表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
93/134

第63話 「永遠」

 ほんなら、酒場行くか。予定通り、置いて来たか?。バアサン。


老婆は、僅かに頷いたように見える。常に微笑んでおり、温かい雰囲気が漂う。しかし、目の焦点は何処も見ていない。


儂に掴まれ。酒場まではテレポートするか。足に来るからな。



 ああ、最期の仕事だ。燃やすけど。良いだろ?心には、残っているだろ?


だってお前は、蘇るんだから。



 老人は、手のひらに火の玉を出し、川沿いの、木造りの家に飛ばす。


秋の乾いた風に乗り、老夫婦の家はあっという間に燃え出した。


老人は、涙を浮かべじっと見ていたが、最期までは見届けず、テレポートして飛んだ。



 老夫婦が飛んだ後、家は焼け崩れ落ち、大きな薪のように三角になった。


焼けた柱は、風にあおられ、時々、紅く美しい色を放ち、再び黒く消えゆく。




 ツァルト首都にある、この酒場<牧場の天馬>。有名どころだ。最近増築し、更に広くなった。


此処には時々、王と王妃が来る。


王妃が元々、この酒場の看板娘だった。酒場の薔薇と呼ばれていた。


王に嫁いだのは3年ほど前。お子はまだいない。


と、いう訳で、ここに2人で遊びに来るのは珍しい事ではない。


王も、此処で吟遊詩人として出入りしていた。この酒場で、数々の冒険を請け負って来た。



 だから、今日も来てしまった。


アリエス王と王妃メイフェアは、歌い、踊り、演奏し、酒をたしなみ。


メイフェアに至っては人手が足りない所に料理を運び、父を手伝う。


笑い飛ばした時間の後、2人は少し落ち着いて、チーズとミルク酒で締めに入っている。



 そこへ、老夫婦が近づいて来た。


悪意とも、悲しみともつかない複雑な意識のオーラ。


2人は、無言で、こちらへ来る老夫婦を見ていた。



 アリエスはパッシブで悪意に気が付く。


メイフェアは一流の精霊術師。老夫婦の背後に見える精霊で、凡その見当はつく。


「王と、王妃様よ。お会いできた記念に、一度同席しても良いかね。」


「え、っと、移るね…。」


メイフェアは、アリエスの横に移動した。


「…こちらの、お2人にもミルク酒を。」


頼んでから、アリエスは2人に「…でいいかな?」と聞いた。


老人は頷いた。老女は反応しなかった。


「コイツは、どれでも大丈夫じゃ。お優しい王様とお妃じゃな。ツァルトの繁栄あれ。栄光あれ。」


「どうも。おじいさん。」



 老女の方は、お年のせいだろうが、ハッキリとした意志は無いように見える。男性はしっかりしているし、目の光は理知的で、見るからに、昔は頭が良かったのだろうな、そう思わせる。


