3話 絶命会
「…また、ここか。」
私はそこで目を覚ました。
ここは、たしかあの男の家。
ということは、私を助け出したのか。
「起きたな。また、逃げたりなんかしてくれるなよ。お陰様で、色々災難だったんだ。」
「…私はあなたに話すことなんかない。だから、私に質問なんてしてないで、早く殺して、他を当たって見たら?。」
「それは、どうだろうな。別にお前に決められる筋合いはない。全ては俺が決める。」
「…くっ…!」
だめだ。
こいつは私のことを殺す気は今はないということか…。
私は殺される覚悟なんてとうにできている。
だから、死ぬことに別に恐怖なんてない。
未練があるとするなら、お姉ちゃんへの謝罪と彼への謝罪だ。
この二人には散々助けてもらったのに、こんなところで捕まってしまった。
2人は私のせいで死んでしまったのに。
こいつが早く殺してくれれば謝れるのに。
きっと、下手な挑発をしてもあまり意味なんてないことは分かる。
こいつは私のことを殺そうとなんて考えていない。
拷問でもして聞き出すつもりだろうか?
「さて、質問を始めようか…。とおもったが、まずはその髪の毛どうにかしてぇな…。」
「は?」
私のその声を無視して、男は棚の方に向かって、ハサミを取ってくる。
「ちょ、何しようとしてるの…。」
「黙ってろ。動いたら失敗する。」
そう言って、無理矢理顔を前へ向けられる。
ほんとになんなんだ、この人は。
何がしたいのかほんとに分からない。
少し沈黙に包まれる。
そして、先に男が口を開いた。
「…お前、絶命会っていう組織を知っているか?」
「ぜつ、めいかい?」
「その様子だと知らなさそうだな。まぁ、いわばこのスラム街を作った張本人とも言える組織。それが絶命会。お前もあったことがあるんじゃないのか?姉が連れていかれた時に。」
「?!、なんでそれを…。」
私は言った覚えなんてない。
なんで、この男がそれを知っているかが謎だ。
「すまないな。俺も別に盗み聞きをするつもりはなかったんだが、な。初めてお前と会った日に聞こえたんだよ。」
「聞こえた?何を言って…。」
「俺もおまえと同じ能力を使ったってことだ。」
「なっ…」
そうなことあり得るのか…?
だってこの人は肉体強化系の能力のはずじゃなかったのか?
「誰がそんなことを言った?」
「…!…だって、あの動きは…。」
「残念だが…俺は身体能力を上げる能力なんてものは持ったことないんだ。」
身体能力をあげる能力が…ないだって?
「じゃぁ!あの動きはどう説明するの?まさか、純粋な身体能力とでも言うつもり?そんなこと、有り得るわけが…。」
「さてな。俺はこれ以上は何も言う気は無い。
あとは自分の想像力に頼るんだな。」
そう言いながら、黙々とまた髪を切り始める。
さっきからなんでこの人は私の髪の毛を切ってるんだ?
そこが本当に意味がわからない。
そんなことを考えていると、今度は彼から話を始めてきた。
「さっき、絶命会の話をしたのは覚えているよな。」
「…うん、覚えているけど何?。」
「さっきも言った通り、スラム街を作り出したのは紛れもなく絶命会だ。だが、何故絶命会が人を攫うかわかるか?。」
「なぜってそれは、仲間を増やすため、じゃないの?。」
私がそう言うと、彼はまた髪を切る手を止めた。
「そうだな。それが大半の理由だ。じゃぁ、なんであいつらは仲間を集めていると思う。…実はな。あの絶命会っていう組織はかなり昔からあったんだ。しかも、昔は人員もちゃんと揃っていた。」
「昔から、あったの?。」
昔からあって、しかも人員はちゃんといるのに今になってどうして人員を?
