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なぞ、なぞ?

作者: AIAMAAI

 日曜日の朝の散歩は平日の朝の通学とは全く異なる。真逆と言っても過言ではあるまい。道を歩く通行人の姿は疎らで、その上、何時も背負っているランドセルもない所為なのか、実に身軽で足取り軽く、一丁スキップでも打ち噛ましてやろうかなって気分にもなろうってもんだ。

 ♪ スキップスキップランランラン ♪

アニメ:1986年『メイプルタウン物語』

挿入歌:スキップの歌

作詞・作曲:小坂明子

スキップスキップランランラン

お日様が呼んでるよ

スキップスキップランランラン

ゆかいな気分

みんなで歌おう

声をそろえて

ワンワン、ワンワン

「?」

 突然、犬の鳴き声がどこからともなく微かに聞こえてきた。そこで耳を澄ましてよくよく聞いてみると、

ニャニャ、ニャニャ

「?」

 犬ではなく、猫の鳴き声だった。犬と猫。と、言えば?

「!」

 瞬時に閃いて、

「じゅんぎ君!」

と叫んで、振り返った。

「え?」

だがそこに、じゅんぎ君の姿はなかった。

「ええ?」

 そこにいたのは、置物のように横並びにちょこんとお座りしている、じゅんぎ君の飼犬と飼猫の二匹だった。それはまるで招き犬と招き猫のようであった。良い事がありそうな予感がするようなしなような。

 じゅんぎ君の飼犬はリードを着けていなかった。そのせいなのか、その場から動こうとはしなかった。おいでと呼びかけてもピクリともしなかった。2匹は頑なにそこから動こうとはしなかったのだ。押しても駄目なら引いてみよう。という訳でこちらからそちらへと出向いた。

 近づくにつれてある事に気が付いた。じゅんぎ君の飼犬の口に茶封筒が咥えられていることに。咄嗟に手を差し出してはみたが、2匹共にその手を避けるように眼を逸らした。で、思わず呟いた。

「じゅんぎ君に、そっくりや」

「ハックション!」

と、じゅんぎ君がくしゃみをした。

 同時に、じゅんぎ君の言葉を思い出した。

「こういう時にはやな、おやつをちらつかせたらええねん」

 瞬間、両腕を胸元でクロスさせて、右手を左のポッケに左手を右のポッケに突っ込んで、瞬時に柄を掴んだ二刀流侍のようにシャキッと目にも留まらぬ早業でポケットから犬用と猫用のおやつを取り出した。瞬く間に、じゅんぎ君の飼犬の口が開いて茶封筒が地面にポトリと落下した。

 茶舞踏を開けると、その中に一枚の便箋が入っていた。それを取り出して開くと、

『なぞ、なぞ?』

という文字だけが書かれてあった。

 それはそれは何とも言いようのないとんでもなく変梃な、

”メッセージ”

ではあったが、早急にかつ迅速に推理を開始することとした。

「まず、なぞとはなんぞや?」

 このなんぞや?を省略すると、なぞ?となる。これを略語という。略語とは、語形の一部を省いて簡略にした語。だから何?と問われたら、別に何もとしか答えようがない。次に、

「なぞ、なぞ?を縮めるとなぞなぞとなる」

 『なぞなぞ』とは伝統的な言葉遊びの一つで、「なぞ」には「謎」の意味があり、謎解きをしながら楽しく遊ぶ。

 平安中期の『枕草子』に、左右に分かれて謎を出す「なぞなぞあはせ」という遊戯が残されている。

 中世以降は単に「なぞ」と言うようになり、室町時代には謎を集めた「なぞだて」の本も多い。

 「なそたて」の巻末の花押に、1516年(永正13年)成立し194問を収録したと記されている。後奈良天皇が皇子の時に書き記したとされているが、その父の後柏原天皇かもしれないとの意見もある。

 江戸時代に流行した「判じ絵」は、なぞなぞの一種で、「なぞなぞ帳」と呼ばれる謎解きの書籍や、寺子屋での「なぞなぞ教室」が盛んに行われていた。遊び方は至って簡単。問題の判じ絵をなぞなぞ帳に描いて、それを互いに出し合って問題の判じ絵は何を表わしているのかを当てるというもの。

 けれども、メッセージにはそれらしきなぞなぞの問題は何も書かれていなかった。故に、どんなに考えを巡らしてみてもその思考力が鈍ってしまったのか、何も分からず何も浮かばず仕舞いだった。

 推理を推し進めるうちに、1つの疑問が湧き起こってきた。どうしてこの場所にいるのが、じゅんぎ君本人ではなく、じゅんぎ君の飼犬と飼猫なのだろうか。もしやこれが、俗に言うところのなぞなぞの問題であり、ヒントなのではないのだろうか、と思った。で、取り敢えずそれを実行してみることにした。

