第43話 「4枚の肖像画」
呪われた館へ赴く、ある3人組の冒険者が選んだ道。(外伝的ですが本編)
自分的には正統派のハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方是非。シナリオネタに使えたらどうぞ。
アテンドル皇国、南部にある港町。港町と言っても、商業港であり多数の戦艦を抱える軍港である。街の名を、ロット・シェルという。
この港町にも、ご多分に漏れず、俗にいう冒険者の酒場が在る。
国の玄関口の1つとあって、ちょっとやそこらの腕自慢や輩では太刀打ちできない、ある程度エリートクラスの冒険者が集う。冒険者ギルドの紹介を受けたものや、非合法含め、依頼が張り出されている。この風景は何処も似たようなものだ。
剣士と、バトルプリースト、バトルメイジ(魔剣士)からなる、小さなパーティーが一枚の依頼を受けた。
危険ランクは不明、敵も不明、依頼内容も不明。ただ、「心を捧げられる方が受けて頂きたい。」と添えている。金額は、破格だが、余りに…胡散臭い。
すぐに受け手が現れなかったのはそんな理由だろう。
3人は、名をあげる必要が在った。
必要と言っても、借金だとか、追手とかそんな事ではない。一言で言えば、野心。
だから、彼らはすぐに飛びついた。
酒場の人々が彼らの姿を見たのは、これが最後らしい。
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街から”大きく外れた”屋敷に、彼らはたどり着いた。
門をくぐり、大きな、頑丈で古めかしい扉を叩くと、赤黒い髪の老婆が出て来た。
老婆だが、3人は老婆を美しいとも感じた。
老婆が、彼らを館の中へ案内する。
「よくぞ引き受けて下さいました。どうぞ、娘を救ってください。」
「おう。任せてくれ。」180cm程の剣士が、うっすら生えた髭を撫でながらいう。名を、ラピッドファイアと言う。当然、通り名だ。
「婦女子を救うとならば、この“シルヴァファントム”に任せてもらおう。」銀の髪、細身の剣士が言った。体のあちこちに呪術的なアクセが付いている。
「そうだ。我らは正義を為して、駆けあがる者。」ホリーシンボルを首に下げ、ヘビーフレイルを持つ力持ちが言った。髪も髭も綺麗に剃っているが、口ひげだけ立派に整えている。こちらは、アイロン・シンと名乗っている。
老婆は、屋敷の地下へ3人を連れて行く。
小さく丸いホールに、4人の肖像画が掛けてある。
「おお、可愛そうな娘…」老婆は声を絞り出す。
「信じられないかもしれませんが、この館は当主に恨みを持つ亡霊に呪われたのです。魔術師であった呪いの主は、もう死んでおりますが、呪いは今も続いています。お救い下さい!」
「待て待て、それじゃあ、ダンジョンでもなく洞窟でもなく、この館が迷宮だって言うのか。」
と、アイロン・シン。
「このお嬢さんたち、まさか…」とシルヴァファントム。
「そうです…絵の中に閉じ込められ…」
「なに、ならば呪いの元を切り捨てれば良いのだろう!?」剣士ラピッドファイアが言った。
「私は無力故、ここで皆様をお待ちします。ああ、呪いを放った魔女は、死に際にこう言いました。4人の名と顔をよく覚えるがいい、と。」
「ほう、重要な情報だ。」
3人は絵画を見た。
緑の長い髪、美しい少女。アセナ。
蒼いドレス、髪を短く切りそろえた美しい少女、ベッキーナ。
活発な服、髪を後ろでまとめ、黄色い髪留めの美しい少女、チャーティ。
落ち着いた白いドレスを纏った、白髪交じり、初老の女性。ドミニク。
全員、悲し気な表情の肖像。
彼らは、大きく頷いてホールから伸びる小さな扉を開ける。そして、勇敢に中へ進んでいく。
扉が閉まった後ろでは、老婆が深く、礼をした。
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6m程、通路を進んだ。とても、いやな淀んだ空気だ。
灯りもないが、僧侶の魔法が明かりを作る。基本魔法だ。
扉。剣士が耳を当てる。
そして、剣を抜き、後衛2人に合図を出した。
ドアを開け、飛び込む。
「…音の主は、コイツか!?動く鎧!コイツぁ、なかなかの敵を用意しているじゃないか!?」
ラピッドファイアが構えた。長く、両手持ち。バスタードだ。
「良し、エンチャント頼む!シン!」
「任せろ!ホリー・ブースト!」
ラピッドファイアとシルバファントムの剣に白い光が宿る。
剣戟。動く鎧の重い一撃を交わし、舌なめずりをしながら二人の剣士が鎧を切る。
鎧を切れるのだ。当然、2人の剣は魔剣だった。買えば、5000万Gは下らない。
…しばし、激しい音のやり取りが狭い空間で響き渡った後、鎧が崩れる音と共に、静寂が戻った。
この一戦は、たった一戦だが、彼らにとって十分に価値ある勝利だった。エリート級のモンスターを倒したのだ。
敵を倒した後、3人は部屋の内部を詳しく見ることになる。
4人の肖像。まただ。しかし、先程と違うのは、それぞれの肖像の下に、大きな献花台が置いてあることだ。