そんな人を集めたってまとめるのが面倒なだけじゃ…。
そう考えていると、彼は次にこう告げた。
「答えは簡単だ。絶命会は潰されているんだよ、1度な。」
「潰されてる?どうして?どこに潰されたの?。」
「…このスラム街とは別の、街が北の方にあってな。そこには、警察っていう組織がある。もちろん、その街は、法も秩序もちゃんとある。そこの街の警察が1度絶命会を潰してるんだ。まぁ、完全には潰れてなかったようだがな。」
北の方にある、スラム街とは全く違う街…。
法も秩序も、ある…。
この人の言うとおり、本当にそんな街があるなら、見てみたい。
…でも今はそんなことはどうでもいい。
「それで、その潰されたのが理由で今、絶命会は人を集めてるって言うこと?。」
「まぁ、それが大部分だろう。だから、今急速にスラム街が増えている。奴らが変に暴れたりするせいでな。」
言って、また髪の毛を切り始めた。
1度絶命会を潰している組織。
そんな組織があるなら、そこに頼みに行けばもしかしたらお姉ちゃんを取り返せるかもしれない…。
「あまり、下手なことは考えるものじゃないぞ。ここから、北の方にある警察の本部は遠いい。普通の人間が歩けるような距離じゃない。もし仮に行けたとしても、行けるだけで中には入れん。警察のヤツらはスラム街から来た人間のいうことなんて耳にもいれんだろうからな。」
「そんなの、行ってみないと分からないでしょ。」
「行ってみなくてもそんなことは分かる。スラム街は奴らからすれば無法地帯で危険な場所そのものだ。そんなところから来た奴らの証言なんて、嘘か本当かなんて分からない。…偏見や差別もあるからほぼ絶対に信じられないさ。」
「…………。」
何も言うことが出来ない。
私は外の世界について詳しいわけではないけど。
だから、彼の言っていることが本当か嘘かなんて分からないが、もしもその北側の人間で私があるならば、あまりスラム街の人を信用出来ないと思う。
現に今も彼のことを信じられずにいる。
誰だって、初めて見る人や物に警戒したりするのは当たり前だ。
きっと、彼の言うことが正しければそういうことなのだ。
スラム街の人々のことが、怖いのだ。
だから、警戒してスラム街の人々の言葉を信じないのだと思う。
…だとしても…私はこんなところでずっと留まっている暇なんてないのだ。
なんなら、今すぐにでもお姉ちゃんを救いに行きたいが、残念なことに私に能力は一つしかないのだ。
しかも、戦闘向きじゃない。
そんな私が助けに行っても、ただ無駄死にするだけだ。
「…全く…。何を勘違いしているのかは知らんが、奴ら警察の人間が俺らのことが怖い?そんなわけないだろう。奴らは一応はあちら側の街の戦闘面でのエリート集団だ。まぁ、唯一のか。だから、こちら側のことについても詳しいし、俺らの危険さも理解している。しかも、1度は絶命会を潰した組織だ。俺らのことが怖いわけないだろう。やろうと思えば全勢力で俺らのことを潰せるだろうな。…そんなヤツらが俺らのことを怖がるわけが無い。さっきも言った通り、あちら側の街では俺らスラムの人間は差別の対象だ。だから、奴らに言っても聞く耳を持っちゃくれない。それどころか、痛い目を見る可能性もある。」
「差別の対象…。」
「そうだ、何度も言うが奴らからすれば、俺らスラム街の人間は危険で野蛮で、こっちの世界に住める相応しい人間じゃない。そんな差別をしてくる。それが今の現状で現実だ。だから、あまり下手なことをしない方が身のためだ。」
そうして、男はハサミをおいてぱっぱっとほろう。
「出来たぞ。」
そう言って彼は、ぱっぱっと髪の毛をほろった後鏡を手渡してきた。
「どうだ?まぁまぁ上手くいっただろ。」
「…どうして…この切り方…。」
綺麗なボブ。
たまたまかもしれないが…私が好きな適度な短さで切られていた。
この切り方は、彼にしかお願いしたことがないのに。
…気になった私はその彼の名前を口にする。
「…永一 蓮。この名前の人の事、知ってる?」
「ん?そんなやつ知らねぇな。お前の兄弟かなんかか?」
「そう、だよね。ごめん。」
正直な話言ってしまえば、さっきより今この人がとても怪しく見えてしまっている。
本当に知らないのか。
それも怪しい。
あの時、彼は死んだ。
あの爆発に巻き込まれてしまった。
死体だってあった。
でも、もしもそれが能力で作り出した何かだとしたら…?
