第29話 「魔道国ツァルトの法螺吹き王」
竜と共に、魔族の群れに挑むアリエス。そして、最恐の敵、不死身の魔女バルザ・ヤガとの決戦の時。
ハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。
ファルトラント上空に差し掛かったアリエスに、姫たちから知らせが入る。
「オマエ~いまどこなんだ~?かわいいアタシが心配しているぞ~」
「私だ。何処にいる、こちらは大方片付いた。」
「王子、吸血鬼は片付いたが、魔物の群れがもう、城塞の門に近づいている!どうしたらいい!?」
使い魔たち。せっかくの空の眺め。僕の視覚を共有して、姫たちに見せておくれ。
安心できるようにさ!
アリエスの使い魔たちは、姫たちの前で、アリエスの視界を投影した。
いつかのダッカーヴァで見せたように、スクリーンに映った映像のように。
アリエスの予定外だったのは、使い魔たちがヤケに大きく、それを映したことだろう。
皆が見たのは。姫たちだけではなく、それぞれの国の者たちが見たのは。
巨大な竜の角。大いなる空の風景。
そして、巨竜の頭上に居るらしい、王子の腕、
「なんだこれは…あのバカ…まさかこれ、竜の頭?」
「なんだーこれー。あたしも混ぜろー。」
「見えますか。アリエス様は、竜を従えて戦いに赴いています。それでも、疑いますか、ダッカーヴァの同士よ。」
遠くに、魔族の軍が見えて来た。
真下にはツァルト・ファルトラントの連合部隊が見える。アリエスは手を振って軽く追い抜いた。
先頭に1機。巨大な骨のジャガーノート。後方に2機。
「じゃぁ、宜しく。偉大な竜たち。」
「お前の魔法はどうした?」
「え?僕が全部倒したら、キミら竜王に怒られない?」
「…本気で言っているのか? バカなのか…?」
魔族の群れは、おそらく数千。
「まぁ、いい。ちょうど、魔族を焼きたかった所だ。」
「あ、やべ。耐炎掛けよう。“ファイア・イミュニティ“」
ファイアレジストではない。最上級呪文、炎無効。唱えられる者は、ごく一部。
竜が大きく息を吸った。
火炎放射器のような、高温の炎が一直線に魔族を焼き払う。
他の4匹も追随し、魔族の先頭集団は跡形なく焼き払われる。
セーフ!耐炎かけておいて良かった!
人々も、それを使い魔のスクリーンで見ていた。
恐るべし、竜。 偉大なり、竜。
先頭のジャガーノートが焼け焦げ、崩れるさまを見て。
「後方は僕が消し去ろう。ちょっと時間かかるから宜しく。」
アリエスは竜の上に立つ。
「“始原の星々の間を彷徨う 無数の流星よ 我が意に答えよ…天空より飛来し…なんだっけ…”」
「なんだ貴様!?呪文は正しく言霊を紡がねば効果を変えてしまうのではなかったか!?」
「良くご存じで! いいさ!結果は似たようなもん! “メテオ!招来!!”」
「無茶苦茶だ、コイツ! こんなのが! 魔王を継ぐ者なのか!?」
この時、エディは恥ずかしくて顔を隠していたという。
ティアナはただ、祈ったという。
メイフェアは、目をつぶって、「アホ」、と呟いたという。
魔族の上空に、破壊的な隕石が、突如として現れた。
予想より小さくなってしまったが、その分、数があった。12の隕石が。隕石の雨が。灼熱の雨が、魔族の頭上に降り注いだ。…結果として広範囲に…。降り注いだ。
地獄の業火が、魔族を灰塵と化す。
「何て、バカげた魔力だ…。」”エルダー”が呟いた。
「よーし。残党は正規軍に任せよう!次、エリゴールへ!」
「図に乗るなよ、貴様。何故貴様が指図する?」
「頼むよ。まだ、救うべき町が在るんだ。」
「英雄を気取るか?魔王の子。」
「英雄? いや。僕は皇帝を目指す。大陸の全てを、僕が照らす!」
竜は、何かブツクサ言ったようだが、向きを変えた。
キャステラは、魔道師団、そしてエルゴールの民に言った。
「見ての通りだ。王子が竜と共に向かっている。城門を決して破らせるな。もう少し耐え凌げば、勝利だ!!」
そして、空を見上げる。
王子。キミなら、出来るかもしれないね。
俺を、一緒に連れて行って。その場所に。
ん?使い魔たち、姫たちに伝えてくれ。ビジョンはもう良いだろう?
