第6話 逃避
あれから、攻撃を仕掛けようとするが防がれて、攻撃をしかけるも防がれ、攻撃されるもそれを避け続ける攻防が繰り広げられる。
何度も何度も同じことの繰り返しで、わかりやすく田中のイライラ顔が見えてきた。
その中で俺はまた地を蹴り距離を詰めた。
「ちぃっ!何度も何度も同じ攻撃をぉっ!!鬱陶しいわァ!!」
田中のその金属の体から少しの棘がでてきたと思えば、それは勢いよく伸びる。
先程の全体攻撃だ。
…だが、そんなものはもう俺には当たらなかった。
結局のところ棘だ。
伸びれば、動かない棒切れ。
だから、伸びる瞬間に後ろに少しだけでも下がっておけば、伸びたあとの安全地帯に移動するだけで避けられるのだ。
そして、避けたあとすぐさまその棘を利用して田中の背後をとった。
「ぬっ…?!」
「……田中…チェックメイトだ…!」
棘の間をぬって、俺はその金属の体の左横腹付近に思い切り打撃を入れた。
瞬間、田中の今までの防御していた金属体が嘘のようにあっさりと砕け散った。
中からは、その顔には似つかないひょろひょろな体が出てくる。
「がはっ!」
ドサッと床に転がる田中。
そんな田中を見逃すことなく一気に距離を詰める。
…と、田中は片手を前に出して制止の声を出した。
「ま、まってくれ…!俺はもうお前らに危害は加えない!だから…だから、今回だけは見逃してくれ!次に何かしたらその時は覚悟するから、だから……!」
「……見逃す…?くくく……。」
そんな田中を見て、俺からは笑いが漏れた。
今回だけは、見逃して…か。
「そんなことは、俺のポリシーが許さねぇよ田中。トドメだ。歯ぁ食いしばれ。」
腰に常備していたナイフを刃先を下にして持つ。
「な、なんで……。」
「お前が、先に殺ろうとしてきたからだ。この世の中はな。喰うか喰われるかの戦いなんだよ。俺は知ってる。お前の言ったような言葉を言って騙そうとしてくるやつを何度も見てきたからな。……だから、ここでお前は終わりだ。来世でいい人生をな…!!」
ナイフを振り下ろす。
ドカッ!
という、鈍い音があたりを木霊した。
その次にはドサッと言う倒れる音が響く。
「…あぁ、そういえば…冬樹のやつの住処を聞き出すのを忘れていたな。まぁいいか…今はそんな時間もないわけだし。とりあえず、早くここを出ないと、か。」
頭をボリボリと書きながら、方向転換する。
…にしても、先の神奈の攻撃…。
言葉であいつのことを吹き飛ばしたように見えた。
神奈が放った言葉の後、田中は吹き飛んだしな…。
だが、恐らく本人には自覚は無いのかもな、あの様子。
俺のことを心配するので手一杯そうだったし。
どんな能力なのか少し気になるが…とりあえずは置いておくか…。
そう自己完結して俺は神奈のいる部屋に少し急ぎめで向かう。
そして、先程入っていったドアを開ければ神奈が中の方で丸まっているのが見えた。
「……何をやっているんだ…神奈…。」
「な、何って…そんなの決まってるでしょ…!ほら、コレ見てよ!」
そういう神奈の指さす方を見れば壁に無数の穴が空いていることがわかった。
恐らく、先程の全体攻撃がここまで届いていたのだろう。
「それは…気の毒だったな。」
「もう、もう!本当に怖かった!」
言いながら、プクッと頬を膨らませて怒っている。
「……とりあえず、早くここを出るぞ。怒るのはその後からにしてくれ。今はここを出ないとダメだ。」
「?。どうして?。」
「ん?当たり前だろうが。絶命会の幹部を倒したということは、それはもう多分やつの耳に入っているだろう。てことは、すぐに増援が来てもおかしくはない。だから、すぐここを離れるのが今できる最善なんだ。だから、早くここを出るぞ。」
言って、踵を返してその部屋から出ようとする。
…すると、後ろからとんっと衝撃が来た。
「なんのつもりだ。」
