教皇
「これで何度目なの、君は」
「何度注意してもわからないようじゃ、猿以下だな」
「何故君はそんなに反抗的なんだね」
「今後も続くようなら、親御さんも呼ばなきゃならないな!」
クッッソウゼエな先公共が!!
ちょっとばかし遅刻しただけで指導室。
ちょっとばかし髪を染めたり伸ばしただけで指導室。
ちょっとばかし殴り合いしただけで指導室。
ちょっとばかし……ああ、もういい。思い出すだけで癪だ。
アスファルトの石ころを思い切り蹴飛ばす。思った程飛ばない。余計にムカつく。
もう一回──いや、そんなもんじゃ足りねえ。何かをぶっ壊してやりてえ。じゃねえとこの苛立ちは収まりそうにねえ。
「やあ」
俺の苛立ちを更に増幅させる奴が声を掛けてきた。
「……生徒会長様が何の用だ」
振り向いて睨み付けると、優等生君は一瞬傷付いたような表情を見せたが、何事もなかったかのように微笑んだ。
「一緒に帰ろうよ」
「はあ? 誰がお前と」
「絶対そう言うと思った」
「近寄るな。ウゼエ」
俺は早歩きでその場を去ろうとしたが、こいつは同じスピードで追い掛けて来た。
「纏わり付くな」
「一緒に帰るくらい、いいじゃないか」
「良くねえ。俺は嫌なんだよ。失せろ」
「今日は買い食いで呼び出されたんだって?」
俺は足を止め、もう一度こいつを睨み付けた。「だったら何だってんだ」
「別に何とも」優等生は生意気な笑みを浮かべた。
俺は舌打ちすると、再び早歩きで進んだ。今度は追い掛けて来ないようだ。賢明だな、お坊ちゃん。もしまた何か癪に障る事を言い出したら、多分俺はお前をぶん殴る。
「ただ……ちょっと羨ましいなって」
……
……は?
俺が振り向いた時には、走り去るあいつの姿がだいぶ小さくなっていた。
「期待通りだ。流石だね!」
「やっぱり君は、優良な学生の模範だな」
「どうしてそんなに頭良くて、しかもいい子なの?」
「あなたなら出来るわ。ママもパパも、期待しているのよ!」
どいつもこいつもイライラする。
テストでは常に上位。
大人の言う事は絶対に聞く。
規則・校則は、どんな些細な内容でも絶対に破らない。
周りの人間には優しく思いやりを。
ぼくだってちょっとくらい遅刻したい。何だったら丸一日サボりたい。
ぼくだって髪を染めたい。伸ばすのは……まあいいかな。
ぼくだって喧嘩したい。怪我はしたくないけれど。
ぼくだって……ああ。
アスファルトに転がっている缶を思い切り蹴飛ばす。音ばっかり大きいだけであまり飛ばない。
疲れた。
いつまで周囲の期待に応え続けなければならないのだろう。
いつになったら自由になれるのだろう。
そもそも自由って何だろう。
あの子が羨ましい。
どんなに怒られようが目の敵にされようが、自分の意思に忠実で、決して屈しないあの子が。
一度吹っ切れてしまえば、その先も楽になれるのだろうか。
周囲の期待を裏切るのって、快感だろうか。苦痛だろうか。
やった事ないからわかんないや。
今後あの子に聞いてみようかな。
簡単に教えてくれそうにはないけれども。