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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<魔剣士シルベール編>第2話「巣」

 カレンティ、もう3月経つ。変わりない?母上と仲良くやってる?


オレは、冒険者として3,4回魔物退治とか行った。


2回くらい、依頼を1人でやっちまった。


オレは大丈夫。必ず力を付けて戻る。また手紙を書くよ、カレンティ。



 …3つ半年上の、人目を引く侍女は、自分の方へ飛んできた光の鳩をその手に止まらせる。


鳩は不思議なことに、手紙になった。



 侍女カレンティは、その短い手紙を読み、胸に抱きしめると、空を見上げた。


「…あのバカが仲間と仲良く協力してパーティー組んでるイメージが沸かない…。」




 ―――所は変わり、ダッカーヴァ公国。


此処に、ある、4人組のパーティーがあった。


男女4人だ。ちなみに2カップルか気になる所だが、そうでもない。最近組んだ4人だ。


 外見だけ端的に言えば、先頭は紅い髪を短く切り上げた戦士。盾と長剣。


少し斜めに下がり、短めの弓を持つハーフナーの男。緑の髪を丸っこく整え、可愛らしくさえ見えるが、


ハーフナーは凡そ人間の倍生きているので、少年ではない。


続いて、2列目に、リボンを付けた長い銀の髪。魔法使いだろう。杖を持っている。


その隣に、当然必要とされる僧侶の女。不安げにキョロキョロしている。青い髪。顔のつくりは実に綺麗なのだが、美やオシャレと言うモノに無頓着と見え、かなりボサボサの髪。



 「リガリオさん、本当にこの洞窟であってる?」


心配そうに僧侶が言った。


「ああ。マップでは間違いないな。此処が、悪魔が捨てて行ったという迷宮。」


リガリオと呼ばれた戦士が言った。


「じゃぁ、行こか。俺っちの勘がお宝を感じてる。」ハーフナーが言った。


魔法使いは、小さく、ブツブツ言っている。厳しい顔をしている。



 彼らは、“天の歯車”と名乗っている。最近売り出し中の若いチームだ。


名を上げ、お宝を拾い集め、力をつけ、夢を叶える為に居る、ありふれた動機のチームだ。



 先日、此処にお宝の匂いを感じ潜ったセンパイチームは帰って来ていない。


その救出と探索だ。最高にリスキーで、ハイリターンと言える。


とは言え、多くの冒険者は、特に若く勢いのあるチームは、我こそ最強と名乗り、進んでリスクを取る。故に、消え去るチームも多い。


彼らもまた、僧侶以外は自信に溢れていた。



 1週間の行程を乗り越え、ようやく彼らが迷宮に到着する。地下への門は開いていた。獲物を待つ口のように。


「…行くぞ。ついて来い。」剣士は、剣を抜いた。彼の剣は、魔剣だ。ガーゴイルでも切れる。


魔法使いは松明代わりに、“永劫の灯り”を灯す。杖の先端が明るく光る。


ハーフナーは弓を番える。



 歩き出す。ほんの少しして、天上から吊るされている男が見える。


1人どころじゃない。無数の人間が吊るされている?


「早速か。いや、罠にかかった間抜けか。」


少しずつ近づき様子を見る。だが、思っていた逆さづりの死体ではない。石像の様だ。世にも珍しい、天上から半身が逆さに飛び出た、呻くような石像群だ。悪趣味な鍾乳洞ともいえる。


