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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第38話 「蘇る、魔女」

西の辺境にある小さな村で、バルザ・ヤガが目を覚ます。


(王道系?)ハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。

 黒い灰が、降り積もる。


灰の中心から、血が湧き出る。


血を吸った灰は粘土のように徐々に形をとる。



 妖艶な女性のシルエットを取る。


やがて、それは衣服を身に纏い、息を吹き返す。



 それは、夜空を見て、満天の星々を呪い


静かな森の、命の息吹を呪い、歩み出した。


歩みながら、黒いローブを白に変え、瞳に慎ましい色をたたえ、優しい微笑みを浮かべた。


ひょっとしたら、これがこの女の、本来の姿だったかも知れない。


――――――――――


 小さな馬車が、荷台に沢山の商品をつめて、山間の静かな村に訪れた。


馬車の音を聞くと、村人は喜んで広場に集まる。


静かに椅子に揺られていた者も、食事の準備をしていた婦人も。


魚釣りをしていた少年も、ヤギの世話をしていた男も。



 馬車から、優しい微笑みを浮かべた清楚な美女が降りて来た。


すぐに、手慣れた手つきでホロを外し、荷台の側面を開き、即席の商店へ早変わりさせる。



「イリアお姉ちゃん、こんにちは。暫く来てくれなかったね。具合悪かったの?」


幼い少年が尋ねた。


イリアと呼ばれた美女は微笑んで、少年の頬を撫でる。


「ちょっと、忙しかっただけ。ごめんね、なかなか来れなくて。」


「えへへ。仕方ないなぁ。」


少年の姉らしき、少女が言った。


「イリア。面白い本はある?刺激的なのは?冒険とか、恋とか。」


「あるわよ?ジェイディ。」


「イリアさん、アテンドルのパンは在るのかね?」


「沢山仕入れました、グランチさん。」


20代前半に見える、艶やかで清楚なこの女性は、話しかけて来た全員の名を覚えていたし、それぞれに親身に対応した。



 皆が、次々とイリアから商品を買い、本当に荷台が空になろうという頃。


1人の女性が。メイドにも見える、黒で整った礼装の女性が、イリアに話しかける。


「イリア。おじい様の気持ち休まる素敵なご本は在りますか?」


「えっと、これなど如何でしょうか。<雷の王と吸血の姫>雷の化身である少年と、吸血鬼でありながら人を愛した乙女の楽しい恋のお話。」


「それは…おじい様には刺激が強すぎます。他には?」


「うーん。<林檎の城>。青年が迷い込んだ森にある、不思議な林檎のお城。年に一度、金のリンゴが採れて、その林檎を巡って人々が知恵で競い合うの。」


「それね、それが良いわ。<許可>済みよね?」


「…ええ、<銀>の…」


「貰うわ。」



 全て売り切ったイリアは、宿に泊まり、今度は酒場で美しい歌声を披露した。


毎月、この日ばかりは宿は、酒場は超満員。宿のひと月の稼ぎはここでもたらされるといっていい。



 夜になると、村の少ない若者たちがせっせとイリアの許へ恋の歌を届けに来る。


だが、イリアは、「私はもう結ばれた人が居るので」と言って、若者たちを相手にすることは無かった。



 こうして、平和な村の夜は更けていく。


この村に、悪人など居ない。


世界を探しても、僅かしかない平和と安寧が此処にはあった。



 翌日、イリアの馬が、村を離れてアテンドルへ帰る。


馬車の荷物入れには、村人がプレゼントしてくれた野菜や穀物で一杯だ。


自然と、笑顔になれる。



 深い森を超えて。低い山を越えて。


豊かな平原を超えて。


アテンドル皇国にもうじき着く。この低い岩山を超えたら、西の大国に着くだろう。


――――――――――


 岩山の、幾つもあいた洞穴に用がある。


黒いローブの女が、妖艶な足取りで近づいていく。



 誰に教わった訳でもなく。意識をしているわけでもなく。


生来の通りに。彼女としては笑える話だが、生来の通りに。


人を惑わす力に長けている。



 幾つも穴の開いた岩山の、細い谷。澄んだ声で、誰にともなく、呼びかける。


「アナタたちに、生きがいを持ってきました。アテンドルのモンクたち。」



 その声に、数名が岩陰から彼女を覗き込む。


世捨人には余りにも、俗世を思い出させる女性の姿が在った。