伝えてくれ。僕は勝つよ。キミ達のお蔭で。キミ達の力で。
エルフの森近くに群れていた魔物を雷で粉砕し。
エリゴール、城塞都市ガランサンに取り付いていた魔族を、火竜と共に。魔道師団と共に。まさに蹴散らして、アリエスは戦いを終わらせた。
エリゴールの民は、アリエスの名を呼んだ。
「アリエス王子! アリエス様! 竜を従える王! 竜魔王! 竜魔王!」
それは、エリゴール、ガランサンの貴族たちには大層気に入らぬ事だっただろうが。
――――――――――
火竜は、アリエスを降ろし、キルメット火山へ帰った。
「竜王に、どう報告するか悩むところだ。」そう言って帰った。
アリエスは、キャステラを抱きしめ、ツァルトへテレポートで送る。
戦いの後始末を、魔道士団に指示する。エリゴールはこれでいい。
残党、残存勢力の確認のために、アリエスはテレポートではなく、飛行でファルトラントへ向かう。
そして。そこには、最期の敵が、待ち受けていた。
ファルトラントの軍と合流し、兄トーラス、ファルトラント将軍ビンセント卿と言葉を交わす。
一部の、テレポートできる程の力を持つ魔族以外は殲滅。
シンプルに、完勝と言っていい。
微笑みを交わす兄弟の向こう。
魔族が散った後の、毒沼の方に。
1人の、人影が現れ、ゆっくりと近づいて来た。
その人影に気が付いたのは、その女から発せられる邪悪さが、余りに強いからだ。
それが視界に入って、アリエスや、兄。兵たち誰もの顔から、笑顔は消えた。
判るのだ。それが、只の女ではないことが。
たった今戦ってきた千の魔族より、怖ろしいと。
それが空気を振るわせて伝わってくる。
アリエスは、歩み始めた。
他の者が来ることを、手で止めた。無駄だろうから。
互いに、ゆっくり。歩く。
千の事を考えながら。万の方策を考えながら。
互いに、魔法が届く程度の距離で、2人は対峙し、一度止まった。
…再び、女はゆっくり歩み出す。
「見事だった。これでは“街”には入れぬ。沢山の魂を期待していたのだがな。」
「人々の魂、そう簡単にはあげないよ。バルザ・ヤガ。」
魔女の足が止まった。
「それとも、イア?」
「お前を初めて見た時は、まさに子ヤギだった。暫く見ぬ間に、随分変わったものだ。若獅子のよう。」
「言っておくけど、呪いは効かないよ。バルザ・ヤガ。」
「同じく、アンチマジックは張っているよ、魔術師アリエス。」
「よく、私の正体にたどり着いたな。では、倒せる自信はあるか?」
また少し。魔女は緩やかな足取りで近づく。その足取りだけで、男たちを狂わせるほどに蠱惑的に。
アリエスは宝石のようなものを指に挟み、魔女に見せた。
「お前は死なないのではなく、再生する。だが、真に無限なら、無敵なら、何故アンチマジックを張るのだろう。掛けられたくない呪文があるからだ。再生できない、呪文が。」
「ほう、では試すがいい。私が、悪魔の姿を借りてお前を鷲掴みにするまでの僅かな時間で。」
“ショート・ブリンク”
アリエスは、ほんの少し離れた場所へテレポート。魔女の斜め後ろ。
「追いかけっこかい?可愛いな。」
「更に、思うんだ。お前は、魔族の軍に居なかった。どうして? お前が指揮をしていたら、あんなに簡単に倒せるはずはない。」
