第42話 「魔法騎士団フラウレ、ツァルトへ」
西の魔法ギルド<フラウレ>、東の<魔術の塔>を来訪。そこには、再びの邂逅が。
王道のつもりの)ハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。
魔法騎士団フラウレ。
西の大国アテンドルに近年創立された魔道師団。
当然、魔道国ツァルトの<魔術の塔>に対抗するべく創り出されたものであることは明白だ。
ある日ツァルトをざわつかせた話題は、そのフラウレの上位魔道士達がツアルトへ来訪する。そんなウワサが立ったためだ。
「…アークマスターがひょいひょい顔を出すものではありませんな。」
「えー。ガーレル綺麗なのに。」
「…いい加減、妃に刺されますな。」
「えー。」
「とにかく。今回はあちらからも、最高位の<ダリア>は来ないそうです。では、こちらもアークマスターが出迎えるべきではない。」
「うーん。仕方ない。我慢します。」
「今回は、<銅のレザーリ>に任せましょう。良いですな。」
「ガーレル来るかなぁ。」
「聞いてますか!?」
――――――――――
魔法騎士団フラウレの大半は女性だ。一部男性が居るが、一般に細く美しい男性だ。
彼らの装備は華やかな刺しゅうの入ったローブの上に、装飾激しい銀色の部分鎧。ビキニアーマーと言った方が通りがいい。
そして、盾と剣。魔法騎士団というだけあって、剣による魔法発動、又は剣に乗せた魔力での戦いを好む。
西の大国アテンドルには、自助の考えがベースに在る。己の長所は磨き、短所は補え。己の力で対処せよ。互恵は努力する者同士で行うものである。
このような考え方が強い国だ。それ故に、男性が多く、武を誇る正規軍と、女性を中心とした魔法騎士団が並立する。
魔法騎士団は、華やかにグリフォンに乗って、ツァルトの首都、ディムの境に舞い降りた。
総勢、12名。彼女らは、迎えの馬車を丁重に断り、グリフォンに乗ったまま、街まで歩く。
街の人々は物珍しさと、興味と…何より、華やかな魔法騎士団の美しさに打たれて街道を埋めた。
歴史あるツァルトの魔道士団。純粋な魔法使いたちの地味な服装に比べたら、アイドル。
若者も、子供達も、憧れの目で見つめた。
「…ガーレル様、目的の半分はもう、達成したようなモノですね。」
侍女にして魔法騎士のラシュラが言う。
ガーレルはキョロキョロしていた。
「…ガーレル様?」
「あ、いや、あの男が潜んで居ないかと!」
「居るわけありません。今回の案内役は<銅のレザーリ>様。塔の中ほどまでは入ることを許されていますよ。」
「許せない。今度こそ、決闘を申し込もうと思ったのに!そう思わない!?衆目の前で挑めば、逃げようもないわよね!?」
そしたら今度は本当に殺されるか本当に唇を奪われるかですよ。ばーか。
「ね!?」
「ハイ!勿論ですガーレル様!」
「…辞めて頂戴ラシュラ。薔薇が阿呆な真似をしないよう、ダリアからきつく言われている。焚きつけるな。」
とても厳しい目で、ガーレルと並走するもう一人の魔法騎士が言った。
「ハイ!スミマセン、シュヌマ様。」
シュヌマと呼ばれた女性は、ガーレルと同じ、薔薇の文様の鎧を付けている。
「とは言え、確かに目的の3分の1は達成だ。我らの姿を見て、田舎者どもが浮かれている。笑えるな。」
「戦っている姿も見ずに好かれても。」
ガーレルがぶつぶつ、文句を言う。
アナタの役目は、そうやって人々に美しさを見せる事ですよ~。実力はシュヌマ様より下なのに。
しかし、人々はこう言うのだ。
「オイ、エディ様とどっちが綺麗だ?」
「オレはメイフェア様の方が…」
知らない名だが、こちらの美姫たちと比べられているらしい。少々、気に入らない。
「あー、魔術の塔には大きな闘技場があるとか?そこで上位の者に挑めないかしら!」
「争いに来たのではないし、貴女は敵を侮り過ぎだ。此度は量りにきたまで。決して、私の指示なしに争いなどせぬよう。ガーレル。」
「はあい…。」
まぁ、そういう子供っぽいとこはキライじゃないんですけどね…。
「は!?」
ガーレルが突然振り帰る。
「どうした。」
「…今…」
「敵意も悪意も…無い…グリフォンも反応していない。が?」
「ななな…なんかイヤらしい視線を感じたような?」
ちょっとー。いくら美人でも、自意識過剰じゃない?
