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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第31話 「<薔薇>のガーレル」

ダッカーヴァの安全を確保へ北へ赴くアリエスに、西の魔法騎士団<フラウル>からの使者が。


ハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。今回はライト気味です。

 この大陸は、一般には<エビ>と笑われている。

シュリンプランドなどと笑われ、つまりは愛されている。


実際、エビの尻尾の位置に在るのがツァルト、ギリ右上に在るのが、エビ腰の内側でダッカーヴァ。ダッカーヴァに面した内海は穏やかで浅めで、大きな島がご丁寧にエビの足の如く幾つも点在する。


なお、正確には<ルートリア大陸>という。

だが、一般にはシュリンプランド。


 さて、19歳の若き王アリエスは、ダッカーヴァの真上、パナティモア公爵領に来ていた。

パナティモア公爵領はノエルの治めるダッカーヴァ公爵領と唯一の陸続きである<西の勢力圏>の国だ。パナティモア以外の西の国がダッカーヴァを責めるには、海路が必要だ。浅く、入り組んだ島々が邪魔する海路が。


――――――――――


「若き王よ、ようこそパナティモアへ。」

「お時間を設けて頂いて感謝ですよ。バウルタ公爵。誕生祭への祝意も感謝申し上げます。」

この様な場合でも、アリエスはご丁寧な言葉で敷き詰めたりしない。

60歳程にみえる、狡猾さを漂わせる公爵は、若すぎる国王をじっくりと見定めていた。


そんなことは当然だ、隣国の皇太子なのだからな。

当たり障りない会話。しかし、時にその手順は重要なもの。特に、腹を探り合っている同士では。


「パナティモアのお茶は如何だ?ツァルトは若い国、こちらの伝統も味わっていただけると良いな、アリエス殿。」

言葉の意図を吟味しつつ、アリエスは返す。

「とても良い香りで美味しいですねえ。ノエル姫もお茶が好きなので、帰りに買って帰りましょう。でも、僕はもうちょっと熱い方が好みです。」

「お?ぬるかったかな? オイ。」

公爵が執事に声を掛ける。

「イヤ、大丈夫ですよ。こちらで。」

アリエスは一言、呪文を呟く。

カップのお茶は一瞬で沸騰し始めた。

「あち、やりすぎた…」


勿論、ワザとだ。


“未開地も多く、歴史も浅い小国の若造、敬意を払え”

そう言われたのでちょっと返しただけだ。

“なるほど。その代わり、大国を相手に出来る力を僕は持っていますよ。ノエルとアゼルのダッカーヴァに手を出さないで下さいね”


「ふむ、もう少し“冷める”のを待った方が宜しい。」

「ですねえ。」

老獪な公爵がニヤッと笑った。


今すぐ戦うような指令は来ていない。熱くなるな。という事らしい。


「先に東の同盟をお誘いしたときは、残念ながら時期尚早との事でしたが、<魔術の塔>支部をこちらに正式に開きたいのですが、どうでしょうかね?」

「巨大な力を持つ、魔法ギルドの勢力を我が領内にと。確かに、魔物や魔族の軍から身を守るお手伝いをしてくれるのなら悪くない話ではある。」

「でしょ?」

「しかし、竜の山脈がある以上、南東の奈落…魔族の勢力が此処へ来るには、エリゴールを越えなければ無理というもの。そのような戦力が必要かな?」


「僕は大陸の守護者を目指してます。ので、“パナティモアが敵対しない限り”パナティモアも守る対象です。勿論。」

「なんと。無欲な事だな。パナティモアとツァルトが敵対などあり得んが、ダッカーヴァから仕掛けられた時にはどうかな、我らも身を守らねばならんしな。」

「…あり得ませんねぇ。ダッカーヴァがわざわざ“本家”を責める理由が一つも無い。」

「そうだな、あるとすれば“野心的な夫”にでも唆された時ぐらい。」

「はは、ご冗談を。さて、そろそろ、おいとましましょう。今後とも、両国が平和でありますよう。」


アリエスは、公爵の手を取った。


「では失礼。今後、西の国々にも挨拶がてら回ろうと思います。一度行ってしまえば簡単なんですよ?遠い旅も。 僕は、“覚えたところ”はテレポートできるんで。公爵様から快く王城に招き入れて頂けたのは、ツァルトへの信頼の証と感謝しております。」


公爵の顔には明らかに動揺が走っていた。

この小僧。儂を脅しにかかりおった!

アークマスター本人が、何時でもこの部屋に飛べるだと…!?

魔方陣も描かず、この短時間で覚えた、だと?


