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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第28話 「日蝕」その①

父の危機に、姿を現した陰謀に、想定外の大乱に。アリエスが立ち向かう。

ハイファンタジーです。TRPG・RPG、リプレイ等お好きな方ぜひ。

3部構成、その①です。

 


 お前は素晴らしい力を持つ魔術師だ。

この竜のタリスマンを受け取るに相応しい。


これさえあれば、竜を退けることが出来るさ。

炎を避ける呪文が使えるのだろう?

竜の爪を防ぐ呪文が使えるのだろう?


更にこの秘宝が在れば、赤竜など怖れるに足らぬ。


疑うのか。そうだろうな。ただ、そのタリスマンの効力は本物さ。


使う、使わぬはオマエ次第。他人に譲っても構わない。

それさえあれば、単身キルメット火山に乗り込んでも生きて帰れよう。


他に相応しい英雄が居れば、渡すがいい。


私?


私はただ、英雄が生まれる瞬間を見たいだけさ。


…はは、勿論ウソだよ。どうせ、何を言っても疑うだろう?


だが、そのタリスマンは、お前に力を与える。それだけは事実だ。


――――――――――


 キルメット火山群へ続く道は、ダッカーヴァからは関所で塞がれている。

関所と言うが、簡単に言えば、石組みの城壁が長く続いており、その何か所かに見張りの立つ小さな砦を設置している。


300年前から作られている。人と、竜の領地が接しないよう。


火竜という、獰猛な種が人と約束など可笑しいと思うだろう。

…しかし、守られてきた。キルメット火山から竜は来なくなった。各地に時折潜む竜による被害は聞くことがあるが、この火山から飛来した記録は、無い。


だが、一部の愚かな者の所業によって、糸は切れようとしていた。

関の周りまで赤竜は来るようになった。威嚇するようになった。


そんな状態が、ふた月は続いている。威嚇で済んで幸いだ。今のところは。

尚、現公爵、ノエル姫より、こちらからは決して手を出さぬよう厳命されている。関に就く兵士たちに。



―――そんな折。そんな折だ。偶発的な衝突が起きてしまった。

目の前に威嚇飛行をして来た赤竜に怯えた若い兵士が、固定式のクロスボウを放った。

普通の弓なら、鱗で弾かれて終わったものを。固定式クロスボウを。


竜は、空中で、腕に刺さった弓矢をしばし眺めた後。

炎を吹いて、兵士を焼いた。その兵士だけではない。近くに居た兵たちを巻き添えにして。

まさに、逆鱗に触れ。兵たちは焼かれた。



―――公爵様!キルメット火山の竜が、関の兵士を焼き払いました!


ノエルは、体調すぐれぬ体をおして玉座に座る。

「手を出してはなりません。こちらから調査団を出しましょう。待つのです。」


将軍キリオビルダはずいっと前に出て、ノエルに言う。

「失礼ながら、姫。噂は既に領内に広がっており、民は震えております。少なくとも、竜と戦える兵力を近くに派遣し、民を安心させるが良いかと。」

「竜もまた、我らを見ているでしょう。兵を派遣するとは戦う準備をしているという事です。」

「もし、砦を飛び越えて街に入れば、兵無しでどう戦いますか?そこで村を焼かれでもしたら、民はそれこそ王家は何もせぬと絶望しましょうぞ?」

「…し、しかし…」

「姫よ。」父が口を挿む。

「将軍の顔も立てよ。形というのは時に大切なのだ。おまえの危惧するとこは判る。竜と全面戦争などあってはならぬ。300年の盟約をダッカーヴァのせいで破るなど、更にあってはならぬ。近隣諸国に顔もむけられぬ。判っておる。形だけ、派遣すればよい。それで良いな?将軍?」