アリエスは、再び短く飛び、魔女の背後へ回った。
「そして、何故、お前は竜王の元へ行き、災いを撒かなかったのか。何故、真祖の元へは行かなかったのか。真祖も竜王も数百年居たというのに。」
魔女はキッと振り返った。初めて見せた、素早い動き。
…焦りの動き。
「アリエス・メイフィールド!死ぬ時だ!食いがいがある!お前の魂!!」
「バルザ・ヤガ!賭けよう!僕の答えが間違っていれば、お前の勝ち!」
「“タイム・フリーズ!!”」
アリエスは、いつかのように、時間を止めた。
…魔女は、再び動き出す。
「…女の指を切り落とすとは、酷い男だな。」
「お前の、その指輪。本の挿絵では、はめていなかったよ。帽子も、今は被っていないのかい?」
「もう、アンチマジックは要らないようだが。この再生した指にはめるだけの事。」
「間に合えば、ね。」
女の体…腰のあたりに張り付いていた宝石が。アンチマジックの球体を、次元を超えて通り抜けた魔力の塊が、発動する。
魔女は、腰から、燃え出した。
「うぎゃあああああああああーーーーー!!」
写真を燃やすように。紙を燃やすように。女は、容易く燃え広がった。
「お前は、炎が怖いんだ。絶えず張っていたのは、その指輪の対炎の効果。それを破られないための、対魔陣。」
よろめきながら、ふらつきながら。
女は、燃えながら、下半身をもう、燃えて失いながら、アリエスにしがみ付いた。
竜の上に居る時から、炎無効を張り続けているアリエスに。
女は、微笑んだ。髪も燃え始めていたが、美しかった。
なにが、このイアという女を邪悪な怪物にしたのだろう。
女は、燃えながら、宙に浮かびながら、アリエスに口付けした。
!?
これは、幻覚だ。女が、唇の接触でかけた幻覚だ。そうに違いない。
森の中の、廃屋だった。腐った何かのすえた匂いが充満していた。
その古びれた部屋の、蜘蛛の網が至る所に張られた部屋で、少女が手招きした。
アリエスを手招きした。
抗う事も出来ず、アリエスは少女を抱きしめ、裸になって、結ばれた。
姫たちの事は忘れた。いや。この時居たのは幼馴染の一人だけ。
狂おしかった。狂っていた。愛おしくて狂っていた。この少女は、魔物なのに。
食いながら、喰われている。そう感じていた。
夜通し、蠢いていた。2人で1つの生き物のような気がした。
一緒に、逃げようよ、イア
はっと、我に返る。
何秒だったのか。いや、せいぜい、数秒。女が燃え落ちる瞬間の、僅か数秒。
「呪いは、成就セリ。」女が、火照った顔で、吐息と共に、妖艶に笑った。
「…お前は今、私を滅ぼした。だが、暫しだ…私がまた生まれるまでの、暫しだ…お前はまだ、私の真実に…半分も近づいていない…ははは、愛してやろう、お前は素晴らしい…」
最期に、顔が燃え落ちる瞬間に、女は言った。
「幻覚だと…おも……」
そして燃え尽きる。
呪いは成就セリ。
その意味は、アリエスには判らなかった。
この後、自分で掛ける解呪魔法にも、シャリーに掛けてもらった神聖魔法でも、アリエスの体に、人生に、精神に、呪いは見当たらなかったからだ。念のためを言えば、姫たちにも。
呪い。
強いて言えば、幻覚の中では姫たちを忘れた事への罪悪感かな!
