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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第24話 「爺さんになっても」後編

エリゴールの盗賊ギルドへ乗り込むアリエスと、吸血姫シャルロナ。

安全を第一に考えた筈の人選は、意外な混乱へと進む。


ハイファンタジーです。TRPG・RPG・リプレイ等お好きな方ぜひ。後編です。

<魔術の塔>のアリエス 第24話「爺さんになっても」後編



 エリゴールの城塞都市は、あと5つある。

その1つ1つが、勝手に王国を名乗っている。実質は都市に過ぎないが、連合都市群として世間には認められている。


アリエスが目星をつけたのは、城塞都市群の中で、最も北にある都市、ルトグロス。ここが最も好戦的なギルドと思われた。


魔術師ギルド、盗賊ギルド双方の協力による情報だ。信頼は置ける。

侵入し、ギルドの長と話をつける。話す余地はあるに違いない。


誰かを連れて行くなら、シャルロナの力を借りることが出来ればベストだ。

吸血姫を倒せるものなど少ない。彼女の安全確保はさほど難しくない。

魅了の目を役立てることも可能だろう。戦いは無いにこしたことはない。


アリエスが話を振ると、吸血姫はホイホイと乗り気になってついて来た。


2人は、アリエスのテレポートで、近隣の城塞都市ガランサンまで飛び、そこから飛行する。

宵の口だ。月を背負って飛ぶ。


簡単な仕事だ。わかって貰えなければ、その場で壊滅することもいとわない。



だがー。

だが、この見誤りは、決してアリエスのせいでは無い。

予想を超える事態と言うのは、しばしば起こりえる。



盗賊ギルドのアジト、その入り口を見つけるのは思ったより難しかった。

酒場や、裏通りに、奴らの…盗賊の気配が無いのだ。街人のウワサでも、姿を見ない。輩が居ないのは非常に助かる。そんな雰囲気。


何故だ。まさか、抗争をするために全員動いているのか?勿論あり得ない。

アジトのある都市を捨てるなどあるわけない。もっとも稼げる場所なのだから。

では、何故。


盗賊に属していない情報屋をようやく捕まえた時には、2時間経過していた。


いくつかある1つだろうが、町の小高い丘にある、貴族向けの墓地。そこに墓守の家。誰も居ない。そこが、入り口だそうだ。見張りは居るだろうが。そこから、都市の中央に通路は伸びているという。

ギルド長の場所までは判らないし、前みたいに城に繋がっている可能性すらある。


アリエスとシャルロナは霧になれる。

潜入捜査は、お手のもの。毒も、罠も、あまり関係ない。爆発ぐらいか…。


――――――――――


 墓守の小屋には、絨毯があった。めくると、地下への階段。

…見張りは、居なかった。なぜか、居なかった。


2人は手筈通り、霧になる。


薄暗い通路を進む。少し進んだところで、やがて左右に通路や生活空間が現れ始めた。


人影がある。まぁ、当たり前だ。ここは盗賊ギルドのアジトだ。

…アジトなのに。


うろついている人影は、ゆらゆらと。蠢くように、又は、ぼうっと、幽鬼のように。

闇の中を、赤く目を光らせ、徘徊する。

牙を伸ばし、徘徊する。


吸血鬼の、群れだ―――。

服装から考えれば、盗賊たち――。


馬鹿な!夜を支配する盗賊たちは、闇を支配する者に皆殺しに…されたのか!?

ルトグロスのギルドは、アリエスが手を下すまでもなく、滅んでいる…または、滅ぶ寸前だ。


それどころか、こいつらが地上へ出れば、街が崩壊する。

…今が夜であることを考えれば、出ない理由があるのだろうが。


…破壊…しなければ。最低限、出来得る限りの吸血鬼を!