「<魔術の塔>の件、確かに検討しよう。だが西にも、最近台頭してきたギルドがある。その者たちは<魔術の塔>の覇権を奪おうとしていると聞く。気を付けることだ。」


これも、脅し。

でも、良い情報だ。ナイス。ありがとう。


「では、窓の外に馬車が来ていますので。失礼。いこう、ユ=メ。」

最初から壁際にじっと立っていた元・冒険仲間の側近が。

大陸最強の剣士、アジ=メの息子、ユ=メが静かに頷く。


恐るべき魔術師の王は、友と同時に、瞬時に消えた。



執事が、バウルタ公爵に話しかける。

「領内に、かの団が…ガーレル王女が来ております…」

「我らは預かり知らぬ事…とは言え、ガーレル王女に領内で怪我でもされては困る…見張っておけ。何時でも、双方に恩を売れるようにな。」

「は…。」



10分後。


パウルタ公爵は深くため息をついた。

彼は権威主義ではあるが、野心家という程でもなく。

実に面倒な事に、迷惑な事に、ダッカーヴァとメルカーナ連合国の火種の最前線だった。


…あの小娘が素直にアテンドルから婿を受け入れていれば良かったものを…。

アークマスターの小僧を倒すなど…ツァルトを敵に回すなど、考えるべきではない。無理。化け物だ。


念のため、あくまでも念のためだが、忍ばせておいた隣部屋の暗殺部隊は、いつの間にか全員、床に倒れていた。体中がマヒし、痙攣していた。


公爵は、そろそろ息子に譲位しよう。この日そう決めたという。



――――――――――


 帰路。アリエスの馬車は、パナティモア首都の街中は石畳の路上を走った。


前回、狼騒動の時や、ノエルと来た時にも思ったが、パナティモアの人々は好戦的でも野蛮でもない。努めて普通に、ツァルトと同じように、日々を楽しんでいる人たちだ。嫌いじゃない。


ところで、4頭立ての馬車を引いているのは馬ではない。馬の形をした、銀のゴーレム。

魔道国の紋章を付け、仲間の数人が乗っている。街中で、その異形を…魔道国の力を見せつけるに十分だった。


街を抜けると同時に、空へ舞う。地上を時間かけて走るなど、元々考えていない。

即帰ろう、ダッカーヴァに。この馬車もダッカーヴァに常駐していたものだ。



 そんなアリエスの馬車を遮るように。グリフォンに乗った一団が、現れた。

消えていたわけでは無い。側面から、追いついて来た。


そこが地上であるがごとく、先頭に居る女性が、グリフォンを降りる。

宙を歩くように、優雅に近づいて来る。


そして、おそらく、精一杯張り上げた声で、馬車に向かって叫んだ。

「ツァルト国のアークマスター、アリエス殿とお見受けする。これなるは、アテンドル皇国の魔法騎士団<フラウレ>、薔薇のガーレル!失礼ながら申し出がある。出て来られよ!」


アリエスには、あんまり聞こえてなかった…。

彼女の声は、自分で思っているよりは小さかった。


出ようとするユ=メを制し、アリエスは一人、宙へでる。


その女性は、姫たちとあまり変わらない若さ。ドレスに何やら判らない素材の部分プレートを付けたような、不思議な出で立ち。白と黒を基調に、その部分鎧にも装飾が見て取れる。不思議だが美しい組み合わせの鎧。顔立ちは遠目にも麗しく見え、膝まで来るほどに長い髪は所々で上向きに跳ねて、しかし整っていないのではなく、ゴージャスに見える。濃い金の髪。豪華な装飾のついた、短めの剣と盾。


「何の用?僕たちは今帰るところでね、急ぎじゃなきゃ失礼するよ?カワイイ騎士さん。」

「な!?」

副官らしき、凛とした感じの髪の短い女性が割って入って来た。

「無礼な!そちらも王族であろうが、こちらも王族。アテンドル皇国の王女ガーレル様!礼をわきまえよ!」

「ラシュラ、いい。魔法ギルドとして、私は会いに来たのだ。」

「魔法ギルド?」

「…先ほど申したであろう?」

「いや、ゴメンね、聞こえてない。」

少女は赤くなって、金の髪を逆立てていた。


再び副官。

「し、失礼な!王女は、魔法騎士団<フラウレ>で“薔薇”の称号を持つ才女!剣と魔法に秀でた王家の宝石!」


「へえ…“薔薇”…似合うねえ」

ウチで言う“赤”とか“黒”とかだねー。真似かなぁ。


「僕、思うんだけど。花も色も何が最高ってこと無いだろうけど、ウチは金が最高位なんだよね。華の名前で呼んでるなら最高位はナニ?タンポポ?」

少女は“怒髪天”という言葉が似合う目の光でアリエスを見た。濃い蒼の瞳だった。

「…きききき貴様!互いに王家と思えばこそ大人しくしていたものを!許せん!決闘を申し込む!!」


少女は剣を抜いた。


「穏便に行こうよ。ギルド同士仲良く行こう。」

「もう遅い!たたたたたタンポポって!!ば、バカにしてぇ!」

「え?タンポポ可愛いし…?」

ちなみに、アリエスは花について、キャステラ姫の100分の1も知らない。


「ま、待たれよ!ここは、1つ、模擬試合で良いではないか?魔術とは言え、互いに加減をしても実力は知れようと言うもの!互いに傷つけず、勝負をするのだ!ガーレル様も!相手は仮にも国王!まずいです!絶対ダメです!!」


