第23話 「お前は狙われるだろうと言っておきながら?」前編
アリエスの兄、皇太子レオの盛大な婚姻の祭典。その裏で、盗賊ギルドに呼び出されるエディ。
それぞれのギルドが、思惑が、動く。
ハイファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ好きな方是非。
第23話、前編です。
3日前、ファルトラントの皇女ユレニナと、アリエスの兄、皇太子レオの婚姻が盛大に挙行された。ファルトラントとツァルトは元々兄弟国。両国を挙げての催しとなった。
他国から多くの客が入り、近隣の王侯貴族もこぞって参加した。
…ダッカーヴァの新公爵、ノエル姫も含めて。
宴は5日間にわたり華やかに行われる。5日5晩。
両国にはあらん限りの酒が振舞われ、金貨が舞い、踊りと歌も止むことが無い。
酒場には多くの客と、旅人。メイフェアの酒場は休みたいくらい大繁盛。
アリエスの離宮を取り仕切る侍女は、珍しいキャラバンの商品を買いに街へ。
ハーフエルフの少年は珍しいもの見たさに街へ繰り出し。
吸血の姫は真夜中、アリエスとこっそりお出かけし、はしゃいだ。
その祭りの只中、3日目。
盗賊ギルドマスターの妹、エディは、ギルド本部、<謁見の間>へ呼び出された。
「…この祭典の中でアジトに呼び出し、更に、お前は狙われるだろう言っておきながら、私をギルドの使者に使うと。」
エディの恨み節はこんな感じだ。
「そうだ。だから悪いが、今日はじっくり話を聞いてもらう必要がある。連れて来たのか?あの阿呆は?」
エディは、胸に抱いた紫がかった毛色の猫を撫でる。
「居るさ。」
「ウチのギルドはなぁ。急速に拡大された勢力図に追いつけねえんだよ。誰のせいだ?」
「さぁ。」
「その阿呆のせいだろうが。」
マスターの女、エンヴェルが奥でカラカラと笑った。
「嬉しい悲鳴じゃないか。」
「ダッカーヴァのギルドを吸収するまでは良かった。なぜ、エリゴールの城塞都市まで壊滅させやがった?人手が足りねえ。エリゴールの地下は今、魍魎が跋扈してやがるぜ?」
城塞都市ガランサンのギルドは誰かの怒りを買って壊滅。エリゴールの他都市は勿論、近隣諸国の盗賊ギルドが蠢いている。どこが治めるかで、しのぎを削っている。
「人手が足りねえ。集めりゃいいてもんでもねえ。悪党だからこそ、信頼できる奴で固めねえと、マジで寝首をかかれるからな。」
「知ってるけど。」
「…そして、このような案件がある場合は、砂漠のオアシスで合議が開かれるのが通例だ。
血を好むような連中だろうと、避けられるもんは避ける。なんせ、コマの数は無限じゃない。」
「それを言うために、兄さんは私を呼んだと。この祭典の日に。」
「恨み言はそのアホに言え。」
「…だってさ」
「にゃあ。」
「まぁ、飲め。城の上品な酒ばかりじゃ強えぇのが入らなくなるぜ。」
エディと、猫の前に酒が置かれた。強い匂い。それでいて、鼻をくすぐる甘い香り。良い酒なのは間違いなさそうだ。
エディは、少しだけ口にした。
「たまに帰って来たんだ。少しは付き合え、エディ。」
猫もグラスを持ってペロペロなめ始めた。
「悪くない。キツイけど。」
「だろ?」
「仕事に関係ない話から聞こうか…オイ、猫。」
「にや。」
「オレの妹をちゃんと妃にするのは何時だ?」
「何言ってるの兄さん!?」
「猫に聞いてるんだよ。猫によ。」
「いつでもー。にゃ。」
「なら、早くしろ。お前、まさか遊んでるんじゃないよなぁ?あ?」
「勿論本気―。にゃ。」
「兄さん、その話題はやめだ。別に焦ってるわけじゃないんだから…」
「ふう。まぁ…いい。タダのお節介だ。本題に入ろうか。」
「…オイ、猫。エディ。東のギルドのうち、ダッカーヴァは潰れ、エリゴールは1つ都市を失って勢いを無くした。さて、ウチのギルドはどうすべきかね?」
