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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第33話 「語り部の真実」

アリエスが訪れた、西の酒場。そこでは、冒険譚を買い取る吟遊詩人が居た。


ハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。第33話。

 <パナティモア>西の国、<エレゲート>。


その、とある街にある酒場<ブラウン・バレル>


その男は此処に入り浸る吟遊詩人だ。

謳い、踊り、チップを頂き、飲む。

30になる位の、なかなかに顔立ちのいい男だ。


この男がそこそこ有名なのは、フィドルと呼ばれる楽器の名手であるからだが、もう一つの側面が面白くて評判なのだ。


男は、「冒険譚」の買取をしている。実話でも、作り話でもいい。

価格は1銅貨から10金貨。

吟遊詩人として、歌を作るためにやっているそうだが、もう1つ。彼は、物書きでもある。


ただ、未だにヒット作には恵まれていないらしい。すくなくとも、彼本人は。


――――――――――


「やぁ、<羽の右手>。僕の物語を買い取ってくれるかな。」

「…やぁ、美しい青年。名を聞こうか。勿論、買取中だ。君なら、女性の話しだろうか?是非、聞かせてくれ。ちょっとくらい生々しいのも欲しい人はいるんでね。」

「いやいや、こう見えて元冒険者さ。魔術師、アーネスといいます。」

「ほうほう、聞かせてくれ。内容によって、銅貨1枚から金貨10枚。悪いが、こちらで決めさせてもらうよ。」


「えっと、一つめ。」


遊び好きな魔法使いが居ました。

彼はある時、リバー・サーペント退治を引き受けて、現場に向かいました。

面倒くさかったので、彼は上空からライトニングを撃ちました。

ヘビはプカプカ浮かんできて、めでたしめでたし。


後日、そこらの魚も全滅してたのが判って、魔術師は大目玉を食らいました。

おわり。


男は、何も言わず、銅貨1枚を置いた。


「…それじゃぁ2つめ。」


めんどくさがりの魔術師が居ました。彼は、野盗に襲われそうな町を救いに来ました。

わざと、町に隙を作り、野盗が一斉に大きな橋を渡って襲いくるように仕向けました。


彼は、自分は空を飛べるので、野盗のほぼ全員が橋に乗ったところで、一気に橋を壊してしまいました。野盗は川に流され、捕まりました。めでたし、めでたし。


でも、橋を落としたので川は石だらけ。魔法で作った橋は透き通ってみんなに怖がられました。…魔術師は、大目玉を喰らって、橋を直す羽目になりました。

おわり。


男は、「そいつには魔法使わせない方が良いんじゃないかな…」と言いながら、再び銅貨1枚を置いた。


「みっつめ。」


駆け出しの彼らは、大きな入口ある、ドワーフ採掘場跡に入りました。中が熱い遺跡です。


入って間もなく、何と入り口を巨大な岩で塞がれてしまいました。

実は、そこにはもう、ドワーフはとっくに居なくて、サイクロプスが根城にしていたのです。

隠れる所も少なくて、4人はすぐ見つかり、サイクロプスに追われます。


駆け出しの彼らには、倒す剣も魔法もありませんでした。

逃げ惑う彼らは、最期に、大きな平べったい荷台のようなものが付いた機械を見つけ、飛び乗りました。それは、ドワーフの遺した大きな装置で、レバーを引くと、ずんずんと坂を上に登り始めました。荷台の上には、小さな鉄鉱石が沢山転がっていました。これで距離を取れる、対策を練ろうと思ったのですが、びっくり。サイクロプスも荷台に飛び乗ってきました。


もうこれまでかと思いましたが、その巨大な荷台は、突如“下り”に変わり、急速に走り出しました。同じく巨大な両扉が自動的に開いて、その先には、これまた巨大な溶鉱炉がありました。巨大な荷台と思っていたのは、採掘した鉱石を運ぶ機械だったのです。