「はッ!」

将軍は踵を返す。


顔には、明らかにこう書いてあった。

「小娘が政治を執るな。」


こうして、兵は関に、砦に向かい移動を開始する。


――――――――――


 そのころ。


ツァルトでは、王城に兄弟が集められ、極秘会議が行われていた。


3人の王妃が鎮痛の面立ちで目を伏せる。

誰も居ない玉座の隣には、いつも通り、側近中の側近、アジ=メが立っている。

祭事と歴史に詳しい、大賢者フェノライルも居る。

叔父、大公爵イストラムも。


長兄、<銀>のレオ。 次兄、トーラス。 長女リブラ。 次女パイシーズ。

従兄ウィンダル。 従兄アケロニオ。


王妃リニャッドが口を開く。

「一刻も早く、王を助け出さねばなりません。ですが、譲位は王の意思。一時的であれ、仮であれ。王を立てねばなりません。国民には、王が病であると伝えましょう。」


続いて、王妃フェリオ。

「仮の王位となし、父王戻られし後、正式に即位するのです。」


王妃ネジーナ。アリエスの母。

「子供達よ。お前たちは魔力に優れ、人々を導く鍛錬を積んできたはず。今こそ、ツァルトの為その力を。」


「この銀のレオ、父上の為すぐにでも出向きましょう。ただし、王位をつぐのは俺ではない。俺はすでにファルトラント王女に捧げた身。」

「俺もすぐにでもオヤジの所へ行きたいが…魔族の軍を放っておけるならの話だ。ついでに言えば、母上、俺が王に向いている訳が無かろう。」

「私もファルトラントに嫁いだ身です。ご容赦を。」姉、リブラ。

「え?え?アタシ?むりしょ?」パイシーズは両手を前に突き出して振りながら後ずさった。


「俺は、自分より相応しき者を知っております。」

従兄アケロニオは、下を向いたままそう言った。


「私が、王位を継ぎ、父王を救いましょう。」

従兄ヴィンダルが高らかに言った。


頷く王妃たち。だが、その後も、目は最後の1人に集まった。


「………父上をすぐに助けに行くのは危険です。先に、バルザ・ヤガを倒しましょう。それまで、父上の不在は隠しておきましょう。」


「な!何を言うのです!あなたはなんと冷たいことを言うのです!」

リニャッドが激高した。


アリエスは立ち上がり、兄弟達、王妃たちを見る。

「…敵は、バルザ・ヤガ。恐るべき魔女。僕は一度戦い、敗走しました。」


ざわめきが起きる。兄弟は、アリエスの力を知っている。


「使い魔サラザッティ。父上の伝言があるはず、教えて。」

黒猫が、王妃たちの足元をするりと抜けて、うやうやしく礼をする。

父、サウズの使い魔。使い魔が健在という事は、父も無事。


「お伝えいたします。1つ、魔女は悪魔に変化しました。アンチマジックを張りました。斬られ、魔法を受けても再生しました。真祖と逢ってみたかった、そうも言っていました。王に狂乱の呪いを掛けましたが、それは呪文ではなく、黒い霧でした。以上です。お役に立つことを祈ります。」


従兄ヴィンダルが、ややいらだちを見せながら言う。

「使い魔のこのような話がこの場面に必要か?無駄な時間を取るな」

「いや、無駄ではない。判らないのか?これは父からのヒントだ」

レオが言う。


「…ありがとう、サラザッティ。 母上達、父上は<銅>の猛者です。普通の呪いならば、自分で“解呪”出来るはずです。でも、出来ないから、自らを封したのです。ならば、我らが出向いても呪いを解けない可能性があります。」


「そして、キルメット火山の火口は竜の、しかも竜王の住処。不用意に武力を集めれば、盟約を破ってしまう。行くなら、触発しないよう少数で行くしかない。」


「アリエス!あなたは何を言っているのですか!父を、可愛そうな父を眠らせておくのですか!?」


「リニャッド。落ち着いて。この子なりに考えが在るのでしょう?」

「自分の子を特別扱いしないで!ネジーナ!!」



「…僕は、父上から、アークマスターとして思うさま対処せよと仰せつかっています。呪いの元凶である魔女を滅ぼす。それを優先します。」


アークマスター!? お前が? お前が!? 冗談だろう?


銀のレオはほくそ笑んだ。


「僕は皇帝を目指しますよー。王位に執着はありません。でも、魔女を倒し。竜に話をつけ。父上を助ける役目は僕が担います。」


アリエスは、紫の襟章の隣に、もう一つの襟章を付けた。

<金>。 アークマスターにしか許されぬ、ただ一つの、<金の紋章>。


「僕が、大陸を照らす。」


会議は解散となった。


だが、ほぼ全員が、次の王を知っていた。

暫く見ぬ間に、男の顔になった阿呆の顔を想像していた。



1人を除いて。



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