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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第26話 「バルザ・ヤガ」

これは、ある本の物語。誰かが記した、ただの、魔女の物語。


ハイファンタジーです。TRPG・RPG・リプレイ等お好きな方ぜひ。第26話です。



 いいかい、この話を読むときは、窓を閉めるんだ。カーテンをしっかり閉めるんだ。

この山小屋が寒いからじゃない。はは、そんなんじゃない。


月の光が入らぬように。僅かな隙間から、魔女がお前を覗かないように。



その森には、バルザ・ヤガという、怖ろしい女魔法使いが居た。

只の魔法使いではない。悪魔と取引をして、普通ではない魔法を使うことが出来た。

だから、魔女と呼ばれていた。


バルザ・ヤガは、小屋を訪ねてくる者には取引を持ち掛け生活していた。

取引?取引だ。命を奪わぬ代わりに、大切なものを置いて行かせた。

時には、魂をだ。


単に迷い込む旅人には、一晩の宿を貸し与え、聞き上手に話を聞いて、そして朝には食った。

恐ろしい魔女、バルザ・ヤガ。


時に、岩山の洞穴で魔神を召喚し、取引をしながら、数百年。魔女は人々を恐怖に落とし、また、恐怖に震えた心を好んで食った。救いようのない、悪魔だった。



そんなある日のことだ。流石の魔女も、徐々に年老いて、その体にヒビが入り始めたころ。

魔女は、1人の幼女を拾った。

当時は4歳であったという。どうせ、食うのだから。名前を気にもしなかった。

その子は、非常に変わった子供だった。

まず変わっていたのは、目の前で、両親が殺され、魔女バルザ・ヤガに喰われたというのに、涙1つ零さず、微笑んでいたことだ。

魔女はこの娘に興味を持った。そこで、喰わずにいた。初めて、名も聞いた。

イア。 イアと、娘は名乗った。


人死にに反応を示さぬ娘は稀に居る。多くは、人殺しの家系だったり、殺人鬼の娘であったりするものだ。

バルザ・ヤガは、その娘、イアもそうであろうと思い、気に留めなかった。


邪悪な老婆バルザ・ヤガに、イアは育てられた。

勿論、邪悪な魔女を継ぐために。


だが、13になろうという頃から、魔女の目は変わって行った。


イアは、魔女が今まで見た誰よりも、喰った誰よりも、妖艶で美しかった。


バルザ・ヤガは決めた。

この娘、16になったら、頃合いを見て、体を奪おう。ワシの魂がその体を長く使おう。


ある日、魔女バルザ・ヤガは、とうとう娘に言った。

「今夜、満月が真上に登ったならば、お前の美しい体を貰う事にしよう。良いね?勿論、嫌だと言っても貰うがね。イア。」

「良かろう、魔女よ。育ての親の願い、聞いてやろう。だが、せめて今より半日は自由にさせてもらうぞ。」

「良いともさ、逃げない限りはね。血の約束を交わそう。」

「良かろう、母よ。」

2人は手のひらに深くナイフを切り込むと、手を合わせた。

これで。もう。イアは逃げられない。逃げられない。



イアは、岩山に入った。

此処には。太古より人々を寄せ付けぬ何かがあり、かの魔女も、この地で邪悪を呼び出し、契約していたのをイアは知っていた。


バルザ・ヤガが契約に使っている魔方陣はすぐに見つかった。こんな大きな闇の波動、すぐに見つかって当たり前。


イアは、捕まえて来た数頭の家畜、数人の無垢な村人を躊躇いなく生贄に捧げ、魔方陣に自らの血を垂らした。


細かな粉塵をまき散らし、禍々しい、何かが来る。

悪魔だ―――。実体化が僅かな時間しか出来ぬ程、強力な、悪魔。

竜の顔をしていた。猿の体をしていた。コウモリの羽をしていた。

煌びやかな宝石を所々に身につけ、長い腕の先には黒く禍々しいい杖。


イアは悪魔に相対し、契約を望んだ。

「魂と引き換えに。お前の持つ悪魔の魔力がほしい。」

「娘、良かろう。魔方陣の文字に触れろ。契約を結ぼう。お前からは、大いなる力を感じる。我の恐ろしさを十分知っていると見えるが、尚、力を望むか。面白い」

「どうせ、今宵、月が上るころに殺されることになっている。それまで、お前の力で破壊の限りを尽くしてみたい。試して見たい。魔神の力を。」

「ほう、ほう、ほう。」

「魂を、月が上り切る僅か前に奪いに来るがいい。それ以降では、私はもう死んでいるかもしれぬ。」