「儂は、仮にオンドリ、と呼んで下され。婆さんは、メンドリ。で。」


「はぁ。通り名ですか。夫婦仲宜しいんですね。」


「アリエス様は、お若いのに大層、様々な冒険をされているとか。波乱万丈。年おいた身には羨ましくもある。」


「いやいや。オンドリさんこそ、まだまだこれからでは無いですか。」


「アリエス様。儂は、比較的真面目に生きて来たと思うのですよ。しがない錬金術師。婆さんは、これでも魔術師でした。」


「ほうほう。」


酒が届く。軽く、盃を合わせる。


「浮気1つせんで、この婆に尽くしてきましたんじゃ。」


横から、コツンと蹴られた。


ハイ、すみません。



 「その婆さんが、近ごろめっきり老け込んでしまいましてなぁ。こちらも錬金術師ですので、薬草や薬液を創り出し、それなりに長生きしてきましたが…。」


「それは…お気の毒です。」


「もう、まともに返事も出来なくなりました。午後の半日は、意識が無いような、反応も無いような状態でして。」


メイフェアは、さっきからお婆さんを見ている。何か言いたげで、かみ殺しているようでもある。



 「こうなる前に、婆さんの言った言葉がありましてな。遺言のようなモノと、儂は思ってますじゃ。」


「どのような言葉を?メンドリさんは。」


「先日、結構前に、そちらのお妃さまをこの酒場でお見掛けし。こう言ったんですわ。」


「はい。」


「死ぬ前に一度、あの美しいお妃になりたい。」


タイム・フリーズ。


「…ふむ。それはムリな願いですね…。オンドリさん。」


「うん。無理。」黙っていたメイフェアも言う。


「そうじゃろな。だから、取り引きに来たんですわな。儂らが仮に若かったとしても、幾ら本気で挑んでも、アークマスターに敵うべくもない。その位は知っとる。」


「取引?」


「婆さんに、メモを持たせましてな。3つ、思い出のある橋の名を書き、そんどれかに、猛毒の入った壺を置かせましたんじゃ。」


「猛毒!?」


「婆さんは、それを見てどこかに飛んで、橋の上に。壺は儂の作った“透明な壺”で出来とります。壊れるまで、大体3時間ですわい。予想では、あと1時間ほど。」


「アリエスならあっという間に見つけちゃうと思うけど…」妃が口を挿む。


「…儂もその中の何処か知らん。婆さんはしかも、見ての通り、覚えているかどうか。」


「それじゃ、取引しても回収できないじゃん!」


「いや。オンドリさんはメモを書いている。その3つの場所を教えてくれたら、間に合うかもね。」


「ああ。そのメモを渡す。儂の使い魔が持っとるよ。」


「その使い魔は当然、遠くに居ると。」


「勿論。」


「メモで判る場所という事は、よく知っているか、思い出の場所ですね。」


「まあぁ、そうじゃな。」



「見かけなら、“変化の魔法”や“呪い”で若く出来るでしょうに。アナタの魔法でも出来るハズ。」


「アンチマジックの場所に来た瞬間に死ぬじゃろ。まして、見掛けだけのニセモノでは若さは味わえん。」


「そりゃそうですが。僕が拒否して、心を操る魔法を使うとは思わなかったんですか?“命令系”の呪文を。」



 老人は、懐から人形を出した。


「これも錬金の品。一度だけ、心を守ってくれるハズ。その瞬間に使い魔に命令を出すぐらいは出来ますぞ。メモを、燃やせ、と。」


「…何故、こんな暴挙を。民を危険に晒せばタダでは済まない。知っているでしょうに。」


「アリエス様。死を前にした年寄りに怖いものはありませんわい。儂も、勿論、死罪は覚悟。家も燃やして来ました。もう、何も残っとらん。」


「何故、それほどに?」


「この婆さんの、最期の願いだったから。なに、ずっとなどとは、言わん。5分で良い。1分でも良い。その身を貸してやってくれ。魂を入れ替える。アークマスターなら出来るじゃろう?」


「…お婆さんとメイフェアには魂の絆がない。入れ替えは難しい。」


「出来るハズじゃ!叶えてやりたいんじゃよ!連れ添った女の、最期の願い。いや、願いですら無かった、タダの憧れ!それでも、儂の人生の最後に、この女の願いを叶えたい!」



 「オンドリさん。毒の場所、見当がつくと言ったら?お婆さんの認識が薄れているなら。一番思い出深い場所に置きそうだし。それ以前に…。」


「メンドリおばあさん、本当に毒を置いたんでしょうか?」


「置いたはずじゃ!いつも、昼までは普通なんじゃ!」


「メンドリおばあさん、普通だったなら猶更、思い出のある場所を、夫の作った毒で穢しますかね?」


「…なに?」


「毒、無かったですよ?。3つの橋の何処にも。誰かが持って行った可能性は低いでしょ。」


「なんじゃと!?」


「あなたが思い浮かべた景色、見えましたけど。そこに、妃達の使い魔も動員して調べましたけど。無かったですよ。」


「…い、いつの間に心を見た!?」


「最初に、時を止めてあなたの心をビジョンで見ようとしたら、人形にブロックされまして。壊してから、3回掛けましたよ。ビジョンを見る魔法。真偽を見破る魔法。あと奥様のビジョンも。」


「………」


「メンドリおばあさんのビジョンにあったのは、お2人の家の裏…。いつもそこに捨てて、燃やしてたんでしょ?ゴミ。」


「婆さん!捨ておったんか!?オマエ、儂の苦労を…!」


「…素敵な奥さんですね。メンドリおばあさん。」



 老人は、深くため息をついた。


「はは、人生最大の賭け、失敗じゃあ。流石は魔術の王よ。」


「どうも。悪いけど、メイフェアの体は貸せないよ。」


「アリエス。乗り移り、だけならやってもいい…。」


「へ?」


「入れ替わりはパス。でも、乗り移り、ならいい。ちょっとだけね。少しだけね。」


「何で…?」


「おじいさん…メンドリおばあさん、もうすぐに…。生命の精霊がそう言ってる…。」



 老人は、妻を見た。その手を取る。


「すまねえなあ。お前ん最後の願いはムリだったわ。許せやあ…。」


老婆は眠った様だった。多分、ずっと。


「メイフェア、おばあさんの手をとって。“マインド・ポゼッション”」



 目をつむったメイフェアが、うっすら目を開ける。


自分の体を見て、周りを確認して、向かいの亡骸を見て、言う。


「この馬鹿が。はよう、戻さんか。」


「おお、マリウラ。マリウラ…!」


「誰が望んだか。思い出の家まで燃やす大バカ者が!」


「すまんなぁオマエの為にすることを、最期の思い出にしたかったんじゃ…」


「…ハッキリした目でじいさんを見れたことだけ、幸せじゃがな…。」


「マリウラ…マリウラ…オマエ、幸せだったんか?どうなんじゃ?」


「男は言葉にしたがるものじゃなぁ。言わんと判らんのか、この馬鹿が。当たり前じゃろうが。」


メイフェアは、目をつむり、優しく笑う。


「優しいお嬢さん、ありがとうな。出て行くよ。サヨウナラ。」


メイフェアはやがて、静かに目を開ける。


「サヨウナラ。おばあさん。」


この涙は自分のものか。おばあさんのものか。



 「オンドリさん。外へ出ようか…。」


アリエスは呪文を掛けた。4人の姿は、宵の月の下、橋のたもとに。


思い出の中で見えた橋のたもとに。



 アリエスは、老人の顔を見るに忍びなく、2人に頭を下げて、立ち去った。


罪を問いはしなかった。それは多分、老人の命の炎もまた、僅かだったからだ。



 2人は、テレポートで消える前に何度か振り返る。


ずっと、亡骸の手を、頬を愛しく撫でる老人を振り返る。



 人生が永遠なら、この悲しみは消えるのだろうか。


永遠か。誰もが憧れる永遠。魔術師の僕は、ニセモノの永遠なら作れるだろう。


僕は、それを望むのだろうか。選ぶのだろうか。妃達の為に何を残そうか。



 見透かしたように、メイフェアは言う。


「お互い、何もしようとしなくていいから、一緒に居ようよ。」


小さい頃のように、つないだ手を振って、歩く。



 最も付き合いの古い幼馴染に、隠せる事なんて何もない。


不思議と、それは気持ちのいい、透明感だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