第57話 西方編エピローグ「3つの未来」
魔術の塔のアリエス、西方編 エピローグ
皇帝の玉座。謁見の間。
賢者が高らかに献言する。
「悪魔の山を消滅させ、魔神を葬った、アテンドル救国の英雄、ツァルト王国国王にしてアークマスター、アリエス王の栄誉を讃えるものである!」
「如何なる願いも叶えられよう。この勲章と共に、皇帝の名において、アリエス王に褒美を取らす!」
「述べられよ、アリエス王!」
誰もが、次の言葉を予想していた。
ガーレル姫を欲しがるに違いない。世界一の美女、薔薇のガーレル。
皇帝も、それは止む無しと思っていた。まして、それでこの男の恐るべき力が、アテンドルのモノともなる。
皇帝の近くには2人の皇女。
ガーレル皇女は何となくソワソワし、アリエスの言葉を待っていた。
皇女アルティオラは、変わらず氷の表情であったという。
「皇帝陛下!お2人の皇女、アルティオラ姫とガーレル姫!どちらもお妃にお迎えしたく存じます!」
世界中が、あんぐり口をあげた。
あごが落ちた。
ええええええええええ!?
「…お断り致します!」
誰かが何かを言う前に、アルティオラが高らかに叫んだ。
「…本人の意思が最優先ですよね。アリエス様。嫌がるものを連れては行きませんよね?」
「アルティオラ…僕は…」
「私は、皇女として生きます。あなたについてなど行けません。」
しかし、この時、アルティオラ姫は、微笑んでいたという。
…涙すら、流していたという。
アリエスは、目を閉じた。黙るしかなかった。
「…ガーレル姫はどうか?」皇帝が聞いた。
ガーレルは、スタスタと歩き出し、アリエスの周りをくるくる回りながら、
「どーしよっかなぁ~。どーしよっかなぁああ~。」と何回か言っていた。
「…子ども!」側近のラシュラがまたまた、呟く。
「お妃に、なったげるー!」
姫は、アリエスに抱き付いた。
婚礼の儀は一週間後、盛大に行われた。2人はハネムーンを兼ねて、西の大陸を横断しながら、魔道国ツァルトへ向かうらしい。
余談だが、後日、ラシュラは、フラウレを辞し、ツァルトで妃達の親衛隊に加わった。
…望んで腐れ縁を続けたかったのか。よほど心配だったのか。いずれにせよ、ガーレルの親友はこの後も傍に居るのだ。
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老魔女を欺き、若く美しく邪悪な少女が、魔女の座を奪う。「バルザ・ヤガの恐怖の夜」という本があった。それなりに、有名な本だ。
つい最近知られるようになったのだが、物語には2冊の続編があったのだという。
その少女の幼い恋の物語、そして、破滅と救済の物語。
作者の孫であるハロルディ氏ですら知らなかったのだが、倉庫で見つかり、刊行するに至った。
そう、だれも知る筈がない。その物語は、つい最近になって、生まれたのだから。
実在の魔女の伝記であると、そう言われている。
ある日、アリエスが突如連れて来た、赤黒い髪の少女、<イア>は、すぐにお妃となり、国民にお披露目された。
年若く、それでいて妖艶さを持つ、世にも美しく、謎多き、お妃。
魔女の物語の主人公と、奇しくも同じ名前だ。まぁ、名前自体はそこまで珍しくもない。
余りの突然さに他の妃たちも驚いた。そして、「またか」とため息をついたが、やむを得なかった。
が…。
最年少の妃となった妖艶な少女は、事あるごとにアリエスにべったりで、周囲や他のお妃たちが顔をしかめる程だった。
それが原因で、後に同傾向を持つ盗賊姫エディや、薔薇のガーレルと、ひと悶着あったと言われている。
まぁ、解決したのだが。
ある日の事。
イアはアリエスと腕を組みながら街を歩いていた。
街行く人々は、新しい妃を見ようと人だかりを作る。
イアは人目をまるで気にしていなかったが、人ごみの中で、1人。
