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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<皇太子セティス編>第4話「人形の館」

 大雨が降って来た。


山間の森を抜けている所だった。



 「アンタが近道しようなんて言うから!」


「うっさいアンタも同意したでしょ!」


「ま、まぁ2人とも仕方ないじゃない」


「メイク落ちてきてるよヘンタイ。」


「まぁ、シャツが濡れてあんたが一番セクシーね。胸フェチちゃん。」


だめだ。言い合いしている所に入ると必ず反撃される。



 3人はとにかく急いだ。


冷たい雨は体温を奪われる。野営かもしれないのに。


大きめの背負い袋はユシカが。野営のセットはセティスが担いでいる。



 「あそこに、館が見えるよ。まぁまぁ、大きい家。」


「マジか?あ、ホントだ。セティス、色仕掛けで一晩の宿を勝ち取って。」


「何でそれ僕かなぁ…。」


「アタシらがマジでそれやると、色々失っちゃうでしょ!」


「…僕は失っても良いと…。」


2人は立ち止まり、振り返ると、揃って頷いた。


ひっど…。



 古く腐り堕ちた門の鎖を超え、草の多い茂るままになった庭を抜け、扉を叩く。


大きな金属製の輪は、扉にぶつければ丁度、対になる金具に当たって大きな音を出す。


貴族の屋敷などには多いつくりの、頑丈な扉だ。


「人居るんだろうかなぁ~」


「居たとしたらアンデッドかもね?」


「こ、ここは街道から少し離れてるし、注意しておこう!」


「あ、リーダーだ。」


「あ、ほんとだ。リーダーっぽい。頑張れセティス。」


「なんで僕が発言すると揶揄うのかなぁ…。」



 中から、燭台の灯りが揺れて近づいて来るのが見える。


カンヌキを外す音。鍵を開ける音。ギィィ。扉の開く、音。


僅かに隙間を開けて、年老いた女性の声が聞こえてくる。


「どなたでしょうかな…」


「すみません、旅の者です。セリスと言います…。大雨に濡れてしまって。出来れば、馬小屋でも良いので雨を避ける場所を貸して頂けませんか?大したお礼は出来ないのですが…。」



 セティスは礼儀正しく言った。中性的な声故に、顔を見れば女性と思うだろう。


「馬鹿なの?お部屋を貸して、でイイじゃん。何で馬小屋希望?」


「全くだな。レディーが2人も居るのに馬小屋ってねえ。」


「お連れ様も居るのですかな?」


「あ、はい、2人…。」


「乙女3人とは、お可哀そうに、すぐに暖を取るが良いですな。ああ、待って下さい。息子たちの許可を得なければ…。」



 一度、戸は閉まった。


「息子だってぇ。オッサンかなぁ。」


「嫁に欲しいと言われたらセティスを差し出そうぜ。」


「だから…」



 「是非、暖を取り、今宵は泊って行かれると良い。ただ、条件を1つ。」


「条件とは…おばあさん?」


「折角ですし、息子たちも貴女方のような麗しい乙女と、一度は踊りたいと。踊るだけで結構。…勿論、互いに気に入れば、恋の1つや2つ、あっても良いですがの。」


老婆は静かに笑った。



 後ろから、ユシカが顔を出す。


「絶対踊るだけだろうな。夜を共にとか言わないよな?」


「あら、こちらも美しいお嬢さん…誓って言いませんよ。でも。踊るくらいのチャンスは下さいな?」


も一人、ユシカの脇の下から顔を出す。


「絶対だぞ…。」


「ひゃう!ヤメロ脇くすぐったい!」


セティスは微笑んで、「お願いします、おばあさん。」


そう言った。



 ―――春とはいえ、夜はまだ寒い。ツァルトから国境を越え、ファルトラントへ入ってすぐのこの辺り。


ファルトラントはツァルトから見れば北東にある。季節はよりハッキリと、冬があったことを思い出させる。



 セティスは、2人が入った後の、風呂へ入る。


大き目の風呂なんだろうなぁ。離宮のお風呂は大きかったけど、それに近いかも。名のある貴族の館だったのかも知れないな。


雨で冷えた体は、湯を継ぎ足し、2人が入った後のぬるい水でも十分に蘇った。


有難い。



 セティスは十分に体を拭き、湯浴みの間を出ようとする。


ぎい。いきなり戸が開いた。いきなり。


「セティス、この服に着替えなさいってよ?ババアが。」


「セティス、アタシらのセクシーさに倒れんなよ?」


2人、顔を出していた。


ユシカは、隙間のある手のひらで顔を隠しながら覗いていた。


ウィッグは元気よく、屈託なく、当然の様に覗いていた。


セティスを見ていた。



 ばたん。


しまった後、嵐のようなキャーキャー声が聞こえてくる。


「うわー、やっぱオトコだったー!それなりにオトコだったぁー!!」


「そそそそそうなのか!?平均!?うっわ初めて見ちゃったー!」



 セティスはうずくまった。


僕の人権は――!?


