第53話 「裏切り」
その頃、「善なる村」
銀のユタチェルティは、10名に及ぶ、もと冒険者の猛者を相手に、壮絶な戦いを繰り広げていた。
何故襲われたのか、知る由もない。だが、想像はつく。
村の秘密を知った愚か者が居るのだろう。
アテンドルと、フラウレと、魔術の塔で守り続けて来た秘密を。
大半は戦士崩れだった。<銀>の称号を持つ彼にとって、ハイメルと双璧と言われた彼にとって、魔術師は敵ではない。
だが、相手が強大な魔術師としり、なお挑んでいた者達は、皆、一人残らず、アンチマジックを掛けていた。
元々、アテンドルのフラウレは対魔法を極めて来た一派だ。手助けしている者が居れば、容易いこと。
アンチマジックは、魔力差があろうと、通常の方法では破れない。ディスペルも効かない。
ユタチェルティは、剣を交わすと、上空に飛びあがり、付近の木を、20本程根っこから引き抜き、戦士の上に振らせた。絶叫と断末魔。
9人。
下から、次々と矢が飛んできた。しかし、一本も当たらない。すべて、彼の目の前で不自然に落ちた。
本人に魔法が効かぬのは面倒だが、それで戦いようがないとでも?
我は、“レテネージ様”に西を委ねられた、銀のユタチェルティ!
「“メルティング・アース!”」
弓を撃った軽戦士の足元が、突然、底なしの沼に変わる。
悲鳴…沈黙。
10人。
ユタチェルティは、村へ飛んだ。
組織だって動いている以上、恐らく…。
村は、軍によって占拠されていた。
ユタチェルティは油断なく、村を見渡す。広場に、首謀者と思しき一団が居る。
上から。メテオを降らそうかと思ったが、それはできなかった。
一番偉そうなその男、将軍リュカインの前には、あの老人、マシュメノが居たからだ。
――――――――――
アリエスは、仲間の許へ降り立った。
「アリエス、どうすれば良いの?」
不安げなガーレル。
アリエスは、ピューリに呼びかける。
「ピューリ。山頂だ。キミの出番だ。目を覚まして。覚ますはずだ。キミは、聖なる者!」
ピューリは、ニッコリと微笑んだ。美しい、笑顔だった。
初めて、自分から歩む。
誰もが驚いた。
少年の体からは、うっすらと白い光が放たれていた。
聖なる光。そう思えた。
ピューリは、先端まで歩むと、座禅を組んで、祈り始めた。神聖言語のようだが、よくわからぬ言語のようにも聞こえる。
3日間の祈りが、始まったのだ。
光は、大きくなって、そう、直径10m程になって、触れた蜘蛛の糸を消滅させた。
10mの結界。そう言った方がいい。
「ほうほう、頑張っているじゃないか、ニセモノ。」
その10mのすぐ手前で、巨大な蜘蛛が笑っている。
「そう思うなら、その光の中に手を伸ばすといい。魔神。」
「いやいや、その程度は出来ような。我同様に。」
我同様に?
一行はただ、結界の中で時を待つ。
蜘蛛に囲まれた、景色最悪な、僅か半径5mの自由。
目の前には、不気味に笑う人面の蜘蛛。
あああ、腹が減った。おやつにしよう。
蜘蛛は、何処からか、1人の若者を一本の手でぶら下げ、口の前に持ってくる。
「やめろおおお!やめてくれえええええ!あああああ~!」
「貴様!やめろ!」
「ああ、止めないのか?聖なる者は何もしないのか?そうよな、お前にその様な力など無い。ある筈がない。」
蜘蛛は、若者をわざわざ結界ギリギリまで近づけて来た。
「旨そうだろ?」
「“バーニング”!」アリエスが、体に火をつけた。
「うわぁ、驚いた!」白々しく後ずさり、蜘蛛は“手を離した”
あああああああ!いやだあああ!
