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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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外伝Ⅲ「堕落の姉弟」

 これは、後に堕落の姉弟と呼ばれる、美しい姉弟の話だ。



 西の大陸では、世界一の美女と呼ばれた<薔薇のガーレル姫>。


彼女は、妃になって僅か1年後に、女の子を産んだ。



 同時期にお妃になった妖艶な少女イア。ガーレルの1年後、男子を産んだ。



 ガーレルの娘アルフィアと、イア息子ミラティリオ。


余りに美しい異母姉弟だった。



 アルフィアはその色白さから白磁の姫と呼ばれる。


ミラティリオの翡翠の瞳は吸い込まれる様で、魔眼の王子と呼ばれる。



 しかし、今もなお絶世の美女であるガーレル妃は、今、密かに悩みを抱えていた。


あまり、人に言えない悩みを。



 11歳になったアルフィア姫は<魔術の塔>で本格的に魔法を学び始めた。あっという間に称号を<緑>に上げた。11歳で。


10歳になったミラティリオ王子は、姉を追い、あっという間に同じ<緑>まで称号を上げた。


2人ともまだ実践には出ていないが、そのうち声が掛かるだろう。


天才だった。



 流石は魔王アリエスの子、薔薇のガーレルの子。


流石は、魔王アリエスと、魔女イアの子。


2人の魔力は、本格的に学び始めたことをきっかけに一気に膨らみ始めた。


末恐ろしい程に。



 普通なら、これを喜んでいる所だ。自慢したくもなる。未来を思って心躍る。


魔道国ツァルトのアークマスターを継ぐに違いない。そう誰もが思っていた。



 でも、ガーレル妃は見てしまったのだ。城の裏庭で。


13歳になったアルフィア姫と、12歳になった王子ミラティリオが、口付けしているのを。


それは、幼い子が戯れにキスするヤツとは少し違った。


恋愛感情があるように見えた。



 見てしまった。異母姉弟の、禁断を。


…この時代、姉弟の婚姻は許されている。まして異母兄弟なら。


ただ、徐々に、それが、近親婚がその生命力に悪影響であると思われるようになってきていた。



 ガーレルには、おぞましい経験がある。


12歳の頃、ガーレルは衰弱して死んだ。


病死だが、病気では無かった。事故でもない。生命の根幹にあるような弱さで。亡くなったのだ。一種の寿命故に、僧侶の復活呪文では蘇らなかった。



 ガーレル姫は、近親婚の娘なのだ…。アルティオラ姫もだが、彼女は影響されなかった。


だから、当時の王家は、禁断の手段を使った。<神>と呼ばれた男に、薔薇のガーレルの物語を読み聞かせるという禁断の手段を。


その神はやがて死に、自分も消えそうになったが…アリエスの行動で命は繋がった。


…だから、その幼い恋を応援できないのだ。半分は繋がった血の恋を。



 ある日、思い切って、ガーレルはイアにその悩みを打ちあけた。


「それは……」


「でしょ?」


「別に良いだろう。ガーレル。」


「はぁ?アルフィアの色白はその系統のせいよ…?その子供はどうなるか。」


「13歳の恋で結婚まで心配するとか、まさに親バカと言うモノ。」


「そ、それはそうだけど!」


「それに、恋は止めて止まるものじゃない。恋を止められるなら…そうだな、今夜は私と代われ。いや、ずっと代われ。私がその分、アリエスを慰めてやろう。」


「ばーか。誰が代わるか。」


「乱入しようかな。前みたいに。」


「お断り!絶対来ないでよ!?」



 ―――魔術の塔。大陸各国に配置された、魔術の学院にして、魔道師団。大陸最強の鉾。


4階の一室に集められた<青>の部隊の前では、<紫>の上官が講義をしている。