自分をみて、本当に静かに微笑む女を見つけた。
年のころは20代半ばなのだろうが、髪が銀ではなく、ハリのない老人のような白髪で、その美しさを削っていた。
イアは、その女の事がどうしても気になり、アリエスの手を引いて、話しかけた。
「貴女は…私と、会ったことが…?」
「…いいえ。」
「…いや、何処かで…未来か、過去で…」
「不思議なことを。噂通り、お綺麗なお妃様。今日はお目にかかれて光栄…お声までかけて頂き幸せです。」
女は、一礼して、去って行く。
イアは、不思議そうに、去り行く女を目で追い、はっとした顔で、女にもう一度話しかけた。
「…ドミニク?」
女が振り返る。驚いた顔で。
「ドミニク!」
イアは、女に追いすがり、抱き付いた。子供の様に、母に甘えるように。
誰かは判らないけれども、記憶にすらないけれども、間違いなく大切な人だった。
ドミニクは、すっと涙を流す…。
魔女。あなたが幸せになって、良かった。本当に、本当にそう思う。
イアは固辞するドミニクを説得し続けた。後に、ドミニクはイアの侍女となったそうだ。
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最期に、皇女アルティオラ。
新入りさん?頑張ろうね。アルティオラ様の為に。
アルティオラ姫のベテラン給仕が、新入りに語る。
…ああ、皇太子殿下の父親の事ね?
うーん、何から話したものか。
例の事件の後、皇帝は正式に次期皇帝として、民の前でアルティオラ様を指名したわけ。5年後くらいに、新皇帝にと。
まぁそこは皆、ある程度、予想していた事なんだけど。
驚いたのは、その時、アルティオラ様のお腹が大きかったことさ。
そりゃあ、みんなびっくり。父親はだれだ!なぜ婿に迎えない、ってね。
でもアルティオラ様は、皇帝に聞かれても沈黙を守ったらしいよ。
アルティオラ様は、そのとき言ったのさ。この腹の事なら心配は要らぬ。母としても皇帝としても成し遂げて見せる。自分は、皇女アルティオラである!ってね。
とっころがその時。空から、オトコがやって来た。本当に空からなんだよびっくり。
兵は槍を構えたけど、その男が救国の英雄アリエス様だと判ると、渋々槍を降ろした。
アリエス様は、皇帝陛下に一礼すると、アルティオラ様の前に舞い降りて、口付けしたのさ。ロマンティックだったねえ…。そして、少し膨らんだお腹を優しくさすって、声を掛けていたよ。
アルティオラ様が何やら怒って、笑い泣きして、アリエス様は飛んで逃げて行った。
その時、みんな、判ったのさ。父親が誰かなんて。
伝説の、<2人ともお妃にください>は、本心だったんだね。
それから、アルティオラ様に何度怒られても、アリエス様は時々やってきて。
しまいにゃ、皇女も根負けして。アリエス様は…内緒だよ…皇女の部屋に泊って行くようになったのさ。
そして、この間の、皇太子殿下誕生の儀…1年前、アテンドルを覆った悲しみを吹き飛ばすような、華やかな宴だったねえ!
最近かい?この間、皇太子さまを抱いて歩くアリエス様と、隣のアルティオラ様…ぴったり寄り添っちゃて…大胆なこった。アタシにもそんな頃が…なんだよ、その話はいいって?
ウワサじゃあ、皇太子さまが皇帝に即位した後に、アルティオラ様は晴れて、ツァルトに嫁ぐつもりなのだとか。噂だけどね。
1つだけ言えることはね、もう、皇女は<氷の皇女>なんて呼ばれていないってことだ。
<木漏れ日の皇女>って呼ばれてるんだ。
…さぁ、無駄話は此処までだ。ベッドの仕上げ方からお茶の注ぎ方まで、みっちり覚えてもらうよ。アルティオラ様の為にね!
あと、壁紙や調度品を新調する時は、必ず、柔らかい黄色!
<魔術の塔>のアリエス 第2部 西方編 完
第二部西方編完結です。お読みいただいた方、心より感謝申し上げます。