僧侶が心配そうに言う。「これ、石化魔法じゃないよね?」


魔法使いは即座に答えた。ブツブツ、小さな声で。


「こんなヘタクソな造形で本物のワケあるか。ビビり過ぎ。」



 その醜い石像群のせいで、彼らは四つん這いで進むしかなくなった。暫く耐え忍び、ようやく、開けた所に出た。


腰を伸ばし、姿勢を整える。


「迷宮といっても、洞窟系か。気持ちわりぃな。」


「デコボコして、隠れる所も多数だ。気を付けろ。」


ハーフナーが、仲間を止める。


「待て。匂う。」


「何のだ。」


「クセえな。鼻が…きかねえ」


「う…確かに匂って来たな。腐った匂い。腐った…肉とかの匂い。」


一行は、嫌な予感しか持てなくなった。


此処には、センパイ冒険者が来ているはずなのだ。



 彼らは、息を潜めた。


足音、息遣い。気配。全て重要な戦いの情報。


「いや、音は無い…。行こう。」


ハーフナーが言った。


「よし。行くぞ。」


「や、やめた方がイイかも知れない。邪悪な、邪悪な感じがする。」


僧侶の女が、怖がりながら言う。


「そりゃそうだろ。魔物が捨てた巣だろ。邪悪で当然。」


「何故、捨てたのさ?」


魔法使いが、小声で聞いた。


「知るかよ。」


「判らんことが多い迷宮か。怪しいね。」


「今更戻れるか?大体、死体の1つもねえんだ。ワナの1つもねえんだ。何を怖れる?怖ろしいもんが1つでもあったか?」



 言い返せず、4人は再び進んだ。


曲がり角を曲がった辺りだ。次に洞窟が広がった時。一行は見た。


今度は、下から無数の彫像が生えている。邪魔くさい事この上ないし、何かが潜んで居ても判りにくい。



 再び息をひそめる。ハーフナーが、耳を澄まし、罠を感知する。


「大丈夫そうだ。敵は居ないかもな。死人は別だが。」


アンデッドは息をしない。音を立てない。



 一行はまたまた静かに進んだ。


下から生えた鍾乳石の様な石像の切れ目、次のブロックを塞ぐ大きな扉。


そのすぐ前に、死体があった。服装からすれば、魔法系の冒険者。


最初、何かと思った。汚れた雑巾を絞って乾かしたような。そんな死体。


「何だ…?敵はどうやら吸血鬼か?干からびた死体とはな。」


「き、吸血鬼なら、私達には荷が重いのではないですか…?」


僧侶の言葉に、戦士はいら立ちをぶつける。


「オマエ、思考がマイナス過ぎんだよ!やる気をそぐな!」



 戦士とハーフナー、魔術師は扉の前まで来た。頑丈な鉄扉。金庫のようなダイヤルがある。文字が掘られている。取っ手がある。


罠を調べ、無さそうな事を確認し、3人は碑文を読んだ。


1人遅れている僧侶は、先程の亡骸に祈りを捧げていた。


そして、気付きたくない事にも気付く。


「あの、皆さん。この方、大きな傷があります。剣で斬られたような…。」


3人は、ほぼ聞いていなかった。いや、聞いていたが、どうでも良かった。


「…そんな事より、見ろ。フェイト。おもしれえ碑文がある。お前でも、気付くはず。」


僧侶は、あまり嬉しくなさそうに、碑文に近づく。


<栄光を求めるもの。ダイヤルを、必要な分、回せ。鶏の足の数、右。次に、ガゼルの足の数、左。>


「はは、バカか。」


戦士は、ダイヤルを右に2、左に4回す。


当たり前のように、扉が開く。



 彼らは、中へ入った。


入った途端、扉は閉まり、再び勝手にダイヤルが回った。大した仕掛けだ。


入った時と同じような碑文が書いてある。


僧侶は、振り返って読んでみた。


<出たければ回せ。四つ足の獣。2本の前足を失い、彼は後ろ脚で立ち上がった。歩けるようになった。右足を先に出した。一歩。次に、左足を出した。一歩。>


「…?ナニコレ?」


僧侶のフェイトは、混乱する。入口と、まるで違う碑文。謎かけだとしても、表とあまりに違う難易度。


振り返って、仲間を見る。


少し大きめのこの部屋は、何故か中央が緩やかなすり鉢状になっており、排水溝の如く、小さな穴が中央にある。ゴミでも捨てる穴なのか。


部屋の奥には、宝箱。既に、3人が取り囲んでいる。


部屋の中央には、何人もの亡骸が、紙屑のようにカラカラになった亡骸が無残に転がっている。


…敵の姿は、ない。


僧侶フェイトは、3人を止める。


「待って、みんな、待って。何でそんなに気楽に急ぐの?おかしいよ、おかしい!」


「お前うるせえ!要らねえのか!お宝!まぁ、もうお前はクビでもいいがな!チキン女!ちょっと綺麗かと思えばキタねえ髪で色気もねえし!だが、この冒険中は契約だ。分け前欲しけりゃ見ろ!このお宝ぁ!」


男は、左手で金貨銀貨を鷲掴みし、右手に、宝剣を手にした。


「おお、メリンダ!これ、魔剣じゃねえか?鑑定しろ!」


「“サーチマジック”…ああ、魔力あるね!」

「おう、手に馴染む、伝わるぞ、切れ味が。コイツぁ俺が貰った。良いよな?剣士はオレだけだしな!」



 魔術師とハーフナーが宝箱の金銀と装飾品を袋に詰めている時。


「いや、イテエ…なんだ!?だんだん痛くなって来たぞ…は、離れねえ!剣が!」


魔術師が、ハーフナーが、僧侶が異変に気付く。


戦士の顔がみるみる青白くなっていく。白い鋼の色だった剣は、さび付いた金具のような赤い色に。血の色に。変わっていく。


「ちくしょう!呪いの剣だったか!?フェイト!出番だ!解呪かけろ!早く!」


僧侶は駆け寄る。「“バ、バニッシュ・カース”!呪いよ、消え去れ!」


剣士の手から剣は離れない。離れない。


「や、役立たずがぁ!ぐ、あ、あ…コイツ、オレの血を吸っている!ああ、マズイ、このままじゃマズイ!」


「大丈夫!?リガリオー!」



 心配して覗き込んだ女魔術師を、剣士リガリオは一気に切り捨てた。袈裟切りに。


え?え? ワケが判らない顔の魔術師は、血を吹いて、そのまま倒れた。


倒れた女を、剣士が更に突き刺す。


「吸え!おおお、俺じゃなくコイツの血を吸え!」


「てめえ!仲間を…!?」


ハーフナーが離れ、弓を番え、即座に放つ!


