第48話 「2つの、潜入」
7日前、という事になるだろう。
おお…!
フラウレの実力者たちが、驚きの声をあげた。
入隊したての小娘が、並みいる実力者から次々にギブアップを奪ったからだ。
フラウレの流儀に倣い、盾を構えて剣を持つ。この剣が魔法触媒なのだ。魔術の塔でいう、指輪。
この剣に魔力を注ぎ、攻撃する。この盾に魔力を注ぎ、守る。攻防一体。
では、行きますね!
「“サモン・リビングソード!”」
少女は、自分の周りに、自分の持つ剣とそっくりなリビングソードを12本呼び出した。
12本!?
この段階で戦意喪失した者も居たくらい。
襲い掛かる空飛ぶ魔剣。盾で防ぐのに手いっぱいの相手に、少女はファイアボールを足元に打ち込んだ。
この、ピンクの派手な髪の少女エスティは、すぐにフラウレ本舎への常駐を許された。
悪魔の群れによる災難に遭ったフラウレは、現在、実力者を残し、修道者は退避させている。
即戦力はもろ手で歓迎された。
さて、今日は、フラウレの中を先輩が案内してくれる。部屋が与えられる。
ラシュラ先輩だ。
「この区画は、よほどの事がないと来ないでしょうけど…ダリア、薔薇、百合の皆さまが住んでおられます。えへん。」
「ラシュラさん何で威張ってるんですか?」
「いや…ゴメン。いい?特にダリア様の部屋には決して行かない事。また、薔薇のガーレルは瞑想中。入らない事。お世話は私がしてます。えへん。」
「なんで威張ってるの?ラシュラさん。」
「いや、何でもない。じゃぁ、この区画以外は自由に動いていいわ。エスティ。期待してるわね。じゃ。」
エスティは、2階下の、自分にあてがわれた部屋に入る。
入る時、お隣と思われる少々年上の女性と逢った。
「あ、新入りさん?お隣だから。宜しくね。」
ショートカットの似合う、蒼い髪の女性。20代後半かな?笑顔が張り付いたような女性だった。
「エスティ―です。召喚術が得意デス。宜しくデス。」
「カワイイ男の子だったら良かったのに~」
「あはは、残念でした~。」
「冗談冗談。頑張ろうね!」
お隣が部屋に入る。
エスティは自分の部屋に入る。狭いけど綺麗。さすがフラウレ。
エスティは軽いけどかさばる、部分鎧を脱いだ。
「無くても困らないなぁ…」
ちょっとベッドに横になって、エスティは一人呟くのだ。
「よし、ガーレルんとこ行こ!」
――――――――――
今、という事になるだろう。
悪魔の山に向かう決死隊。
6日かけ、ついに彼らは悪魔の山の麓にたどり着いた。
辿り着いて、丸1日。潜入のプロであるアサシンのQTは、一日出入り口の様子を見る事を提案した。
魔法の目で中を見ることが出来るが、まずは、このアリ塚の様な赤い山で、どのような動きがあるかを見るためという。
即決ですぐ動くアリエスにとっては苦行だが、プロの考えには従おう。
6日もかかったのは、祝福の子、ピューリには一切魔法が効かないので、消えることも出来なければ、飛ぶことも、当然テレポートも出来ないためだ。
荒野の砂をまぶしたマントを羽織り、範囲幻影魔法を掛け、ゆっくり進む。
アサシンQTとモンクのザド・ヴォックは余りに無口。ピューリは元々意思を持っていないが如くだし、結果、話すのはアリエスとガーレルばかり。
しかも、アリエスは途中からカラスの姿になってガーレルの肩の上に、勝手に止まる。
「…アリエス様。如何に魔法で軽くしても、かさ張るモノはかさ張るので。降りてください。」
「いや、ホラ、キミを守るのも任務だし。」
「この姿が使い魔の変化なのはご存じですよね。わたしの本体はフラウレに居ます。守って頂かなくて結構。」
「いやいやいや、使い魔を失うと精神力に響くよ?」