「はは、道行く者の誰もが、お前を見る目は獣だ。そう思っておけ。」
「うーん。そうかなぁ…。」
魔法騎士団は、ゆっくり通り過ぎた。
…アリエスの変化した猫の近くを。
「バレたかと思ったー!」
いくら僕でもイヤらしい視線なんて送ってない!
…自信ないけどもー!
――――――――――
「ようこそ、<魔術の塔>へ。銀のハイメルより、丁重にご案内するよう申し使っております。」
グリフォンを降りながら、シュヌマはその言葉に反応する。
「かたじけない。私は魔法騎士団、薔薇のシュヌマ。そちらで言う、銀にあたる。」
「光栄です。シュヌマ殿。」
<銅のレザーリ>は、隙なく相手を見量る。
肩甲骨までの柔らかくウェーブのある金の髪。背は高く、理知的。年のころは30前後、そして、美しい。
「銀のハイメル様より、ですか。アークマスターにはなかなか拝謁出来ないモノですね。」
「ご存じの通り、マスターは若き国王。なかなか、足取りのつかめないお方でしてな。」
「全くです。是非是非お会いしたかった所ですわ。」
後ろのグリフォンから降りて来た、若い魔法騎士。
ああ、これが、アテンドルの姫。美貌で名高い薔薇のガーレル。
「初めまして、ガーレル殿。」
12名の魔法騎士が揃うと、銅のレザーリは中へ彼女らを引き連れた。
塔に繋がる様に学舎がある。実践をできる大きなアリーナがある。
一般の市民が自由に出入りしている。
ありとあらゆる所に、魔法の効果が掛かっている。
動き回る彫像。動く絵画。勝手に反応して明滅する灯篭。行先が明示され誰もが使える魔方陣。飛び回る使い魔。
<さすが魔道国を支える魔術師ギルド。隅々まで、魔法。そして、随分と開放的だ。良く言えば、すそ野が広い。悪く言えば、無防備。>
2階へ。
ここからが本舎か。この階層からは、魔術師達が居る。本当の魔術師達が。
張りつめた空気になって来た。
そうだ。敵対しているわけでは無いが、可能性のある互いなのだ。
今ここで、100名の魔術師から呪文が飛んできても、意外という程ではない。
勿論、対応策はあらかじめ施してある、が。
だがそれは、あちらに取っても簡単な決意ではない。
大国アテンドルに、攻め入る口実を与えるのだから。
西と東の大戦争を引き起こすかも知れない。
そう思えば、恐らくは、攻撃してこない。
一般的に考えれば、帰りを狙うだろうが、そこは互いに魔術師。テレポートできる相手を帰り際に襲うなど、無駄な事。
さて、3階まで案内された。
一番気にかかるのは、通路が所々寸断され、テレポートや壁ぬけで進むところだ。
成程。これでは内部を知らない侵入者は怖ろしくて進めない。
移動した先が溶岩の火口でないという保証はない。
最期に、大きな図書室へ案内された。重要な書物。魔法の書物が中央にずらりと並ぶ。
図書室で魔法の文献を読み漁るもの達は、皆、エース級だ。
シュヌマは量る。この戦力。魔術の塔は、東の国々に支部を作り、人数が分散されていると聞く。
だが、この層の厚さは何だ。この3階までの魔術師で、一国は亡ぼせよう。
図書館の中央で、彼女らはお茶を出された。
2つ目の目標は、魔術の塔が実力を出し惜しみしていようが何だろうが、達成された。
…それは、魔法騎士団フラウレではまだ、追いつかないという事だ。この、薔薇のシュヌマが断言する。
頂点同士の力関係は別として。
お茶を飲みながら、今度はガーレルが何かに気が付く。