今日の演台は、<テレポートの活用>。



 美しい異母姉弟は並んで座り、あくびをかみ殺していた。


自分たちは、もう、<赤>の実力を超えている。そんな自信もある。


いや、魔力だけで言えば、<黒>の猛者だって。



 余りに有能な子供は、自分より劣った大人のいう事を聞かないものだ。


実際に、この塔の大人の大半は2人より劣っている。魔力と言う面では間違いなく。



 「テレポートの実践かぁ…。」ミラティリオが小さく指を動かした。生命抵抗のない物質なら、遠距離からでも呼びだせる。逆に言えば、消せる。


<紫>のジョゼフがちょっと横に置いた教鞭は、10mくらい離れた椅子の上に移動させられた。



 気が付いたアルフィアがくすっと笑う。


「あれ、ここに置いたはずだが…。誰だ。悪戯は辞めろガキ共。」


「はは、バレてないバレてない。」


「悪い子なんだから…。」


「くすっ。」



 一緒に移動させた教壇は、わずか50cmしか動いていない。


背を向けるたびに、ちょっぴり動かした。


ジョゼフの講義は、気が付けば部屋の端の方まで移動していた。


気が付いた<青>の者達はクスクスと笑いをかみ殺す。


自分が端まで徐々に移動していたことに気が付いたジョゼフは、真っ赤になって怒り出す。



お前かミラティリオー!!



「なんで判るんだ…?」本気で不思議そうにミラティリオが言った。


「それは、あなたが常にイタズラしてるから。」




 数日後―――魔術の塔、裏庭。小さな森がある。


誰も見ていない、学舎裏。


2人は、寄り添っておしゃべりし、時々キスをする。



 「ねえ、ミラティリオは15歳になったら旅に出るの?習わし通りに。」


「うん…アルティオラ次第。」


「わたしの?」


「一緒に行こう。一緒じゃないと、行きたくない。」


「あまえんぼ。」


「一緒に行きたくないの?僕が旅先で恋人を作ったらどうするの?」


「ん、どっちも殺すわ。」


2人は、年齢より少し上の、又は年齢通りの会話をして、恋を確かめる。



 そんな折、いつも2人きりになれるこの森に、木の剪定をする老人が来た。


ちぇっと思ったが、ちょっとしたイタズラ心が生まれる。


何故なら、老人には魔力があった。それも、そこそこ強い。


もしかしたら、引退した猛者なのかもしれない。



 「おじいさん、魔法使いですか?」


鋏が3本、宙に浮き、老人の指示に合わせ枝を切る。


我ながら間抜けな質問だと、ミラティリオは思った。


「へえ。そうだがね。昔の話し。」


「何色の称号だったの?」


「はぁ、白だった時も在れば赤だった時もあるかねえ。でも、色なんて関係ないだろう。強いものが強いのさ。綺麗な坊や。」



 坊や、はちょっと子ども扱いしすぎじゃない?


ミラティリオはちょっと癪に障った。


赤。間違いなく一流の相手。ちょっと笑ってやろう。


「やめなさいよ…」アルフィアがたしなめる。


「大丈夫。ちょっと、懲らしめるだけさ。」



 「おじいさん。そんな強かったなら、ちょっと力試ししてみたいな。鋏を一本貸しておくれよ。剪定勝負しようよ。」


「ほほほ、じいは強いがやってみるかね?」


「じゃぁ、こっちの3本の木を僕が。そっちの3本をあなたが。上手く素早く出来た方の、勝ち。」


「良いですよ。坊や。」


「スタート!」



 ミラティリオはまず、鋏を動かして、一本の木を、その緑をリンゴの形にした。我ながら良い出来だ。


老人を見る。もう、2本目に取り掛かっている。しかも、作ったのは鶏だった。リンゴより、細かく、リアルに。


「ち!さすが赤のジイサン!」


「“スロウ…”」


愛しい少女から、内緒の手助けが入った。どうやら、老人の鋏は随分と遅くなったらしい。



 次は、もう少し凝った奴を!