そういう能力を彼が持っていたとしたら、死体を作り出していなくなるなんてことは容易いことだ。
だとしたら、生きている可能性がある。
でも、それをする理由は?
それを考え出すと沼だ。
だが…。
その真実をこの人は知っているかもしれない。
この人と私は関わりが無いに等しい。
なのに赤の他人である私のことを何度も助け出した。
その理由はなんなのか。
分からないが、何かを知ってるのはたしか。
「…。」
この人を信用する訳では無い。
でも、私が私のために、真実を知るためにこの人から真実を聞き出す他ない。
「おい。」
「なに…?」
その男の呼びに答える。
「飯を作っておいた、勝手に食ってろ。その後のことは知らん。勝手にどこにでも行くといい。」
「以外に冷めてるんだね。私のことを何度も助けたくせに。」
「冷めてる?別に俺はお前を助けたくて助けてるんじゃない。あくまで情報を聞き出すために助け出しただけだ。俺の目的を達成するための行動だよ全て。」
ふーんと私は言う。
この人の目的は絶命会を倒すこと。
それなら別に私に固執する必要なんて無いはずだ。
他にも被害にあってる人はいる。
その中で私だけにしか聞けない情報源なんてないはずなのだ。
理にかなってるようで、かなっていない。
「ま、それならそれでいいや。私も勝手にするよ。…君について行って、私は真実を確かめる。」
「…なに?」
「だから言ってるでしょ?私は君について行く。私の勝手でしょ?あなたが勝手にしろって言ったんだもの。それに、この世界で一人で生きていこうとしたって、私には生きるすべは無いもの。自分を自衛するための能力がない。だから、一人で行動して危険な目に合うくらいなら、あなたと共に行動した方が安全。」
「ふざけるな。お前がいても邪魔なだけだ。着いてくることは認めねぇよ。」
「あら、どうして?私の勝手にしていいんじゃなかったっけ?。私の人生をあなたに決められる必要ないもん。」
はぁとその男の人はため息をもらす。
別に勝手にするのだから別に問題は無いと思うのだけど。
「お前は自分が何を言っているのかわかっているのか?俺に着いていくということは、絶命会と戦うことになるってことだ。それに、俺がお前のことを殺すかもしれないんだぞ?そんなあってまもない信用できないやつについて行くなんて自殺行為だろう。」
「それは私のことを心配してくれてるのかな。それとも、邪魔をするなって言いたいの?大丈夫だよ。私はあなたの邪魔にはならない。できるだけ戦いには参戦しない。バレないように身を隠すよ。」
「…っ!ふざける!能力もろくに使えない女が図に乗るのもいい加減にしろ!!隠れるだ?そんなことをしたって意味なんてないんだよ!隠れているやつを感知できるような、そういう能力を持つやつもいるかもしれないだろ!そんなことも分からないのか!?」
「何を怒ってるのさ。私はあくまで私のために行動しようとしてるだけだよ?それに何度も言うけど、私は一人でいたって結局危険なんだよ。だから、私は君と一緒に行動して真実を確かめた方が余程安全で有意義だと思った。別に見つかって捕まっても助けなくていいよ。私が盾にされたりしたら、そのまま殺したっていい。それくらいの覚悟できてるもん。」
そう言うと、男は頭を押えてまたため息をこぼした。
「……もう勝手にしろ。俺はお前がどうなっても知らんからな。俺はお前を助けない。」
「うん、そーする。あ、でもちょっと待って。」
「今度はなんだ…。」
「あなたの名前だけ聞かせてよ。あなたとか君とか言うのは少しあれだからさ。」