副官らしき女性は、アリエスに向かって

「ど、どうだろうか!?」

目がものすごく懇願していた。


「うーん、いいよ?」

副官は心底ホッとしたようだった。

「キミも、ホッとした顔可愛いね?」

副官は赤くなって

「お、お戯れを。こほん。では両者、向き合え。互いを傷つけることなく、勝負を!」


傷つけない魔法ねえ。無茶言うなぁ。

というか、あの子はヤル気満々に見えるんだけど。どうすんのコレ?


「が、ガーレル様!無茶をされぬよう!!」

「大丈夫!ラシュラ!知っているだろう!私には無敵の呪文がある!」

無敵の呪文?ほうほう。


「始め!!」


少女が、ガーレル姫が何か短く唱えた。早い。呪文じゃない。コマンドだな。

彼女の周りに、3つの大きな“鏡”が現れた。


「“タイム・フリーズ”」

アリエスは、凍った時間の中を、ゆっくり近づく。

まず、ご丁寧に剣を鞘に仕舞ってから、“鏡の盾”を見た。


面白い魔法だなぁ…呪文防御系?

まさか?鏡…鏡のイメージね…。最強の魔法…ね。


次に、彼女の顔を見た。間近で見た。


ゴージャスな美女…になろうとしている美少女というか…。綺麗。

ノエルやエディみたい。でも、鼻立ち、唇、瞳…大陸東の者としては、少しエキゾチックな魅力に溢れていた…。


「綺麗だねキミ。驚いた。本当に薔薇のよう。キミはどういう人なんだろう。」

アリエスは、攻撃せず、つい、彼女の両手をとった。


彼女の目が動いた。頬が真っ赤になっていた。

あ、キミも時間の中で少し動けるんだ。さすが薔薇の称号。知らんけど。


…時が動き出す。


ガーレル以外には、アリエスが突然場所を移動したようにしか見えていないはず。


予想通り、鏡はアリエスの体を素通り、何も害が無い。

魔法を多分…弾き返そうとしたのだろう。それは物凄い事象だ。初めて見た。


で、アリエスは彼女の両手を取っている。

聞こえないはずの凍った時の中で、まるで口説くような事を聞かせてしまったわけだが。


「…てててて手を放せ!いつまで握っている!ぶぶぶ無礼者お!」

「あ、バレた。ごめんごめん~」

アリエスは空中を逃げ惑う。

ガーレルの放つ光系の魔法を笑いながら躱しつつ。


「双方、やめ!時間だ!!」

時間設定などしただろうか。

「引き分け!王女!良いですね!引き分け!!」

「わわわ、私の方が攻撃してましたぁ!」

外見より年下みたいな拗ねた言い方になって、アリエスは笑いをこらえた。


「うん、引き分け!また、戦いに来ておくれよ!綺麗なガーレル!」

アリエスは勝手に馬車まで飛んで戻って行った。


そして馬車の上で一言、「“マス・テレポート”」

…消えてしまった。



副官のラシュラは心底、ホっとした。アークマスターに決闘を挑むなど。予定外!想定外!ガーレル様の馬鹿!無事に済んで良かった!!


大体、噂に聞いた時を止める魔法。なんと怖ろしい!鏡の盾があるとはいえ、両手を握っていたという事は首も切れたという事。誰が見ても負けではないですか!馬車ごと、ゴーレムごとテレポートするとか!化け物!確かに魔王!


「ら、ラシュラ!次こそアイツを跪かせてやるわ!出来るわよね!私なら!」

「勿論でございまーっす。姫。」


ラシュラはアリエスと姫が二度と出会わないことを神に祈った。




ダッカーヴァに着いたアリエスは、ノエルと赤子に会う前に、執事やユ=メをツァルトに送る。


この時、珍しく、非常に珍しく、ユ=メはアリエスの耳元でポツリ。

「そのうち、そっちの<薔薇>に言いつけるぞ。」


国王と側近という立場に変わったとはいえ、基本、冒険者仲間で、幼馴染で、親友だった4人。

アリエス、ユ=メ、メイフェア、シャリーの4人。


…この辺の仲に、遠慮はない。


アリエスは お願い~ のポーズで、この場を逃げるのみだった。



続く―。


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