ちょっぴり、悪いことした気分。
ただ、全ての感触が身に焼き付いている。幻覚の、狂おしい感触が。
忘れよう。忘れなければ。幻覚なのだから…これが呪いなのかもしれない。
本物と見紛う幻覚など、自分も使える低級な魔術だ。
接触呪文は、あらゆる呪文の中で一番効果が強いわけだし。
アイツと出会ったのは、ダッカーヴァの砦が初めて。あり得ない。
アリエスは、そうとだけ考えることにした。
振り切り、アリエスは仲間の元へ戻る。
そして、大きく。勝どきをあげた。
―――英雄の誕生だった。
――――――――――エピローグ
呪いの解けた父王を救い出し、アリエスは即位の式を迎える。
キルメット山の溶岩が全て、魔法の反応があったため、王を見つけるのには少々時間がかかった。最後には、竜王が手伝ってくれた事は内緒だ。
国を挙げての祭典。即位式は、何故か夜に行われた。
父王が宣言し。若き王が誕生した瞬間だった。
尚、同時に、6人の妃を迎える。
前王の妃は3人だったのだが…しかも、最初は一人で後から増えて行ったが…まぁいい。
ダッカーヴァの公爵姫、ノエルが隣に立った。アリエスが手を取る。ゆったりしたドレスで、傍目には誰も気が付かないが、彼女は身籠っていた。アリエスに白状したのは、つい先日の事だ。凛とした、美しい姫。妃にして、ダッカーヴァの女王。
次に、盗賊姫と呼ばれる、猫のようなしなやかさを持った美女の手を取った。噂では、悪い道に入りそうなところを王子が救ったのだとか。事実とは多少違うが、人々にはそのように言われている。尚、広場の一角では、礼装を着こなしている?ガラの悪い連中が大笑いで酒をあおっていた。
侍女姫と呼ばれる妃の手を取った。妹とも呼ばれていた侍女であることは有名だ。彼女の近くでは、離宮の給仕たちが涙を流し喜んでいた。不幸な生い立ちから救ってくれた初恋の王子と結ばれる。そんな未来を、彼女を知る誰もが願っていた。そういう、可憐な姫だ。
酒場の薔薇の手を取った。場違いのようにそわそわしている。誰もが認める美貌も、本人はあまり意識していなかった。アリエスの幼馴染で、冒険の仲間だった姫。そう言えば、シャリーが、花束を自分に投げ寄越せと言ってたっけ。でも、人々の渦の中で、親友は中々見つからない。
余り見た事のない、美しいハーフエルフの手を取った。同じ時間を生きることのないハーフエルフだからこそ、アリエスもまた、キャステラの気持ちを知っていても手を触れなかった。だから、それなりに勇気を出して言ったのだ。姫に、なってくれるかい、と。キャステラは、余り悩むことなく、すぐに返事をした。知恵と知識に長ける、美しく強いエルフの姫だ。
最期に、夜に宴を開いた元凶というか原因というか配慮なのだが、陶磁器のように肌の白い可愛らしい少女の手を取った。後に、“赤目の姫”と呼ばれる姫。病気で肌が弱く、夜にしか姿を見せない姫だという。その笑顔は、彼女が最も苦手な、太陽の様だ。彼女を知るものは、会話が可笑しくて困惑するという。
アリエスは、並んだ姫たちの前に立ち、バルコニーから魔法を使って皆に言葉を伝えた。
「ツァルトの仲間達―。」
「初めに、僕はこの姫たちを公平に愛するよー!」
笑いが起こった。
「そして、ツァルトを愛するよー!」
「僕は、魔術師だ。でも、本当は紫の称号じゃない。あれは仮なんだ。ゴメン。
僕が、アークマスター。真祖より魔術の塔を継いだもの。金の称号を持つ者。」
人々は、どよめきの中、あの映像に映った王子の破壊的な魔法を思い出した。
魔族を葬った流星を。ついでに、そのテキトウ加減を。
「だから、僕は大陸を守る。僕が大陸を照らす。」
「大陸中を守るんだから、この際、皇帝を目指そうと僕は思うんですよ~!」
母たちが頭を抱えた。姫たちが顔を覆った。父が引きつって笑った。兄弟はめまいを押さえた。
各国の来賓のいる中で、皇帝を目指す宣言。
言ったのがアリエスでなければ、宣戦布告ととられかねない問題発言。
人々は、拍手を忘れて呆気にとられた。
そのとき、一角の、ガラの悪そうな連中から、大きな声が飛んだ。
よく知った声だった。大笑いしながら、叫ぶ。
「やってみやがれ、法螺吹き王!」
皆が、笑い出した。そうだ、やってみろよ。確かに。オマエみたいなアホ王子なら、もしかしたら、もしかしたら、面白い世界ができるかも知れないな!
「じゃぁ皆さん!ここで元気の出る一曲!!」
アリエスは、リュートを取り出し、勢いのある曲を奏で始めた。
その曲の名は、竜の宣武という。
城前の広場は、巨大な宴の場に変わった。
踊りと、歌と、笑いと、酒と、食祭の宴だ。
姫たちも優雅に踊り出した。
彼女らは知っている。彼女たちが一番よく知っている。
これが、アリエス・メイフィールドの真の魔力なのだ。
人々の心動かす、抑えがたい、光り輝く力なのだ。
<魔術の塔>のアリエスの、本当の力なのだ。
第一章<魔道国を継ぐ者>完です。
西方編に続きます。お時間のある方、また是非お付き合い下さい。