そして、脱衣室では。更に、苦行が待っていた。


…20分後。



 がちゃ。


「やっと来たか。じゃーん。古いけど、綺麗なドレスだよ。見とれろ?」


見とれろ、というだけあり、黄色がかった白いドレスを着たウィッグは透明感のある可憐な美少女に出来上がっている。ドレスに合わせたのか、ウェーブの強い黒髪に変わっていた。


「どうだ?なんかヒラヒラが嫌なんだが。綺麗か?靴もキッツいし…。」


背が高いユシカのドレス姿は、彼女が剣士を辞めても、その美貌だけで食っていけることを十分証明していた。貴族の娘と言っても誰も疑うまい。


2人は、セティスが自分を見て赤くなり動揺することを期待していたが、出て来たセティスは既に真っ赤になっており、もじもじしていた。


ぶっ!!


可愛いーじゃん!


ぎゃはー!


セティスにあてがわれた、ピンクがかった白いドレスは、どう見ても清楚な美少女にセティスを仕上げていた。これなら、多少出るとこが無くても、完璧に騙せる。女性サイズのヒールまで履けるのだから、体全体のつくりが細く小さいのだろう。


2人は、笑いながらセティスを、食事のホールまで引っ張って行った。



 ―――ホール。


「まぁ!!なんと、何と美しい、可愛らしい3人!」


老婆は惚れ惚れと3人を見ていたが、はっと我に返る様に、テーブルへ案内した。


「もう、使用人もおりませんからの、婆の手料理ですがお食べくだされ。」



 テーブルの上の食事は、質素ではあったが手が込んでおり、すきっ腹の2人はもりもりと、勢いよく食べ始める。


一番ゆっくり食べているのはセティス。


セティスは、慌てて食事することを知らない。それでも、今は2人につられて、ガサツな食べ方をしている…ような気がする。ティアナ妃が居たら、怒られるところだろう。父上のマナーはテキトウだったような気がするけど。



 食事が終わり、香りの強い、お茶が出された。


何の花だろう。浮いているのは。なんにせよ、いい香りだ。


セティスは、一口飲んだ。


…?


何だろう。飲んじゃいけない気がする。


いや、飲んじゃいけない。


「ユシカ。ウィッグ。」


2人は、ごっくり飲んで、お腹をポスポス叩いている所だった。



 毒…ではない。毒じゃない。でも、警鐘が頭に鳴り響く。


そう言えば、母たる王妃の1人は、世界中のお茶を楽しむ方だったが、こんな味は無かった。


「さぁ、舞踏会の準備をしましょう。少々お待ちを。」


老婆が部屋から出たのを待って、セティスは2人に、小声で何か言った。



 ―――燭台が、意図的に半分くらいに落とされる。薄暗い。


食事のホールを仕切っていた布が取り外され、3人の男性の影が浮かび上がる。


3人は、腰を折り、手を差し伸べて、乙女を待っている。


「3人兄弟なのか…薄暗くて顔わかんねえな。どうせオッサンだろ。」


「ま、踊るまでは約束じゃん。しかたない。」


「うん、気を付けよう。」


「お、リーダー。それしか言わない。」


「うん、他にもリーダーらしい発言を研究すべきだな。」



 3人は、男性の手を取った。


手には薄い手袋がはめてあった。


でも。固い。



 音楽が鳴り始める。といっても、老婆が奏でる一本の弦楽器だけだが。



男たちが踊り始める。


セティスたちは、オトコの動きに合わせて少しだけ体を揺らしていたが、すぐに、それぞれ気が付いた。


男たちの顔に、その微笑んだ表情に、変化が無いことを。


その動きが、なめらかであるほどに異質で、人間離れしていることに。


「人形―!?」


「おお、おお、嬉しそうなこと。恥ずかしいのかい?それとも、その娘を気に入ったのかい?ジャック、どうなんだい?マリクはどう?キロスはどう?気に入った?」


3人は離れようとした。だが、その固い手が、強く握って離さない!!


