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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第4話 「責任の所在」

魔術師ギルドを継いだ手抜き王子、今日も嫌々働きます。

 「アイツはどうしている?ちゃんと頑張っているのか。」

皇太子の質問を受けた<銀>のハイメルは、礼節を持って、しかし遠慮なく答えた。


「いや、残念ながら。マスターの全権を委ねるにはまだまだですな。」

「具体的には?何が足りない?弟は、魔術において天才だ。本来は俺より賞賛されるべき才能なのだぞ。」

「私は正直、貴方がマスターを継いでくれた方が楽なのですがね。」


「アイツは王の継承権こそ7番目だが…俺が認める天才だ。」

「魔力においてのみ、ですな。」

やや年の離れた末の弟を可愛がる兄は、納得しかねる顔をしていた。


「最近の活躍をお伝えしておきましょう。そうですな、先日は―――」


――――――――――

 大きな河に、リバーサーペントが巣くった。

河の両側に低めの岸壁があり。どっぷり深くなっている良好な漁場だった。

これでは漁にならぬ。怖ろしくて河にも入れぬ。



 依頼を受けたアリエスは、幼馴染の精霊術使メイフェアを連れて河の上空に飛んできた。

文字通り飛んできた。


「まず、どこにサーペントが居るか、水の精霊に聞いてアタリを着けてくれる?」

「良いけど…、見つけたら戦うのね?二人で大丈夫かな?」

「心配性だなあ。大丈夫だよ。」


メイフェアが水の精霊を呼び出す。美しい女性の形をした水の精霊たちは、大きな岩の下あたりを指さす。


「判った。メイフェア。精霊を引っ込めてくれる?」

「なーんか、やな予感がするなぁ…。」


「…準備いいね。では<ライトニング・ボール>」

アリエスは、頭上に巨大な雷の球を呼び出した。

「え!?そんなことしたら!?」


ボールを投げるように、雷の球を岩のあたりに叩きつける。


水面が大きく波を立てたかと思うと。プカプカと巨大なヘビが3体浮かんできた。

「うん、終わった。時間があるから遊びに行こう~!」

「え?あぁ…うん…良いのかなぁ?」

「大丈夫大丈夫。隣のファルトランドに旅芸人一座が来ているらしい。行ってみよう。」


2人が飛び去った後、サーペントはプカプカ下流に流れて行った。

はるか上空からはあまり見えなかったが、アタリ一面、魚も大量にプカプカ浮いて流れて行った。



 「…とまぁ、村人たちは漁場から魚が消えたと大不評でしてな。」

「………」

「まぁ、暫くしたら魚も戻るでしょうが…。」

「敵の届かぬ所から戦うのは魔術師の基本だが、何という配慮の無さ…」


「先日などは―――」


――――――――――

 山間にグリフォンが住み着いた。

ほど近い村の家畜を攫っては、山に持ち帰っていた。

勿論、家畜が居なくなれば遠慮なく人間に狙いを変えるだろう。そこで、我らが魔法師団の出動となったわけだ。



 村から飛び出したアリエスは、早速、グリフォンの一団を見つけた。

「おや、あっさり見つけちゃった。ツイてるなぁ。姿を消して、と。」


「<ライトニング・ストーム!>天雷!!」

遠距離から不意打ちで上級魔法の電撃を受け、グリフォンは動かなくなった。


「いえーい、おしまーい! じゃね!!」

アリエスは確かめもせずテレポートで消えた。



「…まぁ、まともには戦ったわけだな?」

「ええ、その直後に、我が国の精鋭たるグリフォン騎士団のライダー達がその惨状を見て…」


兄は頭を抱えた。


「…余りの事に唖然としましたが、直後だったが故、蘇生魔法が間に合い…」

「悪運は強いようだな…。」

「そして魔法ギルドに苦情と。このハイメルが出張ってグリフォンを退治して参りました。」


ハイメルはゆったりとお茶を口に運んだ。

兄は、静かに深々と頭を下げた。


「我が弟ながら…。」

「もうちょっと、1つ1つ丁寧に行動してほしいものですな…。もう少し近づけば、グリフォンの背に自国の紋章が見えたでしょうに。あるいは、きちんと村で情報を得ていれば、グリフォン騎士団が立ち寄っていた事も聞けたでしょう。」


