第34話 「サカナの販路」
アリエス、思い付きで無謀に奔走するツァルトの商業開拓。だが、最強のライバルは、近くに居た。
今回もライトなお話。戦闘はほぼありません。
ハイファンタジーです。TRPG、RPG<リプレイ等お好きな方ぜひ。
この日、アリエスは侍女姫ティアナと共に、城下に来ていた。
今日も、ティアナは買い物を自分で選び、料理をしたいのだと言う。
ティアナのお腹は誰が見ても妊婦のそれと判り、また無理せぬ方が良いと考える時期だ。
だから、アリエスがついて来た。
しかし、気を張っている時に事件など起きないものだ。
すっかり王室御用達になった小さな魚屋で、ティアナは大きな魚を買った。海魚だ。
マグロと言う種らしい。重そうなのでアリエスが持った。実際、重かったので魔法を使った。
近海とはいえ、海の魚が新鮮に食べられているのは、ひとえに、魔術師ギルド<魔術の塔>から販売されている<恒冷の石>のお蔭と言える。
全家庭に配られる<恒温の石>、主に商人たちに売られる<恒冷の石>。
此処は魔道国ツァルト。魔法は生活に根付いている。
アリエスは、そのマグロを眺めながら、ふと、思ったのだ。
「これ、売れるんじゃね?」
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さて、此処はエリゴール城塞都市国家<コーダバスト>。彼が交流を広げた国の1つ。
アリエスは、城塞都市の王に、魚の料理が乗った絵皿を2枚呼び出し、勧めた。
「大丈夫、毒は在りませんので。」
「妃、ティアナの手料理なんです。是非一口。」
「ふむ、目の前にアークマスターを置いておるのに、料理を怖れるつもりなないよ。料理で殺すより呪文を唱えた方が早かろう。」
王は、魚を軽く一口食べ、少し目を丸くした。
「ふむう、初めて食べる味だ。海魚か。こちらでも、そのように魔法で呼び出せられたら民も喜ぶだろうが。」
「意外とイケるでしょ?」
「贈答品としても一流だ。確かに旨い。…オイ、ワインを持ってこい。」
王は執事に酒を持たせた。
「はは、実は、贈答品を兼ねた商談でして。」
「おや、それは意外だ。魔法の品かね?貴金属の話かね?」
「いえ、ウチの海魚、城下で売らせていただきたく。」
「ツァルトは海に面していたな…それは判る。干物を入れたいと?エリゴールはどの城塞都市も海を持たぬ故、干物は他国から既に入っている。」
「いえ、生魚を。さっきのヤツを。」
「一匹一匹に腐らぬ魔法を掛けるのかね?」
「いーえ。テレポート魔方陣を置かせて下さい。」
他国から一瞬で飛べる魔方陣。旅も随分、楽になるだろう。
しかし、何故それが各国を繋いでいないかと言うと、兵士も送り込めるからだ。暗殺者でもいい。大人数ではなくとも、一瞬で攻め込まれる危険性。
異国間をつなぐ旅のゲートが開きっぱなしになるなど、聞いた事が無い。
<女王の間>と魔方陣で繋いでいるダッカーヴァは別として。
「ご懸念は判ります。そこで、両国のゲートは強固で小さな建物で囲み、朝夕の一定時間のみ扉を開け、繋ぐのです。」
「ふむ。軍など大規模な人数は制限する、しかも不意には動けぬと。」
「ウチには、商人に渡している<恒冷の石>がありますので、新鮮な海魚をお届けします。」
「ふむ、では、エリゴールの穀物をそちらに送っても良いかね。ファルトラントの米もよかろうが、エルゴールの麦も自慢の品ぞ。」
「ツァルトは狭い国ですので。穀物と香辛料は歓迎です。」
コーダバストの王と握手し、この日、アリエスはエリゴールの料理を楽しんで帰った。
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「だから、此処に魚を集めてエリゴールに持って行こうよ。普段ツァルトで売れている以上に持って行こう。」
「王子…じゃない、アリエス王。馬車で運んでたやつらの仕事が無くなるぜ?」
「その人たちには、その魔方陣の番をお願いしよう。」
「ツァルトで売る分はどうやって運ぶんで?」
「魔方陣はまず首都ディムへつなぐ。隣にエリゴールへの魔方陣。まぁつまり、魔方陣を2つ並べる。」
「人手足りなくなりそうだなぁ、この町。」
「いや。発展するんだから。人は集まるよ。少しずつ。」
「まー。王サマがそう言うんだから、やってみるか…。なんか、魔法使いのトップって言う割に商売に手を伸ばすのか、大変だな王様ってのも。」
気さくで腕っぷしの強い、漁を取りまとめている男は笑ってそう言った。
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石組み、鉄扉の“ゲート館”はあっという間に完成。両国の市に置いた、海魚の市、穀物の市は大盛況を迎えた。
ツァルトは氷を作れる世界唯一?の国。
氷で新鮮に届けられた海魚は大歓迎された。
予告通り、人手は足りなくなった。エリゴール近隣の城塞都市からも買い手が来て、コーダバストも大いに沸く。
法螺吹き王、やるじゃないか…。
普段ミルク酒しか飲まない割には、酒のみの好きなものを当ててくる…。
なんにせよ、市場関係の奴らはウハウハだ…。
とまぁ、評判は良かったのだが。
…ある日のことだ。
ツァルトから夕刻に送る分が、入って来なかった。
海が相手なのだから、そんなこともあるだろう。
だが、翌日も翌日も入って来なかった。なぜか、夕刻の分だけ。
どうなっている?