男は少し黙り込む。
…が、少したってこう口に出した。
「紗乃 カオルだ。どうせ死ぬかもしれんのにこんなこと聞いて何になるのがな。」
「私は死なないよ。そういう自信がある。それに死ねない。お姉ちゃん達のために。」
「……そうかよ。」
言い捨てて、カオル君は玄関へと向かっていった。
何度も言うようにあの人は私たちの何かを知っている。
それが何なのかは分からないが、私が真実を知るために大切なことを知っているというのは確信に近いものがあった。
根拠はないが、あるような気がした。
だからこそ、私も彼のことを信用していないがついて行くしかない。
諦められない。
私の生きる意味をまた見つけることが出来るかもしれないから。
◇
面倒なことになった。
あの女が着いてくると言うとは思わなかった。
あんなに俺の事を疑って、まさか着いてくるなんて言ってくるとは…。
痛恨のミスだ。
少なくともまだバレてはいない。
だが、バレるのも時間の問題か…。
疑われているのは確かだからな。
運良く今回は何とかなったって感じだし。
これも全てあいつが俺なんかにこんな仕事を任せるからこうなったんだ。
バレても保証はしない約束だからまぁいいが…。
受けた仕事は仕事だから最後まで諦めてはならないが、どう振り切ったらいい。
なんていえばあの女はいなくなる?
あの男は、俺が生きていることをあいつは知ってはいけないし、一緒にいてもならないと言っていた。
理由は分からないが…。
それなのにこの仕事を任せてきた。
俺としてはあいつと一緒に行動をして戦闘を行うのはきついものがある。
あの女は、自分は戦闘向きの能力は使えないと自分で言っていた。
ということは、自分の身を守る手段は隠れるくらいしかないのだ。
そんなことをしてもバレる時はある。
囲まれたら終わりだしな。
それに、俺だって特別強いというわけじゃないんだ。
だから、あの女を守りながら戦うのには無理がある。
だからこそ、なぜ俺にこの仕事をさせたのかが本当に分からない。
きっとあの雇い主は、俺なんかよりも強いはずなんだ。
あいつなら、自分であの女を守れるはずなんだ。
それなのにそれをしない理由が分からない。
本当に、改めてこの仕事を引き受けなければ良かったと思う。
そう思いながら、玄関の物置部屋のドアを開ける。
「…よぉ、いい気味だな。お前ら。」
「チッ。こんなことして、冬樹さんが黙ってると思うなよ、クソ野郎。」
「くははは。そらこえーな。あいつにそんな度胸あるのかな?楽しみに待ってるよその時を。」
「…っ!ふざけやがって!」
ガタガタとその椅子で暴れ始める。
だが、そんなことをしても無駄だ。
「残念だったな。そのロープ一応特殊なんだよ。能力を使えないから、暴れることしか出来んだろう?」
「くそがぁ!取り消せ!」
「おっと、そうだったな。あれはお前らにとっての神様なんだもんな。恐ろしい宗教だよ。」
そう言いながら俺は近くにあった椅子に腰かける。
「そんなお前らに俺からひとついいことを教えてやろう。絶命会のトップ冬樹についてだ。」
「いいことだと?ふざけるのも大概に…!」
「あいつはお前らが思っているようなやつじゃない。別にお前らが何者かに捕まっても助けようとなんてしないんだ。そのままそいつ諸共殺す。それがあいつ、橋本冬樹という男だ。要はお前らは所詮はあいつにとってのいい捨て駒だ。そうやってあいつを敬って、崇拝するんだもんな。なんでも言う事きくやつなんてだれでもいい駒だと思うよ。もちろん、任務に失敗してもそれは変わらない。役に立たなかったら殺される。」
