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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<魔剣士シルベール編>第4話「プディング」

 街に到着。冒険者の宿を捜し出し、一息つく。


2人でテーブルに着き、久しぶりのまともな食事を腹に詰め、ぼうっと、深く息をする。



 魔剣士シルベールと僧侶フェイトの旅の、ほんの一幕。


冒険者は多くの場合4人から6人ほどのパーティーを組むが、2人と言うのは珍しい。


大抵は夫婦かカップルだ。しかし、本当に2人ではキツイものがあるのでチームと組んだりする。


この2人も、当然カップルに見えている。特に囃し立てるような子供はいないが、特に男の方が人目を引く美しさであったこともあり、注目は集めているようだ。


フェイトも本来なら十分人目を集める美貌なのだが。本来なら。



 疲れ切り、部屋を取る。


「1部屋だな?1Gの安部屋と1,5Gのそこそこの部屋だ。どっちにする?」


「べ、別の部屋です。」


マスターは意外な顔をしたが、深くは追及しない。


シルベールは少々困った顔をして、財布をまさぐった。


「フェイト…3Sしかないんだが…。」


「ななななんで無いんですか?」


「金貨全部…オマエの<母さん>に渡して来たからなぁ…。途中で稼げると思って…。」


「…1,5Gの部屋を2人で…。」


フェイトはマスターにそう言った。


最初っからそう言えよ。マスターの顔にはそう書いてあった。



 この瞬間、フェイトの心に渦巻く。または去来する想い。


このヒト、本当にお金の概念が無い!


とは言え、<母さん>の寺院に寄付してくれたのは嬉しい!


ほぼ全額とか馬鹿だけど!


一緒の部屋になっちゃったけど!


知ってるけど!きっと何もない!このヒトは私を女と見ていない!


…以上、フェイトの胸をよぎる思い。



 そして、現実に何もないのであった。


2人は背中合わせに、やや広いベッドで眠ったが、フェイトが身の危険を感じる瞬間は一切無かった。


何かを期待するわけでは無いが、私はそれほどまでに魅力のないオンナなのであろうか。せめて、ドキドキしてくれないだろうか。


…わたしだけドキドキしてるの馬鹿みたいです。


オンナの子と一緒に寝るの慣れてるのかな?年の近いお姉さんとか。



 …まぁ、とにかく、疲れてぐっすり眠るシルベールはやはり子供っぽく見えた。


はて、元々何歳なんだろう。16、7に見えるけど。私17だし。ちょい下?


…翌朝、食事を取りながら何気なく聞いてみたところ。シルベールは15歳だった…。


もうじき16になるとは言うが…。


…2つも下だった…。なんだろう私。



 ――さて、2人は食事の後、宿に貼りだされた依頼を物色する。


「…2人で出来そうなヤツがいいな…」


「退治系ならなんでもできるさ。」


「それは軽く見過ぎだとオネエさんは思います。」


急に年上風が吹いて来た。


「オネエサンねえ…。ギルドのオネエサン位になってから言ってくれ。」


此処で言うシルベールの比較対象はシーフギルドのオネエサン達である。



 フェイトがむっとしてギルドって何と聞き出そうとした時。


賑やかな一団が、朝っぱらから酒場に入って来た。


「此処にいるラッキーな野郎ども。一杯ずつ、エールを奢る。ターキーも付けてだ!ロセントの外道魔術師、俺たちが見つけ出してブッ倒した!」



 5人組の、ベテラン風。ドワーフのタンク、剣士、盗賊、回復、魔術。バランスよく揃ってるらしい。


ロセントねえ。


2人は、その名をちらっと探す。<ロセント地方。行方不明多数。山賊野党のモノか一切原因は不明。情報元に50G、原因を退治又は逮捕したもの、800G>


800G。現在価値800万円。


「奢ってくれるらしい。座ろうぜ。オネエサン。」


フェイトは再び少々ふくれた。



 見るも無残な、現場だったぜ!ああ、飯食いながらで悪いが。


フレッシュゴーレムだな!気色悪い趣味の魔術師は困るぜ!