ミラティリオは、孔雀を作り上げた。


それでも、ほぼ同時に、老人は見事な竜を作り上げた。


ヤバいな!スゴイ爺さんだ!あ、待てよ!?ここは1つ…。


<テレポートの応用をしてみようか、アルフィア。>


ミラティリオは、わざと、形の崩れたゴブリンを作り上げた。


<アルフィア。タイミングを合わせて。3本とも全部だ!3、2、1、テレポート!>


老人の木と入れ替える。老人の剪定した木は、それはそれは見事な、生き生きとした鳳凰が作り上げられていた。


へへ、腕はじいさんの方がスゴイね。認めるよ。でも、勝負は僕の勝ちだな。


アルフィアが老人の3木をミラティリオの方に送った。


同時に、ミラティリオは自分の作った3本を、根こそぎ老人の場所へ移した。



 「ありゃあ、なんてこったい。」


「はは、僕の勝ちでイイかな、おじいさん。」


「なんてこった、儂のボロボロな剪定が、ちょっとマシなのに変わっている!」


「はぁ!?」


アルフィアが口を開けた。ミラティリオは目を見開いた。



 自分のほうに送ったのは、見るも無残な、猿かナマコか判らない人型、排せつ物にしか見えない変な三角形、ゴブリンの方がましなホラーキャラ、の3本だった。


老人の方には、まともなリンゴ、比べればまともなゴブリン、立派な孔雀。


「なんだってええええ!?」


老人は笑って言った。「儂の勝ちじゃなぁ。2人がかりでも。」


ぐ。バレてる。


「この後の事も含めて儂の勝ち。じゃあな。坊や。テレポートはこうやって使うモノだよ。」


老人は、鮮やかに勝ち逃げする。


いや待て、鋏を持ってけよ!仕事しろよ!!



 「ミラティリオ…ちょっと来なさい…。」


はっと後ろを振り返る。


時々、魔術の塔に遊びに来る、お妃の1人、キャステラ妃!いや、キャステラ母様!


今だに10代にしか見えないハーフエルフ。


自然魔法の達人、自然をまも………!!



 「この惨状は何かしら、ミラティリオ。この滅茶苦茶な剪定はナニ?木が泣いているわ!更に!引っこ抜いたの!?根元グラグラじゃない!!」


<ミラティリオ、大好きよ。あのおじいさんの教えに従うわね。テレポートはこうやって使うのね。逃げ!(テレポート!)>


「あ、アルフィア!酷い!」


「直しなさい!全部直しなさいー!!」


木の葉が踊り、風が強く吹き始め、実体化した木魂が現れてくる。木の精が怒りの目でミラティリオを睨んでくる。


逆らうのは2つの意味で無駄だった。森の中で、自然魔法の使い手に逆らうなど。


…父上…アークマスターの妻に逆らうなど…。



この日。ミラティリオは、大人の怖さを存分に味わうことになった。



 ―――夜。王城。


アリエス王の寝室にはキャステラ妃。ハーフエルフのキャステラ妃。



 「…とまぁ、そういう訳で。あの子にはちょっと頑張ってもらいました。今頃ヘロヘロだよ。」


「ふうん。」


意地悪い老人と魔法比べしたんですって。


「ふうん。」


「最初から幻影だったのか!で、自分はテキトウやりやがって!って怒ってた。」


「へー。」


「まあ、いい薬カモ。あの子達は才に恵まれすぎているね。」


「魔力だけではどうしようもない事は多々あるものさ。自信は大切だけど、過信は悲劇を生む。僕が15の時に、味わったみたいにね…。」


「ティアナの事?」


「…うん。」


「…そう言えば、木の剪定を滅茶苦茶にしたもう一人の犯人が捕まっていないね。」


「ギクリ。」



「…お仕置きが必要だね。“おじいさん”?」



キャステラ妃は、狼のように、夫ににじり寄った。



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