第37話 「雷鳴の魔女」
”西”の思惑を汲み、1人の呪術師が誘う塔には、周到なデストラップが仕組まれていた…。
アリエス、今日も西へ。
王道なハイファンタジーです(?)。TRPG、RPG、リプレイ等好きな方、お時間ありましたらぜひ。
今回はライト。
雷鳴の魔女、その老いた魔法使いはそう呼ばれている。
バルスタッドの西端近く、海岸沿いに5階建ての塔がある。彼女の塔だ。
誰も近づきはしない。強いて言えば、彼女に教えを乞うために訪れる西の魔術師達ぐらいだ。
まず、塔の入り口にたどり着けるかどうかが問題。
塔の頂上がどのような仕組みかは不明だが、この塔の周りに常に雷が走り回っている。
雷を無効にできる、または石にでもなって飛行できる、などの方法で門にたどり着けなければ、直接会うことは出来ない。
次に、何故、この魔女に会いたがる術者が居るのか。
魔術と呪術に長けた魔女は、バルスタッドのバーバリアンが体に刻む“退魔ルーン”の第一人者である。
様々な捧げものと引き換えに、戦士たちは魔法に負けない体を得るのだ。
そして、今日も、1人の客が彼女を訪ねていた。
「…しばらく見ぬ間に、美しい乙女になったものよ。アルティオラ。」
豪華な蒼の部分鎧と魔法の織り込まれた美しいローブ。完全に腰まで伸びたプラチナの髪。
意志の強さを感じさせる大人びた表情。氷像のように整った美しい顔。
「おばあ様もお元気そうで何より。」
「婆の顔を見に来たのでは在るまい。土産の宝珠は有難くいただくがの…」
「東の…」
「…レテネージが居なくなっても尚、<魔術の塔>を侮るべきではないよ、姫。」
「さすがはおばあ様。お見通しですか。」
「まして、あちらが攻め込んできたわけでもあるまい。」
「妹が…薔薇のガーレルが、無謀にもアークマスターに戦いを挑み、傍から見れば軽くあしらわれて帰ってきたようでして。」
「才はあれど…ガーレル姫では及ぶまい…いや、殺されなかっただけ幸運。」
「可笑しいのですよ、“私のほうが追っていた、攻撃していた”とか言い張って。」
「子供よの…そこがまた、薔薇の可愛らしい所じゃが。」
「その男。アリエス王。ダッカーヴァを実質取り込んだだけでなく、此方の…バルスタッドのアリーナでチャンピオンになり、王からアス・ヤ姫を託されたとか?」
「聞いておる。1000人近く一瞬で葬ったらしいのう。」
「…そう。何という暴虐。残虐。大量殺人鬼と言って過言ない。」
「残念ながら、姫よ、バルスタッドは命より強さを求める国。そ奴は一夜にして伝説の勇者となった。勿論家族は悲しんでいるだろうが…戦いの最中に命を落とすは名誉である故。」
「…運のいいこと。」
「そう、この国以外なら、国中の憎しみを受けるべきところ。しかも、褒賞に奴隷の開放を求め、南の一族にとっても英雄となった。」
「噂では、アス・ヤ姫を連れて行ったにも関わらず、他にも妃が何名も居り、日ごろは怠惰で町酒場にだらしなく居座り、王の務めを果たしているのは子宝だけだとか…。」
「ふ。随分な嫌いようじゃが、口説かれでもしたか?」
「…“薔薇”があのオトコとの再戦を望んで聞かない。」
「はぁ、それでこのわしに、アリエス王を討てと。」
「いいえ。“まだ”、ツァルト攻略の命は出ておりません。とは言え、とうのアリエス王は自分が皇帝を目指すと吹聴しているようで。」
「アテンドルの“皇帝”が笑えなくなってきたわけじゃな。」
「おばあ様に、“釘”を刺していただければ、無用な争いも不要でしょう。」
「“釘”ねえ。」
「あの男が一瞬で焼き殺した戦士たちの体には、おばあ様のルーンを纏った者も居た筈ですね…。」
老婆の顔つきは険しくなった。
「このままでは、おばあ様の呪術を破ったと思われてしまいます。」