「良かろう、受け取れ。真の悪魔の力、その一端を。此処に、契約は為されたり。」

「契約は為されたり。」

イアは、体中に邪悪な魔力と、知識が流れ込んでくるのを喜びを持って受け入れた。


僅か数刻後には。

イアは大地を削り、森を焼き、戯れに村を滅ぼした。

妖艶な笑顔で、力を試してみた。

快感に打ち震えた。



そして、夜。


イアは。魔女の元へ帰って来た。

「ははは、楽しかった。誰かが泣きわめく姿は、美しいな。特に、後悔しながら泣き叫ぶ姿は滑稽で、腹がよじれる。」

「そうかい、そうかい、お前も魔女らしくなったものだ。」

「さぁ、もういい。私の魂が欲しいのだろう、バルザ・ヤガ。だが、どうせなら、魂を入れ替えてくれ。その、醜く年老い、ひび割れた汚らしい体でも、もう少しは生きられるのだろう?」

イアは、月明かりの外へ出た。


振り返ると、魔女の硬く細い腕が、ガシっと首を絞めてきた。

目の前で、怒りの炎を静かに目に宿した老婆が居る。


「…は、はは、醜いな、やはり…」

もうじき、月が上る。

「望み通り。魂を入れ替えた後は、今より更に醜く変えてやろう。目の位置も鼻の位置もバラバラにしてやろう。このバルザ・ヤガの魔力で。」

「ぐぐううぅぅう、は、はははぁぁぁぁぁ」

イアは苦しみながら笑っていた。

「本当に!真に狂った娘よな!自分の死すら、可笑しいか!」

苦しさによだれをたらしながら、うつろな目をしながら。でもイアは笑っていた。


「“入れ替われ!!”」

長い長い詠唱の後、魂を入れ替える強力な呪文が放たれた。


魔女は、老婆バルザ・ヤガは、地面に倒れた。

よだれをたらし苦しんでいたイアは、月を見て、自分の美しい肢体を撫であげながら、微笑んだ。


「お前の体、貰ったよ、イア!」


だが―――。

月が上り切るその瞬間に。

<イア>の背後に、バルザ・ヤガを超える邪悪な魔力が、滲みだした。

後ろから、<イア>を捕らえた。愛おし気に、抱きしめるように。

「では、貰いう受けよう、その魂。」

<イア>は、何が起きたのか判らない。


その時、上半身をようやく起こした醜い老婆は、ハッキリとこう言った。

「契約は、成就セリ」

それは、悪魔が言った言葉と同時だった。

「契約は、成就セリ」


言ったのか 言わされたのか 言わせたのか


<イア>は理解した。

「騙したなぁぁぁぁあぁぁ!?イアァァァァ!!!」

<イア>の体から、魂の光が抜き取られる。

醜い光を放っていた。滴るような、茶色交じりの、灰色。


悪魔もまた、理解した。

だが、契約は、成就したのだ。自分でそう言った。


「恐るべき…魔が…生まれたようだ…。祝福しよう。だが、呪おう。悪魔を騙した罪は許しがたい。」

魂を持ち去り、悪魔は消えた。



魂の抜けた自分の体が転がっている。

あはははは、私は、魂を、としか言わなかったよ、悪魔。

あははははははは!


魂を、元の、自分の体に移した。さっきの呪文は、聞いてもう、覚えていたから。

「ふ、やはり動きやすい。」


足元に倒れたままの、老婆の抜け殻。

老婆の、特徴的なローブと、大きな目の付いた帽子を奪って、イアは微笑んだ。


「私が、今日から、バルザ・ヤガ。恐怖を振りまこう。悪魔の力の源である魂を喰らおう。怯えた魂を。悔やむ魂を。震える魂を。私は純粋なる悪でありたい。美しい悪で。」




「バルザ・ヤガは、悪魔にも嫌われた、神にも見放された。

魂を奪われた魔女からも、悪魔からも、呪いを浴びた。


呪われた魔女バルザ・ヤガ、森しか歩けない。暗い森は魔女のもの。

でも、10の魂を悪魔に捧げれば、次に水を歩けるようになる。

100の魂を捧げれば、山を歩けるようになる。

1000の魂を捧げた時、村を歩けるようになる。

10000の魂を捧げた時? 魔女はお前の街に来る。

世界は バルザ・ヤガのもの。 世界は バルザ・ヤガのもの。」




父親が本を読み終えた時、少年は、震えていた。

「どうした、やはり怖かったか。怖い魔女の話だからなぁ。大丈夫だ、父さんが居る。」

少年は震えながら、父の後ろの窓を指さす。


しっかり閉じたはずのカーテンは、少し開いて。雲に隠れがちな月の姿を映していた。


ここは、一家が暮らす山小屋だった。


バルザ・ヤガが、とうに歩けるようになった、山だった。


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