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第5話 死闘

「はは…飛んだバケモンがきやがったもんだ…。」


全身金属でできてんのか?あれ。


随分と硬そうな体だな。


…どうする…。


少し目線を逸らして、下を向けば神奈がいる。


あいつがいるんじゃ存分にやるどころか、守りながら戦わなければならない。


だが、こいつと俺の力の差は大きいため、正直厳しい。


だから、神奈を守りながら戦えば確実に俺が殺されるのだ。


結果なんて目に見えている。


さて、どうしたもんか…。


「それで…お前が冬樹の言っていた例のやつか…。随分と弱そうだな。…いや、あの一撃を避けたのだからさほど弱くはないのか?」


「1人で自問自答してるところ悪いんだがよ…お前何者だよ。」


「ん?俺か?俺は絶命会5天皇の1人、田中 玄斗だ。」


「5天皇…?」


そんなものが絶命会にあったのか…?


俺も長くスラムにいて、絶命会のことをかなり調べてきていたつもりだ。


でも、どの情報にもそんなものはなかった。


部下でも知らない情報が?


いや、そんなわけは無い。


5天皇なんてのがいるのなら、わざわざ隠す必要なんて無いはずだ。


もしこれが本当だとするなら…恐らくその5天皇って奴らの集まりは絶命会の中でも特別強いってことなのだろう。


ならば、5天皇!と呼ばれるほどに強いなら、警察に圧をかけるために情報を流した方がメリットも大きい。


なのに何故、情報がない?


こいつみたいな化け物が、あと5人いるのか。


とんでもねえな、おい。


「にしてもよぉ…俺にゃあんまり強いように見えねぇんだが?こいつ。大丈夫かよ、冬樹よぉ。」


「…そういえば、お前…操られてないのか?」


「操られる?あー…あの洗脳か?もちろん俺にゃねぇよ、あんなもんは。それだけ信用されてるのさ、5天皇は。1人を覗いて、あとの4人は洗脳はされていない。なんたって、冬樹に忠誠を誓ってっからなぁ。」


「なるほど…。」


てことは、5天皇は特殊ってことか…。


にしても、とんでもない化けもんを飼い慣らしてやがんな、この野郎…。


とにかく、今はこいつをどかさねぇとな。


本気でやらねぇと負ける…!


そうして、能力を発動する。


「…まぁ、雑談はいいや。とりあえず…俺を楽しませてくれや。」


男は左手を前に突き出したかと思えば、その手を鋭利にして勢いよく伸ばしてきた。


それは壁に思いっきり突き刺さる。


間一髪で避けられたが、あんなもんを喰らえば俺の肉体強化があっても即死だ。


「…っ!」


神奈を抱き抱えたまま、下に落ちていた石ころを拾い上げて田中目掛けて投げる。


「そんなもの効くかぁ!」


右手を一気に戻して、それを弾いた。


が、その時には俺は既に1階にあった適当な部屋に入り込んでいた。


危なかった…。


1階にもちゃんと宿泊部屋があってよかった…。


なかったら、2人諸共死んでたしな。


「クソが!どこだぁ!出てこい!」


田中が大声で叫んでいる。


うるさいヤツだ…。


…にしても、どうする。


正直な話ここは不利だ。


たしかに1階のロビーは広い。


あそこなら存分に俺の力を発揮できるだろうな。


だが、今ここの部屋を出ればロビーではなく細長い廊下だ。


これはやつにとってとても有利な場だろう。


あの突き攻撃をされると本当に厄介な場所だ。


ほんの少しの救いだったのは、部屋が沢山あるところだろうか?


部屋を利用すれば、少しでも生存率は上がる。


ただ、やつの攻撃はおそらくあれだけではない。


この細い空間の中で、未知数のやつと戦うのは本当に自殺行為だ。


だったら、逃げてしまえばいいと思うがそうもいかない。


外には、絶命会の手下が見張りをしているだろう。


そいつらを神奈を抱えながら相手をするのは、少々時間がかかる。


その間に田中が外に出てくるだろうしな。

だから、これは却下だ。


だったらどうすればいいんだ…。


「クソが…。」


「……カヲル君?これってやばいよね…。」


「あぁ、やばいさもちろん。下手したら死ぬぞ。」


そこで俺はよからぬ事を考えてしまった。

神奈を見る。


こいつを捨てて俺だけ逃げてしまえば、俺は命が助かる。


俺自身の弱みがなくなって、思う存分に絶命会と戦える。


こいつは今の俺にとって、それだけ足枷になっているのだ。


永一 蓮には、絶命会の5天皇に所属しているやつに殺されてしまったと偽りの情報を流せばいい。


これなら、比較的安全に逃げられるのだ。


「っ!」


ドカッと自分の顔を殴る。


俺は何を考えてるんだ。


そんなこと許されるはずがないだろう。


俺はこの仕事を受けた。


受けたのにも関わらず、仕事をないがしろにして守るべきものを守らず、依頼主に嘘を伝えるなんてあってはならない。


くそ…!