若者が叫ぶ。すぐ近くの糸に絡まる。そして、一瞬で、無数の子蜘蛛が若者に取り付いた。
絶叫が響く。蜘蛛の笑い声が響く。
「貴様…許さん…!」
アリエスは、結界の外へ飛び出した。
蜘蛛は、笑って距離を取った。そして言う。
「追って来るか?戦うか?もうお前は、魔力が残っていないのではないか?そうよな、見て居たぞ?随分と派手な立ち回り。如何に尋常ならざるものとて、ロクに休息もなく、呪文を使い続けてはなぁ?」
そしてそれは、事実だった。
「お前が居なくなれば、残りはそうよな、すぐにでも我が子らのエサになろう。」
アリエスは、元の場所へ降り立つ。
仲間は達は、一瞬、言葉を失った。
「本当か、アリエス。もう、呪文が使えないのか。」
アリエスは答えない。
「そうか…。」ザドヴォックは残念そうに言った。
そして。背後から、アリエスに回し蹴りを撃ち込んだ。
完全なる不意打ちだった。
モンクの一撃は、通常の格闘家の比ではない。アリエスは、のたうち回った。多分、肋骨が折れている。血を吐いた。
余りの事に、ガーレルも、QTも、反応が遅れた。
ガーレルは一瞬遅れ、やっと悲鳴を絞り出した。
「アリエス―!!」
のたうち回る若造の姿を見て満足げなモンクは、とどめを刺そうと近づく。
ガーレルが立ちふさがった。盾と剣をその手に呼び出す。
対人対魔法の達人である彼女。しかし、モンクは、魔法を使わず、魔法に耐性を持ち、素手で剣士の一撃を持つ。相性は悪い。
「QT!お。お願い!手当てして!」
「アサシンに手当てができるものか!?」
「ははは、なんだ、意外と簡単なミッションだった。これで、オレは最強になれる。」
アリエスが、ぜえぜえ言いながら、血を吐きながら、ザドヴォックに言った。
「なれる…か。誰との取引かな。実に裏切られた感満載だよ。これだけ周り中に悪意があると、気が付かないものだね。」
「だろうな。しかし、よく耐えた。一撃で死んだと思ったが。」
「“パッシブのバリア”が無ければ死んでいたけども。吸収し切れなかっ……くっ」
「アリエス様、使い魔と入れ替わってツァルトへ戻るのです!ここは私に任せて!」
「いや、僕が戦おう。」
アリエスは、よろめきながら前に出た。
「オマエ、こう言いたいんだろう。自分を殺すと、この山から脱出できないと。違うか?関係ないな。テレポートの指輪を貰っている。安心して、死ね。」
「最初から、僕を狙っていたのか!?」
「ああ、殺意を出さないのは、モンクの奥技だ。あの世で勉強しとけ。」
ザドヴォックは、アリエスをもう一度回し蹴りで蹴る。
鈍い音がして、アリエスは結界の外に放り出された。
「いやあああああああああー!!」
ガーレルの叫び。
かなり下の糸に絡まり、アリエスを子蜘蛛が覆った。
「いや!いやああ!アリエス!アリエス―!いやああ!!」
ザドヴォックが、泣き叫ぶガーレルを羽交い絞めにする。
「落ち着け、心配するな、もっといい男が此処に居る。なぁ、安心しろ。3日目の祈りが終わったら、皇帝から何でも貰えるのだろう?オレは、お前を貰おう。良い女だ。実にイイ女だ。この旅の間、ずっと、どうモノにしようか考えていた。」
ザドヴォックの首筋を、ナイフが走る。
「貴様、いい加減にしろ。」
QTがナイフを走らせる。いつの間にか背後に忍び寄ったQTの魔剣。
ザドヴォックの首がだらりと、落ちた。
「あははははっは!面白い。面白いな人間ども!」
魔神が笑った。
「わざわざ、結界の中を血で穢してくれて感謝しよう。気づいているか?結界は随分縮んだなぁ!」
QTが周囲を見渡す。その通りだった。
「ガーレル姫。もう、失敗かも知れないな。次善の策を考えよう。」
だが、ガーレルは結界の中で、伏してただ、ボロボロ泣いているだけだった。
「…アンタも、本体…本物…に変わってたのかい?いつの間に…」
「…返事なしか。ち、使い物にならん。これだから小娘は。」
魔神が顔を近づけて、言った。
「ああ、もう少し待ってやろう。その聖なる者がクソの役にも立たないのはもう思い知っただろうが…3日経って、何も起きないのを見届けさせてやろう。その時、絶望して、死ね。」
続く―