矢は腹を貫いた。至近距離の飛び道具だが、見事に射て見せた。


剣士の腹から、血は流れない。


ハーフナーは、恐怖の顔で剣士を見上げた。


「オマエ、もう、人間じゃねえ…死んでるよオマエ…。まるで吸血…」


剣士が下から跳ね上げるように振るった剣で、弓を弾き飛ばす。


ハーフナーは、短剣を抜いた。


「フェイト!お前の言う通りだった!急いで扉を開けてくれ!急げ!逃げるぞ!このバケモノからー!!」


「う、うん!」


<出たければ回せ。四つ足の獣。2本の前足を失い、彼は後ろ足で立ち上がった。歩けるようになった。右足を先に出した。一歩。次に、左足を出した。一歩。>



右4、左2、右1、左1?


ダイヤルを回す。



 外の亡骸は、やはり剣で斬られたんだ!あの吸血の剣で!


出た瞬間に、背後から、仲間の剣で!


逃げなきゃ、逃げなきゃ!


逃げる!?出てすぐには、下から生えた石の山!


そのすぐ後には、屈んでやっと通れる、上からの石の柱!


ああ、ああ!逃げにくいように!走れないように!初めから!


この迷宮は、この洞窟は、タダの、血を吸う餌場!!


…ダイヤルが、カチッと音を立てる。正解だったらしい。



 振り返る。


剣士の赤い剣は、今まさに、ハーフナーの血を吸っている最中だった。


ハーフナーは、もう、とっくに。とっくに。


「あはは、フェイト、次はオマエ…血をよこせ…そうすれば、オレの血は吸われないで済むんだ…。」


フェイトは首を振った。


「違う…あなた、剣に騙されているだけ!いや…あなた自身が魔物!」


「血を寄越せええええ」



 フェイトは、一瞬の硬直の後、駆けだした。


その硬直は、扉をもう一度締め、時間を稼ぐという、唯一と言っていいチャンスを失わせた。


「い、いやだあぁぁ!」


「は、は、待て、ああ、待て、フェイト、ははは…」


唯一の、唯一の優位性は、剣士が中装備であったことだ。


比べ、彼女は身軽だった。



 暗闇を這いつくばり、幾度も石像にぶつかり内出血をしながら、膝から血が滴るのも構わず、頭上の石像群を抜ける。抜けた。


僅か後ろに、闇の気配。伸びて来た手を、僅かな距離で躱した。


「助けて!助けてー!!」



 フェイトは、ついに外の空気を吸った。


今まさに自分の命を失おうと言う時に、無慈悲に美しく空に登った月明かりを見た。


…そして前方に、見知らぬ男が立っているのを。


この迷宮に向かっていた、次の冒険者なのかもしれない。



 彼女は、誰かも知らない男に向かって駆け出す。いや、もう、駆けているつもりなだけで、よろめいているに過ぎない。


背後で、真後ろで、吸血の剣を振りかざす男は笑っていた。



 「しゃがめ!」


目の前の男から、凛とした声が聞こえた。フェイトは、ただ、従った。


男の剣が、まるで月を宿したように光り輝く。横薙ぎに、彼は剣を振るった。


三日月のような斬撃が、光が、フェイトの頭上を通り過ぎる。


一瞬で感じたそれは、危険で、破壊的な、でも純粋な、真っすぐな魔力だった。


ボッという音がして、剣士の胴は真っ2つに切り離される。光属性の魔力斬撃。


…斬撃は、鈍い音を立てて、吸血の剣も同時に圧し折った。


剣は、おぞましい叫び声をあげて、汚らしい肉の塊になって、やがて消えた。



 「魔族は、逃げ出したんでも隠れていたんでも無かったのね…ずっと迷宮で巣をつくり、血を待っていたんだ…。」


フェイトは、そう呟いた。呪いを解する呪文が効くはずもない。本体だったのだから。



 男が、近づいて来た。


「…立てるか?」


フェイトは、男の差し出した手を取り、ふらつきながら立ち上がった。



 月下に見える少年の顔。少し年下なのだろう。


…美しくて、凛々しくて、吸血鬼かと思った。


フェイトは生まれて初めて、髪を美しく整えたいと…思った。



 彼女は何とかお礼の言葉を絞り出した後、こう言った。


「つ、次の街までで結構ですから、ご一緒して下さいませんか…。」


そう、短めの軽い剣と、固定式の小さなバックラーを身につけた軽戦士に言った。


この装備のどこから、先程の強烈な魔力が来たのだろう。


「…オレはシルベール。戦う以外に何一つできない駆け出しだが、それでも良ければ。」


フェイトは、安心して膝から崩れ落ち、少女のように泣いた。



 カレンティ、どうやら初めての同行者ってヤツが出来たらしい。まぁ、どうせ数日だろうけどな。若い女で、僧侶だって。暫くは2人きり…


シルベールは、書きかけの羊皮紙をくしゃくしゃに丸めて捨てた。


…送っちゃいけない気がする。



 そしてそれは、人付き合いが苦手な彼にしては珍しく、大正解だった。


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