そこには、大きく、魔法言語でこう書かれている。
「乙女を求めるならば、それぞれの前に、命の次に大切なものを捧げよ。乙女の笑顔は汝の物である。」
「何だと?俺たちの大切なモノ?」
「俺ぁ、やるぜ。オレがアセナを貰っていく。」
剣士ラピッドファイアは、大切な剣を置いた。
「ほう。そうだな、じゃあ、オレはベッキーナを貰おう。」
シルバファントムは、銀色の剣を置いた。
「…少女のためとあらば仕方ない。オレは、この聖印を置こう。俺に大事なのはこのフレイルではない。」
アイロン・シンはホリーシンボルを置いた。
武器はテレポートの如く、すっと消え、それぞれの肖像の絵が在った所に、青白い渦が現れた。
「見ろ!ビンゴだ!」
「待ってろよ、カワイ子ちゃんよ!今行くぜ!」
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小さな、日当たりのいい窓辺だった。後姿も可憐な、緑い髪の姿が在った。
「待たせたな、アセナお嬢さん。お前を救いに来た。オレの心を捧げよう。」
少女は、振り返った。
振り帰った瞬間に、肉は崩れ、蒼い亡霊になった。
「嬉しい、わたしに魂を捧げてくれる殿方…うれしいい。いただきまあああす…」
剣士ラピッドファイアは、体格に合わぬ甲高い声の悲鳴を上げた。
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部屋に入って来た銀の髪の男を、ベッキーナは不思議そうに見た。
「よう、お前を開放しに来た王子様だ。」
「本当?ねえ、あたしの名を言える?王子様。本当に、あたしのために、死ねる人なの?それほど愛してくれるの?」
「ああ、勿論だ…べ…ベッキーナ!」
男は、名を言えたことにほっとした。
少女は、彼に近づいて来た。両手を広げて、彼を受け入れるようだった。
そして、次の瞬間に、何百年も経ったように骨と皮になり、赤い目で、彼を誘った。
「一緒に、永遠を歩きましょうよおお、さあ、脱いで。その肉と、血を脱いで。要らないでしょ、わたしが、取ってあげるうう」
死人にとても効力を発揮するはずの銀の魔剣は、彼女の心に捧げた後だった。
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アイロン・シンは、黄色い髪留めをしたゴーストをフレイルで何とか打ち砕き、消滅させた。
陽だまりのような柔らかい部屋は消え、薄汚い墓所が在った。
「ラピッド!シルヴァ!どこだ!無事かー!?」
慌てて引き返す。先ほどの部屋へ戻る。
部屋の反対側…絵画の間、その扉にもたれかかるように。彼らを案内した老婆が居た。
いや、老婆ではない。
彼が、瞬きしたその瞬間。老婆の姿は、見た事が無い程に、妖艶な美女に変わっていた。
年のころは20前前半、腰まで伸びた赤い髪、この緊急事態であるにも関わらず、彼は瞬間、その女を欲しいと思った。
女は、拍手した。
「面白い見世物をありがとう。所詮、お前達の正義などその程度。」
「何だと!?」
「外見に踊らされ、3人の若い娘にいとも容易く武器を捧げ、食われて死んでいく。実に滑稽で…美しい!」
「き、貴様が呪いをかけた魔女なのか!?」
妖女は首を振った。
「いや。面白い呪いの館が在ったので遊んでみただけ。全く、愚かしい。本当に呪われた娘は、お前達が気にも止めなかった老婆。その老婆の肖像画。」
女は肖像画に話しかけた。
「残念だったなぁ。ドミニク。これで、全部で3組の冒険者、お前を助けようとした者は居なかった。」
肖像画の老婆が悔し泣きをする。
「老婆も、幼子も、魂の重さは同じだと言うのに。連中には、若い女しか価値が無いらしいなぁ。」
“バルザ・ヤガ”は呪文を唱えた。元の術者より遥かに大きな力で。
「もう、良いだろう。出ろ。」
肖像画が砕ける。中から、20代半ばと思える美しい女が解放される…。
だが、元が何色かは分からないが、白髪になっていた。
「お、おお!お嬢さん…えっと、名は…名は…」
アイロン・シンが女性に走り寄ろうとする。だが。
「近づかないで!私の名も…言えない人!」
女は…ドミニクは、むしろ、妖艶な魔女に近づいて行った。
シンの背後から、断末魔が聞こえてくる。
絵画だった。
絵の中は、血まみれの、凄惨な画面が描かれていた。
「お仲間は永遠の愛を手に入れたようだが?」
「おあああああああ!」
アイロン・シンは、大きく叫び、魔女バルザ・ヤガにフレイルで殴りかかった。
魔女は、左手を突きだす。
「神の加護を女の為に捨てた奴に、何ができようか…?」
アイロン・シンは、目の前に突き出された手から発せられる衝撃波に、本当に何もできなかった。
ただ、吹き飛んで、壁を血と肉片のシミで汚した。
…ふん、きっとアイツなら、全員助けようとするだろうがな。
一瞬、“イア”に戻り、心離れていた魔女。
その魔女に。
「連れて行ってください。魔女。私を。人など、もう、信頼していないから。」
ドミニクは、そう言った。
この女は、ドミニク・ファレル
記録によれば、バルザ・ヤガを救った女。