図書館の一角で、数名の人だかり。
彼女らを見る目ではなく、何かを見ている。
ガーレルはお茶を置いて、そちらに向かった。
…チェスだ。
魔術師の男性と、相手は、可憐な…エルフ。幼くすら見えるが、年上かも。
あっという間に、男性は追い詰められて、チェックメイト。
エルフは優しく笑って、さっきの手は良かっただの、何手目は怖かっただの、指導に入る。
奢らず、優しく、理知的だ。この子は頭が良いのだろうと。嫌でもわかる。
――キャステラVSガーレル――
男性が立ち去った後、ガーレルは座ってみた。
エルフの少女が、ニッコリ笑った。
「私は、魔法騎士団<フラウレ>、薔薇のガーレル。」
「私はキャステラ。ハーフエルフです。此処にはよく遊びにくるの。」
「「宜しくお願いします」」
ノータイムに近いスピードで、サクサク盤面が進む。
いつの間にか、魔術師も、魔法騎士団も何名かノゾキに来ている。
「あなたは、魔術師では無いようね…なぜ魔術の塔でチェスを?」
「ちょっとした知り合いのツテで。ゲームは魔術的な戦術を高めます。」
「私は、魔術の塔の力を見極めたくて来たのだけど。マスターと戦えなくてがっかりしてたの。代わりにチェスだけどステキな勝負できそうね。」
キャステラは、一瞬ピタッと手を止めた。
「…私に勝てたら、マスターの事少し教えてあげますよ。美しい西の姫。」
「そう?なら簡単。」
「アークマスターはどんな呪文が得意?」
「うん、雷を自由自在に操るよ。まるで雷神だね。ところで、そちらのマスターは?」
「ええ、鏡を使うわね。お姉さまは美しいから、鏡がとても似合う。」
周り中が、今すぐ口を押さえて連れ帰りたい衝動にかられた。
やめろー!やめてー!何平然と言っちゃうの!!
「聞いた話だと、女好き。」
キャステラの指が、再びピクっと震える。
「そうなの。本当に、軽薄、女の敵。ズルい男。」
「お妃は苦労してるんじゃない?」
キャステラの頬が強張る。
「いやぁ、それはもう、きっとそう。」
「私、一度、魔法で軽く手合わせしたんだけど。確かに綺麗な顔で。」
「そ、そうなんだ」
「ズルいことに時間を止めたりして、そのとき、どうしたと思う?」
「な、何かしら。」
「私の手を取って、綺麗とか言ったんだよ?ビックリした!」
キャステラの顔は、笑顔だった。こめかみにピキピキと効果音が付きそうな血管が浮き出していたが。
「何もされませんでしたか~?その、女の敵に?」
「口説かれるかと思っちゃった…。そのうち、後宮満杯になるんじゃない?」
「薔薇のガーレル。気を付けてね。アークマスターは性格悪いし、食べ方汚いし、酒は飲み過ぎるし、王様の仕事はしないし、女の事しか考えてないから乗っちゃ駄目だよ。」
「はは、エライ嫌いようね。さては、口説かれたんでしょ。」
「…はは、まあね、ははは。」
魔術師達は、だらだらと冷や汗をかいていた。
「よっぽど、ダメ男なのね。本当に、強いの?それとも、ダメダメ男だけど、魔法だけは異様に強いの?」
「まぁ、強いよ?うん。」
「でも、性格悪くて、強いって、王様としては最悪なんじゃ…?」
「あー、そこはそうでもなく。」
「お妃たちも、性格悪かったりする?そんな王様の妃でよく平気…。」
ぱしーん!
キャステラの駒が勢いよく盤に乗る…。
「…オレ達もアイツの女癖には閉口してるんだけど!誰彼ナンパするでは無いところがさらに腹立つ!」
「ん?」
キャステラの口調が変わった?
