表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
74/134

第54話 「2人」

 祈りの時間から、2日目。


魔神は、ただ笑いながら、見ていた。


結界の中では、首を切られ、見えないようにマント布を掛けられた死体が転がり、ピューリを覗けば、ガーレルとQTしか居ない。



 ガーレルは一言もしゃべらない。そして、時々、美しい顔を歪めて泣き出す。


QTは、初めて、顔を覆う布をとった。


女だった。30代だろうか。顔には幾つも傷がある。


「恋してたのか?あの魔術師に?」


ガーレルは答えない。



 また、魔神が近くに寄って来た。


「女同士、良い話をしようか。教えてやろうか。そのニセモノの秘密。」


「結構だ。」


「何故、聖なる者をニセモノと断言できるか…。それは、儂が魔神でありながらニセモノだからだよ。面白いだろう?」


「何…?」


「儂らは、ある本から作り出された、借り物の存在なんだよ。笑える。生まれた時は、頭の中に浮かんできた使命…とでも言うかね…すぐに人間を襲いに、嬉々として出たのさ…」


「だが、ニセモノでも知恵はある。すぐに、自分が何者か疑問に思った。魔神なのだから、魔界にも行こうと考えたよ。しかし、入れなかった。入れなかったんだよ。まがい物と言われてねえ!」


「そう言えば、過去の記憶が無いんだ。笑うしかない。」



 魔神は、何冊もの本を、宙に呼び出し、2人の周りに降らせた。


QTは手に取ってみた。結界の中なのだから。安全とも思えた。



 そして、顔色を変えた。


「ばかな…バカな!そんなバカな!まやかしだ!この本こそ、まやかしだ!」


「…まやかしじゃない。現実だ…」



 アリエスの声が、聞こえて来た。


ガーレルはハッと顔をあげ、叫ぶ。


「アリエス!アリエス!?」


地の底から、炎の塊が、飛びあがってくる。


「蜘蛛に囲まれて眠るのは最悪の経験だったけど、お蔭で回復できた。精神力は、ね。」


「き、傷は!?」


アリエスは、上半身を脱いで見せた。


体の一部を硬質化している。メタライズを部分的に使っているのだろう。


「一時しのぎだけどね…」


ガーレルが抱き着いた。


「ゴメン、キミに渡した指輪を通して、ずっと声は聞いていた。」


ガーレルは赤くなった。


「サイアク!蜘蛛の中にもっかい落ちれば!?」


ガーレルの文句をまるで聞いてないように。


アリエスは、ガーレルを抱き寄せる。


「…生きてて…良かった…」


涙を流すガーレルの唇に、そっと唇を重ねる。



 「悪いが、アンタらで好きにしてくれ。撤退させてもらう。」


QTが、2人に言った。


「QT!?」


QTは、本を手に取り、どうと言うことは無い1ページを開いて、2人に見せた。


「…絵本だ!子供だましの、絵本だー!!」



 そのページには、蜘蛛の魔物の前で光り輝く少年の絵が描いてあった。


拙い絵だった。


「聖なる者と悪魔の山!著者は聞いたことも無い、無名の作家!20年前の絵本だ!こ、コイツは本当のことを言っている!わ、笑い話だ!こんなものの為に、沢山の人が死んだ!沢山の仲間が、家族が、死んだ!!冗談じゃない!何が、聖なる者だ!!」


「あははは、試しに、その聖なる者とやらに、松明で火をつけてみるがいい。燃えるだろうねえ。よく、燃えるだろうねえ。」


「耳を貸すな!虚実混ぜて言っているぞ!冷静に判断するんだ!」


「あと、30秒やろう。それで、運命を選べ。30秒数えたら、その結界事。次元断層で囲ってやる。意味が分からないかな…?」


「貴様…」


「魔術師のお2人は判ったか?テレポートできなくするってことだよ。」


「30…29…28…27…26…」


「あ、アリエス、どうしたらいいの!?」



<ピューリを信じないのですか?ピューリを信じるガーレルを、信じてくれないのですか!?>



 「僕は、信じる。キミを信じてる。だから、君が信じた、ピューリも信じる。」


「アリエス…」


「キミはずっと、ピューリの手を握っていたじゃないか。その手は、ニセモノだったのかい?」


「20…19…18…」


「QT!キミの言う通り、多くの人が死んだ。まやかしで人は死なない。実在していることは確かなんだ!」



 アリエスは、別の誰かを、一瞬心に浮かべた。


ああ、そうか…キミも…過去の記憶が無かったのか?創り出された存在だから。設定された、魔女だから。


では、何故僕にはキミとの記憶がある?イア。



 「10…9…」


「悪いね!アタシは、信じられないよ。信心深いアサシンなど。夢見がちなアサシンなど、居ない。」


QTは、ザドの持っていた指輪を無理やり剥ぎ取り、コマンドを読んで、唱えた。


「テレポート!」



「3…2…1…0…“次元隔離”。お前達は…少なくとも、女。お前はもう、逃げられないな…。」


――――――――――


 同時刻、アテンドルでは、腕の完治した皇帝を、アルティオラが見舞いに来ていた。


実際の所、アルティオラにはそんな心の余裕は無かったのだが、腕を再生し、意識を取り戻した皇帝が急ぎ彼女を呼び出したのだ。


「…先日は大儀であった。お前の見事な活躍を父として褒めたいのだが、それどころではない。急ぎ。例の村へ出向き、守るのだ。」


「父上?」


「儂は、もう死ぬと悟った瞬間に、あの男を呼ぶように命を出してしまった。将軍の居る前でだ。あの裏切者の野心家が動く前に、村を制圧せよ。何が何でも、村を守らねばならん。」