「…姫よ。王家から謀事まで教わらぬとも良い。」
冷美な皇女は、静かに頭を下げた。
「やれやれ。獅子に首輪をつけてみるかの…。」
―――――――――――
後日、この様な手紙がツァルト王城に届いた。
<ワシはバルスタッドの魔女。雷鳴の塔の魔女。若き魔王、お主の知りたいことを教えてやろう。ワシの塔の5階を訪れ教えを乞うか、海岸線に置いた貢物の祠に宝物を捧げるか。そのどちらかで力になってやろう。>
「このワシがなー!!」
魔女の顔が手紙から飛び出し、手紙を読んだ者を驚かす…びっくり箱の手紙。
この手紙を確認したのは衛兵隊長だった。
…気絶したが。
数日後、折り返し、雷鳴の塔に、ツァルトから返信が来た。貢物の祠に、一通の手紙が捧げられた。
魔女は、魔法で手紙を手元に呼び寄せる。
<ご厚意感謝いたします。西の事で聞きたいことは山ほどありますので、千の味方を得たようです。さて、貴方様の塔へお邪魔します。ツァルトへもご招待いたしましょう。精一杯の歓迎をさせていただきます。偉大なる呪術師に敬意をこめて。アークマスター アリエス・メイフィールド>
魔女は、この、少々文面がおかしな手紙を、遠くに離した。
同じように、ビックリさせる魔法があると踏んだ。現に、魔法の反応がある。
…何もない? 拍子抜けだ。
「びっくりしたぁー!」
突然、手紙から飛び出してきた顔は、どうやら衛兵隊長の顔である。
「うおおお!?」
なんだ!なんなんだ!わざわざ時間差か!意地悪か!
オマケに、わざわざ部下に仕返しの演技させたのか!? アホか??
まぁ、とにかく。阿呆な魔術の王はまんまと引っかかったようじゃが…。
精一杯、おもてなしをしよう。命を賭けさせるに値するおもてなしを。
…意地悪合戦でワシに勝てると思うなよ、小僧が!!
―――――――――
雷鳴の塔には、半径50m、絶えず雷が渦巻いている。
とは言え、相手はアークマスターの称号を持つ者。石になるか、雷を無効にしてくるか。
だから、最初のワナはディスペルだ。魔法解除のワナ。
上手く解除できれば、雷で黒焦げになるだろう。
だが、防護魔法を解除できるかは判らん。第二弾は、門だ。巨大なサメの口の骨で門を飾ってやろう。通り抜けようとしたら、ガブリ。
焦って抜けたところに、床一面にブラックスライムを引いてやろう。宙に浮いていなければ、とっ捕まって、ドロリだ。
おお、うまく切り抜けて階段にたどり着いたら、途中で空間を捻って下りにしてしまえ。
更に、迷っているうちに、ブラックスライムが侵食する水のようにだんだん上がってくるのだ。おお、怖ろしい。
2階にもし来たら、呪いの絵を十も飾ってやろう。次の階段まで、常に呪いを受けるのだ。
燃やそうとするだろうか。沈黙の間にしてしまえば良い。ふふ、楽しみだ。
3階には、ワシの退魔ルーンを彫り込んだ<生きる刀剣>を5本、いや、10本。ふふ、これはもう、魔術師殺し。
そうだ、不意を打てるよう…壁じゅうに刀の絵を描くのだ…床に刀剣を撒き散らすのだ。その中に隠すのだ…。
4階には儂の大切な書庫が…いや、だからこそ、悪をめぐらすのだ。書のいくつかを、「引き摺り込む本」にしてしまえ。
本の中に居る間に、本を焼いてしまえば二度と出られぬという…。
そして、大切なのは、至る所に悪意をばら撒くことだ。ヤツは、きっと悪意や敵意の位置を感知する。
魔法使いの基本的な防御魔法だ。だからこそ、至る所に。
ふはは、ワシの塔は“恐怖の塔”と化すのう。楽しみじゃなあ。
――――――――――
数日後、魔女が楽しみにしていた日が来た。
確かに、膨大な魔力を秘めた何かが至近距離まで来た。
少々時間が経って。雷鳴は消えた。
何じゃと?雷鳴が消えた?避雷でも雷無効でもなく、雷鳴を消した?