「…ありがとう、カヲル君。私を守ってくれて。」
「あれは必要な事だっただけだ。それに結果的に助けた形にはなったが、俺はお前を助けようなんて微塵も考えていなかったぞ。実際、ここにあの攻撃が来てたのがその証拠だ。」
「今は、それでいいよ。でも君は今回私を助けてくれたのは事実だよ。私に早く隠れろって言ってくれたり。そもそも、君なら私を置いても逃げられたはずだよ?怪我なんてせずに。この戦い、明らかに部が悪かったはずだよ。戦うことが慣れてない私でもわかる。あの人はとてつもなく強かったもの。だから…ありがとう。」
そう、背中に体を預けながら神奈は礼を言ってくる。
「……。」
それに何を答えるでもなく、そのまま前に進んだ。
もちろん、そのまま進めば神奈は支えが無くなるわけで……。
「へぶっ?!」
間抜けな声を上げて、ベチャッと顔面から床に倒れた。
「ふん。ちんたらしてるからそうなるんだ。ササッと身支度を終わらせて、行くぞ。時間が惜しい。」
「んもぅ!いい場面だったでしょ!なんで君はそうなのさ!」
「ちっ。めんどくせぇ。」
ブーブーとうるさい神奈を無視して部屋を出る。
周りには誰もいないな。
さて…ここからどこに向かおうか…。
「ま、待ってよぉ…早いよぉ。」
「お前が遅いだけだろうが。時間が無いって何度も言ってたはず ―― っ!」
「きゃぁ?!」
瞬間、どこからともなく攻撃が飛んできた。
咄嗟に神奈を抱えて後ろに避ける。
攻撃は当たらなかったものの、着弾した余波だけでもかなりのものだった。
「くっそ…もうきやがったのか…?!」
「な、なに?何が起きてるの?!」
「黙ってろ。口なんて開けてたら舌噛むぞ。」
もくもくと立ち上る煙の前方を見れば、陰ながら何者かがいるのがわかる。
あいつが俺らのことを攻撃してきたのは間違いないな。
絶命会の雑魚ごときで俺の事なんて止められると本当に思っているのかねぇ…。
まぁ好都合か。
このままあいつを殺して、俺らは逃げるだけだな…!
「捕まっとけよ、神奈!」
「え、あ、うん…!」
神奈をそのままおぶる形にして、煙に突っ込み走り出す。
そして、煙の中で地を蹴った。
ブワッと視界が開ける。
…がその先には、予想外の人間がいた。
「?!。…おらぁ!!」
「がはっ!」
思い切り、横腹をけってそいつを吹っ飛ばす。
着地を決めてそのまま走る。
「なんでこんなところに奴らがいんだぁ?!」
「え、あれ誰なの?絶命会の手下じゃ…。」
「ありゃお前の大好きな警察だ!。普通はスラム街の外にある平和ボケした街にいるはずなんだ!のくせに、どうしたもんかね!」
バギャっとけたたましい音を立てて、ホテルのドアが壊れる。
外には、何人かの警察の人間がいた。
全員が全員こちらを何事かと注目している。
何人かは来ているだろうなというのは予想通りではあるが…この短時間でこの人数は予想外か。
数は、だいたい7、8人。
「ど、どうするの?」
「ふん…このまま強行突破に決まってんだろが。」
近くにいた警察官1人に一瞬で近ずいてうなじ部分をつかみあげる。
「がはっ?!」
「っ!総員!奴をひっ捕らえろ!。」
号令がかかったのと同時に1人の警官が雷を飛ばしてきた。
雷を操る能力者か。
しかも、あの電圧は人を痺れされる程度に威力が調節されてんな…。
いい腕だ。
…だが…。
先程とっ捕まえた警官のひとりを自分の前につきだす。
すると雷はその警官にあたり、痺れされた。
「あばばばっ?!」
「ふん、甘えんだよこの馬鹿が!」
ぶんっと、雷を操る能力者の方に警官を思い切り投げ込み、走り出す。
見事クリーンヒットして2人がノックアウトした。
全員を沈めてもいいが、あとが面倒だからほかは無理をする。
今は逃げることが最優先だ。