「………私が邪魔なら、君の考えてる私のことを見捨てる作戦でもいいと思うよ?」


「!?。……能力で見透かしてたのか?」


「ううん。君の思考は私の能力じゃ読めないから無理だよ。でも、考えていることを予想することくらいなら私でもできる。だいたい当たってるでしょ?」


「…………ハズレだ。俺はそんな考えは持たん。」


言いながら立ち上がる。


仕方ない。


やるしかないだろう、こうなったら。


「お前はここにいろ。俺がやつの相手をしている間隠れてるんだ。いいな?絶対にここから出るなよ。」


「…わかった。気をつけてね、カヲル君。」


…ここからやつへの距離はだいたい3mくらいか…?


この扉を開けたら直ぐに左に走る。


おそらく攻撃が来るだろうから、それをスレスレでもいいから避ける。


すかさずの攻防戦にに持ち込むしかない。


…やつの金属製のあの体に俺の肉体強化した生身の打撃だけじゃダメかもだしたな、何かどっかにいいもんでもないもんか…。


仕方ない、か。


「この箒、目くらまし程度にはなるか?」


部屋の掃除用ロッカーにしまいこまれていた、プラスチック製の箒を手に取る。


さぁ、ガチンコの戦いの始まりだ。


能力を発動する。


瞬間にドアを勢いよく開けて外に飛び出す。


「むぅ!?」


いた…!


予定通り、左に走って接近戦に持ち込んでやる!


地をけって、一気に迫っていく。


その途中で先ほどと同じ突きの攻撃が出されるが、それを何とか避けて目の前にまで近づいた。


「…これでも喰らってろ!」


持っていた箒を思いきに顔面に突く。


箒は突いた部分からバキベキと割れていった。


それが箒の真ん中くらいまで来たところで手を離して、すかさず蹴りの攻撃をする。


するとガキィィィインという金属音がその場に鳴り響いた。


「…っ!わかってたつもりだが…肉体強化してもいってぇな、この野郎!」


ガンガンと何発か打撃を加えて離れる。


まぁ、当たり前だが全く攻撃のダメージは通ってはいなかった。


あまりにも俺との相性が最悪だな…。


「くく…そんなものか?お前の本気というのは。実につまらんな…。すぐ終わらせてしまおうか…ね!」


田中は右手の形を変形させてチェーンのついたハンマーに変えた。


そんなことも出来るのか。


「行くぞぉ!」


言ってそれを振り上げて思い切り地に落とす。


よけた瞬間にそれは地面にめり込んで、大きなひびが床に入った。


あれも即死級だな…。


こいつ本当にバケモンだ。


「おら!」


俺は飛んで、上から思い切りかかと落としを食らわせる。


すると、田中の巨体の重量と俺のかかと落としの威力で田中ごと地面にめり込んだ。


「ぬぅ…?!」


「お前の弱点のひとつはその重量だな、田中。世の中固くて、威力が強ければいいってもんじゃないんだぜ!」


「…………たしかにな、それはそうだ。だが…。」


ガシッと俺の足を掴まれる。


刹那、思い切り振り回されて壁に叩きつけられた。


「がっ?!」


「俺にアドバイスする前に自分の身を考えたらどうなんだ?」


田中はもう一方の左手を大きな棘にする。


「…終わりだな。お前はそれなりにはやったと思うぞ。」


そしてそれを思い切りさしてこようとした。


「反転!」


咄嗟に俺は手を前に出してある能力を発動する。


すると田中が刺してこようとしたその棘は田中の方に向きを変え思い切りささった。


「ぬ…?!」


「っ!」


動揺して田中の右手が緩まった所でそこから抜けて距離をとる。


危なかった。


下手したら今のところで死んでいた。


俺はこんなところで死ぬ訳には行かない。


どうにかこの場面を脱却しにゃならん。


「……強いな、お前。名前はなんという?」


「いきなりなんだ…。」


「別に名前を聞いて発動する能力とかはないから安心しろ。ただ、強いやつの名前は覚えておきたい主義でな。」


「…………カヲルだ。」


「カヲル…カヲルというのか…。くくく、くく…お前になら俺の、俺様の本気を見せてやってもいいかもなぁ…。」


にたっと笑ったかと思えば、瞬間にやつの雰囲気が変わる。


まず最初に来たのは、とんでもないくらいの圧だ。


つい息を飲んでしまった。


これが、絶命会の幹部の力か…。


「とんだバケモンじゃぁねぇかよ。」


「いくぞぉ!!」


その掛け声とともに田中が少し丸まり込む。

…なにか来る。


直感的にわかった。


あれは…まずい…!


