第28話 「日蝕」その②
父の危機に、姿を現した陰謀に、想定外の大乱に。アリエスが立ち向かう。
ハイファンタジーです。TRPG・RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。
3部構成、その②です。
「兄上、何処へ行くのです。」
「…お前に隠す必要なないな、アケロニオ。私はキルメット山へ飛ぶ。王を単身救い出す。」
「…お戯れを。兄上。竜王の住処ですよ?」
「構わん。私の呪文ならば、竜の炎を防げよう。防護円で、竜の爪も防げよう。」
そうだろうか。“ファイア・プロテクト”は完全な熱遮断ではないはず。
防護円は、物理完全遮断では無いはず。竜王の爪を防げるものか?
「兄上。言わせてくれ。野心を捨てる時だ。不本意ながら、もっとも優れたものを認める時だ。兄上も判っているだろう!本当は判っているだろう!我が兄は聡明を持って知られる男だ!違うのか!?」
珍しく感情を露にする弟を、兄は優しい目で見た。
「王を救うのに理由は要らないだろう?私は私で正しいと思う事をしたい。野心が無いと言えば噓になる。だが、私が王位を継ぐのは父の願いでもある。やってみたいんだ。私のできることを。その上で間違っているなら、その時こそ、私は…父に言えるだろう。上がいたと。な。」
「兄上…」
「案ずるな。一人で飛ぶ。もしもの時は引くさ。」
“テレポート!”
兄は、恐らく砂漠の天蓋境まで飛び、そこから飛行で竜の領域に入るのだろう。
ふう。アケロニオはため息をつく。
では、こっそり追うとしようか。やれやれ、意固地な兄を持つと疲れる。
――――――――――
同時刻。
次兄トーラスには、ファルトランドの軍から至急の知らせが入った。
魔族の軍が、動き始めた。数年ぶりの大規模だ。
既に、上空に偵察の使い魔が多く飛んでいる。
「骨のジャガーノート、5機だと?」
奴らに無駄な知識をつけてしまったものだ。アリエスのゴキブリは動くのだろうか。
こちらのジャガーノート1機では手に余る…。
「戦闘配備せよ。ファルトラントの砦と連携を取れ。ファルトラントの軍と急ぎ合議を持とう。」
トーラス王子は慌ただしく動き出す。嫌なタイミングだな。父王が居ない時に魔族が動くか。ファルトラントの王や将軍とは誰が橋渡しになるのだ。兄上か?
何か、嫌な感じだ。
トーラス王子は、ファルトラントの将軍たちと合議に向かう…。
――――――――――
――ファルトラント王城、軍議の間。ファルトラントのそうそうたる面々が集う。
国王、賢王クィルウィーザ。 皇女の夫、公爵レオ・メイフィールド。
勇猛な将軍フェカディア・ビンセント。 賢者マーガクレイドル。
そして、最前線の砦を預かる、ツァルトのトーラス王子。
賢者が言う。
「さて、先程偵察から情報が入りました。奴らは、2部隊を北へ。つまり連合都市国家エリゴールの方へ。残り3軍をこちら、ファルトラントの3連砦方面へ向かっておりました。ただし、現在、進軍を止めた模様。」
「進軍を止めた?」将軍が驚きを持って尋ねた。
「左様。止まりました。」
賢王が尋ねる。
「何かを待っている様にかね?」
「…そうですな…国王。」
「それを探らねば話にならぬ。場合によっては打って出る方が得策。急ぎ調べよ。数日内。数時間内に何が起こり得るのかを。奴らの増援なのか。破壊工作でも仕掛けているのか。」
トーラス王子は、レオといくつか耳打ちし、砦に向かう。
レオは頷き、魔術の塔へ飛んだ。
――――――――――
――そして、これはその前日。夜の事件。ダッカーヴァで起きた事件。
竜の支配地とダッカーヴァを隔てる関に、再び火竜が襲い掛かって来た。
赤々と輝く目をしていた。