アリエスは、実体化して、すぐに防御呪文を唱える。

「“エビルプロテクト”」

暗黒の存在から身を守る呪文。暫くは、アリエスの3m以内に吸血鬼は近寄れない。絶対に。


吸血鬼たちがアリエスを発見し、次々に襲い掛かろうとした時だ。


アリエスの前で、シャルロナも実体化した。

「何で!?シャルロナ!下がれ!」

「イヤだ!戦うあたしー!吸血鬼は、滅べ!!」


シャルロナは、吸血姫と言うだけで普通の少女だ。戦い方も知らない。魔法も使えない。

先日のような、大したことのない冒険者崩れとは違うのだ。相手も、吸血鬼だ。


だが、シャルロナは走り出し、右手を振るって、目の前の吸血鬼の腹に風穴を開けた。

相手の吸血鬼も、右手を振り下ろして、シャルロナの肩の骨を砕いた。

…ともに、すぐに再生を始める。血を流しながら、再生する。

完全破壊されなければ、そぐに再生する。それが吸血鬼最大の特性。恐るべき能力。

最も恐れられるアンデットである所以。その不死性。


「シャルロナ!引くんだ!“サモンウェポン!”」

アリエスは、防護円の安全圏の中から、次々に木の杭を飛ばした。

だが、ここは通路。シャルロナの前のヤツは灰にしたが、次々と左右から湧いて来る。


シャルロナは、それでも戦っていた。

吸血鬼の戦い方を知っていた。

相手が、“目覚めていない”吸血鬼であり、動きが鈍いことも幸いし…・。

アリエスの放った杭を持ち、次の獲物に襲い掛かる。木の杭で心臓を刺す。


シャルロナは、右手に敵を発見し、獰猛にそちらへ向かって行った。アリエスが追う。

左からの群れも来る。

「“テレキネシス!”」

木の杭を次々飛ばす。無くなってくれば、また召喚する。勿論、無限でない。枯渇すれば、次には、「物質創造」が必要になる。それは遥かに負担の大きい上級呪文。


アリエスが左を片付けて右へ向かったとき、シャルロナのうめき声が聞こえた。

「ぐううぅ!このやろー!このやろー!!」

シャルロナは前後から挟まれ、正面の吸血鬼に肩口を噛まれていた。

「このやろー!!本気のあたしー!!」

シャルロナは、横から、そいつの首筋に噛みついた。背後の敵も、彼女の背中から牙を立てようとする!