即座に走り出す。


そして、少しして田中の体から沢山の棘が伸びた。


「っ?!」


ドガガガガ!っと次々にそれは刺さっていく。


壁に床にドアに天井に窓に…様々なものを貫いた。


間一髪、ギリギリのところで俺はそのリーチから抜けるも顔面寸前に1本の棘が伸びていた。


まさかこんなことまでできるとは思わなかった。


俺とて急な全方位の攻撃は弱点だ。


あんなもの今回みたいに不意に来られたら避けられる気がしない。


たまたま今回は上手く避けきれた。


「避けたか。さすがだ、カヲル!俺は嬉しいぞ!」


「はは、お褒めに預かり光栄だよ…。」


「さあ、第2回戦の始まりと行こうか。」


棘を一気に引っ込めて田中が構える。


それと同じようにして俺も構えた。


これは…もうひとつの能力も上手く使ってかないと敵わないな…。


そして、地を蹴る。


一気に距離を詰めた。


「おら!」


ガン!っと蹴るがやはり攻撃は通らない。


馬鹿みたいに固い装甲だ。


「俺に打撃技は聞かんぞ、カヲル!」


田中は剣を作り出して俺にそれを振りかざす。


「反転!」


だが、その攻撃を俺は田中に返す。


剣はたちまち刃の方向を変えて、田中に斬りかかった。


もちろんのことそれも通らないが。


「…その能力が厄介だな。」


「お前は打つ手なし、かな、これは…!」


そのまま着地して、俺は田中の腕を掴んで投げようとする。


このまま投げ飛ばして身動きを少しばかり難しくしてやる…!


……が…そこまでそいつは甘くはなかった。


「……お前の方がもう手詰まりのようだな、カヲルよ。」


「持ち、上がらない…。」


「ふん!」


俺は逆に田中に足を掴まれて、思い切り床に叩きつけられる。


「がっはっ?!」


「さて…ここから抜け出さんとお前が先に死ぬぞ、カヲルぅ!」


そう言って、田中は俺を持ち上げたかと思えば床に叩きつけるを何度も繰り返す。


その度に意識が飛びそうになる。


「ほらほら…どうした?早くせんと死ぬぞ。」


まずい…。


ほんとにこれは死ぬ…。


「ぐ…ぬぅ…!」


田中の顔を蹴るもそれは無駄に終わる。


でもこれしか俺は出来ないから、何度も何度も蹴る。


「………小賢しいわ!」


すると先程とは比べ物にならない威力で叩きつけられた。


口から大量の血が吹き出る。


肋の二、三本いったか…?


内蔵も少し傷ついたのかもしれない…。


「強いとは思う。だが、もう良い。結局お前はその程度の実力だった。俺の事を満足させられないような、な。」


「ま…だだ…!」


「…楽にしてやるから力をぬけ。そこまで俺も鬼畜じゃァない。」


1番初めで見たような大きな棘に右手の形を変える。


逃げようとしても体が思うように動かない。


あぁ、まずい…。


これは本当に…しんだな…。


くっそ…こんなとこで死ぬなら…あんな以来受けなきゃ良かったよ、本当に…。


そうして、ゆっくりと目を閉じようと声が聞こえた。


「…っ!危ない!!」


その声のした方を見れば、いつの間にか部屋から神奈が出てきてこちらに走ってきていた。


「…バカが…お前は…逃げなきゃ…。」


「あれが冬樹の言っていた瀬川 神奈という女か。いい女だ。お前を殺したあと、あいつで楽しんでやろうか…。」


「…そんなことは…この俺がゆる、さねぇ…!!」


「ふん、じゃぁなカヲル。楽しかったよ。」

そうして、田中が刺そうとしたその時だった。


「〝カヲル君から、はなれて…!!〟」


「?!」


その一言と共に田中が一瞬にして後方に移動した。


「カヲルくん!大丈夫…?!」


「…っ…!馬鹿野郎!!なんでここに来た!」


「だ、だって危なそうだったんだもん!今カヲル君に死なれたら私どうしたらいいのさ。」


「…チッ。…わかったから離れろ。このままじゃ戦えない。」


「あ、ごめん。」


そそくさとかんなは離れる。


こんな自分よりも弱いやつに助けられるとはな…。


俺も随分と弱いものだ。


現実を突きつけられた。


……だが、命あってこそのそれか…。


こいつには少しは感謝しないとダメらしい。


「神奈。さっきと同じように隠れていろ。俺はお前みたいに助けてはやれない。」


「う、うん、わかった。…あ、カヲルくんその前に…―――。」


神奈は俺の耳元であることを囁く。


「…!?。それは本当か?」


「うん。カヲルくん。気をつけてね。」


「わかってるよ。言われなくても上手くやるさ。」


…あいつの言っていることが本当なら…だ。


この戦い…俺の勝ちだな。


そして足を1歩後ろに引いて、地を蹴るのだった。

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