「惑わされるな!この者、人ではない!」



 奥から出て来た男は、身の丈190程、怖ろしく隆起した筋肉の鎧。


だが、顔を見れば初老と見える。


体中の神聖なるルーンタトゥー。神は剃り上げ、目には落ち着いた光がある。



 人ではない?若きモンクたちには動揺が走る。


「死人より腐った匂い…モンクの聖地に入り込むとは、死にに来たか悪魔。」



 長老の言葉を受けて、数名が前に出た。そして隙なく構える。


その男たちに、彼女は臆することなく向かう。


声を掛けながら。声を発しながら。呪文ではなく、声を。


「私は、バルザ・ヤガ。魔女。忌避される存在。そう、清貧を旨とする貴男方が疎む存在」



「話を聞くな!人間なのは外見だけだ!!」


「長老が風のように、若者たちを飛び越えて魔女の目の前に立つ。」


むうん!


気合の一言と共に、拳の一撃が魔女の顔面を砕き、消し飛ばす。


砕け飛び散った美しい顔は、血まみれになりながら、すぐに再生した。



 長老は距離を取る。


「下がれ!見ただろう!人では無いぞ!」


「酷い人だね。私は何もしていないのに。」


長老は、再び戦闘の姿勢を取った。


「あはは、毎日修行して、願いも絶って、女にも触れず。精神を鍛え神の祝福を受け!ただ強さを求めておきながら!この私ひとり殺せない!」


「黙れ!化け物!」


長老は、全身を包む程の聖なる気を拳に宿す。


「今度は全身を消してくれる!」



 「“タイム・フリーズ”」


長老が距離を詰めようとした時だ。


だが誰も、動けなかった。凍った時の中で、僅かに反応できるのは長老だけだった。



 声が響き渡る。魔法で全員の心に響き渡る。


「もうじき、お前達の天敵がアテンドルに来るだろう。東の国王が。ソイツは、お前達と違い遊び惚け、女に溺れ、酒に飲まれ、尚、お前達より強い。」


「魔力において、尋常ならざる力を持つ者。そいつを討て。見事討ち果たしたなら、その血を溜めて私に捧げよ」


「褒美に、その男の魔力をやろう。その場で、此の世ならざる強さのモンクとなれるだろう。」



 体をロクに動かせぬ長老だが、苦しみながら、口を開く。


吐き捨てるように、魔女に言った。


「は、私怨か?魔女。その男に騙されでもしたか。裏切られでもしたか。自分では出来ぬから、我らを焚きつけに来たか。」



 瞬間。魔女の変化した悪魔の姿が。そのカギ爪が長老の目の前に迫った。


「…それとも、愛されなかったのか。ハッ。」


悪魔の爪は細かく震え、しかし、長老を刺し貫きはしなかった。


「愛されたさ…。時間だ…長くは止められぬものだな…」


時が動くと共に、魔女の姿は消えた。


――――――――――


 強い日差しの下。黒い魔女は小さな馬車を引いている。


強い日差し。


彼女をその日差しから…明るい世界から覆うように。


突然テレポートして来た大きな、魔女の帽子が日影を作る。


静かに彼女の柔らかい髪の上に載る。



 「らしくもない。なぜ殺さなかった?バルザ・ヤガ。」


「黙れ。お前は役割さえ果たしていれば良い。口を挟むな。」


「…呪われたのは、彼かしら、それとも貴女かしら、イア?」


「何が言いたい。」



 「まぁ、役割を果たすとしましょう。わたしが居なければ、貴方は街には<入れない>ものね。」


「ふん…。」


「バルザ・ヤガ。種を撒きなさい。不幸の種を。悲しみの種を。絶望の種を。」



 妖艶な魔女は、帽子を取って太陽を見た。


直視すれば焼け焦げるに決まっている太陽を見た。



 太陽が呪わしい。一方的に焼き付けて行くなんて。


お前も一緒に焼け焦げさせてやろう。


一緒に…。


――――――――――


 イリアは、アテンドルの街中に入った。


街中を通り抜け、城壁で囲まれた区域へ。



 城下にある巨大な施設。<魔法騎士団“フラウレ”>の巨大な門をくぐる。


門には、台座の上に大きめの水晶球があり、手をかざさなければ入れない。


“悪意を持たぬ”ものでなければ、城塞に入ることはできない。


…当然のように、通り抜け、馬小屋までたどり着き、馬車を繋ぐ。


愛おしく、2頭の馬を撫でる。



 さぁ、今日はもう休みましょう。明日はしっかり学ばなければ。


対魔法の神髄を。魔法の“反射”を。



 …どうしてそれを学びたいのか。自分でも判らないけれど。


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