「“テレキネシス!”」再び飛んだ木の杭は、まず、背後の吸血鬼を灰にした。


「離れろ!シャルロナ!意地になるな!!“テレキネシス!”」

強引に、引き離す。2体の血を吸いあう吸血鬼を、引き離す。

「“テレキネシス!”」もう一度唱えた呪文で、木の杭を打ち込む。


「ちくしょー!ちくしょー!吸血鬼なんて滅べ!」

アリエスは、プロテクションを解いた。

解かなければ、シャルロナに触れられないからだ。


「退くよ、シャルロナ!“テレポート!”」

「いやだっ………」

2人は、闇の支配する通路から、消えた。


――――――――――


 ギルドマスターの部屋。真夜中。

「落ち着いて!落ち着いて!」腕の中で暴れるシャルロナ。

吸血鬼の力だ。アリエスは呪文で身体ブーストし、耐える。


耐えて、彼女を抱きしめる。

抱きしめながら、アリエスは、自分の首筋に息がかかるのを、感じた。


「血が…吸いたいのかい?」

シャルロナの息が、荒い。

「さっき…アイツらの血を吸ったせいだね?」

シャルロナの息は、荒いままだ。

「ううぅ、ううぅ…血…ありえすの…ち こわいなー、こわい。あたし、こわい」

アリエスには、その意味は判らない。

「約束だし。いいよ、少しならね。死ぬわけには行かないから。少しだよ」

「…きっと、あたしを嫌いになるぞー」

「ならないよ。大好きだよ、シャルロナ。」


その言葉で堰を切ったように、アリエスの首に牙を立てる。

…普段より、明らかに長い、牙。


じゅうぅうぅ――。


「は、ぁ、あ。魔力が、魔力が溢れるぞー」

アリエスの首筋から口を離す…血が滴る。可愛らしい唇は鮮血で染まっている。


シャルロナは、妖艶に微笑んだ。見た事のない表情だった。

そして、自分の白い、血の付いたドレスを、下着を、荒々しく引き裂いた。真っ白な肢体が露になる。

「しゃ、シャルロナ?何を…?」

「き、キライになるなー!だから!こわかったのに!オマエの血を吸ったらきっとこうなるって感じてたのに!」

彼女は、更にアリエスのシャツも引き裂いて身を寄せて来た…。

「きゅ、吸血は3つあるんだ、ぞ!食事と、眷属づくりと、せ、せっくすなんだぞ!」


彼女は、いつも怖いって言ってた。確かに、言っていた。僕の事を。

「いいよ、モテすぎのあたし、すきにしろー。」


アリエスは、彼女を強く強く抱き寄せて、

「いや。このまま。今のキミはセクシーで素敵だけど、僕は、いつものキミが好きなんだ。楽しくて、おしゃべりで、不思議な、キミが。僕はいつものキミがほしい。」


「…あたしが、血を吸われすぎて、意識を失ないそうなとき。冒険者がなだれ込んできた時。死ぬ寸前。アイツは、アタシを汚そうとしてた。多分。だから、男なんてキライ。こわい。でもありえすは、いやじゃない」

「そうか。」

「吸血鬼なんて、キライだー。みんな滅べばいいー!あたしも滅んじゃえばいい!!」

「だめだ。キミは、吸血鬼にはなり切っていない。最初から、判っていた。その指輪が、キミの心を人間に引き留めている。生きよう。生きてほしい。」

出会ったときから、シャルロナがはめていた、神聖魔法の指輪。アリエスには作れない、強烈な神聖魔法の指輪。


アリエスは、シャルロナにキスをして、言った。

「願いを、言ってみてよ。シャルロナ、キミの願いは、何?」

「あたしのー願いかー。しりたいかー。」

話し方がようやく、元に戻って来た。

「うん、知りたい。すごく。」


「教えてやるかー。人間に戻って、好きな男のお嫁さんになることだぞー。あたりまえだろー。バカ?」


アリエスは、微笑んで、言う。

「叶えてあげる…努力をするよ。爺さんになっても、探してあげるよ。その方法を」

北の公爵家で、その方法を探して求めて、眠りについた一家の顔を思い浮かべる。



「…まいったな、あたし。気づいちゃったな、あたし。」

「何を?」

「今、たぶん“普段のあたし”……惚れたのか? モテすぎあたし。」

アリエスは、もう一度微笑んで、頷いた。



――シャルロナは血を吸って少し紅潮はしていたが、暖かい肌では無かった。

それでも、アリエスを狂わせるには十分で。

…途中、3回ほど追加で血を吸われたけれども…。


「…爺さんの愛人はいやだぞー。若いうちに見つけろこのー。」

――――――――――


魔術の塔。表。


「ハイメル、僕に、まだ教えてくれていないことを教えてほしい。」

「ほう、嬉しい言葉ですな。マスター。」

「知恵も貸してほしい。僕の理解できない事件が、大陸で起きている。」


「お座りください、マスター。チェスをしながら話しましょう」


アリエスは、吸血鬼の話。竜の話。怖ろしい女の話。盗賊ギルドの話を、初めてハイメルに伝えた。


「大陸の西、アテンドル王国方面にいったことは在りますか?マスター?」

「いや?」

「神祖は、西も支配していたのですよ?」

「いや、聞いてないし…」

「もう一人の<銀>。ユタチェルティが西を見張っているのですよ。」

「…初めて聞いた。」

「西には、神の力を封じた禁足地もあります故…」

「ふうん、そんな有難い所が。」

ハイメルはふっと笑った。


「彼を呼び寄せれば、<金・銀・銅・黒・赤>魔術の塔の上位戦力、全員が集まります。」

「うーん、心強い。」

「これが、どれほど強大な力であるか、理解していますか。マスター?」

「なんか、こわいなぁ。」


「お忘れなきよう。若きアークマスター。我らは、支えるために在る。竜の件、吸血鬼の件。支えましょう。」


「ありがとう、ハイメル。 さっそく他にもおねだりしたいんだけど。 吸血鬼を人間にする方法は?」

「…寝言は寝て言え、というところですな。 神の力でも借りるのですな。」


「はあ…。」


アリエスは、ハイメルに改めて礼を言い、もう一つ真面目な願い。吸血鬼の群れに備え、エリゴールへの魔術師派遣を頼み、テレポートで消えた。



ハイメルは、打ちかけのチェス盤を見ながら、呟やく。


「恐ろしい限り。そして頼もしい限り。だが恐らく、今私が言ったことを理解できていない。」



「似なくて良い所というものは、似るものですなぁ。真祖よ。」



―続く。


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