「さぁ…。」
「時間をかけ、北に広がった基盤を強固にするね。エリゴールやファルトラントはダッカーヴァとは竜の火山を挟んでいるから、手を出しにくい。にゃ。」
「もう。仕事の話はいいよ。」
「…まぁそう言うな。お前にも関わる話だ…。俺も、アホ猫と同意見でねえ。せっかく場所の空いたエリゴールだが、いま手を出すつもりはねえ。」
「…それを、合議で伝えて来いと?」
「ま、そんなとこだ。」
エンヴェルが、氷の入ったグラスを鳴らしながらエディの横に座った。
…氷は、ツァルトでは普通に作られている。魔石によって、多くの家庭が利用している。
「エディ、どんなドレスを着るのかしら?アタシも呼ばれる?」
「え、それは、勿論、エンヴェル。」
「あははは、盗賊ギルドが王家の式場へ親族で出席。あははは、すっげえ」
「エンヴェル。貴女こそ兄貴と婚姻はしないのか?」
「ギルドの長とオンナが婚姻?あはは、必要なのそれ。ははは!」
――――――――――
「オイ、猫。お前なら。この先の話が見えるんじゃねえのか?」
「今日は、宴の3日目。国中が、宴に酔ってる。にゃ。」
「そうだろうな。今、俺たちもイイ酒を飲んでいる。」
「さっきの話でいくと、ツァルトのギルドが時間をかけて強固にしたいなら、他のギルドからすれば、時間を与えたくない。にゃ。」
黒のKはグラスを揺らした。
「お前、無理にニャつけなくていいぜ。」
「…そして、今日はギルドの人数も少ない。」
「そうだな。」
「国の門も、客に向けて開きっぱなし。」
「そうだな。飲んでるか?猫?」
「この酒、気に入ったよ。K。」
「………」
「………」
<謁見の間>の天井が、歪み、大きな口を開けた。一瞬の事だった。
穴から、真っ黒な装束の5人が押し入ってくる。
姿勢を空中で崩さない。飛行の呪文が掛かっているのだろう。
「エディ、腕は落ちていねえな!?」
黒のKが長剣と短剣を同時に抜いた。
「当然だ。」
エディは、細身のサーベルを抜く。
エンヴェルは、微笑んで酒を口にしている。
黒装束の1人が、長剣を抜いた。
2人目の男は、「“ブースト!”」と呪文を唱た。
3人目の男が、短く「“ダークネス”」と呪文を唱えた。
4人目の男は、両手に短剣を。多分、毒。
5人目の男は、自分の横に炎の精霊を呼んだ。
6人目の男は、小さなシールドで身を固めながら、戦闘を見守った。
3人目の男の呪文で、謁見の間は暗黒に包まれる。勿論、自分達には、見えているのだろう。
男たちは、手慣れた動きで強襲する!
…したはずだった。
暗かったはずの部屋は、煌々と明るく照らされ。
酒を飲んでいた妖艶な女は鉄の色に変わっていた。
目の前に、獰猛な目をした、2刀のギルドマスターが迫る。真っ先に、呪文を唱えたどちらかの男が切られた。
両手に短剣を持った男がエディと剣を撃ち合う。
「<“レンジ・ブラスト!”>」
猫から放たれた光の呪文は、炎の精霊を消し、もう一人の術師を吹き飛ばし、Kの背後に迫っていた長剣の男を焼いた。
エディが相手を押し始める。
「…ち!バレてたのか!? 引くぞ!飛べ!!」
一番後ろにいた僧侶くずれが、エディと撃ち合う男に指示を出し、自分も飛んで逃げようとする。
…が、飛べなかった。とっくに、<時間を止められ>、“フライ”を解除されているとも気付かず。
飛べるつもりでタイミングを計り、背を見せた短剣使いは、エディに背から刺され倒れた。
僧侶くずれの前には、ニヤッと笑う黒のK。
「お前には、色々話してもらわんとな。予想はついているが、一応な…」
<アリエス様、離宮のガーゴイルが破壊されました。至急…>
離宮に居る使い魔、フーゴからメッセージが飛ぶ。
「K、うちにも来たらしい。エディ、連れてくよ!」
猫が人に戻る。アリエスは、エディを連れて飛んだ。