「ち、チクショウ離せってんだよ人形!!」


「きもいー!はなせええ!!この!!」


「ユシカ!ウィッグー!」



 「何だって?ああ、そうだろうとも。お前達、恋してしまったんだね?ああ。いいともさ。祝福するよ。じゃぁ、隣の部屋へ、祭壇の間へ、花嫁を抱きかかえてお行き。」


男たちは、それぞれ花嫁を横抱きに抱えた。


手のひらが離れたのは、千載一遇のチャンスだった。


「心配するな。そろそろ、体が痺れてくるはずさ。お前達から逃げたりしない。さぁ、連れて行くのよ。」



 「“ホリー・ブースト”!」


セティスの手から、光が2人に放たれる。


ウィッグは、暴れて下へ抜け出す。


ユシカは、思いっきり肘を人形の顔面に叩きつけて、床に軽やかに着地。


セティスは、2人が無事なのを確かめると、光の塊を人形の顔にぶつけ、何とか“自力で”離れる事に成功した。



 「な、何故に動けるのじゃ!?」


「アンタの企みに気が付いたリーダー様が、解毒の魔法を掛けてくれたからだよ!」


ユシカが叫んだ。そして、気付く。


「まいったな、武器がねえや。」


「ある!」


ウィッグは、スカートをまくりあげ、太ももに巻き付けていたダガー2本を抜きとる。


「…せくしいなトコに隠してんなぁ、ビッチ。」


「この短剣操れんのか?デカ女。」



 人形たちが、襲い掛かる。


風のように、背後や横から切りつける、ウィッグ。


慣れないダガーを操り、力強く切り裂くユシカ。


一体はセティスに向かった。セティスをかばい、ユシカが蹴り飛ばす。



今、セティスにあの、“守護の指輪”は、手元にない。


<旅に出る者に、親の加護が付きまとってはいけないだろう。>


そう、父王が言った。セティスもそれで良かった。冒険とは、旅とは、覚悟を持ってするものだと、あの日思い知ったから。


…代わりに、今のセティスには、大切な2人が居る。



 今回の攻撃役はウィッグだ。


心配しなくとも、セティスのブーストを受けたダガーは、硬い薔薇の木の表面を、なめらかに、バターの様に切り刻む。


「おらぁ!アタシの様な超絶美少女を嫁にすんなら、城ぐらい付けてプロポーズしろ!!」


「無茶言ってる!」


と言いつつ、ユシカは、別の意味に取ってしまう。


…って、セティスならできんだろ…城ついて来るだろ…あのヤロー。


当のセティスは何も気が付いていないようだが。



 「ああ、息子たちがあああ!息子たちがあああ!!」


老婆が、駆け寄って来た。


その時には、硬い薔薇の木で丁寧に彫り創られたウッドゴーレムは、無残にバラバラだった。



 「オイ。ババア。約束破ったな。誰が花嫁だ。」


「言い訳はねえよなぁ?」ユシカはナイフを向けた。


「待って。ちょっと待って。」セティスが止める。



 「おばあさん。事情を…聞かせてほしい。」


「息子たちは…ミノタウロスに喰われた…。魔法使いのワシがたどり着いた時には、ミノタウロス共が、息子たちの血肉で宴をしていた。」


「………」


「勿論、その3匹は皆殺しにしてやった。だが、息子たちは帰って来ない。せめて、せめて、精魂込めて、生き写しのゴーレムを作ったのじゃ。」


「生きていればもう、良い年の息子たちに、人生の喜びをあげたかった。花嫁と言ったって、形だけ。でも形だけでも、お前達の人生に伴侶は居たのだと、伝えたかった。」


「おばあさん。顔を上げてください…。確かに、この人形たち、優しい顔をして、人が好さそうで。きっとそんな、息子さん達だったんでしょう?」


「勿論じゃ。優しくて、働き者でなぁ」


「…そんな息子さんが、嫌がる女性を攫いますか?」


老婆は、手を振るわせて、泣いた。


「……息子さんの生きざまを、穢してはいけないのでは…ないでしょうか?」


老婆は泣き続けた。人生を狂わされた母親の、悲しい姿だった。



 「…オイ。ババア。」


「その通りだ。バアサン。」


「そこの天然お花畑純真女装ヤローが許そうが!あたしは許さーん!!」


「アタシのファーストお姫様抱っこが人形ってなんだコラ。許せねえ!」



 2人は、面影の残る人形の顔面を打ち砕き、叩き割り、踏みつぶす。


ぎゃあああ!むすこよおおおお!!


うるせえー!迷惑料よこせ!マジックアイテム持ってんだろオラ!魔法使いだろオラ!!


「あのー!許してあげても~!?」


「許すわけねーだろ――――!!」




 ―――森の中。雨は上がっていた。雨上がりの空は美しく、星空が良く見える。


…ふらふら。


「よし、次アタシ。」


「えー、ユシカも…?」


野営用荷物に加え、この細い体で、女性をお姫様だっこするのは厳しいものがある…。


まして、自分より背の高いユシカ…。意外と、思ったよりは、軽かったけど。



「まぁ、あれは人間じゃないしな。これがファーストお姫様だっこってことで。」


「そうそう。ついでに他のファーストもあげれば?デカ女。」


「やだね。」


「ホラ、意外とちゃんとオトコだったし…。」


「辞めて!僕をそういうことで話すの辞めてー!」


「ちょっと、ふらつかないで頑張ってよー!」


「アンタがデカいからじゃん!交替!」



もうじき、開けた所に出るだろう。


老魔女からせしめたアクセと宝石を換金できたら少し落ち着ける。



マジックアイテムはスタミナポーションを2本。


きっと、この調子だとあっという間に使い切るだろう。


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