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4話 遭遇

「ここまで来れば大丈夫か。」


カヲル君は、そう言って私のことを下ろしてくれる。


空にはもう既に無数の星々が見えている。


かなり遠くまで、私のことを抱えて走ってきたようだ。


なのに、息一つ乱れていない。


失礼かもしれないが、この人は本当に人間なのだろうか?


「…これからどうしようか。住む場所ぶっ壊されたし。んー…。」


また、彼はブツブツと言い始める。


ここに来るまでに何回もブツブツとこの人は喋っているのだ。


一人暮らしの人というのは、こういう風によく一人で喋ってしまうものなのだろうか?


と、少し気になるが今はここがどこなのかが知りたい。


そっちの方が大切だ。


「ねぇ、ここはどこなの?」


「ん…?ここは、唯一スラム街の中でまともな街だ。ここに住んでるやつはスラム街みたいに殺したりはしない。」


「そんな場所がまだあったんだね。」


「あぁ。とりあえず、お前に金を渡す。それでここのホテルの部屋でも借りるといい。」


言って、俺は女に金を渡す。


…が、それを首を振って受け取らない女。


「そのお金はいらない。何度も言うけど私はあなたについて行くって言っているでしょう?それと、私はお前じゃない。長瀬神奈っていう名前がある。ちゃんと名前で呼んで。」


「お前とはここで別れるんだから、そんな名前を覚える必要性がない。さっさといけ。」


「………。」


「わかった、俺が中にまで運んでやる。」


担いで連れていこうとすると、女は後ろに下がる。


こいつ…。


「私はあなたについて行く。あなたが勝手にしろって言ったんだから。」


「まだ、そんなことを抜かしてやがるのか。お前がいると迷惑なんだよ。さっさとどっかに行け。」


「なんで私のことを、そうまでして突き放そうとするのか分からない。」


「お前が邪魔で嫌いだからだ。さっさと消えろ。」


俺はまるで本当にそうだと言わんばかりに、そいつに睨みと嫌悪の表情を向ける。


ただ、そんな目を向けてもその女は引かなかった。


「私は今回絶命会に狙われた。だから、あなたに守ってもらっていないと私自身のみが危ない。」


「知らんな、そんなことは。赤の他人であるお前が狙われたって、俺になにかデメリットがあるわけじゃないだろう?それに安心しろ。ここの町はそれなりに安全だ。ここには今の1度も絶命会の手が伸びたことは無い。」


「っ…!だったら…これならどう?」


すると、どこから持ってきたのか女はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出した。

それを、首にあてがう。


なるほど…脅しか。


どこからそんなナイフ持ち出してきたのやらな。



「これなら、あなたも返答を変えるんじゃない?さすがにあなたでも人の心はあるはず。それに今まで助けた奴が死のうとしてるのに、止めないわけがないよね。」


私はナイフを握りしめて、首に少し押し込む仕草をする。


これは賭けだ。


彼は私という存在を恐らくだが、死なせてはいけない理由がある。


でも、これはあくまで予想だ。


外れている可能性もある。


だとしても、お姉ちゃんもれんくん蓮くんも生きているか分からない世界でなんで、生きてても意味は無い。


彼を真っ直ぐみる。


彼も私を睨みながら、こう言った。


「…お前にその勇気があるならやってみろ。」


「私にはもう覚悟は出来てる。きっとここにもすぐに絶命会の手は伸びてくる。だから、ここで死んだって何も変わらない。…君がそういう態度をとるんだったら、もういいよ。私は…………しぬ。」