「何をそんな根拠もないことを言ってやがる!冬樹さんがそんなことするはずないだろーが!あの人は俺らに言ってくれたんだ!俺らに何かあったらすぐ駆けつけて助けるからねって!あの人はこんな俺らのことを邪魔になんかしないで助けるって言ってくれたんだ!」
そんなそいつの叫びに俺はつい笑ってしまった。
「ぶははは!これは傑作だな!よくもあいつもこんなのを作り出したもんだよ。」
絶対助けてやるってか。
よくもそんな嘘をコロコロ言えるもんだな本当に。
にしても、根拠もないことを抜かすな…か。
「根拠ならもちろんあるんだよなぁ。そもそもとして、そんな嘘俺でもつける。…実際にあいつに襲われたことがあってな。その時に襲った手口がお前らみたいな人形爆発さ。俺にお前らみたいなのを向かわせて近距離で爆破するやり口だ。あいつは残忍だぞ。いい加減に現実を見ろよ。」
「そんな事有り得るわけが、ないだろうが!」
そいつがそう言った瞬間に周りのものがカタカタと動き始める。
刹那、僕に向かって飛んできた。
…少しはやるな、こいつ。
火事場の馬鹿力ってやつか?
「だが…弱い。」
その飛んできたものを全て弾く。
確かにサイコキネシスは、使い方によってはかなりの強さを発揮させる。
だがそれは、使用者も考えて使わなければ発揮されない。
今のこいつの使い方は間違っている。
使いこなせていないからこそ、弱いのだ。
「お前みたいな実力のやつを送ってきたってことは…まぁそういうことだよなぁ。」
「今の全部、弾いたのか…?なんなんだよ、お前…!」
「なんなんだろうなぁ、俺は。ひとつ言えるのは、スラム街でお前らに怯えるか弱い子犬だよ。」
同時にガシッとそいつの頭をつかみあげる。
「さて、答えてもらおうか。お前らが今人員を集めて何をする気なのか。そして、アジトの場所。全部教えやがれ。」
「そんなこと…言えるわけが…。」
「このまま頭握りつぶされて死ぬのと、答えて開放されるの、どっちがいいんだよ。」
グググッと頭を掴む力を強めていく。
それにそいつは苦悶の声を漏らした。
「ぐあぁ…あ、あの方は…。」
そうして、そいつが言いかけた時だった。
左右にいるヤツらが苦しみ出した。
「ぐ、あぁぁぁあ?!」
「!。おい、どうした?」
「ぐるしい、たすけ…」
「チッ!どうしたってんだよ…!」
その椅子から立ち上がった瞬間の事だった。
真ん中の男の雰囲気が変わる。
「…死ね、永一 蓮。僕にとって、君は邪魔な存在だ。」
「…やりやがったな…冬樹!」
そして、真ん中の男は白目を向く。
それと同時に僕は物置のドアを蹴破って出た。
これは、まずい…!
すぐに走り出す。
そうして、リビングにつくや否やそこにいる女を担ぎ上げて窓を突破って飛び出した。
「ちょ…え?!なに?!」
「すぐに分かる…!耳塞いでた方がいいぞ!」
俺がそう言うと、女は耳を塞ぐ。
その次の瞬間だった。
部屋が光れば、すぐに爆発が起きた。
「…っ!ここはもうダメだな…。」
まさか、こんな早く見つかるとは思っていなかった。
どうして、見つかった。
隠れるのは完璧だったはずなんだがな。
まぁいい。
いつかは捨てる拠点だったんだ。
少し早まったくらいでぐうたら言ってたら埒が明かない。
にしても、橋本冬樹…。
昔と同じやり口だな。
人間人形を使った、爆弾。
人員を集めているのも、これを作るためなんだろうな。
だが、やつの能力はここまで広範囲で使えただろうか?