 2匹に案内させようと試みたが、じゅんぎ君の飼犬と飼猫は、長~い時間経過に飽き飽きしてしまったようで、何時の間にやら招き犬と招き猫からへそ天と化し爆睡していた。

 その愛らしい寝姿を起こしたくなくて、抜き足差し足忍び足でその場から立ち去り、じゅんぎ君を捜すこととした。足取り軽く、

スキップスキップ

ワンワンワン

スキップスキップ

ニャニャニャ

「?」

 立ち止まって振り返ると、犬用のハーネスと猫用のハーネスを装着したじゅんぎ君の飼犬と飼猫の2匹が駆け寄ってきて、両側に立ち並んだ。

 足を一歩踏み出して、はたと気が付いた。ノーリードで放し飼いであることに。猫は兎も角も、犬の散歩ではご法度、禁止事項だ。どうしたものかと思い煩っていると、じゅんぎ君の飼犬が目の前に進んできて立ち止まった。

「あッ」

 ハーネスに付いたポーチを開けると、その中に伸縮性リードが入っていた。

「さすが、じゅんぎ君や」

「ハ~クション」

 じゅんぎ君が2度目のくしゃみをした。1度目のくしゃみは悪い噂で、2度目のくしゃみは良い噂。じゅんぎ君は今頃きってお一人ほくそ笑んでいることであろう。

 ハーネスにリードを着けて、あっちこっちと動き回りそうなじゅんぎ君の飼猫を小脇に抱え、見様見真似で覚えたじゅんぎ君の遣り方で、持ち手部分のボタンを押してリードの長さをロックし、歩き出したじゅんぎ君の飼犬に案内して貰った。

 暫く歩いて行くと、前方にじゅんぎ君を発見。後ろ姿ではあるが絶対に見間違うであろう筈がない。何故なら、親しければ親しい程に、例えそれが後ろ姿であったとしてもすぐに識別できる、と誰かが言っていたからだ。それが誰であったかは忘れてしまったけれども。

 そこで一案。じゅんぎ君を驚かせてやろうと奮い立ち、足音を忍ばせてゆっくりゆっくりと近寄り、目前に迫ってきた背中に向かって両手を差し出してその背をえいやとばかりに押した。

「えッ!」

と、振り返った。

「ええッ!!?」

と、絶叫した。そして咄嗟に思った。穴があったら、入りたいっ。絶対的な正しさなんてものはない。誰にでも間違いというものは起こりうるものである。

 ”ごめんなさい”して、唖然、呆然、自失でその後姿を見送っていると、その後方からこちらに向かってやって来る者がいた。今度こそは絶対的に見間違える筈はない。だってだって、後姿ではく真正面を向いているのだから。

「じゅんぎ君!」

と駆け寄って、じゅんぎ君の目の前に便箋を課さずや否や、間を空けずに即座に叫んだ。

「ピンポン!」

「正解なん?」

「ああ、正解や」

 呆気に取られてポカンとしている顔に向かって、じゅんぎ君が矢継ぎ早に便箋に書かれた

『なぞ、なぞ?』

の”メッセージ”についての詳細を説明し始めた。長~く長~くなりそうなので

「手っ取り早く」

「そやからな」

「短く」

「で」

「手短に」

「というわけや」

  じゅんぎ君の説明をかいつまんで言うと、要するに、メッセージを推理して様相どおりに実行したのは正解だったというわけだ。

「賢い」

 じゅんぎ君に言われてドヤ顔で空を見上げていたら、

「ほんまに、賢いな」

「何度もいわんかてわかってるがな」

と見たら、じゅんぎ君はじゅんぎ君の飼犬と飼猫の2匹の全身を愛撫しながら只管褒めちぎっていた。

「明日、クラスの皆に自慢したんねん」

「そういうことやったんや」

 じゅんぎ君の飼犬と飼猫の賢さを自慢するためだけに、ただ、それだけのために、じゅんぎ君に利用されただけだったのだ。

「じゅんぎ君」

「何や?」

「なぞなぞの問題を出すさかいに答えてや」

「うん、ええで」

 そこで、江戸っ子が嵌まったなぞなぞ帳の判じ絵を真似て、目と目の両端を指で押さえて真横に引き伸ばした。

「何を表わしているのか。答えは?」

「数字の一。真一文字や」

「ぶ、ぶ~ッ!」

「ちゃうのんか?」

「ちゃう。正解は、じゅんぎ君の目や」

「なんでやねん!」

 結局、いつものようにじゅんぎ君との追い駆けっこと相成った。

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