容赦なく、小さな砦を破壊した。砦に集結しつつあった軍は、先手を打たれ崩れに崩れて行く。一通り暴れ、破壊を尽くした後、為すすべない人間たちに、赤竜は言った。
言ったのだ。
「人間ども、長年の屈辱もここまで。従え。崇めよ。首を足れよ。」
そう言って、笑ったような顔をして、飛び去った。
その言葉は、ちっぽけな存在である人間たちの心に、火をつけた。
俗にいう、怒りの炎と云うものだ。
「公爵!姫!!もはや、全軍を率いてもよい事態!砦に兵力の結集を!最新の大砲を!移動式バリスタを!我ら人間の進歩というものを、トカゲ共に見せつけるのです!」
「なりません!いかに罵られようと、なりません!」
「現に関は、砦は焼かれたのです!軍を再編するのです!何もせねば、民の心は離れましょうぞ!姫!決断を!」
「なりません!!……けふ、」
「…姫は体調すぐれぬ様子、暫し、父上にご判断をゆだねるべきですな!」
奥から、父が出て来た。
「向こうで休みなさい。暫し、わしに任せよ。」
「父さま。将軍。ではこうしましょう! 私と、夫ととなる者が!竜の真意を確かめに参ります!!それまではお待ちください!!」
「何を言う!姫が竜の住処へ向かうだと!」
「私の夫になるものは!!竜を怖れず!魔を怖れず!!最も強き魔道士!!ダッカーヴァを救った英雄!!これ以上の人選も、ボディーガードもおりません!!」
姫は、強く、強く、強く、押し切った。
父の強固な反対も押し切った。
それは、姫が亡くなっても構わぬ将軍の後押しがあってのことだ。
――――――――――
キルメットの火山群。
一番高いキルメット山の火口には、竜王が棲むという。
最早、生き物よりは神に近いという。暴虐なる、赤竜王。
しかし、にもかかわらず、300年、盟約を守って来た竜王。
竜王の元へ向かうには、徒歩…いや、地上の行軍では不可能だ。
険しい山々が阻むだけではない。リザードマンの集落があり、ドラコニオが群れなし、山肌では飛竜が巣を作る。中央に近づけば近づくほど、火竜が。本物の火竜が棲む。
人など、エサでしかない。
だから、ヴィンダルは姿を消して、空を飛んだ。妥当な策だ。
“ファイア・プロテクト”はパッシブにしてある。
防護円を絶えず張り、一番高いその山を目指す。
姿を見られた瞬間、命を懸ける覚悟が必要だ。
別に、竜と人間は不戦同盟を引いたわけでは無い。
互いに、領地へ入らぬ盟約なのだ。勝手に入れば、言うまでもない。相手は、竜の中でも暴虐で知られる赤竜なのだ。
そうして、誰も立ち寄らぬ火口へ、ヴィンダルはようやくたどり着いた。
煮えたぎった溶岩が眼下にある。
プロテクトが掛かっていても、恐怖を拭い去れない。
だが、この中に、王が眠っているのだろう。為すべきことは、1つ。
―――何者か。
重たい声が聞こえた。標準言語だ。
この、竜の巣の只中まで、よく参った。だが、侵入者に気付かぬ程、我らは愚か者ではない。
姿を見せるがいい。
パキッとガラスを踏んだような音がして、ヴィンダルの透明化が解かれた。
そして、その時に気が付いた。火口を一周。ずらりと巨大な赤竜が並んでいるのを。
大型、どころではない。“エルダー”だ。
そして、火口から、溶岩をまき散らしながら、一際巨大な赤竜が舞い上がった。
「竜王!?」
「本来なら、即座に消し炭にするところ…だが、お前からは、あの男の血を感じる。魔王と名乗った不遜な魔術師。我の翼を散々斬りつけてくれた若造。」
「そ、そうだ!私は神祖の血を継ぐものだ!ここには、父王を救いに来たのだ!戦いに来たのではない!」
「確かに、魔力のある固きものがこの底に眠っている。はた迷惑なことだ。しかも、眠る前に<竜王よ、頼む>などと身勝手にほざき眠りについた。」
「そうだ、返してもらおう。我らの王を。」
「断る。図に乗るな、人の子。」
「な、なんだと?」