4人と、サイクロプスは、坂を転げるように溶鉱炉に向かいます。

でも、台ごと落ちるはずは無い、そう思いました。鉱石だけ落ちるはずなのです。

魔術師は、みんなの体と、荷台のフックを強固な魔法で固定しました。


急停止する荷台。角度と勢いで鉱石が落ちる仕組み。

サイクロプスは真っ逆さまに溶鉱炉へ。4人の冒険者は脱臼とか色々ありましたが、僧侶の呪文で何とか無事に生還しました。

おわり。


男は、金貨1枚を置いた。


「うう、他には…」

思い当たる冒険も、戦いも幾つもあった。派手な活躍も、地味で凄惨なモノも多々あった。

ロマンスも…ある。


しかし、なんだろう、話すことで「傷つける人が居ない様に」または「その魂の名誉を穢さぬように」と考えると、話せる内容は減ってしまうものだった。


いや、ほとんど、言えないものばかり…。


「他は無いのかな?」

男は、残念そうに言った。


「バルザ・ヤガ…との戦いはどうだろう?」

「…聞いた中で、そいつが一番の法螺吹きだな。まぁいい。でも、その話は腹いっぱいだ。誰より知っているよ。」


アーネスの目が鋭くなり、見えるものには威圧的なほどの魔力が膨れ上がった。

「貴方が、本の執筆者、ハロルディ。」


「そっちが本性かい…?魔術師アーネス?」

男は、エールを飲みながら、でも恐れずそう言った。


「さっきの話を聞いて思ってたよ。大抵の奴は、そうだな、自分の事を話すものさ…都合の悪い所は隠しながらね…。」


「はは、バレた?」

「そしてね、そうだとすれば、上空から敵を倒す程の強力な雷を撃てて、大きな橋を落とす程に強力な魔法が使えて、なんて事になるね。大法螺も大概にしろ、って所だけど。」


「そう、嘘ばっかりさ。」

「東の国に、アークマスターであることを隠しながら、下っ端やってた面白い魔術師が居るそうだね。」

「へえ、奇特なヤツだね。」

「意外なほど若くて、紫の髪に、金の差し色を持つ美青年だそうだよ。君と同じようにね。“魔王”アリエス・メイフィールド。」


ハロルディは小声で言った。


「失礼しました。貴方のような切れ者に隠せるはずもないか。」

「いや、是非色々話を聞きたいものだ。」

「長くなるんで。今日は、僕が買い取りたいんだ、貴方の話を。」

「オレの?」


「バルザ・ヤガの話を聞かせたのはどんな奴かな?誰か、魔女をよく知る奴から話を買い取ったという事でしょ?」


「バルザ・ヤガ?」

「そう、あの、怖しい魔女を。余りに妖艶で…引き寄せられそうになるあの女の事を。」


ハロルディは小さく笑い出した。


「だから、その法螺はいい。迫真の演技だが、有り得ない。」

「…どういうこと?<羽の右手>?」


「あれは、完全な創作なんだよ。ジジイの作品だ。ウチの家系唯一のヒット作。」



アリエスの顔から血の気が引いていく。


「嘘だ…僕は、アイツと戦った…! バルザ・ヤガと!」


「ジジイは、内容について悩んで、かなりバアサンやオヤジ、オフクロのアイデアを貰って創ったそうだよ。オレが物心ついた頃には売られていたが、苦労話は散々聞かされた。最初は、魔女の中身が入れ替わる展開じゃなかったらしいぜ…。」


では、僕は誰と戦ったんだ!?



「僕は…イアを…倒した…燃やした…魔女を…」


「愛して…た?…ずっと…15になる頃から…忘れて…た?」


蘇る、消えない記憶。生々しい、蛇の記憶。

そうだ、これこそ呪いなのに違いない…。


「…どういうことか判らないが…物語を読んだどこぞの魔女が、本から名を借りるくらい、普通にあり得る。悩むほどの事かな?」


確かにそうだ。理論的にはそうだ。可能性として一番高い。

偽りの名だったんだ。イア。


でも、記憶にある彼女の…大人になった姿だった。何故忘れていた?

愛したのに…愛し合ったのに…。



僕は、誰と戦ったんだー!!



「東の国でよくあの本を手に入れたもんだな。主に西でしか売られていないはず。てことは、その魔女の出身地は西だった可能性が高い…でも、倒したんだろ?何故こだわるんだ?」


あらゆる国の産物が集まる、砂漠の無法バザールだからこそ手に入った本だったのか。

ハロルディの言葉は、アリエスが西へ向かう理由を決定づけた。


「はは、まるで恋人を追いかける様だな。死んだ恋人を。」



―――今、<呪い>は、アリエスを徐々に苦しめ始めている。


日が立つほどに、消えない。鮮明に浮かび上がる、あの日のイア。

恐るべき悪女と、魔女と、悪魔と知って尚


今も、キミがほしい。愛して…いるから…。

妃たちと…同じくらいに、狂おしく。


「私が再び生まれるまでの、ほんの少しだ」


僕は、待っているのかも知れない。

邪悪な彼女が、言葉通り、再び目の前に現れるのを。


いや?そんなバカな事があるか。僕が邪悪を求めるはずがあるか!

記憶が混乱している。正常な判断ができていないだけだ!

僕が初めて結ばれた女性はティアナだ…。イアじゃない。



本当に? アリエスの言葉が、自分に問いかける。


本気で? イアの言葉が、アリエスに問いかける。



逃げようって、本気で言っているの? アリエス?


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