「父上…何という事を…。」


「済まぬが、お前しか頼れん。アルティオラ。」


「判りました…ガーレルの為に、行ってまいります。ユタチェルティ殿がおられる以上、将軍もそう簡単に手出しは出来ないでしょう。すぐに向かいます。」


アルティオラは、皇帝の間を出ると、早足で歩き、次々に側近に指示を出す。



 …アリエス様は、この後山頂付近へと言った。ならば、「蜘蛛の巣」を登り、ピューリの瞑想が始まっているはず。


「本の通りならば。」



 瞑想はあと何日なのだろう。私は、フラウレと共にその間を戦い抜く。


時が経てば、あの人なら、山を消滅させて、私と一緒に村を守って…。


頭をよぎる甘い考えを、ダリアは振り払った。


ーーーーーーーーーー


 祈りの日、3日目。


蜘蛛に囲まれ、この先の未来も判らない最悪の状況。



 2人は、背中を合わせて、でも手をつないでいた。


「もうすぐ、3日経つね。」


「ああ、もうすぐ、解決するさ。」


「もし、もし魔神の言う通り、何も起きなかったら。アリエスだけでも、逃げてね。」


「うーん。出来ないな。」


「…私が魅力的だからでしょ?」


「そうだよ?」


「ちょっと…冗談だったのに…。」


「ガーレルの事、もっと教えてよ。あ、そうだ、何歳?」


「レディーに年齢効く?20だけど。」


「あ、1つ下なんだ。」


「でも16歳。」


「ナニそれ。」



 と言っても、アリエスにはその年齢の方が外見的にしっくりくる。


「実は、何年か、私、氷漬けで眠ってたんだって。病気を治すのに。」


「へえ、眠り姫。」


「あは、だから目覚めた時、お姉さま少し年上になっててビックリ!」


「へええ!」



 なるほど、肖像画の謎はそれか…。


いや、少々…腑に落ちない。<病気>なら、皇帝が、最高位の僧侶を連れて来ないはずがない。



 少し、沈黙。


「もし、死ぬなら。一緒なら、我慢するかな。」


「僕もいざその時には挨拶しなきゃいけない人が一杯いるけど…。最後の瞬間がキミと一緒なら。」



 瞑想するピューリの背中。2人は何度も、キスした。


「もうじきだな。愛するお2人さん。記念に、そこでセックスでもしたら如何?」


「な!?」


「死体の傍で?結界の中で?やめとくよ。ちゃんと、僕の部屋に連れて行く。」


「誰がイイと言いましたかヘンタイ!!」


「おお、見よ、終わりの時だ。」


ピューリが、立ち上がった。両手を開く。


結界が…消えた。



沈黙。


這いあがり始める、蜘蛛の群れ。


沈黙。



 あ、ははは、あはははははは!ははははは!!


蜘蛛の笑い声。憎々しい、笑い声。



 ガーレルが、小さく、悲し気に言った。


「生まれ変わったら…妃になってあげてもいい…」



 アリエスは、ガーレルを抱きしめながら、最期の考えをめぐらす。


アルティオラは、本の事は半ば認めながらも、知らないから救えると言った。


何を、まだ言っていないのか。何をだ?


…神がいる。西には神が居る。神。


神の力の源は…信心であるという。



 ピューリ…。


「ガーレル。手を繋ごう。」


「抱き合っているのに?キスの方がイイ。」


「ピューリの手。広げてるんじゃない。キミと手をつないでいた高さだと思わない?」


「うん、確かに…しかも両手って。」


2人は、静かに笑った。そして、ピューリを挟んでそれぞれ、手を取った。



 「ピューリ。キミを信じる。」


「ピューリ。頑張って。」


声は無けれども。2人は、聞こえた気がした。


<ありがとう>



 そうだ。もし、ピューリが聖なる者として、<設定>されているなら。その源は<信心>。


ピュアなガーレルには言わなかったが、アリエスには、そういった根拠があった。


賭けるに値するかどうかは、別な根拠が。


だが、アリエスは、信じた。ガーレルを信じた。ガーレルが信じたピューリを。



 「小さい子の両側で手をつなぐって、あは、夫婦みたい。」


「ガーレル。」


「何?」


「それ、実現しよう。1年後にさ。」


「…どうしようかな!あは!」



 ピューリの体が、輝きだす。


柔らかな表情で、声を発した。


「ありがとう…僕は、世界を導くもの」



 輝きが、徐々に大きくなる。


大きくなる!


蜘蛛の糸を浄化し、消し去り、蜘蛛を消し去る。



 「なあにぃ~!あり得ない!あり得ない!何故、お前は本物になれる!?儂がニセモノであるのに、お前が本物の筈が無かろう!儂は消えて、お前は世界に君臨し神になるだと!?認めぬ!認めぬ!!」


蜘蛛の魔神が、次々と呪文を飛ばす!糸を吐く!


だが全て、聖なる者の光の前に霧散した。


「ふ、ふざけるなあああ!儂が消えるならば!聖なる者!お前も消えろ!消えろ!消えろ!“マス・テレポートぉぉお!”」


「マス・テレポート!?誰を送った?」


「は、はははは、<神>が死んでも、お前は存在できるのかな!?聖なる者!共に消えよ!ワシと共に消えよおおおお!!」



 「神!ガーレル!心当たりは!?いや、アルティオラなら知っている筈!」


「…神…ピューリの現れたところには…神託を聞けるおじいさまが…」


「次元断層…中和する!!」


「できるの!?魔神を!魔神の魔法を!?」


「ガーレル!神託を聞けるだけなら、僧侶にもいる。<神>は、多分そのご老人だー!」


「―――!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