恐らくやつはこの近辺にはいない。
もっととおい場所にいるはずだ。
あいつは1度あの男に負けているわけだから、その仲間である俺の近くには近寄れはしないだろう。
どれだけの実力か分からないうちはな。
少しは考えているのだろう。
これを見るにやつはかなり鍛えたのだろう、この能力を。
影から確実に相手を仕留めるために。
爆発の威力もそれなりに上がっている。
こんな時限爆弾が、絶命会には五万といるわけか。
こんなもんがこのスラム街やあちらの世界で全て爆発してみろ。
とんでもないことになるのは間違いない。
今奴らのアジトに攻め込んだり、俺のところに攻めてこられれば、俺は確実に負けるのは間違いないだろう。
まぁそもそもとして…。
「人間のやることじゃねぇよ、ほんとに。」
言いながら、そのまま走り出す。
さて…本題に入ろうか。
俺の居場所がバレた理由は大方予想は着いている。
監視役でも送り込んできたのだろう。
その監視役の目からこちらを見ているはずだ。
だから、その監視役から逃れるのが最優先だ。
これからやることにいちいち邪魔を入れないためにもだ。
…と、そんなことを考えていると女がこんなことを言ってきた。
「いつまで私を担いでるの?」
その質問の返答に僕は、こう答えるのだった。
「…それなりに遠くに行ってからだ。」
◇
とある組織。
そこに彼はいた。
「…逃げられたか。いいてだと思ったんだけどなぁ。本当、彼も彼の仲間もどうしてこうも上手く逃げられるんだろうか。」
言いながら、立ち上がる。
そして、窓の外を見ながら片手に持っていたワイングラスを口に運んだ。
「まぁ、逃げられても僕は君のことを必ず殺しにいく。今の僕は昔の僕とは違うよ、永一蓮。君のことを殺せるだけの力を手に入れたからね。」
「……また、何を1人でブツブツ喋ってるのよ、気持ち悪い。」
そんな罵倒が彼の後方から聞こえる。
「んやぁ、そんなに言わないでくれよ、飛鳥ちゃん。」
彼が振り返れば、そこには銀髪の短い髪をした女がいた。
「そのちゃん付けいい加減にやめてもらえる?キモイわ。」
「うえぇ、なぁんでそんなこと言うのさぁ。僕は君のことは好きだよ?恋人として。」
「殺すわよ?」
「あはは、悪かったよ。でも恋人って言うのは本当だよ?」
冬樹はニコッとそこで笑う。
対して、飛鳥という女は男を睨んでいた。
「こんな茶番はどうでもいいのよ。結局どうなったわけ?うちの妹の件。」
「んー?もちろん、見つけたよ。ただ、あの男はそれを見越した上で、この状況を抜け出せるような男をつけてた。やられたよ、彼には。」
「当たり前でしょ。蓮はどんな時も全てを知った上で行動するからね。でも、その仲間というのは少し気になるわね。蓮に仲間なんていたかしら?あの子は昔からずっと私達といたから友達とかなんて作る暇なかったはずでしょ?」
「さーてね。あのお仲間が何者かは正直なところ分からない。だけど、結局彼を殺してでも君の妹を奪ってあげるから、どうでもいいんだよね。正体とかは。」
そうして、冬樹はワインをぐいっと飲み干す。
「さて、そろそろ妹の方もそうだけれど、こちらも動き出そうか。警察のある町を潰す計画を始めよう。」
「…一応、こっちもそれなりに人員は集まってるわけだし、大丈夫よ。」
ばっと飛鳥の後ろに何人かの者が現れた。
「君らには、働いてもらうよ。幹部として頼りにしてる。………覚悟しろよ、永一蓮。そして、叶恵。僕はお前らを殺して、全てを手に入れる。」
静かに、そう彼は言うのだった。