次の瞬間、魔女の居住空間がある5階が大きく揺れた。
お気に入りの、優美なティーセットや家具・寝具諸々、床に落ちまくり、派手な音を立てた。
「あああ!?何をしでかすのじゃ!下で何をやっている!?」
階段を登る足音。
実に涼し気な顔をして、紫に金の差し色を持つ不思議な髪の若者が魔女の部屋にあがって来た。
「初めまして。お邪魔します?雷鳴の塔の魔女様。」
「お主が、今のアークマスターかね。」
アリエスは、陶器の割れまくった床を見て。
「あれー。揺れちゃったかなぁ。」と言った。
魔女は血管をヒクヒクさせながらも、笑顔を作り、話し出した。
「雷はどうされたのかの?」
「ああ、石に閉じ込められてた雷の大精霊、開放しちゃいました。」
「なぜ判ったかの?」
「妃が精霊使いでして。」
「…1階の扉は?」
「ああ、危険そうでしたね。」
何その他人事?
「スライムは?」
「ああ、たっぷり居ましたね。」
「ひっくり返る階段は?」
「それはナイスアイデアです。貰っちゃいます。でも、上下のつくり同じにしないと。」
痛い所を突きよる。
「呪いの絵は?」
「よくあんなにたくさん持ってますよね?」
「退魔の剣は?」
「居ましたっけ。」
ピクピクピクピク。
「書庫はどうした?」
「本が山ほど並んでいるのはトラウマなんですよ!」
「魔術師なら本を読まんかい!」
「えー?」
こ、こいつ!ヌケた振りをして、侮れん男!
素の筈はない!アークマスターなのだから!
「おばあさん、せっかくだから、ツァルトの街並みも楽しんでください。城へ行きましょう。色々お話を聞きたいので。さぁ、こちらへ。」
アリエスは、呪文を唱え魔女の部屋に扉を付けた。
「5階じゃがな」
「地上につきますので。」
魔女は渋々扉を通った。戦うにせよ、互いに広い方が良かろう。
ワシらが戦えば、街の1つや2つ瞬時に消える。
「ふむ…何であれ、この最上階にたどり着いたは事実。お主の勝ち。なんぞ聞きたいことがあれば答えよう。知る限りじゃがな。」
「本当ですか?約束ですよおばあさん。」
魔女は地面に足を付ける。そして、ふと振り返って、愕然とした。
こ、こんな!?
ワシの塔が、上2階しかない!?
1階から3階は、ど、何処へ行った!?
え、此処は何処だ!?この広場は!?あの白磁の城は!?
「…透視したら、各階にデストラップいっぱいじゃないですか。面倒なんで、上だけテレポートで持ってきました!」
魔女は、持っていた杖をポトリと落とした。
揺れたのは、このせいかー!!
ツァルトへご招待ってこういう事か!あの変な文章の意味!!
「さ、城へ行きましょう。妃の手料理は美味しいんですよ?」
魔女は、手をプルプル握りしめながら、戦いを挑むかどうか悩んでいた。
そんな折…周囲に人が集まって来た。
「あ、アリエス王。いきなり広場に変な建物困るなぁ。」
「これから此処に市を出すんですよ。どかして下さいよ。」
「あー、お客様の家なんだよ。ちょい待ってよ。」
民に命令されておる!文句言われておる!
