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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第46話 「物語の村」

 <魔の山と祝福の子>


 知っているかい、ある日、突然その山は生まれたんだ。


大きな、地震が在ったから、そのせいかも知れない。



 恐ろしいのは、その突然生まれた山には、魔神が住んでいた事さ。巨大な蜘蛛の魔神だというよ。不気味さね。



 山が生まれたとたん、その山の無数にある洞窟から、無数の悪魔が飛び立って来た。


黒雲のように襲い掛かって、街を飲み込んでしまった。悪魔は、人を食うんだ。



 酷いことになったもんさ。


だけど、天がコレを見ていた。


だから、天は、魔神と悪魔を打ち滅ぼす機会を与えてくれた。



 平和な、ある優しい人だけが住む平和な村に、意志を持たない可愛い男の子が居たんだ。


村人たちは聞いた。天の声を。


「この、祝福の子を、魔の山に連れて行け。魔の山の山頂にて三日三晩、この者が祈れば、山は消え、魔神は滅び、悪魔は居なくなる。これこそ、僥倖である。」



 これを伝え聞いた、王は、祝福の子を山頂まで連れてゆく勇者を募った…。


――――――――――


 アテンドルの首都が襲撃を受けて、1週間経った。


すぐに、第二波が来ることを怖れたが、それは杞憂に終わった。来なかった。


…それが何故なのか、それは知る由もない。



 この機に、急速にアテンドルの防衛機能は動き出す。王族の子女たちは、バルスタッド国境の城塞都市に移動した。


魔法騎士団はすぐに戦える者と学んでいたもので別に再編され、猛者だけが残る。


皇帝は流石と言える豪胆さで、王宮に猛者を集めた。勇猛で名高い将軍、リュカインの率いる、国家第1軍<ドレイク師団>が王宮を守る。


生き残った街人の多くは、城塞に非難する。元々豊かであるこの国は、避難した民に金貨を与え、当座をしのぐよう命じる余裕が在った。



 そして、魔法騎士団。


「ダリア。蓮華より上の行方不明者は…10名。」


ダリア。魔法騎士団の最高位、ダリアは、その名簿を見た。


「イリアが…行方不明…」


近くに居た薔薇のガーレルは胸を押さえた。


「私の…せいです…イリアは私達を守って…」


「オマエのせいでは無い。彼女は強い。死体も見つかっていない。」


「はい…。」


「ツァルトのアークマスターは?」


「アリエス様は、ツァルトに戻られています。何時でも助力をするとの事。」


「ガーレル、呼び方を変えたのか。」


「は?」


「いや、いい。余計なことをと言いたいが、助けられたのは事実。ただ、国王は不満だ。私達フラウレが居ながら、魔術の塔の助力が必要だったのかと。」


「あの人は、首都全体を覆う魔法を使えました。そんな真似ができるのは…お姉さまだけです。」


「…気を使わなくていい。私にも出来ない。私の力は個対個で生きるもの。あのように、殲滅するための野蛮な魔法ではない。」


「…野蛮」


「不服か?」


「…いえ。お姉さま。」


ダリアは、目の前にあるグラスを少し口に含んだ。


「いくら何でも、山が突然生まれるなど…あり得る事なのか。私は、今も幻影を見ているのではないのか…赤い、山、魔族…。まさかな、まさか…。」


「お姉さま?」


「ガーレル。お前に命を下す。アテンドル南東にある小さな村…そう、イリアが通っていた村だ。お前は、そこで何か異変が起きて無いかを確認せよ。」


「ハイ…イリアの村…イリアは、事情があるとだけ言っていました。」


「そう…だ。お前なら、造作なく入れるだろう。」


「??」


「…お前はイリアに負けず美しい。歓迎されるだろう。」


「はぁ。わかりました。ラシュラを連れて行って良いですか?お姉さま。」


「良い。入れたらな…。」



 フラウレ、厩への通路。グリフォンが居る。あの時の結界のお蔭、一匹も失っていない。


「ダリア様…嘘ついてます。きっと。」


「ラシュラ。お姉さまが私を騙すなんてないわ。誰より、可愛がってくれたもの。」


「そうですかね…」


ラシュラが不満を口にするのは、珍しい事だった。


―――――――――


 ユタチェルティ。そう名乗る壮年の男性が、村にほど近い小屋に住んで居る。


村への道はこれ一本。そんな谷沿いの街道に、その小屋はある。



 ガーレルとラシュラのグリフォンは、それを気にすることも無く、空を進む。


彼女らの前に、その男は、急に現れた。


その段階で、魔術師と判る。



 ―――止まれ。声を発しない。テレパシーだ。


「こちらは、アテンドル王女ガーレル様。誰であろうと、止められる筋合いはない。通せ。」


―――この先の村は、限られた者だけが入ることを許される、聖なる村である。王族であろうと関係はない。要件を述べよ。


ガーレルは、ラシュラを制し、言う。


「私は、フラウレ薔薇のガーレル。この国の大事に際し、村の様子を見てくるようにダリアに云われている。当然、正義のため。善行のため。そなたが何者かも私は知らないが、通されよ!」