ゲート管理者同士でトラブルが起きていた。
「確かに魚は積んであったんだよ!魚持ってったのはそっちの奴じゃねえのか!?」
「ふざけるな!こっちに届いたのはサカナの尻尾1つだけだ!なんも来てねえ!そっちの管理こそどうなっている!」
アリエスの耳に入ったのは、数日後、ハイメルから。
「…どうしますかな?<青>2名で張らせましょうか?」
「おねがいしまーす。」
――――――――――
そして、此処はゲート館。<青>の魔術師メニールと<緑>の魔術師ハンズ。
髭を大切に整えている、魔術師の服のボタンを上まできっちり止めた赤毛の男、メニール。
だらしないとも人懐っこいとも言える目じりの下がった笑顔の男、髪に複数の剃り込みが入り、呪術のタトゥーが額にも首にも見える。ハンズ。
“ゲート館”の入り口は、屈強な門番2名と魔術師の使い魔1匹が24時間体制で、番をしている。輪番だ。給料も悪くない。最大の難点は、入庫、移送、入庫、移送と、一日4回しか開かない為、ヒマなことだ。暇だ。
「やぁ、魔術の塔から派遣された青のメニール。こちらは、緑のハンズ。」
青2名と言う予定は既に狂っている。
「どうも。ハンズだ。」
「聞き及んでますよ。どうぞ。開けます。」
<*******>門番はコマンドを唱えた。門番と漁協?幹部。ギルドと国の一部が知る、鉄の扉を開くコマンド。
重い両開きの扉が開く。2つの魔方陣が並ぶ。
…魚のニオイ…。先ほど、朝の分が送られたばかり。のはず。
魔法の灯りが永劫の松明の如く、輝く。
「では、申し訳ないが、閉める。調査は宜しく頼む。」
ばたん。
「…俺たちは、この魚臭い所で夕刻まで過ごすわけだな。」と、ハンズ。
「そう言うな、椅子はあるようだ。」とメニール。
左の壁には、木箱が並んでおり。
右の隅には、タルが並んでいる。
左の木箱はサカナ用。匂うし、木箱の前に幾つか、恒冷の石が転がっているようだ。
右の樽は、コーダバストの麦だろう。このところ、練った小麦を焼く店が増えた。
「交替で番をしよう。仮眠しようぜ暇だし。2時間交代でいこうぜ。」と、ハンズ。
「判った。とは言え、実際には何も起こるまい…。時間を決められており、分厚い石壁と鉄の扉に守られ…。高位の魔術師が壁を抜ければ簡単だが、魚を大量に盗む高位の魔術師が居たらびっくりだ…。」
「ハハハ、全くだ。とんだ大食いだ」
「…いや、そうじゃなくてだな…。」
「……では、お先に仮眠どうぞ…」
先に寝たのはメニール。見張りはハンズ。
2時間近く立って、交替した。
次にメニール。やはり何も起きず、交替。
再びハンズ。
ここで、夕刻用の魚が運び込まれた。
流石に、メニールも寝ているわけにいかない。
漁師たちは、てきぱきと、種類ごとに木箱に入れる。
各箱に2こずつ、恒冷の石を置いて、氷を撒いて、木箱を積む。
2個落ちてた石を見て、漁師は愚痴を一言。
「オイオイ、石入れとかんと、氷溶けるだろうが!」
石と箱の数を合わせ、漁師たちは去って行った。
30分ほど、見守り。何もなし。
また交替。メニールが椅子に座る。
数十分経ち、つい、自分もウトウトしてしまった。
ハッと起きて、見渡す。ふと、左端に、目をやる。
…あれ。木箱の目の前に、宝箱?