「食欲が…。」


「食っとけよ。死体もオーガも見て来ただろ。」


「そうだけど…。」



 男達の、ベテランたちの自慢話に、シルベールは興味無さそうだった。


フェイトは、嫌だけど耳に入って来た。ああ、嫌な性分だなぁ。



 …結局、2人はこの日も仕事にはありつけず、またまた同じ部屋で眠った。


勿論、何もない。もはや姉弟の様であった。



 ―――翌日、ようやく隊商の護衛と言う基本的な仕事を請け負い、2日かけて隣町へ。


そして何事も無く、2日かけてこの町へ帰って来た。別にこの街を起点にするつもりは無いのだが、シルベールの目指すゴールがアテンドルである事から、北へ向かっているのだ。


宿に着くなり、貼り紙を眺めた。


<ロセント地方。行方不明発生。先日退治された魔術師の地下迷宮に野党などが住み着いた可能性あり。原因を究明したもの、200G。退治又は捕縛したもの、500G。>


「空になった巣は、別の生き物がすぐに使う、か。早すぎないか?」


「ちょっと怖いね…。山賊だったらどうしよう。」


「斬るだけだ。受けるぞコレ。」


「え…うん、シルベールがイイなら…。」


「マスター。オレが受ける。」


マスターは、依頼書に判を押しながら、言う。


「俺たち、だろ。色男。」


「…そうだな。俺たちが受ける。」


フェイトは、少し微笑んだ。



 ―――アメルゼンの街から、4日ほど野営したところにその迷宮はあった。


マスターに書いて貰った頼りない地図ではあったが、フェイトの判断で見事に辿り着いた。


主を失った迷宮…いや、研究所なのかも知れないが、確かに不気味ではある。


2人も気がついては居た。ここに近くなるにつれ、生き物が少ないような気がするのだ。


「シルベール。無理しないで戻ろうね…。」


「…ああ。そうするか。」


シルベールはフェイトを見ながら言った。


決して、フェイトを軽んじているわけでは無いし、フェイトもそうは思っていない。


シルベールには、戦いの上でどうしてもクリアできない悩みがある。


だらかこそ、1人で冒険すら…何回かは。



 2人は、既に壊された扉をくぐる。


周囲には草木もなく、荒れ果てた土。


此処の魔術師を倒したベテラン勢は確かに一流だったらしいし、この壊れた石扉が魔法によるモノなのか魔物によるモノなのか、知る由もない。


「あのね、あの人たちが言うには、概ね真っすぐで、左右に扉があって、途中左に長い通路はあるけどゴミ捨て場だって言ってた。」


「…良く寝ないで聞いていたな。」


「聞こえちゃうんだもん。」


そしてよく覚えているものだ。素直に感心するが、言わなかった。


「もし、本当に山賊辺りが根城にしたなら、ゴミよりは部屋だろう。まっすぐ行ってみよう。俺の後ろにつけ。」


「うん。」



 扉を静かにくぐったところで、2人は足を止める。


耳を澄ます。


…大きな話し声などは聞こえない。足音も。


シルベールは小声で言う。


「山賊がこんなに静かにするか?」


「うん…、むしろ、アンデッドの方がありそうね…嫌だけど…。」



2人は、静かに進んだ。


「始めの方は食料庫と、材料庫だったって。」


「…メモでも取ったのか。」


「聞いてただけ…。」


「……」


それらしき部屋が通路の左右に見える。


右、食料があったのだろうか。空だ。左、人体をもてあそぶ魔術師の材料庫…あまり見たくもない何かがあったのかも知れない。空だ。綺麗に空だ。石壁しかない。


「で、次に左に長い通路が。行かなくていいかな。」


「ゴミなら無駄だろう…でも特に臭わないけどな。」


「…そうだね。空気が通っているのかな。」


魔術師なら、狭い通気口を開けるくらいできるだろう。一流なら。


一流なら、と言うが、ダンジョンを作れるような魔術師は皆一流だ。だからこそ、魔術師の作る迷宮は怖れられている。



 2人は更に、真っすぐ進んだ。


「えっと、この辺ではゴーレムとかと戦闘があったらしいよ。」


「オマエ本当に…。」


「ん?」


「いや。」


壊れた石のゴーレム…であっただろう残骸。ガーゴイルもある。


少し広くなっており、石柱がある。何本かあるが3本ほどは折れている。


「結構激しい戦いだったみたいだね…。」


「そうだな…。」



コツン


ずずっ


2人は、異音に気が付いた。



 机の上に零れたジャムは大きな音を立てない。音を立てるのは瓶だ。


ジャムが意志を持って移動するとしたなら、静かに忍び寄るだろう。


だから、奇跡のようなものだった。


たった2人だったから。どちらかが黙れば音はない。


2人は軽装備で、鎧の音もしない。


だから、そいつが、近づいたのを2人は気付いたのだ。


そいつが巻き込んだ石が床に擦れる音を。



背後だ。


何か…来る。


シルベールは、人差し指を口に当てる。


フェイトを後ろにかばい、剣を抜いた。



 少しして見えてきたそれは、悪夢のようなものだった。いや、悪夢だった。


通路を埋め尽くす、巨大な黒いスライム。


スライム系の中でも怖れられる、プディング。ダークプディング。


ゲームのスライムとは違い、この世界のスライム系は恐怖の怪物だ。生き物を溶かし、喰らい、大きくなる。隙間からでも侵入し、切っても無駄。群体の魔法生物なので、少しでも残れば復活する。そして…触れられたら、そこを切り取るしか、ない。


しかも、並の大きさでは無かった。通路を完全に塞ぐ巨大さだ!