「大体、女性の肩に平然と止まるところからして、慎むべき!」
「えー。使い魔なんだから良いじゃん。」
「使い魔は私の姿になっています。なんかイヤ。」
「へー。本物と同じなんだへー。」
「…すぐ降りて。」
アリエスのカラスは即座に払われた。
「しーーーーーーーーーーーーーー。」
QTが舌打ちして止める。
「…本体が来てないってのは気楽でいいな。見つかったら、死ぬぞ。その聖なる者も。」
「はは、ゴメンゴメン。大丈夫、いつだって真剣だよ僕は。」
「見ろ…。」
夕刻になると、多数のデーモンが山の周りを飛び回っている。沢山の、巨大なオオカミが、洞穴から這い出てくる。
「奴ら、エサの時間らしい。」
オオカミは群れを成し、山を抜け荒野へ、森へ。
「組織だった行動ね。」
「オオカミは群れ為す生き物だよ。ではなぜ、人を襲わない?人里を襲わない?」
「何を言っているの。狼が人間の町へなど…」
「そこのエロ魔術師さんの言う通りだろ」
QTが同意を示す。
「あの狼共、獣人だ。全部だ。数百居るな。あんなバカでかい普通のオオカミが居てたまるか。」
オオカミの獣人。狼男。銀の武器しか効かないという。魔法ですら、蘇る。
「でもね、不死身でも、食料が必要だ。行儀よく森へ狩りなんて、悪魔の山に棲むオオカミの行動かねえ。」
「貴方がこの間やっつけすぎたから、恐れをなしている?」
「ドヤッと言いたいけど、どうかなぁ。違う気がする。」
「じゃあ、何で。」
「さぁ…」
「…もう少し、頼りがいがあってほしい…」
「え、頼りがいがあると…いいの?」
「あんたら少し黙ってろ。」
2人は再び、QTに怒られた。ザド・ヴォックはただ呆れた顔で睨んでいた。ちょっと敵意を感じた。
――――――――――
再び、7日前。
アリエスは、ガーレルの部屋の前に居る。
姿は煙、部屋の僅かな隙間を塗って中へ。その隙間とは、鍵穴だ。
ゴメンねー、レディーの部屋に勝手に入ってゴメンねー。
部屋のベッドに、眠りの美女が横たわっている。
多少目に悪い。薄着のパジャマ。使い魔に乗り移っている最中だ。無防備にもほどがある…。
が、悪意を持った瞬間に、あらゆる防御魔法が発動するだろう。
多分、キスしたら殺されるな。色々な意味で。
枕元に、いくつかの可愛らしい、人形。
ぷ。
と言いつつ、懐から、街の職人に作らせた、可愛らしい小さな猫の綿人形を取り出して、枕元へ。プレゼント、とだけ書いておく。差出人は秘密っと。
さて、用件は済んだ。ガーレルが本当に此処に居るかどうかを確認するという、大切な要件が。
よし!次は、ダリアの部屋へ行ってみよう!
っと思ったら、人の気配。
ノック。鍵を開ける音、がちゃ。
アリエスは透明になった。
「ハイハイ、ラシュラですよーガーレル様。」
ビシビシ、ほっぺたを叩く。良いのか、部下?
「あー、うー、何でいつも頬っぺた叩くのもー!」
「はい、お食事。おやつ付き。」
「もう…いただくけど。」
「悪魔の山、ご無事でって当たり前だけど。どうですか?」
「まだ、ぜんっぜん遠いわ。5分の1?ゆっくり進むしかないから。見つかったら終わりだから。けど…アリエス様がうるさいのよ。わたしは静かにしてるのに。」
ひどい。言いがかりだ。君も一緒にやってたじゃん。
「オマケに、すぐに肩に乗って。図々しい。リアルなら肩に手をかけてるようなもんよね!」
「………」
「ちょっと?ラシュラ聞いてる?」
「また増やしたんですかぁ?コレ?」
ラシュラは、先程置いたばかりの猫の…縫いぐるみを指さした。
「え?ないハズ……え?プレゼントお?」
「………」
「………」
「ラシュラ、そっちの宝箱見て。荒らされてない?わたし、下着の確認する!」
ヒドイ。僕はそんな目で見られてるのか!?
