えていく。


まだ生きたいという気持ちが強くなっていく。


もしも……もしも……今願いが叶うなら…


「…たす、けて…」


そう小さな声で呟いた、その時だった。


「ぎぃやぁぁぁあ?!」


そんな悲鳴が響き渡る。


そうしてその次には底冷えするような低い声が発せられる。


「…何やってんだ…こら…。」


声のした方にゆっくりと顔をあげれば、そこには最近よく見た男が立っていた。


「カヲル…君…。」


「お、おま…何者…。」


私に迫ってきた男がカヲル君の存在に気づいて後ずさっている。


それを気にせずに、カヲル君は頭を鷲掴みにしている男に視線を落とす。


「……なるほどな…。やりたいことは分かった。……が、俺が連れ添ってるやつにそれをやろうとするとはいい度胸だな。悪い子には、お仕置しないとなぁ?」


「な、何するつもり…」


ニヤッと口角をあげたかと思えば、もう片方の手に先程先端の部分を砕かれたスコップの棒を握っていた。


「死ぬより恐ろしい目に…合わせてやるよ。」


「へ…だから…何やるつも……あがぁぁあっ!?」


ドがんと言う音と共になにか出てはいけないような音がした。


カヲル君はそのまま何かをすり潰すように、グリグリと棒を回す。


鷲掴みにされていた男は口から泡を吹きながら気絶している。


「…情けねぇなぁ。」


そう吐き捨て棒を上げ、そのまま私に迫ってきていた男を見る。


「さて…お前の貧相なそれもすり潰してやるよ。どうせ、使えねぇんだ。あったって意味ないだろう?」


「ひっ…ち、近づいてくるな!!やめろ!!」


男は股を両手で抑えながら青ざめる。


「おい、逃げんな逃げんな。面倒だから早くこっち来いよ。」


「っ!だ、だまれぇ!」


男は能力をカヲル君に発動する。


…が、それは軽々と避けられた。


「なるほどな。冷気を操る能力か。普通のやつなら氷漬けにされて殺されるんだろう。…だが、俺からしたらそんなもの避けてしまえばいい、それだけだ。」


地面が大きな音を立ててヒビが入ったかと思えば、一気にカヲル君は男との距離を詰めていた。


そのまま男の首を掴み、床に思い切り叩きつける。


「…お前らは手を出してはならないものに手を出そうと…いや手を出したんだ。ただで済むと思ったら、大間違いなんだよ。」


「かハッ…ヒュ…」


「でも、俺らもそんなにお前らに構っていられるほどの時間はない。だから、これだけで済ませてやるって言っているんだ。感謝しろよ?」


首から手を離して、立ち上がる。


そして、そのまま足で体を踏みつけた。


瞬間にまたニヤリと口角を上げる。


「そんじゃぁ………たーまやー!」


ボギャン!


カヲル君の振り下ろした棒は見事に男の股を突き刺した。


と、同時に棒が折れた。


そのぐらいの力で男の股を本気で潰しにかかったらしい。


もちろんのこと、何をとは言わないが、潰された張本人は先の男と同様に泡を吹いて失神してしまっている。


…なんというか、私に危害を加えて来ようとした相手でも少しばかり同情してしまいそうになる。


やりあった相手が悪すぎた。


ドンマイです。


と、そんなことを考えていると、いつの間にか隣に来てしゃがみこんでいたカヲル君と目が合った。


「はぁ…こりゃ酷いな…。かなりの力で殴られてるか。」


「いてて…ごめんね…。私何も出来なかったや…。結局また助けられたね。」


「…。」


すると、べシッと頭をはたかれる。


絶妙に加減をされていて少し頭がヒリヒリする程度だが、いきなりのことで混乱してしまう。


「気持ちわりぃ。なんでそんな申し訳なさそうにお前がし始めるんだ?今の今までそんな姿見せたこともなかったくせに。調子が狂うったらありゃしない。」


「なっ…!」


カヲル君の物言いに叩かれた部分を抑えながら口をパクパクさせてしまう。


たしかに、今の今までそんな姿見せたこともなかったくせにの部分は認めよう。


今まで見せたことがなかったのは事実だし。

でも…でもだよ…?


気持ち悪いとか調子が狂うとかは言い過ぎだと思うんだよね?


だってこっちは申し訳なくなったからこそ謝ったのに、それを気持ち悪いとかって…。


私だってそこのところは、ちゃんとしてるはずなのに…!


「ぅ、ぅぅぅ〜っ!!」


泣きそうになりながら、キッ!とカヲル君を精一杯睨む。


が、そんな私を見てもカヲル君は澄まし顔でこちらを見てきた。


ムッさ腹立つ。


むっっっさ腹立つ!!