「ガーレル様。特別に、教えちゃいますね!アークマスターの弱点!」
キャステラは、ガーレルに耳打ちした。
「そんなの聞いて私にどーしろと!?」
勝負を決めたキャステラは、イタズラっぽく笑いながら席を立った。
近くに掛けてあった綺麗な外套を身につける。
「キャステラ様、またお越しくださいませ!」
周囲の魔術師達がキャステラに頭を下げる。
キャステラは、軽く手を振ると、テレポートで消えた。
<自然魔法>ではないらしい。魔法の指輪を翳していた。
「…あの子、王家の子なの?」ガーレルは素直に訊いた。
いつの間にか見学に加わっていた銅のレザーリは、ふうっと、ため息をついて言う。
「…王妃のキャステラ様です。この塔にはチェスを指しによくいらっしゃる。」
「…ななな!?」
ガーレルは凍りついた。やってしまった。外交問題かもしれない。
――――――――――
外交使節団であるアテンドルの一向が、<魔術の塔>から出て来る。
互いにどのような思惑を持ったかは知らないが、表向き、友好に。
アリエスは、正門の石組みオブジェに座り、見ていた。じっと見ていた。猫の姿で。
押さえているであろう魔力を量りながら。12名の使節団を見分していた。
その時、反対側、正門から、3匹のグリフォンが飛んで来る。
最初に来たメンバーではない。
「皆さま、お迎えに参りました。魔法ギルドへ献上する品をお持ちしております。」
「ああ、イリア。ご苦労だった。貰おうか。」
薔薇のシュヌマは、銀のレザーリに魔道騎士団フラウレの献上品を渡す。
銅のレザーリからは返礼の品が…。
猫のアリエスは、まるで違うところを見ていた。
驚愕の目で、目を見開いて、迎えに来た妖美な女性を見ていた。
「イア…?」
聞こえたのか、聞こえていないのか。
イリアと呼ばれた女性は、猫を振り向いた。
「あら、カワイイ猫ちゃん、こんにちは。使い魔かしら?」
誰もが一瞬で心許してしまいそうな笑顔。
2人は、見つめ合った。1人と1匹は。
なぜ、此処に居る!蘇ったのか…イア…バルザ・ヤガ!!
「イア…いや、イリア…こっちへ…来てくれるかい…」
イリアは、少々困った顔をしながらも、猫について行った。
ちょっとした、建物の物陰でしかない。
人目をはばかると言えないような、ほんの少しは離れただけの所。
アリエスは、人の姿に戻った。
「…予告通り、蘇ったという訳かい、魔女…イア。」
「…何のことをおっしゃっているのか…私は、イリア。知り合いに似ている?そういうお誘いはお断りしています。」
「人違いだと言うのかい?」
「普段ならノコノコついてなど行かないのですが…貴方の声が…苦しそうだったから…」
「嘘だ。その魔力の波動を僕が見間違うものか…だけど…何故、闇の波動が…」
「…何やらその女性とは深い事情がある様子。でも、残念ですが私はイアではありません。私の名はイリア。失礼します。」
振り返り、立ち去るイリアに、アリエスは手を伸ばしかけて…やめる。
あの恐ろしい波動はどうした。遠くからでも気が付く邪悪の波動が何故ない…?
そうだ、“街には入れない”のでは無かったか?
立ち去りながら、イリアは背中越しに聞いた。
「その女性…愛していた人…とか?」
アリエスは口ごもる。それは、言っていい言葉なのか。
「怖ろしい魔女…魂を喰らい、世界を壊す可能性のある魔女…そして…」
「…そして?」
「愛している…だけど殺さなければならない魔女…!」
「言ってることが大袈裟すぎて…信じられないわ。でも…嘘でないのは判る…。世界を安定させる為なら、魔法騎士団も手を貸すわ。その時に、またお会いしましょう。」
イリアは、仲間の許へ歩き出す。
――――――――――
数刻後。
グリフォンに騎乗したフラウレの一向が、ツァルトの上空を駆ける。
追手は来て居ない様だ。
国境を越えたところで魔法陣を引き、テレポートしよう。
イリアは、ガーレルに聞いた。
「ガーレル様、アークマスターとはどのような男でした?」
「あら、興味ある?注意しないと口説かれるらしいわ!只の女の敵ね!」
イリアは苦笑する。
「背はソンナに高くないけど、顔はとても綺麗で、紫の髪…金の差し色があるわ。多分地毛で。とても力があるようには見えないけど、魔力は量れない程強い。そんなとこねえ。」
イリアは、先程会ったばかりの男を思い浮かべる。
「でも、優しい目をしているの…数千人一瞬で殺すような男なのに。」
「そうですね。悲しそうな目を…していました。」
「あなた。会ったの!?イリア!!」
「かも知れませんけど…」
ガーレルは、ふと追及をやめた。
でも、地上に降り、シュヌマが魔方陣を描いている間も、イリアから目を離せなかった。
「ねえ、イリア。“百合”のイリア。」
もう一度、ガーレルはイリアに近づく。
「え、何でしょう、ガーレル様?」
「…どうして泣いているの?」
え?とイリアは狼狽する。
あれ?いつの間に?おかしいな。あれ?
薔薇のガーレルは、再び言葉を失ってしまった。
触れてはいけない事なのだと、強く思えたから。
続くー。