「あ、何でも聞けるなら最初の質問なんだけど。“薔薇のガーレル”は何が好き?食べ物でもアクセでも?」
魔女は再び呆気にとられた。
「まさか本当にガーレル様を狙っていようとは!?このケダモノが!」
「…好みのドレスとか…」
魔女は深くため息をついて、渋々言った。
「“薔薇”は小さい生き物が大好きじゃ…。」
あれ?ワシ釘指すどころかプッシュしてない?
「まて。アークマスター。無限に答えるとは言っておらん。3つじゃ。3つにさせてもらう!」
魔女はようやく冷静さを取り戻す。
そうだ。戦うのは、やめた方が良い。
気付かぬ間に、塔ごと持ってこられたのだ。この力、認めぬわけには行かん。
…いや。勝てん。
だが、落ち着け。こやつは今、自らの弱点を教えてくれようとしている。
“ダリア”への良い土産には出来るだろう。
そう。<願い>とは、心の弱さを出すものだ。
自分の持っていない何かを教えてくれるものだ。
「3つじゃ。」
「ん~、2つ目。アテンドルの魔法騎士団…フラウレだっけ…の…」
そら来た。聞きたい重要情報、つまりお主らが知らぬ情報。
「薔薇の上の花ってナニ?タンポポであってる?」
魔女の目は点になった。
「そんなん、アテンドルの街中で誰でも答えられるじゃろ!」
「えー。」
「ダリアじゃ!豪華な花!ダリア!」
この男、本当に皇帝の座を狙っているのか?
本当に本当の放蕩息子というか自堕落というか芯のない水浸しのパンというか!
何故、天はこのような阿呆に絶大な力を与えたのか!?
「じゃぁ、3つ目。」
…さすがに真面目なことを聞いてくるだろう。真の阿呆でなければ。
「“ダリア”の名前は?」
ふん、流石に真面目に来たか。そうよな、対抗組織の頂点の名は知りたかろう。
「アルティオラ様じゃ。」
「…ガーレルより美人なの?」
「お前の聞きたいことは結局それだけかー!?」
「えー?ガーレルより綺麗だったらびっくりだし。」
「と、とにかく3つ答えた。ワシ帰る。」
「え、城でゆっくりしていけば?」
「疲れた。帰る。じゃぁな!東の色ボケ魔王!“テレポート!”」
「テレポートでもその部屋に戻るだけじゃないですか~!?」
その通りだった。魔女は怒りで机をどんどん叩いた。
「じゃぁ、部屋ごと送りますねー!」
なんじゃとー!?
魔女は、言いたかったことを言えないまま、強制的に、テレポートさせられた。
――――――――――
「おばあ様、お久しぶり!アークマスターに逢ったんですって!?どうでした!やっつけましたか!?ぎゃふんと言わせましたか!?」
魔女は、尋ねて来た“薔薇のガーレル”に背を向けたままだった。
「おばあ様、4階から5階、随分上がりにくくなりましたね…何か、階段半分以下になってるというかズレてるというか…地震でも?」
魔女は背を向けたまま、肩を怒りに震わせていた。
「1階から3階まではリハウス中?綺麗に何も無くなって?」
魔女はくるっと振り返り、叫んだ。
「ガーレル様!絶対に、絶対に、絶対にあの男に気を許してはなりません!!こっぴどく言い放って振るのです!!あの男は悪魔!気持ちを逆なでする天才!色情魔でクズ中のクズ!絶対に振るんですぞー!!」
ガーレルは肩をすくめ、両手を広げて、全身で“何を言っているの?”を伝えたが。
…その後も、3時間ほど愚痴を聞かされることになった。
そして、心に炎を燃やした。
許せない…あの男!
何で私がこんな目に!
絶対許さない!!アークマスター!!