「いいもん!わかったよ!ふんっ!」


ぷいっとそっぽを向く。


もうこんな人に申し訳ないなんて絶対に思うもんか。


絶対、絶対絶対ぜーったいにそんなことはもう思ったりはしてやらない。


そうして、困ったような顔をして私のことを見ているカヲル君を無視して、誓うのであった。



「…にしても、誰だぁ?この女。」


神奈が謎に怒り始め、それを適当にあしらいながら、治癒の能力で怪我した部分を回復しながらそんなことを口にする。


俺の目の先には痣だらけで、今までどんな環境にいたかよく分かる女が倒れている。


恐らくというか、絶対にこの大切なものを失った(俺の手によって)が持ってきたやつなんだろうが…全くだ。


面倒な匂いがぷんぷんしやがる。


「私にもよく分からないけど…多分その痣とかは全部こいつらにやられたものだと思う。」


「まぁ、だろうな。もしこいつらじゃないとしたら、犯罪集団の奴ら共だろうがな。…ただ、どちらにしろ面倒そうなのは変わらんな。放っておこう。生憎と俺らには目に入った可哀想な奴らをいちいち助けてやってられるほど余裕はない。」


言いながら、先程拝借してきた缶詰めを神奈に投げ渡す。


「食え。食ったらここを経つぞ。」


「……この子はどうするの?」


「もちろん放っておく。俺らが助ける理由もギリもねぇ。さっきも言ったが、俺らにはそんな余裕は少しもないんだ。お前も今までの戦いとかでわかっているだろう?」


絶命会もそうだが…警察にも目をつけられた。


あれだけ派手にやっちまえば、俺の事ももう知られただろう。


この世界の警察は俺が知る中じゃかなり優秀だしな。


本当に中々七面倒臭いことになったよ。


と、頭を抱え込みたくなるようなことを考えていると神奈が意を決したような顔をして、俺にこう提案してきた。


「……カヲル君。その子も助けてあげよう。」


「はぁ?お前、何言ってんだ?さっき言ったこと、もう忘れ…。」


「忘れてないよ、ちゃんと覚えてる。その上でこの提案をしてるんだよ。」


「ほう?それは何か理由があっての提案か?それとも、ただお前が助けたい、それだけか?」


「ううん、前者だよ。多分、この子は私たちの役に立ってくれる。私の予想でしかないんだけどね、これ。」


そう言って、神奈は俺にあるものを渡してきた。


「…写真か?これで何がわかるって言うんだ。」


写真には横に倒れている女らしき人物とその隣に男の子が笑顔でピースをしている。


これから何を予想するっていうんだ?


「よく見てみなよ。この写真を見ればわかると思うけど、この男の子はこの子とかなり親しそうに見えるでしょ?」


「あぁ、そうだな。…で、だからお前はこう言いたいんだな?この男がいないということは、もしかするとこいつも絶命会の被害者なのかもしれない…なんてくだらない想像話を。」


「…うん。その通りだよ。」


真っ直ぐに俺の方を見てそう言い切る神奈。


その反応に対して、俺は盛大に溜息をつくしか無かった。


多分こいつにもう何を言っても聞く耳は持たないだろう。


見捨てると言ってもこいつはこの女を見捨てないだろうしな。


本当に頭が痛くなる。


「仕方ない…。今回限りだ。それ以外は全て切り捨てる。いいな?」


そう聞くと深く頷きを返してくる神奈。


本当に守る気があるのかねぇ…と心底信用していない顔を思い切り向ける。


まぁどちらにせよ、俺の一存で助けるか助けないかなんて決められるしいいか。


いざとなれば、こいつも抱えればいいだけなんだからな。


そう考えながら、俺は倒れている女に治癒の能力を使用した後声をかけた。


「おい、女。起きろ。」


ゆっさゆっさと揺する。


すると、少し呻き声を上げながら、もぞりと女が動き出した。


「…ん…ここは……?」


ゆっくりと上体を起こしながら、当たりをキョロキョロと見回す。


まだ完全には回復しきってないのか、その声は少し弱々しい小さい。


「…ここは物置小屋だ。誰の家の小屋かは知らんがな。」


突然、横から俺の声がしたせいか目の前にいた女はビクッ!と身体を震わせる。


そして、次の瞬間にはズルズルと体を引き摺って距離を取ってきた。


「だれ…。私を…どうする気…?」


「チッ、面倒だな…。別にお前をどうする気もねぇよ。ただ、お前が知ってる情報が欲しいだけだ。それ以外はなんならどうでもいい。俺の問う質問に答えてくれ。そのあとは好きにどこへでも行けばいい。生憎と俺はお前にそれ以外の価値を見出してねぇからな。」


ヤンキー座りをしながら、そいつに少しプレッシャーをかけ、目を細めて見る。


下手なことをされても困るしな。


「さて…まずは1つ目の質問だ。ちなみに嘘はつかないことだ。嘘をついた瞬間にてめぇの首が飛ぶと思え。お前は何者だ。絶命会の人間か?」


「ぜつ、めいかい…?」


女は少し首を横に傾げながら呟く。


そうして少し。


女の顔がみるみる青ざめていった。


「そうだ…確か…菊人が、絶命会に入るって言って、それで……。ねぇ、あなた。私の弟を知らない…?!私よりも背が低くて、口の悪い男の子!」


俺の肩を掴んで、すごい勢いで質問をしてくる。


…絶命会、ねぇ。


てことはそいつも絶命会の構成員になったということか。


よくもあんなくだらん連中のところに自分から入ろうと思うな全く。


正直、俺にはわからん。


そう思っていたところ、次の女の言葉で驚く。


「橋本冬樹とかいうやつと一緒に行動していなかった?!」


「なんだと…?」


橋本冬樹と一緒に行動?