在ったっけなぁ。さっき漁師たち、そんなの置いたか?
しかも、宝箱の前に、恒冷の石が2つ、転がっている。
あれ?
拾って、文句言ってなかったか?
宝箱ねえ。
「オイ、起きろ。ハンズ。」
「何だ、何かあったのか!?」
「あれを見ろ!」
「ん、んんん?宝箱?チェストが何故ある?」
「一番上の木箱、無くなって無いか?」
「そうだっけ。同じじゃないか…?」
「宝箱の手前に恒冷の石が転がっている。ヘンだろ?」
「あはは、変だな!?」
「いや、そうじゃなくてな…。」
「“舌の上に”ずっと冷たい石が乗ってたらイヤだと思わないか?」
「俺は、氷食べるの好きだぜ?」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「それより、宝見てみようぜ?」
「…お前はアホか!?」
「…わからんな、男ならお宝を…」
「いいから、指輪を構えろ、緑のパンズ。」
「…ハンズだ。」
「ウッドゴーレムを出す。一斉に飛ばすぞ!」
「何をだ?」
「俺たちが魔法以外に何を飛ばすのか言ってみろ。」
「漢気…とかウインクとか」
「ウインク俺に飛ばして来たら燃やすぞお前。ミミックと一緒に!」
「ミミックだとー!!」
「叫ぶな!気付かれ…た!」
うおー!!腕が生えたぞ!
見てねえで呪文撃て!!
ツ!近づいて来たあ! おお!“ファイアボール!”
アホが!すぐ近くまで来てる奴にファイアボール撃つな!
燃え尽きろ!
俺たちとサカナも一緒にな!!
うおおおおおおー!!
・・・・・・・・
――――――――――
ダッカーヴァ。
赤子の皇太子を抱きながら、アリエスが言う。
「とまぁ。そんなことがあってね。」
アリエスの前にお茶を置き、ダッカーヴァの女王ノエルが言う。
「…面白いお二人ですねえ…」
「いや、そうじゃなくてね…」
<青>と<緑>のコンビで、強敵ミミックを撃退。当人たちもヤケドを負い、サカナも一部燃えたらしいが。
とにかく、魚盗み食いの犯人は、こうしてやっつけられた。
ミミックは肉食だ。どこから来たかは不明…。
「ま、とにかく、流石はツァルトの魔法ギルド、とはなった。」
ノエルは、アリエスの横に椅子を置いて、息子アゼルの頬を撫でる。
「…そう言えば。」
「うん、そう言えば?」
「アゼルは皇太子ですわ。一応。」
一応と言うのは、借り物の玉座という意味だろう。
「うん?そうだけど。」
「貴方とわたくしの可愛い赤ちゃん」
「勿論?」
「ところで、ダッカーヴァの西側も海に面してましてよ?」
「うん?」
「ツァルトより北ですもの、魚の種類が違うのよ?」
「サーモンとかだっけ。ダッカーヴァ名産?」
「アリエス様はダッカーヴァもやがて1つの国にと、おっしゃいました。」
「うん。」
嫌な予感がしてきた。
「で、わたくしはその妃。」
「…うん」
「ダッカーヴァは、この子がやがて治める国。」
「…うん」
「コーダバストに、ダッカーヴァの海魚もお届けしたいわ~。そうだ、ガランサンなら、エルフの森にも近くて喜ばれそうですわ~。キャステラも喜んでくれるに違いないわ~。」
販路に、ダッカーヴァを一枚噛ませろと!
めちゃめちゃ苦労したのに~!
「いいとおもわない?ね、パパ?」
妃は、ニッコリ笑って、赤子を自分の胸に抱き移した。
「………ハイ。ワカリマシタ…。」
ノエル姫は、幼い頃より高貴な位に居たのだ。
若き女王は、国をかけた駆け引きにおいて、ビギナー国王より遥かに上手だった。




