第50話 「一夜の恋」
この丸薬を与えた者は、竜の力が暴走し。魔物になる。面白いだろう?
どう使うも自由。金も要らないよ。
…なんだ?オレの女になる栄誉をやる?
は。もう少しイイ男になってから、言っておくれ。
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王宮に、急ぎの伝令が走る。
「城下に、竜のような…人のような魔物が出現しております!」
将軍は、すぐに命を出す。
「<ドレイク>の力の見せ所である!第2、第3部隊出陣せよ!」
高速で移動できる軽戦士部隊と、サポート隊の組み合わせだ。
白昼堂々と。いや、理性があるかどうかは、まるで疑問。
上半身が竜になった人間と言えば良いのか?醜い魔物だった。火を噴き、酸を吐き。噛み砕く。
化け物が現れたのは、神官連合の居住区だった。そもそも、一般市民はいま、疎開中だ。
神官連合の中にはフレイルを操る神官戦士も居るが、稀だ。その多くは冒険者として修業を積んでいる。…つまり、此処には、居ない。
神官の呪文は回復の呪文。竜を相手にするには、荷が重い。
颯爽と現れた、ドレイク軍の部隊。勇猛に、半竜半人の魔物に挑んでいく。
半刻してだが。神官連合と共に戦ったのは大正解と言える。数多くの負傷者、…一部の死者も出たが蘇生…だが、ドレイク軍は勝利を収めた。
「…皇帝陛下。城下に突如出現した半竜の魔物は、ドレイクが無事処理致しました。」
「おお。将軍。見事である。流石よのう。如何に、そやつらは侵入したのか判るか?」
「…いえ。現在調査中であります。判り次第。ご報告を。」
「うむ。頼りにしておる。」
将軍は、顔を下に向けたまま、ニヤリと笑った。
ああ、この間抜けの信頼を完璧にするには、もう一押しいるなあ。難しくはない。ちょっと犠牲になって貰う必要はあるが。
ああ、オレの部下を使う必要は無いな。フラウレの女たちが適任だろう?
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悪魔の山、潜入の4日前という事になる。
約束通り。ダリアの執務室へパンケーキを持って来た。
潜入の3日前。リクエストにお答えし、イチゴを乗せたプディングを用意してみた。
尚、いづれも中世のシンプルなもの。質素だが、甘い。
潜入の2日前。
「エスティ。そろそろ、本当の姿を見せてほしいのだが。」
「いやいや、今となっては恥ずかしいじゃないですか=。」
「…例え老人でも、驚かないから。」
「どんなに醜くても?」
「そうだな。外見などオマケだ。私に言い寄ってくる男の半数は、皇女の地位にすり寄るハゲタカ。半数は…自分で言うのも何だが…外見に言い寄る、下衆。」
「ハイ、美人大好きです。ハイ。」
「やはり、オトコか。貴様。」
「どうでしょう。」
「…以前、ガーレルのファンと言っていたな。」
「イエス。」
「…今は?」
「両方のファン。」
「はは、やはり男はズルいな。そういう…」
<ダリア様。王城に、半竜半人の魔物、多数出現、ご助力を!>
魔法の通信機。花のブローチから。
ダリアは、一瞬で、足元に魔法陣を引いた。
普段着から、魔法で、これも一瞬で、戦闘服に着替える。
そして、エスティを一瞬チラッと見て、魔方陣に飛び込んだ。
エスティはほんの少し戸惑う。
竜の魔物?半竜半人!?
以前、それと同じ者を、見た。倒した。この手で。この手を汚した。
イア!!まだそれをバラ撒いているのか!?
やはり、倒さねばならない、魔女!
エスティは、魔方陣に飛びこむ。
「アルティオラ!キミは戦っちゃだめだ!」
既に戦いの魔法を唱え始めていたダリアは、フラウレ、アテンドルの最高戦力である彼女を、エスティが止めた。
「何を言う!この醜い化け物を…!」
「それは、元人間だー!」
「え!!」
ダリアは、改めて半竜半人の魔物を見た。
その下半身は人間。衣服が、概ね。巻き付いている…。
魔術師の…フラウレの…ローブ!?
神官の…ローブ!?
城に残った侍従たちの制服…!?
まさか!まさか!まさかー!
