表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

戦車

 腹が立つ。


 彼を馬鹿にして嘲笑う連中も、そんな奴らに何も言い返してやらない彼自身にも。


 彼には何年も前から無謀ともいえる夢があって、その夢を叶えるために人知れず努力し、人知れず苦悩し、人知れずちょっぴり涙を流す事があるのをわたしは知っている。


 ……〝人知れず〟なのに何でわたしが知っているかって?

 細かい事は気にしなくていいのよ。


 今日も彼を馬鹿にした奴らを呪う。「痛いヤツだな」とほざいたチビデブ野郎は切れ痔になれ。「あたしああいう男って無理」と嗤った深海魚顔の勘違いブスは、胸がしぼんでその分の脂肪が腹まわりに付いちまえ。


 ずっと前からわたしは信じている。

 たとえウン十年掛かったって、彼が必ず夢を叶えるって。


 ずっと前からわたしは知っている。

 彼が何も言い返さないのは、気弱だからではなく、馬鹿共をいちいち相手にするのが面倒なだけだという事を。

 表向きは平静を保ちながらも、その内面は闘志と復讐心でメラメラと燃え上がっているって事を。



 そしてあっという間に月日は流れ……


 とうとう!


 ついに!


 彼は夢を叶えてみせた!


 やっほい!


 わたしは自分の事のように大喜び。

 勿論、一番喜んでいたのは彼自身だけど、彼はその感情をあまり表には出さず、いつもの彼らしく、人知れず喜びを爆発させていた。


……〝人知れず〟なのに何でわたしが知っているかって?

 だから細かい事は気にしなくていいのよ。


 彼が夢を叶えても、まだ馬鹿にする連中がいた。「どうせ長続きしない、売れやしない」とか何とかってね。大海原に沈めてやろうか。


 コロッと態度を変えた連中もいた。「いつかやるって信じていた」「前々から応援していた」「努力する姿が輝いていた」……云々。大嘘吐き共め。針千本じゃ済まさねえよ。

 

 彼だってきっと同じ思いに違いない。けれどあの性格だから、そんな奴らにも今まで通りに接してあげちゃうんだろうな。優し過ぎるよ、あなたは。


 ……と思いきや、彼は奴らを切り捨てた。バッサリと切り捨てた。「友人? 知人? あんたたちの事なんて知りませんよ」だって。

 切り捨てられた奴らは呆然としていたけど、そのうち捨て台詞を吐いて去って行った……と見せかけて彼の活躍を逐一チェックするようになるか、往生際悪く必死に擦り寄ろうとするようになった。


 これから先、彼はもっともっと活躍して、やがては完全に、わたしの手の届かない遠い存在になってしまうのだろう。


 それでも構わない。彼が暗い地の底から、眩しいくらいに光が差し、花が咲き乱れる地上へと這い上がる過程を、じっくり見守れたんだから。


 これからも色々あるかもしれないけど、頑張ってほしい。

 わたしが心配するまでもないか。彼ならきっと大丈夫。


 

 ……あら? 向こうからやって来るの……彼だわ、彼。どうしてこんな辺鄙な田舎町に?

 こっちに小さく手を振ってる。まさかわたしに用が? ううん、まさかね。


 久し振りね。どうしたの、こんな所で。


 え、わたしに会いに? どうしてまた。


 ……この赤い薔薇の花束は?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