「そもそも、我と話す資格などお前には無い。あ奴の血族と思えばこそ、少々時間を割いてやったまで。だが、期待外れだ。せめてもの情け。帰るがいい。」
「ふ、ふざけるな!私を愚弄するのか!正当なる王家の血筋の私を!!」
竜王は、静かに、溶岩に沈んでいった。
「我と対等に話す者には資格が必要だ。竜王の宝玉に響かせて見せよ。」
「王を返してもらおう!!」
「“マジックディテクト”」ヴィンダルは溶岩の中に魔力を探した。
「―――バカな!火口の溶岩、底の方全て輝いている! 魔力が!?」
一匹の“エルダー”が、ヴィンダルに向かって飛んできた。
「帰るがいい。王の言いつけ通り、素直に帰るなら手を出さぬ。素直に帰らぬなら、その限りではない。」
「ふざけるな!名誉を傷つけられ、黙っていられるか!?」
ヴィンダルは指輪を口元に寄せ、呪文を唱える。
「“アイス・ストーム!”」
火竜には絶大に効果がある筈の、氷系呪文。
竜の体を包み、渦巻いた。確かに、嫌な顔をした…と思う。
お返しと、竜が大きく口を開く。口の中には、灼熱の炎が見える。
炎が、空気を引き裂きながら一直線にヴィンダルに向かって来た。
パッシブの、ファイアプロテクトが、炎をせき止める。せき止めたように思えた。
「割れる…プロテクトを…抜けてくる!?」
至近距離から、誰かの呪文が聞こえた。
「“フィールド!!”」
魔力の壁が、炎を遮る。
「兄上!逃げるぞ!」
「アケロニオ!!私は!私はー!!」
「名誉など、これから作れ!!兄上!!」
「まだだ!私にはまだこれがある!<竜のタリスマンよ!我に力を授けよ!!>」
弟、アケロニオの目の前で。
一匹のエルダーの目の前で。
ヴィンダルが巨大な竜になった。
エルダーに負けぬ程の強大な体だった。黒い、竜。ブラックドラゴン。
一般に。火竜は獰猛である。そして、黒竜は邪悪で在る、という。
「兄上!何という、何という事を!?黒竜だとー!?」
アケロニオの存在に気が付かぬ如く。
目の前に居る、赤竜に爪の一撃を食らわせて、黒竜は高く舞い上がった。
正気の目では無かった。
知性のある目では無かった。
アケロニオにも、それだけは、判った。
兄が知らぬ間に手に入れていた、初めて聞くアイテムが、兄を狂わせた。
黒竜は、吠えまくり、周囲を見渡し、ただ、意味もなく。西北西へ向かった。
それはたまたまだったのだろう。
ダッカーヴァに向かって飛んだ。
兄を、止めねばならぬ。アケロニオは兄を追う。
――――――――――
ダッカーヴァの正規軍は、竜の領域近くに、関を利用した布陣を引いた。
関の向こう、荒野には徐々に…徐々に…ドラコニオやリザードマンが集まって来ていた。
リザードマンは、当然の如く、武装している。
最早、戦端が開かれるのは目に見えていた。
そんな、矢先。
巨大な黒竜が、兵士、リザードマン、ドラコニオ、緊張高まるその場所へ飛来してきた。
人々は、恐怖におののいた。黒竜?
赤竜より邪悪と呼ばれる黒竜?
驚いたのは、人間だけでは無かった。リザードマンもまた、人間ほどではないが知能を持つ生物。ドラコニオもだ。彼らもまた、見知らぬ巨竜に慌てた。
狂乱の黒竜は、実に公平だった。
双方に、黒酸のブレスを吐きまくった。
悲鳴を…人間の悲鳴、リザードマンの断末魔。双方を、混乱に陥れた。
竜に姿を変えてしまった兄に追いつき、弟は絶望に近い叫びをあげた。
「兄上―!いや、断じて兄上の意思ではない!我が兄上が、人々を溶かし笑うわけがないー!兄上は高貴なのだ!良き人なのだ!」
「“光魔法ライト・ジャベリン!”」
アケロニオは兄に向かって、一撃を加えた。
無論、自分に意識を向ける為だ。
…絶望的な、戦いへ、身を投じる為に。
元々、魔力が上の兄。そして今は、邪悪な竜となり果てて、破壊の力を振るう、兄との。