 ―――声が小さくて聞こえぬ…。魔術師ならばテレパシーを使え。小娘。


ガーレルは以前と同じ展開に真っ赤になった。


ラシュラはついにプッっとやってしまった…睨まれた。



 …さて、一通り改めて説明したガーレルは、ようやく、ユタチェルティの許可を得ることが出来た。


「…ガーレル様、あの男にどんな権利があるって言うんでしょう。気に入らないですね。」


「うん、でも、戦わずに済むなら仕方ないかな。ラシュラ、あの男の魔力、気が付いた?」


「ええ、大きいとは思いましたけど…。」


「私には、量り切れなかった。膨大な魔力。下手をすれば、お姉さまと同等か…それ以上。」


「え、まさか…。」


「その男が見張る村とは何かしら。私、興味がある。」


「そうですね、幸い、調べていいってダリアに言われましたし。」


「うん!」


2人は、村の入り口にグリフォンで舞い降りた。


――――――――――


 珍しいグリフォンに、数名の子供達が駆け寄ってくる。


美しい姫の突然の来訪に、数名の若い男が覗き込む。彼らのお目当て、イリアが来ていないが、代わりに来たのは華のような乙女だった。



 ラシュラが村人たちに言う。


「こちらはアテンドル王女、ガーレル姫。村の長は居るか。突然で申し訳ないが、視察に来た。」


ガーレルは村人たちを見る。


人のよさそうな笑顔ばかりだった。先日の悪魔の襲来を知らないのだろうか。無縁なのだろうか。


彼らの服装は質素だが…貧しいわけでもなさそうだ。女たちは小ぶりでも装飾品を付けているし、不潔に汚れた者も居ない。


上空から見た美しい景色…。村のすぐ近くには大きくはないが透き通った湖があり、様々な物が豊かであろうことが容易く想像できる。



 そんな事を考えながら居ると、年老いた村長が2人の前にしっかりした足取りで近づいて来る。2人は、長老の家を訪ねる事となった。


村の奥には、大きな家が二件並んでいた。近くには教会もある。普通の教会だ。ホリーシンボル的には、農耕や豊穣を司る、メジャーな神のようだが。



 その、一回り小さい方へ、長老は進んでいく。


「あ、こっちなんだ…」ラシュラがぽそっと呟いたのを、長老に聞かれてしまった。


「ほほ、そちらはワシより年上のジイサンが住んでいます。まぁ、古く、尊い者ですが。」


「はぁ。」


「さぁ、こちらへ、どうぞどうぞ。」



 2人は、落ち着いた感じの今に通された。調度品は綺麗に揃っており、隅々まで綺麗。


「…働き者の、召使がおられるのですね。」


「はぁ、家のですかな。そうですな。ここの村人は誰も親切で働き者ばかり。自慢の村ですわい。」


「そのようですね…入るのにも、審査が必要なほどに。」



 長老は答える代わりに、目の前のお茶と茶菓子を2人に勧めた。


「何故、この村には、これほど固い守りが必要なのです?村の郊外に居た術師など、首都を守るほど高位の者ではないですか。」


「…ガーレル姫、姫は皇女であり、魔術ギルドの重職とか。」


「え?まぁ、その一応ハイ。」


「…威厳…。」


「…わかってるわよぅ。」


「…で、あるにも関わらず知らないならば、知る必要ないという事です。」


「どういう事?」


「皇帝か、姉姫に聞くが宜しかろう。」


「言えないというのね。」


「ええ。言っておきますが、村の者たちに魔法を掛けても、誰も答えられませんぞ?」


「…そうかしら?」


「ええ。勿論、姫が村の誰と親しくするも自由ですし、ワシも美しい姫の来訪を歓迎しております。本心から。」


「…ありがとう。でも、何とか。秘密を知りたいわ。」


「邪魔はしません。貴方様が真実に辿り着くべき者であれば、そのような事もありましょう。ごゆっくりとご滞在されますよう。宿も手配しておきましょう。」


2人は、長老に頭を下げた。


――――――――――


 それから夕刻まで、2人は、二手に分かれ、村人から様々な話を聞いた。


「村人たちが、この村を起こしたのは20年前。私達が生まれる前。」


「あたしは生まれてます。ふん。」


「ゴメンってば。で、村人たちは、村から出る事を禁じられている。」


「そう。後に生まれた子達も。村を出たことがない。勝手に出た者は、帰って来なかったり、すべて忘れて帰って来てる。」