「あと、結界張るから。扉の魔法、コマンド式にするから。コマンドは、”アリエスのスケベ!”」
ヒドイ!!
アリエスは、ホロホロになりつつ、ガーレルの部屋を後にした。
そして、ダリアの部屋を覗く。
…煙でも入れない。さすが、封じられている。
まぁ、一瞬なら、イイでそ。透過するか。
…いや。中に、居る。参ったな。侵入はムリか。いや、いいでしょ。
コンコン。
「誰かしら?」
「新入りのエスティです。ダリア様にプレゼントを。」
「そんなものは要らないけど…まぁいいわ。どうぞお入りなさい。」
中から、呪文が聞こえた。扉が開く。
「お邪魔します。ダリア様。」
今度は、エスティが呟く。扉が勝手に閉まる。
「なかなか、大した魔力ね。何処でその力を?」
「ええ、生まれつき。」
「……なるほど。」
嘘は、バレるものだ。だから、本当のことを言った。
それは、魔法的にも、だ。
「…すごいわね。何のためにフラウレに?」
「…ガーレル様のファンで。お力になりたくて。」
「…それは助かるわ。あの子は危なっかしいから。」
エスティは、ジロジロにならぬように、軽く部屋を見渡す。
それから、懐から可愛らしい、、犬の縫いぐるみを取り出した。
「それ、プレゼント?私に?そのような可愛らしい趣味はないわ。ガーレルにあげなさい。」
「いえ。ダリア様にこそ。お美しいのに、お部屋をもう少し彩るべきです。お花は無いけど、この色は黄色で華やかだから。」
ダリアの執務室は、余りに殺風景だった。
「言うわね…。いえ、気に入ったわ。」
装飾品は、壁にある、家族の肖像画だけ。
「こちらの肖像画は素敵ですけど。」
…家族の肖像画。皇帝、后妃、ダリアのアルティオラに、ガーレル。
何の不思議もない肖像画。普段から飾って。愛情を感じる。
いや…。違和感がある。これ、ガーレルが幾つの時だ?
今のアルティオラと、ガーレルの年齢は少し離れて見える。
ガーレルはどう見ても16、7だし、アルティオラは23、4歳?いや、雰囲気でそう見えるだけかもだけど。
この肖像画では、たいして歳が離れて居ない様な。
「どうした?」
「え、ガーレル様カワイイ…」
「ふ、まぁ、アイツは美しい。自慢の妹。」
「ダリア様もお美しいですよ?」
「世辞は良い。その…縫いぐるみは、有難くいただこう。では、私は仕事がある。今、この国は緊急事態だからな。」
「ハイ、では失礼します。また、お部屋を華やかにするモノ持ってきますね。」
エスティは、そう言って部屋を出た。
ダリアのアルティオラは、椅子に座って、一言だけ、呟く。
「肖像画を見ていた時だけ、ウソをついたな…?」
――――――――――
獣人たちが戻ってくるまで、3時間ほど経った。ほぼ同じくして、飛ぶ悪魔たちが戻ってきた。
「どうやら、決まりだな。」QTが言う。
「そうだな…」ザドヴォックが珍しく口を開く。
「何?何の事?」
「明日、獣人が獲物を探す時間を待って、聖なる者を連れて侵入する。場合によっては、一気に山を踏破する。覚悟を決めろ。」
「了解。じゃあ、僕は寝るかな。この岩陰全体に、幻影を張ったよ。お気楽に。お休み。」
カラスは、人間っぽく横になった。
「そうだな、そうしよう。ザドヴォック、交替で歩哨だ。ガーレル姫、ピューリも横にならせてくれ…アンタのいう事しか聞かないんだから…。」
QTの指示で、そういう流れになった。
ガーレルは黒猫になると、アリエスのカラスの横に丸くなった。
「言うタイミング無くて…行って無かったけど、あの縫いぐるみありがと…タイミングは考えるべき。あと、勝手に入るの犯罪。変態。スケベ。」
寝つきの良いカラスは、もうすでに寝息を立てていた。
「…このヤロー…。」
続く―。