そうして、目を閉じてグッと一気に首にナイフを押し付けた瞬間だった。


途中でグッと手が動かなくなる。


見れば、カヲル君が私の手を掴んでいた。


「……はぁ、わかったよ。わかったからよしてくれ。……俺にも色々と事情があるんだ。その事情について詳しく言うことは出来ないが、お前を死なせるわけには行かん。」


「…わかった。理由を聞けないことは妥協して許すよ。でも、その他は許さないし、名前で呼んで。」


女はまた折りたたみ式のナイフを折りたたんでポケットの中にしまい込んだ。


事情について詳しく知りたかったのは山々なのだが、今回は一緒に行動をするということが出来ただけでも大きな収穫だから、我慢する。


事情については追追調べればいいからだ。


「はぁ、全くなんでこの女は人の言うことが聞けんのかねぇ…。」


「ねぇカヲル君。何度も言うけど私の名前は女とかお前じゃなくて、神奈だよ。私も名前で呼んでるんだから、名前で呼んでよ。」


「チッ。わぁったよ。神奈だな、神奈。」


「ん、それでよしだよ、カヲル君。」


ニコッと神奈は笑った。


それにまた、はぁとため息を着く。


まぁいい。


「とりあえず、宿を探さないとな。」


「そうだね、さすがに野宿はやだから。」


「そうだな。」


神奈の言ったことに返答を返しつつ、そのスラム街の街の中に歩いていく。


その後を神奈は着いてくるのだった。



それから、数十分くらい経ったろうか。


俺らは下宿先である店に、もうやってきていた。


まぁまぁいい部屋を借りることが出来た。


僕自身もここの街の中にある宿には止まったことがないため、ここの宿がこんなに豪華だとは思っていなかった。


しかも、従業員がここはいないためある種セルフ宿になっている。


無料で泊まり放題だ。


ただもちろん、無料な分荷物やらは自分で守ったりはしないといけない訳だが。


「…さて、とりあえずこれから飯を食おう。まずは腹ごしらえだ。言っておくが、ここには飯はないからな。持参だぞ。」


「う…それは知らなかった…。」


と、神奈は眉根を下げて残念そうに顔を俯かせる。


「………仕方ねぇな…。」


その姿にはぁ…とため息をつきながら、持ってきていた缶詰めを一つカバンから出して、わたした。


「これ食え。たくっ…。」


「いいの…?これ…。」


「いいんだよ。念の為に何個かカバンに詰めてあるからな。…それに着いてくるってなら途中でへばられても困る。」


「…………ありがと。」


静かにそう言って、神奈は食べ始めた。


それを見て、俺も缶詰を開けて食べ始める。


さて…これからどうしようか…。


正直なところ、こいつを連れていくことなんて全く考えていなかった。


いつも通り、こいつを遠くから守りながらの俺1人の旅だと思っていたからな。


思わぬ弱点ができたかもしれない。


遠くであれば、絶命会からそうそう狙われにくかったのだ。


だが、今は俺の近くにいる。


もしも、絶命会と戦うことになったとしてこいつを守りながらやり合えるだろうか。


何度も言うが俺は決して強いわけじゃない。

たしかにそんじょそこらの奴らよりは強いかもしれない。


だが、絶命会の上の連中とまともにやり合えるほどには強くないのだ。


だから、今来られると本当に危険だ。


ほんと…どうしたらいいもんか…。


そんなことを考えていると、隣にいる神奈はが話しかけてきた。


「…ね、カヲル君。これからどうするの?ここに何日もとどまるの?」


「ん?いや…ここは明日には立つ。できるだけ同じ場所にとどまらない方がいい。それが今俺らにできる最大限の自衛だ。もしも、ここに敵が大勢攻めてきた時、俺自身お前を守りながら戦うのは厳しいだろうからな。正直な話をすれば、1日泊まるのも惜しいくらいなんだ。」


絶命会の上である冬木に見つかった。


奴らの足は本当に異常な程に早い。


だから、どんなに隠れたとしてもその場に何日も留まれば、すぐにでも見つかるだろう。


だからこそ、自衛のために動かなければならないのだ。


「…だから、明日にはここから経つ。それ食ったら寝ろ。明日は早いからな。」


「ん、わかった。」


こくっと頷くと、食べ終わった缶詰を置いて、ベッドの中に入っていった。


俺も食べ終わった缶を床に置いて、部屋の窓に近づいた。


そして、外を見る。


今のところは何か変化もない、か。


とりあえず、外からバレないように気をつけないとな…。


そう思って、カーテンを閉めたその時だった。


コンコンとノックの音がした。


「……だれだ…?」


念の為にこいつ叩き起しておこうか…。


いや、いいか。


何かあれば、大きな音で起こせばいいしな。

そう思って、俺は玄関まで行く。


そして、ドアの覗くところから外を覗き込んだ。


ドアの前には明らかに怪しい男が1人たっている。


真顔でずっとドアを眺めていた。


…こいつも十分不気味だが…なるほど。


見た感じ、もう既に囲まれているらしい。


今ここにいるので数十人ってところか…?