「…例の魔術師が?」


「かも。」


「村の農産物は、週に一度、買い手が来る。」


「それ聞きました。言わなかったけど、通常の3倍くらいの値段。びっくりしました。」


「イリアは、本や嗜好品、娯楽品を届けていた。」


「出入りしている者は、きっと全員、<許可>を得ているのね。」


「この村の人たち、家の鍵かけていない。」


「悪いヤツが居ないってイイですけどね。悪いことを村人がしたら?」


「その一家ごと居なくなるんですって。」


「うわ。」


「徹底して、善き者の村。」


「怖いですねある意味。」


「一応私達は入れたし。いえーい。」


「子供…!」


2人は、テレポートでフラウレには戻らず、このまま宿をとることに決めた。


そうしなければ、また、あのユタチェルティという男に検問されるのだろうし。


――――――――――


 翌朝。


朝から、村は賑やかだった。いや、ひと騒動起きていた。


2人は声のする方へ走る。


長老の家の方だ。何かあったのか。



 …長老の家の<隣>。一番大きな屋敷の前に、人だかりができていた。


1人の少年を、村人たちが取り囲んでいた。


いや、跪いていた。


「祝福の子!」


「何という奇跡!」


長老が、周囲を鎮めるのに一苦労している。



 少年の横には、2人の侍女が居た。


 片方の女性が言う。女性は若く見えるのだが、白髪だった。艶やかな銀ではない。


「長老、このお方は、聖なる者。預言者であるマシュメノ様のお言葉です。」


「な、何!それは本当か…!?」


「ハイ。久しぶりにお言葉を発せられました。この者を山頂に導けば、悪魔の山を消し去る、とのことです。」


「…それが本当ならば、首都へお連れせねばならぬ!」


「…この子は、名もありません。5、6才くらいに見えますが、言葉も意思も在りません。食事も一切取られません…かと言って粗相もなく…どのようにされますか、長老?」


「マシュメノはそれ以外言っていないのだな?」


「ハイ、また眠られました。」


「わかった。誰が首都へお連れすれば良いのかだが…」


「私達が。」


ガーレルが手を挙げた。


「私達は元々、王都の者ですから。お連れしましょう。」


「“テレポート”」


ガーレルは少年に触れる。だが、少年は一瞬白い光に包まれ、飛ばない。


「ま、魔法が弾かれる!?」


ガーレルの驚きはもっともだ。彼女は、フラウレ第2位<薔薇>称号を持つ魔術師なのだから。


ーーーーーーーーーー


 祈り捧げる村人たちに見守られながら、ガーレルは自分の前に、少年を座らせた。


長老は、ガーレルのグリフォンに近づいた。「聖なるもの、では呼びにくいでしょう。ピューリ。そう名付けましょう。」


「ピューリ?判ったわ。喜んでくれると良いけど。」


「…謎は解けましたか?」


「”高位なる存在”の声を聞けるおじいさまがおられるなら、重要な警備も頷けようというもの…。」


「我らがお守りしているのは、預言者ではない…。今は、それしか言えぬ。」


ガーレルは、ハッと長老を見る。何かを、伝えてくれたのだろう。


「…ピューリ様を、頼みます。消えない、事実を、信じるのです。」


グリフォンは舞い上がる。美しい少年を連れて。




 2人は、村を出てすぐに、魔術師ユタチェルティ小屋を眼下に見る


…ガーレルの胸に何かが刺さる。そして思い出した。


村の外れに居たオトコ。ユタチェルティというあの男。


襟に付けている紋章。…銀色の紋章。<魔術の塔>の紋章ではなかったか!?


敵対している筈の<フラウレ>と<魔術の塔>が、数十年前から協力している?



 「ガーレル様。わたしたちが来た時に起きたこの奇跡。感動しちゃいますねえ。」


「う、うん、この子を信じてみたい。」


奇跡、か。この子に会えたことは確かに奇跡。


このタイミングで、この村に来たことが奇跡。


…奇跡。


この村に来るように言ったのは、誰?


<ダリア>のアルティオラ。我が姉。皇帝を継ぐ、皇女。



<ダリア様…嘘ついてます。きっと。>


<ラシュラ。お姉さまが私を騙すなんてないわ――>



続く―。


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