と、俺と同じ肉体強化の能力を持っているのか号令をかけたチームの隊長らしき人物が後を追って来ていた。
「貴様ァ!良くもうちの部下を…!」
ブォン!…と普通の人間ではありえない速度で拳を放ってくる。
さすがは警察官と言えるだろう。
「…あいにくと、俺らはお前らに用はないんだ。黙って沈んどけ。」
ひらりとその攻撃を軽く交してから、その男の股に蹴りを入れ込んだ。
「はぅっ?!」
「男の急所ってのは本当に便利だよ、な!!」
追い討ちと言わんばかりに後方に蹴り飛ばせば、後方にいた2人の警官を巻き添えにして3人の景観がホテルの壁に叩きつけられた。
「……よ、容赦ないね…。」
「利用できるもんはしないに越したことはないからな。それに敵相手にいちいち加減するほど俺は強くないんでね。」
そんな会話をしながら、俺らは急いでその街を後にするのだった。
◇
謎の人物に襲撃を受けたと報告があって、急ぎできてみればここの調査に当たっていた隊長を合わせた警官複数人がボコボコにやられていた。
「何があったの、ここで。」
「は、はい!実は、いきなりホテルから出てきた女をおぶった男がいきなり襲いかかってきまして…この有様です。ホテルの中に入って調べに行った1人の警官もやられて気絶していました。……しかも、そのホテルの中の2階には絶命会の部下らしき者達の死体とそして1階でその幹部である田中玄斗が殺されていました。恐らく、あの私たちを襲ってきた男がやった可能性が高いかと思います。」
「へぇ……なるほど、ね…。私はその死体を調べるわ。あなたはやられた警官を運んで頂戴。」
「了解であります!」
敬礼をした後、走ってやられた警官を運ぶ手伝いに行った。
それを見届けたあと、私はホテルの方に歩き出す。
外から見ても酷い有様だ。
壁中穴だらけ、窓ガラスも割れていて、入口のドアも壊れている。
凄まじい戦闘がここであったことを物語っていた。
「……。」
そのまま、ホテル内に入る。
そして入ってすぐ目の前には、聞いた通り絶命会の幹部である田中の死体が転がっていた。
「……刃物で頭を一突き…か。」
田中の死体をまじまじと見れば、頭に刺傷があった。
深々と刺さったのだろう。
かなり深くまである。
だが、田中の能力は確か金属を身に纏い、自由自在に操ることの出来る能力だったはず…。
どうやって刃物なんかで頭を突き刺した?
「まさか…鎧を壊したとか…?」
あのどんな攻撃も通さない硬い装甲を持った田中の鎧を砕いたとなると辻褄があう。
逆にこれ以外辻褄が合わないのだ。
「ふふ…これは、予想外の使える人材を見つけてしまったかもしれないわね…。」
くるっと踵を返してつかつかとホテルを足早に出る。
そして、先程情報を伝えてくれた警官を呼んだ。
「なんでありましょうか、叶江様。」
「あなた、警官たちをボコった男の顔覚えているかしら?」
「えっと…まぁ一応は…。」
「そう、なら少し手伝って頂戴。」
言って、電話を取り出す。
そしてあるところに電話をかけた。
「あなた達、仕事よ。人探しのね。スラム街でも安全と言われてる例のホテル前に直ぐに集合して頂戴。時間が無いの。」
そうして、叶江という女は電話を切って空を見上げる。
絶命会の幹部を倒せる男か…。
「絶対に見つけてやるわよ…覚悟しなさい。」
◇
翌朝。
目を覚ませば、天井が見えた。
ただ、かなり古びているのか所々に穴があってボロボロである。
「…ここは…。」
「近くにあった小屋だ。多分物置小屋に使われてたんだろうな。」
近くから返答が来て、そちらを向けばカヲルくんが壁に腰かけていた。
そういえば、あの時カヲルくんにおぶられたあとくらいから記憶が無い。
おそらく寝てしまったのだろう。
ただカヲルくんもなんだかあの戦いの後よりも心做しかボロボロになっているように見える。
私が眠っているうちに何があったのだろうか?