 フェイトが小さく悲鳴を上げる。


シルベールは、即座に魔法斬撃を放つ。


炎の斬撃を選んだ。スライム系には基本、これだ。


炎の三日月はプディングの中央に当たり、嫌なニオイを出し動きを止めた。


一瞬、止めた。


確かに効果はあっただろう。中央の焦げ付いた部分を捨て置いて分裂し、すぐに合流し、2人に向かって移動してくる。


「し、シルベール!逃げよう!」


「…同感だ!」



 少なくとも移動速度は軽装の2人が圧倒的に早い。


大きなホールを抜ける。


「この先は!?」


「もう一度ホールになっていて、キメラが居たんだって。それから、魔術師の広めの部屋で、最期に宝の在った寝室!」


「…今の話しじゃ、行き止まりじゃないのか!?」


「…そうだけど!」



 キメラと戦闘が在ったというホールに着いた。


「待って!わ、罠とかは…?」


「気にしてる場合か!」


フェイトは一瞬、ホールを見渡す。何かの罠が発動した形跡は、無い。


奥に、蠢くモノが見えて来た。



 ホールの奥は扉だ。石の扉。という事は、人力で開けるものではない。


半分開いている。勿論、通れる。


…という事は、プディングも通る。


2人は前に進むしかなくなった。


「わ、私!いつもこうやって逃げてる気がする!」


「そりゃ不幸なこったな!」



 2人は広めの、円形の部屋に出た。妙な円形だ。円にもう1つ、小さな円がいびつな雪だるまのようについてる。そんな部屋だ。


至ることろに石の焦げた跡があり、元々色々なモノが在ったのだろうが、跡形もない。


或いは、あのプディングが既に徘徊して溶かし尽くしたのかも知れないが。


「フェイト!オレが此処で食い止める!その間に何とかしろ!」


「何とかって何!」


「石扉を通って来る幅なら、炎斬撃で時間稼ぎ出来るだろう!オレに出来るのはそれくらいだ!生き残る方法を探せ!そうしなきゃ、一緒に溶けるだけだ!」


「わ!わかった!」


「炎斬!」


そうだ。オレには、守る力が無い。斬るだけ。壊すだけ。カレンティを守る、ツァルトを守るナイトになりたいのに。


石扉の向こうに、シルベールが一撃を放つ。黒い塊は、一瞬、引っ込んだ。


確かに、嫌がってはいる。だが、巨大すぎる。倒せない。倒す前に、精神力は尽きるだろう。


「フェイト!お前は自分で思ってるよりスゲエとオレは思う!オレの100倍頭いい!だから、任せる!頼んだぞ!」


こんな追い詰められた瞬間だが、それでもフェイトは嬉しかった。


自分がタダの足手まといじゃなく、パートナーになれたような気がして。



 ホールを見渡す。雪だるまの胴体。雪だるまの頭。


何故、ホールを二重の円にしたのだろう。


フェイトは、奥の扉へ駆け込む。此処は木の扉だったのだろう。だったというのは、多分溶けて何も無いからだ。


元寝室。空っぽ。解けたチェストの金属の金輪、パーツだけ。


地下だ。当然窓もない。


でも、脱出路はあるのでは?


いや、テレポートする魔術師なら作らない。


ない!何もない!


排水溝は!?生活に細い穴を掘っていたのでは?


な、ない。この部屋には、ない!



 フェイトは雪ダルマ型のホールへ戻る。


シルベールは、必死に炎斬撃を繰り出している。食い止めているのがやっとなのが、判る。


それでも、どうだ、とは聞いてこなかった。待っているんだ。私を。私の答えを。


言えなかった。何も見つからないなんて。脱出口が無いなんて。


考えろ!私!考えろ!まだ時間は彼が作ってくれてるんだから!


そもそも、何故プディングが!


…魔術師…ゴミ捨て場……。


“ゴミ”をわざわざ、遠くに作ったところへ魔術師が運ぶ?


あのプディングが、ゴミ捨て場!?


先の冒険者は、あのプディングを見たはず。


あんなに巨大だと知らず、見えている範囲だけを焼いた?


その地下まで広がっていたプディングを、残した!?もしかしたら封じてた<器>まで破壊して!?



 血の気が引く。


プディングは、暗く、湿気の多い所を好んで住み着く。


夜に生き物を狩り、ゴミ捨て場に戻る。


周囲に生き物が近寄らない訳だ!



 じゃあ、ゴミをどうやってプディングに!?