これはしてやられたな…。


まさか、もう既に手を打ってあるとは思わなかった。


こいつらは絶命会か。


そう確信した時だった。


ドアの前にいた男が腕を上げる。


それに気づいた俺はすぐにドアから離れた。


…と、同時にバゴォン!というけたたましいおとがなる。


「…!?え!?なに!?」


「…っ!神奈!荷物まとめておけ!」


「え?!あ、えっと……わかった…!」


戸惑いながらも、荷物を急いでまとめ始める神奈。


とりあえず、こいつらをどうにかしないとな。


…ったく、休む暇もねぇ。


「んで、お前らは絶命会、だよな?」


「もしそうだとして、お前はどうするんだ?」


「そりゃ、もちろん……殺るさ…!!」


瞬間に俺はそいつとの距離を一気に詰める。


所詮は、絶命会の手下か。


「弱え!」


「がハッ?!」


思い切りそいつの顔を掴んで、壁にぶつける。


すると、ドガァアン!という音と共に壁は崩れ落ちた。


「こんなもんを送ってくるたぁ…舐められたもんだな。まぁ、楽で逆にありがたいが…な!」


部屋から出れば、左右に何人かの男たちがいる。


そして、その中の1人が口を開いた。


「お前が永一 蓮とかいう頭の悪いやつの仲間か?黙って、お前といる女をこちらに引き渡せ。冬樹様が欲してるんだ。」


「……冬樹、ねぇ…。お前らこそ頭悪いぞ。あんな奴に操られるなんてな。」


「!。冬樹様の愚弄は許さん!しねぇ!」


男は形相を変えて襲いかかってきた。


「バカが…!!」


俺はその場にしゃがみこんで、男の攻撃を避ける。


そして、下から顎へのカウンターを放つとノックアウトした。


それが戦いの火蓋となったのか、一気に襲いかかってくる。


「ちっ!」


舌打ちをして一人一人捌いていく。


一人一人にそこまでの力はないせいか、さほど手こずりはしない。


さっきの男と同じように、カウンターを食らわせて沈めていった。



私がここを出る準備をし終わった頃には、もう全てが片付いていた。


床には、数十人くらいの男たちが倒れている。


「えっと…ごめんなさい、遅くなって。」


「問題ない。とりあえず、すぐここを出るぞ。絶命会の追っ手だ。思ったよりも早く攻め入ってきた。」


「わかった。」


やっぱり、この人は只者ではないらしい。


絶命会のメンバーをこうもあっさりと倒してしまうくらいの強さ…。


この人なら、1人でも絶命会を潰せるのではないだろうかと思ってしまう。


恐らく、この人の隣にいればそうそう危ない目には合わないだろう。


何かとこの人は私のことを悪い奴らから守ってくれるからだ。


口ではああ言っているが、私を守る理由があるのかもしれない。


その真相はこの人が言わなければ、明確にならない訳だが。


そんなこんなで、私たちは部屋のすぐ近くにあった下へと続く階段を降りていく。


…と、1回の広間に着いたあたりでカヲル君が止まった。


「うぶっ?!」


ドンと後ろにいた私は背中に突撃してしまう。


「こりゃ酷いな…。」


「いたた…。どうかしたの?」


「目を閉じておいた方がいいかもしれんぞ。死体だらけだ。」


「…大丈夫。死体なら何度も見たことあるもん。」


そうして、カヲル君の隣に立つ。


そこで目に入ったのは本当に酷い惨状だった。


前には1面血の海と言っていいくらいに真っ赤で、首が取れている死体や上半身から下がない死体。


中には原型のとどめていたいものまであった。


爆発したような感じだ。


とにかく、色々な死体が転がっていた。


たしかにこれは酷い。


…でも、自然と私の心は平然としていた。


きっと、それは昔に私が目の前で大切な人を失ったからだろう。


そして、今までにもたくさんの死人を見てきたからだろう。


だからこの惨状を見ても、何も思わないし、何も感じない。


慣れてしまった、ということだ。


こんなこと慣れたくはなかったのだけれど……。


「随分と肝が座っている。」


「こういうのは何度も見てるから。」


「そうか。」


そんなやり取りを交わして、血の海の中を進んでいく。


ぴちゃぴちゃと言う生々しい音と何度も嗅いだことのある死体特有の匂いが嗅覚を刺激してきた。


いつ嗅いでも、慣れない匂いだ。


そう思いながら、外へと繋がるドアに近づいたその時だった。


「た、助けてくれぇ!あいつが、あいつがァ…!!」


そう叫びながら、上の階へと繋がる階段から1人のやさぐれた男が走ってきた。


そして、その下にあった死体に躓いて倒れた。


「いてぇ……。ひ…!なんだこれ、なんだこれぇ!?」


自分の手を見て、周りを見て男は怯えた顔をし始める。


これが普通の反応なのだろう。


私やこの人はどうかしていると言うことだ。


「…なにがあっ……っ…!」


次の瞬間だった。


カヲル君が私のことを抱き抱えて、横に飛ぶ。


同時にドガシャァンという音とともにさっきのやさぐれた男がどこかに消えて、1本の図太い銀色の棒がそこには現れていた。


そして、ひとつの声が響く。


「よけ、られたかぁ…。」


ガンガンと言う足音を鳴らして、上から大きな男が出てくる。


その体は大きく、全てが銀色の金属でおおわれていた。


…戦闘経験のない私でもわかった。


こいつは、カヲル君と同じように強いってことくらい。


この人も絶命会なのだろう。


「にしても全くだ。ここら辺にはそれなりにでも強いやつはおらんのかね、お前みたいに。つまらん。つまらなさすぎる。」


ゴクリとつい息を飲んでしまう。


これは、下手をすればカヲル君と私2人とも殺されてしまうのではないかと思う。


それくらいの威圧が…そこにはあった。

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