「キミには戦えない。キミが手を出しちゃいけない。僕がやる。」
エスティは、両手に、雷の魔法を宿した。
そして、竜の怪物を、次々に灰にして、駆け出していく。
「…アリエス王!?」
ここで、打ちひしがれ、動けなくなるようなら、ダリアの称号ではない。
皇女でもない。
アルティオラは、皇帝の間に走った。
皇帝の間は、外部の侵入を完全に防ぐ為、テレポートできない。…悔しいが、それは仇になった。
皇帝の間。一匹の魔竜が、扉を打ち破って。皇帝に近づく。冷静に下半身の服装を見れば、恐らく従者か執事であった者だろう…。
黒い竜の上半身になっていた。
その横には、将軍リュカイン。
皇帝は、壁際でうずくまっていた。
最前線の城に留まった豪胆さは、全て敵の姿が見えない、城の内側でこそ保たれるモノ。
「皇帝陛下、このオレの勇姿をご覧いただこう!」
「ひいい、こ、こんな所に魔物が!もう、もう、最期の手段を取るのじゃァ!アルティオラ!アルティオラ!村へ飛ぶのじゃぁ!」
「村だと…!?」
「村の―――――――――――――――――――――!」
将軍は耳を疑った。そして、その一瞬で、その野望を再構築した。
「おもしれ、おもしれええー!全て。俺が手に入れる!」
将軍は、竜の化け物と間合いを取り、旨く円を描きながら。戦うことなく皇帝の部屋を出た!
勿論、皇帝を取り残してだ。
すぐ近くに、アルティオラが走り寄ってくる。
この国の秘密を知るであろう、アルティオラが。
将軍は、すれ違いざま、アルティオラを抱き留める。
「おっと。行かせない。皇帝は今、忙しい。」
「ふ、ふざけるなー!」
「このまま俺と来い!新世界の王妃にしてやろう!」
「は、はな…せ!父上!父上―!!」
魔法使いは、身体を拘束されては、何1つ出来はしない。それは、例えアリエスであっても同じこと。彼の場合は、奥の手があるが。
「落ち着け。ホラ、キスしてやるから落ち着けよ。」
「や、やめ!」
将軍の首が、折れる勢いて曲がった。そのまま、壁に激突する。
「ぐおおおおおお」
駆け寄って来たエスティが。アルティオラを支える。
「皇帝が先だ!急ごう!」
まさに、魔物が皇帝の腕を食いちぎる瞬間に、2人は部屋へ突入した。
血が噴き出る。叫びをあげのたうつ、皇帝。
「“ストーンシェイプ!”」
先に、エスティの魔法が、皇帝を石にした。
「“ブレード・ミラー!”」
ダリアの魔法は、竜の魔物を…元人間であったそれを、切り裂いた。
「…皇帝は無事だよ。僕の知り合いに、すぐ連れて行こう。この仮死状態なら腕くらい、すぐに再生できる。」
ダリアは、その言葉に安心した後。何やら、懸命に、唇の横を拭いていた。
何度も、拭いていた。
「アルティオラ?」
「将軍の汚い唇が、端っこに触れた。端っこだけど。くっ…。」
涙ぐんでいた。
エスティは、ダリアの前に立った。
ダリアの唇に、キスをする。
「…その姿では困る。本当の姿じゃないと、ファーストキスにならない。」
ダリアは、そう言った。
観念して、アリエスは本来の姿へ戻る。
そして、もう一度、キスした。
「…まさか、悪魔の山に使い魔を向かわせている最中、このアテンドルに潜り込んでいるとは。無事なの?ガーレルも無事?」
アリエスは頷いた。
「キミも、ガーレルも、僕が守る。」
アルティオラは、アリエスに抱き着いて、もう一度唇を重ねた。
「今だけです。今だけです。今日だけ。私はアルティオラ。ただの娘。明日には、私は皇女に戻る。皇帝の娘は、奥方の居る異国の王と逢瀬などしない。恋などしない。国に、全て捧げる存在。」
城の中の魔竜は、アリエスによって残らず倒された。その正体が人間であることを伏せて。密かに弔った。
アルティオラは皇帝の無事を宣言し、ひとまず、城は落ち着きを取り戻した。
城からは、一部の人間。将軍リュカインの姿と、側近たち…猛者中の猛者…の姿が消えた。
アルティオラは、将軍の謀反を今は伏せた。
―――フラウレ、ダリアの執務室。
ロクに飯も通らない。2人は、ワインを交わした。
少し酔ったアルティオラは。アリエスの横に座りなおす。
アリエスは、彼女の小さな唇を眺めながら。
「笑って…。」と言った。
アルティオラは、少し震えながら、素直に従った。
「恋とか愛と言うのは、時間をかけて育むものだと…思ってた。」
「残念でした。」
アリエスが薄黄色に整えた柔らかい部屋で。
アリエスは、美しい皇女と結ばれる。
キミを妃にしたい…僕は本気だ…何度も言いかけて、アルティオラに唇を塞がれる。
一夜だけの、恋だった。一夜だけだから、2人は激しく愛し合った。
一瞬、外で足音が聞こえたかもしれない。2人は、そんなことには気づかない。どうでも、良いことだった。この、狂おしい時間に比べれば…。
続く―。