…テレポートだ。しかも、一つずつ呪文を掛けてなど、いられないはず。なら、テレポートのシンボル…魔方陣があるはず!


フェイトは、雪だるまの“頭”へ走る。


「“マジック・ディテクション”!」


入ってすぐの右の壁が光る。フェイトはそこに触れた。


ガゴッっという音と共に、石の床が真っ二つに折れて、下の床が見える。魔方陣が見える!


「こ、これだ!此処に投げ込んで、プディングに!」



 幸い、下に口を開いた石の扉は、中央。


人ひとり通れる幅を周囲に残している。


巨大なゴミ捨て場への扉は、10秒ほどで閉まった。


「シルベール!!こっちへ!」


シルベールは一撃を撃ち込み、隙を作ると、フェイトの声の方へ走る。


「端に寄って!」左手でシルベールの腕を掴み、右手で魔法のスイッチを押す。


再び、巨大なゴミ箱が姿を現す。


「シルベール!端を回って反対側へ来て!」


僅かな幅を怯えながら、反対側へ。


下には、テレポートシンボルが見える。


此処に落ちれば、ヤツの寝床が在るのだろう。


最悪、一部が残っているかもしれない…。



 黒い塊が、入り口にやって来た。


プディングにとっては、真正面に生き物の気配がある。


「フェイトは、シルベールの手を強く握った。」


「アイツが、落ちなかったら?」


「一緒に死んで!」


プディングが、真正面から津波のような形で襲い来る。


フェイトは、賭けに負けたと、思った…。


せめて、この手だけは離したくない。このまま死にたい。



 目の前で、黒い波は、足元に流れ落ちた。そもそも、知能は無いのだ。目の前の穴の意味など考えない。


そして、テレポートの魔方陣に触れて、消えた。



 フェイトは、ふか~くため息をついて、言った。


「こっから、プディングと競争。」


「はぁ!?」


「アイツ、またこっちに帰ってくるでしょ!その前にダンジョン出るの!」



 2人は駆け出した。アホな話だ。今、別地点から2組が同時にスタートして競争している。


…まあ、この時点で競争自体は勝ったようなモノなのだが。相手はスライムだ。



 ダンジョンを駆け抜ける。彼らを追って、明るい日差しの下へ黒い塊が出てきたが、プディングは乾燥を嫌がる。


日差しを隠す木々も、この周辺はすっかり溶かした後だ。むき出しの荒れ地に注ぐ陽を嫌がり、プディングは穴倉へ戻っていく。定位置の、ゴミ箱へ。



 2人は息が切れるまで、切れてからも走り続けた。


ヤツが追って来ないと判り、ようやく、2人で草地に転がった。


転がって、笑い出した。



私、こんなんばっかだ!あはは!


馬鹿だ。馬鹿みてえな冒険だ!ははは!


2人は、並んで、暫し笑い続けた。




 シルベールは、手紙を書いた。あて先は、ダッカーヴァの<魔術の塔>支部。魔術師ギルドへ。


王妃たる母が、父に内緒で自分に持たせた魔法の指輪がある。彼は<郵便屋さん>と呼んでいる。


書いた手紙は、思った人の所へ飛んでいく。光の鳩になって。



<ロセント迷宮の問題は、生き残っていた巨大なダーク・プディングと判明。残念ながら、当方で退治不能。至急、魔道師団で殲滅されたし。 シルベール・メイフィールド>



 …酒場にようやく帰還する。シルベール達が戻るより早く、魔法使いの一団が迷宮に向かったらしい。


連中は飛べるのだ。腹立たしいことに。


それでも、2人は大いに称賛された。特に、生き残こり、報告できたことを。


酒場の冒険者たちにも讃えられたが、嬉しさより疲労が勝っていた。


2人は疲れ切った笑顔で応え、多めに食事を取り、報奨金を受け取る。


200G。1人100G。約100万円。


冒険者。命がけの報酬としては実に駆け出しに相応しい安さ。



 「今日も相部屋だな?1,5Gだ。」


「いや、今日は別部屋で。1,5Gを2部屋だ。」


マスターは多くは語らなかったが、鍵を渡しながら、「痴話喧嘩したか?」と言った。



 階段を上がりながら、フェイトが聞く。


「今日はどうして2部屋にしたの?」


シルベールは、呆れたように言った。


「金が無かったから一緒だっただけだ。オマエ、自分がオンナだという自覚あんのか?少しは危機感を持て。それともオレを男だと思っていないのか。」


シルベールは部屋に入ってしまった。



 ふうん…私を女の子と見てくれてたんだぁ。


そう思うと、背中合わせだったベッドが異様に恥ずかしく思えた。


…でも、なぜか、ニヤケてしまうのだが。


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