と、そんなことを考えているとカヲルくんが声を出した。
「お前の考えてるようなことは何もねぇよ。安心しろ。ただ、絶命会の追っ手やらが攻めてきた程度だ。それで返り血やら、土屋らが着いた結果だよ。だから、特別何かあったわけじゃない。」
「そっか…。」
今の話を聞いて少し安心したような、そうでないような…。
「とりあえず、水と食料の調達が第1だな。まともに何も食べてねぇ。」
「そんなのどうやって…。ここはスラム街の中の小屋なんでしょ?だとしたら…。」
「もちろん、この小屋のあるうちの中を物色するに決まってんだろ。もしなかったら、少し遠くまで行くことになるがな。」
カヲルくんはそう言いながら立ち上がる。
そうして、そのまま出ていこうとした。
「え、あ、まって私も…。」
「ここで待ってろ。お前疲れてるのがよくわかるぞ。俺みたいに鍛えてるわけでもないんだからな。」
「……わかった。」
返事を返すと、パタンとドアが閉まる。
シンっと静寂が当たりを包み込んだ。
周りを見渡すがなにか特別なものがあるわけじゃない。
鉄のスコップやら斧やら。
そんな感じの道具がしまわれているだけの小屋だ。
「これから何があるか分からないし…これでも持っておこうかな…。ここにも奴らが来るかもしれないし…。」
私は立ち上がり、近くにあったスコップを手に取る。
これを持って何ができるかは分からないけど、あっても困らないものだし持っておいてもいいと思う。
…にしても…絶命会…。
奴らは多分私のことを狙っているのだろう。
その証拠に私たちの行く先々に奴らは現れるし、あのカヲルくんの家にも3人組が来て心の中でも言っていた。
でも、どうして今頃になって私なのだろうか?
もしも私を狙うなら、狙う前にあのお姉ちゃんが捕まった日、私のことも捕まえればよかったのに。
どうして?
私の能力の問題?
でも私の能力は2つ目も3つ目も分からないからその理由は低い…。
分からない。
奴らの狙いはなんなんだ?
……ただ、ひとつ確実に言えることとしたら…きっと奴らに捕まれば私はどうなるかは分からないということだ。
殺されるかもしれないし、生かされていいように利用されるかもしれない。
だから、私は捕まるわけにはいかない。
まだお姉ちゃんを捜せていないから。
見つけるまで絶対に死ねないんだ…!
絶対に…絶対に…。
ただ…私は無力だ。
彼に見捨てられれば簡単に捕まってしまうだろう。
今まで私が捕まらなかったのは彼が近くにいたからだ。
こうやって生きているのも彼のおかげ。
だから、私がお姉ちゃんを探すには強くならなければならない。
私自身がつよくならなければならない。
彼が一緒に最後まで探してくれるわけじゃないだろうから。
…でもどうやって?
どうやって強くなればいい?
そもそも、お姉ちゃんが生きているという保証は?
そんな根拠どこにある?
お姉ちゃんが死んでいたら…私は…もうどうしようもない…。
その先をどうしたらいいのかがわからなくなる。
分からない…何も分からない…。
「どうしたらいいのかな……蓮くん…お姉ちゃん…。」
虚空を見つめながら小さな声でそうこぼすことしか出来なかった。
…と、ふと外の方から聞き覚えのない声が聞こえてきた。
その声はどんどんとこの小屋に近づいてくる。
やばい…。
どうしよう…どこかに隠れなきゃ…。
私は直ぐに隠れようと、入れそうなところを探すがどこにも見当たらない。
そして、そんなことをしている間にその見知らぬ声はドアのすぐ前にまで来ていて…ガチャリと小屋のドアが開くのだった。