ため息をつく兄。


「さて、如何思われます?<銀>のレオ・メイフィールド?」

「決まっているさ。私の意思は変わらない。アイツが成長すれば、誰も及ばぬアークマスターになれよう。王にでも、だ。」

「私は、どちらも貴方様の方が100倍、安心なのですがね…。」


「すまんが教育をしかと頼む。<銀>のハイメル…して、アイツは今、何を。」


「山賊退治に出ていますな…そろそろ連絡があっても良さそうなモノ。」



――――――――――


 国境の村。目前まで。山賊が来たのだ。

深い河に、幅広で大きな石造りの橋がかけられている向こう側まで、連中の斥候は様子を窺いに来ていた。


困ったことに、隣り町との交易はこの橋が生命線。大量に物を運ぶにはやはり馬車が主役なのだ。魔法で自在に移動できるというものでもない。


橋の近くに、連中が仮の根城を作ったことは最早明白だった。

交易に向かうはずだった馬車がどんどん溜まり、ギルドへ陳情が来た。


ーーーそこで、我らが魔法師団の出番だ。


 その夜。アリエスは、馬車を橋の入り口に並べた。更に、数人の大きな盾を持った兵士をその前に並べた。沢山の松明を灯し、まるで沢山兵が居るように見せかけた。

傍目には、多数の兵がおり、強行突破するように見える…はず。


「これで大丈夫なのですかね?ギルドの魔術師どの?」

「うん、大丈夫大丈夫。」


しかし、山賊たちは大笑いして総攻撃してきた。向こうにも駆け出しの魔術師ぐらいは居るのだ。松明で人数を胡麻化したのはバレバレ。少人数と見破ると、一気に橋になだれ込んできた。


「魔術師どの!策が見破られましたぞ!?」

「うん、大丈夫大丈夫。」


山賊たちが一気に幅広い橋の中央まで走ってきたところで。

「<ディスアセンブル!>分解!」


アリエスは4本の橋脚を粉々に分解した。橋の路面が次々に崩れ落ちる。山賊と共に、ぼとぼとと。

100mほど下の浅くなるところでは、軽装備の兵たちが縄と網を持って待ち構えていた。


最初から、敵に橋の中央まで来てほしかったのだ。何故なら、一番楽だから!



 呆気にとられる商人たちに、アリエスは<フィールド>の呪文で馬車が通れる橋を創り、

「<エターナライズ>永続化! これで元通り!皆さん、通行どうぞ~!」

といって消えてしまった。




 ―――「はい、夜だから直帰デス。ただいま。ティアナ。」


「食事はされましたか?」

「いや。あるかな?」

「一応あります。パンとお茶だけですが夜だから十分なのでは?」

「十分。一緒に食べよう。」

「お付き合いしますが、私はお茶だけにしておきます。」



 食事をしながら。

「―――という感じでやっつけて来たよ。みんな捕まったんじゃないかな!?」


「アリエス様。橋の石は大量に落下したのでは?」

「うん。落ちた。」

「大迷惑では?」

「うん。」

「魔法の橋は透き通って、渡るのとても怖いのでは?」

「うん。下が見えるね。」

「………」

「………」

「わかったよお~行ってくるよお~!」


アリエスはもう一度、現場に戻ったという。



――――――――――


 「……どうやら、侍女のお小言のお蔭で<無事解決>できそうですな…。」

「あとでティアナに礼を言っておこう…。いっそアイツの嫁にでもなれば良い。」


「…して、兄上殿、もう一度伺いますが。弟殿は魔術において…何でしたかな?」


「魔術において天才的な…魔力を持て余す阿呆だな…。」


<銀>のハイメルは大声で笑い出した。


「意地が悪すぎましたかな? はは、勘違いしないで頂きたい、<銀>のレオ・メイフィールド。私もまた、期待する一人。私を凌駕する、あれだけの魔力!さすが神祖が選んだ者!」


「元々、300年、冷徹な支配者を続けた真祖と比べるのが間違い。17歳の若者…私から見れば子供です。多くの事が抜け落ちて当然。ただ、誰かの命を預かり背負うには覚悟が足りない。意識が足りない。だから行動が拙速なのですよ。」




 ―――河辺。


自分が落としまくった巨石を透視してテレキネシスで拾い上げるのは、かなりの時間が必要だった。当然、魔法の連発なのでアリエスの精神力もギリギリ。…眠い。


あーーーーーーーーー!!

もう嫌だぁぁぁぁーー!!


河辺で大の字になって、魔力の才を持て余す阿呆は、今日も、1mmも成長しなかった。


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