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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<皇太子セティス編>第2話

 ベッドから月を見ながら、セティス王子は昨日出会った2人の少女の事を考えていた。


あの盗賊さん、本当に道を変えてくれたらいいのに。そう思って見逃したのになぁ。


あの剣士さん、綺麗で、強そうで。うらやましい。初仕事って言ってたな。冒険者になるために首都ディムに来たのか。


冒険者…


自由…。


冒険。か。


こんな力ない皇太子なら、身分は要らないよ。いや、きっとそれは贅沢なことなんだろう。僕は人に羨ましがられる立場なんだろうから。



 皇太子は思い立って、王城地区内の教会へ、ぽたぽた歩いて行った。


静かに、扉を開く。


正面に祈りの献花台がある。4人の神の像がある。


王家ゆかりの神々だ。そのゆかりなど、都合よく選んだものなのかもしれないが。


主神である夫婦、戦の神と、豊穣の神が中央に並ぶ。



 でも、その左右に並ぶ小さな像の神の方が、セティスは好きだった。


審判の神と、慈愛の神。特に慈愛の神を。慈愛の女神、マグリテアを。



 別に、いつも通りに、祈りを捧げただけだった。何となく、落ち着く。


僕は、あの盗賊の子のように、誰かを救えたらいいのにな。


…救えてないか。はは。




 セティスは、例の儀式を自力で施して、再び主門を出て行った。上手く行かないけど、多分まあまあ。


たった1人で出た。勿論、それは厳しく禁じられている。大迷惑な話だ。もしかしたら、一度くらい、迷惑をかけてみたかったのかもしれない。



 ーーー夜。冒険者の宿・兼、酒場。


 首都でも有名な、お妃の1人、メイフェア妃の父親が経営する店。一流の料理、旨い酒。吟遊詩人もひっきりなしに出番を競い合う、人気の店。


その一角に貼り出された依頼書は、主人が認めた依頼人からの仕事に限られている。


今でも、お妃と国王はこの店にしばしば遊びに来るのだ。だから、セティスもこの場所を知っていた。



 両開きの、軽い半扉を押して、中へ入ってみる。


すぐに、目線が集まって来た。声が聞こえる。



 オイ、えらくカワイイのが来たな。


まぁ、かなりの平らさだが…。


冒険者じゃねえな。依頼人か?


じゃぁ、礼儀よくお誘いするか。オレの部屋へ。




 冒険者の酒場とはいえ、此処は無法の許されない店だ。国王の肝いりだ。恥をかかせれば、怖ろしいことになりかねない。なんせ、魔王と呼ばれるアークマスター、その義理の父が経営する店だ。


故に、女性へのアプローチも紳士的だ。強制的に紳士的だ。


セリスの前にさっそく男たちが寄って来たが、少女セリスは優しく笑って、「連れがいるので、ゴメンね」とやり過ごす。


目当ては、運が良ければ、居るだろう。


…いた。本当に幸運だ。他の宿に行ったことは無いから。



 男たちに言い寄られている、背の高い美女がいた。


どうやら、男たちの飲み比べに巻き込まれ、体よく酒を飲まされているようだ。


しかしなかなか潰れず、次々に勝負を仕掛けられている。大したものとも言えるし、世間知らずはキミもじゃないのかな、と思ったりもする。



 セリスは、背の高い女剣士の横に立った。


「…お待たせ。」


「あ。えっと。ヘンタイ。」


ちょっと傷ついた。


尚、この世界、この時代に、女装や男のメイクは市民権を得て居ない。残念ながら、性自認の自由もあまりない。



「座っていい?」


向かいの席を求めた。男たちは、いったん引き下がるしかない。ターゲットが増えたのだから、作戦変更。



 「…何ヵ。用?」


セティスは小声で言った。


「飲みすぎだよ。キミを酔わせようとしてるじゃないか。判らないの?」


「へえ、そうあんだ…どうして判るの?アンタも使うテなの?」


「そ、そんなことしないよ。」


「…される方か。」


「それも違うってば。」


「まぁ、あたしが酔ったところで、何が出来るもんか。」


「それは過信だよ。ココにはキミより強い剣士が沢山来る。」


「へえ、それは…楽しみだね…………。」



 寝始めた…。


セリスは、大きな声で言う。


「全く、酔っちゃって。マスター、部屋へ案内して。連れて行くから。わたしが。」


マスターは周囲に聞こえない様に、小さく部屋番をセリスに教え、鍵を渡した。


頷き、自分より大きな体に何とか肩を貸して、ズリズリと彼女を運ぶ。


すぐに送りオオカミが助力を理由に寄ってきたが、マスターが一瞥して追い払った。



 フラフラになりつつも、鍵を開け、ベッドに彼女を横たえる。剣を外し、毛布を掛ける。貧弱なセリスには、ひと仕事だった。


セリスは1枚の羊皮紙に一筆書くと、鍵を閉め、左手の指輪を掲げて、テレポートする。


<帰還の指輪>


アークマスターが、子供らの為に作ったマジックアイテム。


<オートバリア、オートマインドバリア、ホームテレポート>の3つが使えると聞いている。


尚、妃達は皆、これより怖ろしく強力な指輪を身につけているという。




 ―――翌朝。


 宿の近くにある小川のほとり。可憐な少女に背の高い剣士が声を掛ける。


手に羊皮紙を持っていた。



 だが、開口一番に言ったのはこんなセリフ。


「…アタシに何もしてないだろうな。ヘンタイ…?」


少女は必死に否定した。


「…まぁ、紳士なのは認める。ヘンタイ。で、本気なのかな?」


セリスは頷いた。


「まぁ、役に立たないだろうけど。おもりしてやるよ。ヘンタイ。」


「その呼び方やめて…。この姿で居るときは、セリス、で。」


「ふうん。アタシの名前はユシカ=ディ。じゃぁ、一緒にケイブラット倒すぞ。ヘンタイ。」


「お願いだから、せリスで。」



 2人は歩き出した。背後には、その後を尾行する影があった。



続く―。


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