そのガキが?


だとしたら、それはあの男…田中と同じくらいの立ち位置にそのガキがいるということになるのか?


これは絶命会の構成員なんかとはまるで違う。


レベルも何もかもが、やつと同じくらいということになる。


「だとしたら、随分とだるいことだな。」


もしもそいつと早退することになったら、次こそはしぬかもしれない。


田中との戦いはある意味で運が良かったと言える。


相性もそうだが、何よりもやつがあまり頭が良くなかったという点だ。


だが、その菊人というやつはあの橋本冬樹の隣にたっているようなやつということになる。


だとすると、あの男なんかよりも利口で、そして強いということになる。


「……もうその弟は帰ってこないと思った方がいいだろうな。」


「…ぇ?」


「橋本冬樹っていうのは、絶命会の創造者であり、頭だ。その隣に入れるようなやつなら実力もそれなりであろうし、何よりも操られてなんかいないことになる。そう考えると、その菊人とかいう奴は自分の意思でそいつの隣にいるんだろう。だから、そいつは帰ってこないと思った方がいい。」


「そんな…!」


女はそう言って、ガクッと肩を落とす。


まぁ、そいつがどの程度の位置にいよううが、俺からすれば正直どうでもいいことには変わりない。


俺の邪魔をするようなら殺すし、そいつが自分の意思でやっていて邪魔をするなら同じように殺す。


そして、橋本冬樹を殺す。


それに変わりは無い。


こいつの弟がどうなろうと知ったことでは無い。


「とりあえず、飯だ。お前はどうするのかは知らんが、これやるから食えばいい。やらんとこいつがうるさいしな。」


「うるさいって何さ!全く。君には人の心ってものがないの?」


「んだとこら。おめーに言われたかねーよ。たく、口の減らねぇやつ。……ほら、お前もさっさと食え。早めにここから離れる。」


「はーい。でも、次はどこに行くの?」


「とりあえずは安全な拠点探しをするために街にでも潜り込めれば上出来だ。スラムの町はどこもかしこも危険だしな。こんなところにいるよりかは余程安全だろう。街ならお前が襲われたとしてもそこら辺のもので撃退できるようなやつも多いしな。」


缶詰を空けながら、利点やらを説明していく。


だが、神奈は微妙な顔をしている。


「なんだ、なんか不満か?」


「ううん。そうじゃないんだけど、警察には多分私たちの顔は割れてると思うんだよね。その中で私たちは街の中に入るってことだよね。大丈夫なの?それ。」


「一応、その辺も考慮したが、問題は無いだろう。室内では誰かが俺らの顔を見ている訳では無いだろうし、それに何より俺らは正面突破をするわけじゃない。あくまで秘密裏に街の中に侵入するんだ。だから、警察にバレるということは少なくとも可能性としては低い。ただし。これはあくまで可能性の話だ。どうもあちらのトップっていうのはなかなか勘が鋭いらしいしな。今回のことでどう手を打ってくるかが鍵になってくるな。」


「その人って、強いの……?」


「そうだな……少なくとも俺よりは強いとは思う。警察側のトップって言うぐらい、だしな?」


まぁだが、相手がどれだけ強かろうと相手のことをよく知り、計画をより多く使えた者の勝ちだ。


力量で勝てないなら、頭で勝つまでのこと。


自分で言うのもなんだが、これでも頭だけはいいほうだからな。


「とりあえず今日はここに泊まる。あの家から寝巻きは取ってきた。これを使って寝ろ。」


「あ、うん。ありがと。」


「…………ほら。お前の分だ。今日だけ、安全な場所で寝るといい。」


「……あり、がと…?」


女は疑問形でいいながら、ゆっくりと寝巻きの中に入っていく。


それを見て、自分で自分にハッとする。


俺は今、ごく自然に誰だか知らない赤の他人に親切に寝巻きを渡していた。


今までにこんなことをしたことなんてなかった。


見知らぬ赤の他人になんて、スラム街では迂闊に優しくするものでは無い。


そんなことをすれば、自分の命が危ないのだ。


もしもそいつが弱々しいことを装っているだけのやつだった時、直ぐに殺される。


それが普通の世界でそんなことをするはずがなかった。


なのに、今俺は……。


「これもこいつの影響か……。」


頭を押えながら、寝巻きに入って寝息を立てる女を見る。


瀬川 神奈。


いつも何かと文句が多く、お人好しの女。


こいつによって俺は随分と甘くなってしまったようだ。


これから、どうしようか……ねぇ。


静かな小屋でそう思うのだった。

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